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5 people agree with this review 2019/12/30
王道の名演というHMVのキャッチコピーに心から賛同。このベートーヴェンを聴けば、シフがどんなピアニストが即座に理解できるだろう。例えば1番の第3楽章冒頭を聴けば、これだけ各声部がクリアで、バランスが整っている演奏は他では聴けない。バックハウスも良いがペダル使いすぎである。アファナシエフもクリアだが、テンポをここまで犠牲にしては意味がない。キーシンはアファナシエフの真逆だし。アルゲリッチも良いが少々あざとい。シフのこの演奏を理解するために1番の他の演奏を相当聞いたが、納得できるテンポと響きを持つのはシフと内田光子の新盤だと思う。加えてハイティンクとSKDである。悪かろうはずがない。録音が少々惜しいのが唯一の欠点。シフのことだからベーゼンドルファー使っていると思うが、それにしても、このピアニストの美点である、あの粒立ちの良いタッチが入っていない。オーケストラも少々篭り気味。その点は内田光子に軍配が上がる。とは言え、ベートーヴェンの全集として堂々の横綱であることは間違いない。ファーストチョイスはこの全集である。
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3 people agree with this review 2019/12/21
小生はベートヴェンの全集としてはシフが一番良いと確信している。ポイントは3つ。まずベーゼンドルファーの深い響きが曲にマッチしており、ECMの録音と相まってとても豊かに聞こえる。そして最大の美点はシフの読みの深さ。各声部を常にバランス良く響かせ、その中でしっかりベートーヴェンが書きたかったのはこれだよ、と教えてくれる。小生はワルトシュタイン第1楽章のパッセージが30番のスケルツォで帰ってくることとか、告別冒頭のクリシェの深さとか、シフの演奏で多くを学んだ。そして最後は発想が自由なこと。悲愴の第1楽章のリピートを主部ではなく冒頭からしていたり、かなり自由に演奏している。人によって賛否が分かれると思うが、小生は常に考えて演奏するシフに共感する。あと、おまけのアンコール集もとても素敵。シューベルトのD.946なんて控えめな響きに心打たれるし、アンダンテファヴォリもチャーミング。この演奏に出会う前はポミエとスティーブン・コワセヴィッチの演奏が双璧と思っていたが、これを聞くとポミエはやはり少し硬いし、スティーブンはストレートに過ぎる気がする。このディスクは間違いなく良いのだが、何故レヴューが少ないのか。問題はやはり値段が高い事にある。スティーブンなどこのディスクの10分の1くらいのお値段。クラシックの世界でコスパについて言いたくはないけど、これから全集を買う、と言う方にはやはりスティーブンなんだろうなぁ。でもシフのベートーヴェンを聞かないのは本当に勿体無いと思うし、彼が現在最高のピアニストであることを心底納得できると思います。
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9 people agree with this review 2019/08/12
このディスクはベームのベストフォームではないだろうか。もちろん未完成は冒頭のコントラバスから沈んだ響きで、デモーニッシュなシューベルトとの姿を伝えてやまない。特に第一楽章の展開部の凄さといったら。トロンボーンが怖い。終結部もブラックホールに落ちるようだ。第二楽章も天上の音楽ではあるもの、低音の響きが足を引っ張り、単に明るい音楽になることを許さない。これだけでもすごいのだが、未完成よりグレートの方が凄い。冒頭の弦の響きの深さ、第一主題の推進力。これがベームだという剛の響きが鳴り響く。それだけではなく、再現部直前の寂寥感も素晴らしい。インテンポを守らないベームが聞ける。そしてコーダが堪らない。この楽章の終わり方は意外に難しいと思うのだが、ほぼ理想的テンポだし、最後の和音は私たちが好きなシュターツカペレの音そのもである。第二楽章はこのテンポか、と思うほど早いが、響きの深さは変わらないので、ベタベタした演奏より心に残る。第一楽章も第二楽章も即物主義的なので第三楽章以降どうするんだろう、と思ったら・・・とにかく第三楽章すごい!冒頭から明らかに力を抜いて、優しい音楽を奏でる。これがベームなのか?と言いたくなるほど優しい。特にトリオは心に響く素晴らしい音楽である。グレートの第三楽章のトリオでこんなに感激したことなんて今までなかった。第四楽章は再び剛のベームに戻って締めくくる。この稿書きながらもう一度聞いたが、やはり掛け値無しに素晴らしい。繰り返し申し上げる。このディスクはベームのベストフォームだと私は確信している。
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2 people agree with this review 2019/05/26
一言で言うと「王道路線」の演奏。細部にこだわり演奏精度を上げ、表現も奇を衒わず。そうだ、何も最初から冒険する必要はなく、まずは横綱相撲を見せれば良い。そう言う感じがします。おそらくどの演奏よりも各声部がよく聞こえ、バランスが良いと思います。でもね、このディスクに対する期待度はみなさん高いと思いますが、その期待度を上回る驚愕演奏じゃない・・・と言う気がするのは私だけしょうか。この演奏だけ聞くと、ペトレンコの目指すものがよくわからない。しかし、天下一のベルリンフィルが彼を選んだのだから、このあと私のような素人にもわかる素晴らしい、彼ならではの演奏が聴けることでしょう。この曲目にしたのも、あえて「王道路線」を強調するためかもしれません。王道というのはいつの時代もあるレベル以上のものを必ず約束するものだから。
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0 people agree with this review 2019/01/26
何の気なしに聞いてみたが、確かにサロン風の名曲ばかり。ズンと響く低音など一切ないが、「へぇ、誰の曲だろう」と思わせる佳品集。作品44、45あたりは平穏の中に吹く風のようにちょっと心に染み入る。私は作品44−1のアラベスクが大好きになった。こういうアルバムは世界を広げてくれる。これを機会に世界のピアニストが取り上げてくれることを望みたい。
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3 people agree with this review 2018/10/28
冒頭1小節でノックアウトされた。
9 people agree with this review 2018/09/10
昨日Eテレで見ました。ラトルも年を取りました。ベルリンフィルの首席になったのが、47歳で、今は63歳。社会人で考えれば、部長から社長くらいの年月をベルリンフィルという世界最大の会社で過ごしたようなもの。もう責任とプレッシャーの立場から解放されたいというのも当然だし、周囲も、皆拍手をもって見送る・・そういう立場の指揮者です。それでも有終の美を飾ろうと、ラトルは最大限の努力を払いました。そして成し遂げた集大成、そしてラトルという指揮者が目指すものがこのマーラーだったと思います。コントラバス10本、舞台上パンパンの人数。巨大なれども統制が取れ、大音量でもクリアな声部。なぜこういう演奏ができるのか。ティンパニのスティックをあれだけ変えるという事は、ラトルの頭にはこれだけの巨大さの中で、全ての局面での音響がしっかりイメージされたいたのでしょう。それを具現化するのですから、あまりにも凄過ぎる。私ごときが言うのはおこごましい。この演奏は聞くしかないと思います。この曲でここまでできる。サイモン・ラトルはベルリンフィルの歴史に残る大指揮者だったと言うことが骨の髄までわかる演奏だ、と思います。NHKが収録に絡んでいますから、おそらくブルーレイはとことんまで突き詰めた記録になっている事でしょう。もう一度サー・サイモン・ラトルとベルリンフィルに心からの感謝を。
5 people agree with this review 2018/07/28
世界は広い。あなたはヘンヒェンを知っていたか?私は知らなかった。しかし、このディスクはHMVのレヴュー通りの素晴らしい演奏である。第一楽章は名刺代わり。引き締まったテンポと響きのバランスがとても良い。このままインテンポでタイトな演奏なのかなと思ったら、第二楽章が凄い。快速テンポ(とは言っても、世の中のテンポが遅すぎる。この楽章、Allegro Moderato である。この演奏は普通のアレグロモデラートのテンポに過ぎないのだが)で始まりリズムが立っている。私はブルックナーの交響曲でこれほどリズミカルな経験をした事がなかった。とおもったら、急にテンポを落とし歌い出す。この緩急が堪らない。特にトリオが素晴らしく良い。第三楽章は締まったテンポはそのまま、あえて一歩退いて精神世界を見せる。できるのにやらない。後ろにあるものを聞け、とばかりに8割の力で流す。私はこの楽章をきいて晩年のギレリスを思い出した。あえて力を抜く凄さを聞いた。第四楽章はまた縦横無尽に緩急を尽くす。あのティンパニ連打の場面でアッチェレランドするなんて思いもよらなかった。と思うとまたテンポ落として歌いだす。そして終結部がまた素晴らしい。大河の流れで堂々と終結する。本当にこの指揮者は凄い。この演奏が一日で録音されたなんて信じられない。全体を通じ特筆したいのはティンパニがキメまくること。第二楽章の転調部分とか、弱々しいものが多いが、この演奏はしっかり決めてくる。第四楽章冒頭も「こうでなくちゃ」というキメっぷり。デンマーク王立管弦楽団は、どうもデンマーク国立交響楽団とは別物で、Wikipedia見たら1448年創立の世界最古のオケとあったが、「ホンマでっか!?」でも、とても良い演奏をしてくれた。この演奏は絶対に一聴の価値がある。この演奏を聴いた後で、最近出た有名どころのディスクを聞くとみんな緩い。この演奏はここまで細部にわたり徹底しつつ、ブルックナーへの共感を心から歌う。かつブルックナーの背後にある精神世界を見せるという離れ業を達成した。私はこの演奏はブルックナーの演奏史に残ると断言したい。
1 people agree with this review 2018/04/03
交響曲5番はメンデルスゾーンの大傑作だと思う。賛美歌やコラールを交響曲に昇華させ、ロマンと一致させたところが本当に素晴らしい。Wikipediaには本人はこの曲が気に入っていなかった、とあったが本当なのかな?この曲のコラールは後世に影響を与え、小生はアルバン・ベルクはこの曲の終楽章コラールが好きだったと勝手に思っている。ファイの演奏は、お得意の生気あるフレージングに加え、曲への共感が溢れていて、この曲の最良の演奏である。アバドやムーティのように良いオケによる充実した響きを聴かせる演奏がスタンダートだったかもしれないが、この演奏を聴くとまだまだリズムの扱い一つで音楽の可能性が広がる事をファイに教えてもらった。第一楽章展開部終盤の緊張感や、チャーミングに囚われず、しっかり構成した第二楽章、強弱にこだわった第三楽章と聴きどころは多いが、特に小生が感動したのは終楽章冒頭コラールでのリタルダンド。聞けば聴くほどこのリタルダンドによってコラールに生命感が溢れ、次のアレグロへの機運が高まる。このリタルダントは楽譜には書かれていないが、これだけでもファイがどれだけこの曲が好きか、心込めているかわかる。この曲の録音は2008年。ホグウッドの改訂版の出版は翌年2009年だから、あのフルートのカデンツァが聞けないが、これは無い物ねだり。小生は本当にこの指揮者は素晴らしいと思う。活動の場が増え、彼の音楽への真摯な貢献を世が高く評価する日が来る事を心から願っている。
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5 people agree with this review 2018/03/03
ネゼ=セガンは常に全ての音をバランスよく鳴らそうとする。それが全てに優先する。そのため時折リズムが犠牲になる。チャイコフスキーなんてそれが悪い方に出た演奏だと思うが、メンデルスゾーンでは元来曲が流線型なので、その弱点が薄まる。一番良いのは2番。ポリフォニックな曲の方がこのアプローチの良さが生きる。曲の構成がよくわかる。この演奏はオールドスタイルよりずっと明晰で聴きどころが多いけど、でも、何かしらもどかしさが残る。もっとガツガツ来て欲しいかも。
6 people agree with this review 2018/03/03
ミンコフスキの演奏会のために3番と4番を聴き比べて見た。クレンペラー、カラヤン、ショルティ、アバド、マーク、レヴァイン、ブリュッヘンにアーノンクール、あとネゼ=セガン。でもとにかくダントツで良かったのがファイ。ファイはピリオドアプローチで、全ての音を聞かせようとする。これはネゼ=セガンも同じなのだが、セガンはテンポを犠牲にする時があるのに対し、ファイはテンポありきなのが凄い。イタリアだけとってみても、第一楽章コーダのアッチェランドとか、第四楽章冒頭のたたみ込みとか、聞いてて快哉を叫びたくなる。作り込み全てがツボにハマる。スコットランドでも、生気溢れるリズムが充溢。第二楽章など他では聞けない。このアプローチが宗教改革でも生きる。冒頭コラールのバランスの良さを聞けば、ファイの目指すところがわかる。多分ハイデルベルグ交響楽団はメジャーオケに比べ弦が弱いのかもしれないが、それを逆手に取りこれだけの演奏を成し遂げたファイに賛辞を惜しまない。メンデルスゾーンの交響曲はファイが小生の知る限り一番良い。過去の巨匠はメンデルスゾーンからここまでの生気を引き出していない。ファイはハイドンでもそうだが、とにかくトコトン全部やるという指揮者。もっと評価されて然るべきと思う。その路線ではクルレンツィスと双璧かもしれない。ところでこのファイの演奏、ホグウッド校訂版かどうか、聞いててわかりませんでした^^
6 people agree with this review
9 people agree with this review 2018/01/06
世の中には「わかっていてもできない」ことがある。この巨匠のベートーヴェンはそういう演奏だと思う。サイトのレヴューで観ることがなかったら、絶対に入手など考えもしかったセットであるが、まず思ったのは、あれだけ日本に来てくれていた巨匠にも関わらず、一度も実演に接しなかった後悔。世の巨匠は晩年になるとベートーヴェンでもインテンポではなくなると小生は思うのだが、ブルゴスは本当に適切なテンポを決め、インテンポを守る。その結果、メロディとスケールが両立した素晴らしい演奏を聞かせてもらった。少し遅めのこのテンポ、なぜか懐かしさと納得感が半端無い。7番3楽章のトリオなど「やっぱりこのテンポだよなぁ」と正にほっこりしたし、エロイカでは全曲にわたりしっかりとしたテンポ、造型の上に充実した響きが鳴り渡る。終演後の客席の盛り上がりも当然である。このように細部より全体の流れと響きを両立させた演奏、最近ではお目にかかれない。気鋭の指揮者たちはこのブルゴスのような演奏がいかに難しいか知っているのでは無いだろうか。「知ることとできることの差」は我々素人の想像以上なのだろう。アランフェスはこの演奏と映像があること自体が有り難すぎる。幻想は巨匠も表現の幅が大きく自由。展開部の繰り返しを省略して流れに任せたり、マルティノン以来(?)の素敵なコルネットを聞かせてくれたり。それでも全曲にわたり計算が行き届いている。画像については小生門外漢なのでカメラワーク等について全くわからないが、デンマーク国立交響楽団の巨匠への共感はしっかり捉えている。この楽団、巨匠逝去後、昨年ファビオ・ルイージが首席に就任したとのこと。このコンビで是非とも来日して欲しい。
4 people agree with this review 2017/11/26
悪魔か天才か、ではなく間違いなく天才だ。春の祭典も素晴らしかったが、この悲愴は本当に凄い。小生は細部に拘り、各声部をしっかり聴かせる演奏が好きだが、クルレンティスは拘りという狭い範疇ではなく、音楽として全てを表現し切っている。各楽章に聞きどころは多いが、とにかく第4楽章のコーダを聞いて欲しい。こういう音楽は誰もなし得なかった。スコアを見たら、確かにその通りだった。なのに誰もやっていない。チャイコフスキーは死ではなく、生きることの辛さを表現したかったのだろうと思えた。この演奏は聞いている時は新たな発見を、聴き終わってからは曲自体の存在感を聞き手に意識させる稀有な演奏だと私は思った。
4 people agree with this review
2 people agree with this review 2017/10/29
この名曲、CDはアルバンベルクとアマデウス(ライブ)とラルキブデッリが双璧と思っていたが、この名手たちの演奏はその上をいく。1番の冒頭から「ああ、これはいい」という感覚に満たされる。その理由は名手たちがお互いをリスペクトして、一歩引いたところに身を置きながら、瑞々しさを失わないところにある。誰がこの演奏のリーダーだったのか?誰がこういうフォルムを決めたのか?これだけの名手揃いになると自ずと決まるのだろうか?とても小生のような素人では想像がつかない世界がここにはある。名手揃いだが、それでもクレメンスは上手い。2番の第一楽章第二主題など、心が震えるレベルの演奏だ。ライブでの良い演奏は、聴衆も演奏家も本当に幸福になれるが、このディスクはその記録である。この2曲が好きなら、是非聞いてほしいと願わずにいられない。
6 people agree with this review 2017/10/11
自分の好きな曲になると、皆自分なりの評価軸を持っており、その軸に近いかどうかで演奏を評価する。技術的にある一定水準を上回れば、あとは「好みの問題」とも言われる。小生にとってはシューベルトの20番がそれに当たる。このツィマーマンの演奏、細かいテンポの動きとか作り込みはあるものの、どちらかというと造形美を優先させた演奏で小生の好みではない。曲に対する共感が薄いように感じる。しかし、何度も聞くと録音の良さも相俟って、ツィマーマンがやりたかったことが見えてくる。彼が強調する声部は必ず意味がある。これはしっかりとした造形の中で細部を徹底的に表現したこだわりの演奏だと思う。一方21番は20番より感情移入がストレートで、ツィマーマンの「私もこの曲、好きなんですよ」という声が聞こえるようだ。小生はツィマーマンの演奏会に何度か通ったが、実は都度あまり感心しなかった。結構表面的だよな、と思っていた。ところがこのディスクを聞いてこのピアニストを理解するには集中力が必要で、私にはその力がなかったことを思い知った。またツィマーマンの演奏会に行こう。今度は違う彼に会えるだろう。
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