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Review List of 風信子 

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  • 2 people agree with this review
     2019/01/09

    ルガンスキーが弾くドビュッシーは如何にと興味深く聴いた 音の美しさに目が覚めた 曖昧さや混濁はどこを探してもない 7種13曲孰れも快適なテンポを採り水が流れるように或いは弛まない大気の流れのように自然の変転を生み出していた 融通無碍にピアノが鳴る様は実に爽快だ ”月の光”や”レントより遅く”など緩やかな運びの曲も律動が心地よい その上に清新な叙情がゆっくり流れていく風情は清潔で心温かい がしかしルガンスキーの真骨頂は快速調の曲に表れる ”メヌエット””パスピエ””雨の庭”など心が浮き立つようだ 印象派の既存のイメージには収まらない 存在そのものに内在する推進性が止めどなく湧き出ている そして何と言っても”映像・第2”が聴きもの 出来上がった立体的透視図は味わい深い 全体は額縁に入っている ”喜びの島”と”ハイドンを讃えて”が額縁の役割を果たしている 実によく纏まっている ドビュッシーの”一枚”として推奨できる あなたも如何  
     

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     2019/01/08

    誰にでも得手不得手はある ベートーヴェンも例外ではないと思っていた ピアノの名手ではあっても弦楽器ではトップに立てる器量はなかったと ベートーヴェンにシンパシー以上の崇敬を感じていても ヴァイオリン・コンチェルトには進んで耳を貸す気がしなかった 音楽に強引さを感じて 聴いて疲れを感じることしばしばだった ここにフランスの若いヴァイオリニストがウィーンの図書館に保管されているベートーヴェンの手稿譜から 作曲者が当初描いたスコアを掘り起こした 初演者の都合で簡略化したまま世に出てしまった弊を正そうというのだ 耳傾ければ ギャラントな音楽だった ソロVnは実に細かな装飾を纏ってアラベスクを織ってゆく 力で押さえつけるような音楽ではなかったのだ とは言っても これまで聴いてきた音楽と明確に違うと分かるのは 第一楽章の365小節から382小節までだ 既存のスコア(演奏)ではプリンシパルVnが第1Vnと同じ譜を弾くが 手稿譜では大変複雑な綾模様を織り出す 但し細部にわたるニュアンスの違いが全体の印象を大きく変えているからこそ 作品の様相にしなやかさを纏わせたと思う 演奏の良し悪しを越えて一聴に値する あなたも如何 

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  • 6 people agree with this review
     2019/01/08

    あの”様々な楽器のための協奏曲集”の6枚の強烈な印象が”カフェ・ツィマーマン”そのものだった J.S.バッハが市井で定期的に催していたコンサートの会場の名をバンド名に戴いたものだから CZはバッハに特化しないまでもドイツ系バロック楽団と思い込んでいたから驚いた 勿論ヨハン・セバスチャン或いはカール・フィリップ・エマヌエルの曲がさらに加わっているのだが 後半の5枚にはイタリアやフランスの魅力的な楽曲が並ぶのだ ヴィヴァルディを筆頭にリュリに至るまで 9人の作品が登場する 聞き慣れない名前もあるが その作品は何れ劣らぬ秀作揃いなのだ 演奏はバッハを聴いたことがあれば推して知るべし快演である バレッティのVn フリッシュのCemb を軸に見事なアンサンブルを繰り広げる 二人がアルゼンチン出身であれば ラテン系バロックに対応力があるのも頷けた 特に記すべきは フリッシュのクラヴサンやオルガンのソロが聴けること ”ゴルトベルク”は秀演 そしてドミニク・ヴィスのカウンター・テナーを超えた演じる歌唱が聴けること ほとんど一人芝居だ とにかく面白い 正月を挟んで堪能した あなたも如何   

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  • 1 people agree with this review
     2019/01/05

    ロマンチック・ベートーヴェン・ファンにも賛同を頂いたようで同慶の至りだ 現代の大型オーケストラを起用していてもこれはピリオド精神を全面に取り入れた演奏なのだ ベーレンライターに代表されるクリティック・スコアを十全に生かした演奏になっている ヴィブラートを極力排し テンポはベートーヴェンが指定したメトロノーム速度にほぼ準じている 往年の人気指揮者の名演と称される数々と一線を画す真の名演である 何よりベートーヴェンがスコアに記した音楽構想図をほぼ完璧に具現して見せたものだ そしてモントリオールsoと成し遂げた明晰なサウンドは音楽の奥底から無限に放出される生命力の輝きをわたしたちに浴びせてくれた この歓びを共に歌いたい 時代が録音の優秀さを以って世界へ送り出してくれた 先人が宣った通り ナガノ&OSMのベートーヴェン交響曲全集は当代随一の傑作である あなたも如何 

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     2019/01/05

    永遠のエトランゼだから斯うも言われよう だが意外でもなんでもない ナガノのベートーヴェンはブロムシュテットの最後の演奏に匹敵する この”田園”はC.クライバー以来の傑作だ 気づいているだろうか ”田園”には緩徐楽章がないということを 第二楽章のAndanteにはMolto Mossoが付いている もうこれはModeratoだ そして”第8”にも緩徐楽章はない すでに古典交響曲の定型を逸脱し打ち壊してさえいるベートーヴェンは当時の保守派の人々には騒々しく暴力的とさえ言われていた 音楽はリズムの時代に踏み出したのだ それは現在にまで続く道でありフィールドでもある ベートーヴェンはロックだと識るべし この駆け抜ける抒情をナガノは感じ取り再創造している ここまで澄んだソノリティがあって初めて音楽に明るい光が届く これほど微笑みに満ちた”田園”を知らない 止まることを知らない”第8”のAllegro Vivaceが眩しい ピリオド精神がもたらした精華だ あなたも如何      

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     2019/01/03

    先を見る者 それがプロメテウスの意 プロメテウスが創造したものは人間だ ナポレオンも先の社会に新たな人間像を打ち立てる存在に見えたベートーヴェンが世紀の変わり目に書いたバレエ音楽”プロメテウスの創造物”を素材として再創造再構成した それがナポレオンを英雄として讃える交響曲第3番だった ナガノはそれを音で示そうと考えたようだ 果たしてこれがどこまで聴衆に伝わったかは知らないが ベートーヴェンが最も自負していた第3交響曲変ホ長調は素晴らしい演奏になった それはロマンチック・ベートーヴェンとは似て非なり 壮大で豊かな歌謡精神に貫かれた大交響曲だが 簡素な響きと虚栄を排した趣きは雄々しく潔く美しい これでこそ”英雄”の真実を謳いあげることができる ナガノはかつてベルリン・ドイツsoとも素晴らしい演奏を残しているが 一皮剥けている 古武士の佇まいすら感じさす凄みがある 見事だ あなたも如何

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     2019/01/03

    ナガノの音楽性が色濃く反映した名演 偶数番号の組み合わせという世上最も注目されないベートーヴェン・シンフォニー集において その音楽の美の特性を自然にしかも印象深く著した演奏の稀有な例となった デュナーミクの差を最大限に示して聴衆を惹きつける演奏をナガノはしない だから弱奏部が実にクリアで多くを語り出す しなやかな歌い口は人格を反映していると思えて仕方がない 語るが如き奏でから私たちは詩と真実を聴き取る事になる 2番4番共にベートーヴェンが1817年に書き加えたメトロノーム・テンポを遵守している ではせかせかした前のめりな演奏かと言えば然にあらず ピリオド奏法は消化され熟れて音楽の生命力となっている 欧米のオーケストラはもうここまで行ってしまった 世界の片田舎日本のオーケストラの将来は暗澹としている 世界を転々とするナガノに失望しかけていたが やはりケント ナガノは只者ではない 遅ればせながら あなたも如何 

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     2019/01/03

    カフェ・ツィマーマンのクラヴサン奏者セリーヌ・フリッシュによる”ゴルトベルク”はスコアが見える演奏だ 右手と左手が完全に分離して聞こえることこそコントラプンクトを奏でる上に最も求められるものだ それを完璧に実現している演奏に初めて出会った印象だ 実に繊細で流麗な演奏である テンポは対位法の線の流れがくっきりと浮かび上がるに最適な速さを掴んでいる フリッシュの他の独奏を貪り聴きそうだ 後半は”ゴルトベルク”の最初の8つの基本低音による”14のカノン”をカフェ・ツィマーマンの弦楽五重奏が演奏している そこはかとない親しみと雅さが芳しい 最後に素晴らしい贈り物が付いている ”クオドリベットに使われた2つのドイツ民謡”をドミニク・ヴィスが歌っている フルートと珍しい楽器が加わっている ギター シタール ハーディ・ガーディ そしてフリッシュのクラヴサンと打楽器が作り出すサウンドは夢幻の時空を超えて行くようだ あなたも如何  

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     2019/01/02

    なんという謐けさ ”しずか”は静かであり 密かであり 閑かでもある 音の有る無しには繋がらない ペリアネスのピアノがというよりも 抑もドビュッシーの音楽が惺(しずか)なのだ 言葉にならない 絵に書いて見せられない ましてや触れることなどできようはずもないもの そんなものを音楽にしようとするから自ずとピアノが揺蕩うことになる 音楽の前に心が振れてしまって困ったのはドビュッシーなのだろう そんな時ピアノに触れたらこんな音楽が出て来てしまった 聴衆は音楽の前にプログラムに触れてもう想像空想が止まらなくなっている そこへこの音楽が流れ込んでくるから 夢想の世界をさまようことになる これは麻薬だ 滅多に触れてはいけない 心が詰まったり傷ついたり凶暴になった時 少し舐めて眠ろう シャーロック・ホームズのように 過ぎてはいけない 慣れてはいけない 病んだ時少しいただこう 幸せなあなたは近寄らないように そうでない貴方は如何 

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     2019/01/01

    年明けを告げる音楽はと選んだ 野太く朗々と歌うが 粗野でなく 稟性卑しからぬ風情が何より好ましい 何より神経質になるのは御免だ プレヴィン&VPOによる”ツァラトゥストラはかく語りき”は華麗でありながら 儚さを見失っていない それでいて音楽はどこまでも楽天的なのがいい ”死と変容”は前半は繊細な語り口を見せるが 後半は「いざ、生きめやも」と歌い上げる 花火は上がらないし 爆竹もならない 静かに年は明け また小さな一歩を踏み出すまでだ プレヴィンの音楽にはいつも勇気付けられて来た 長く生きていればたくさんのものを失うが 新しい年に新たな出会いと発見を夢見て出発しよう 音楽の友よ 共に歩もう

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     2018/12/31

    10年を越え レーベルを変え ようやくアントニーニ&バーゼルCOのベートーヴェン交響曲全曲が完結した アントニーニはバロックからスタートした人だから ピリオド演奏をと期待して耳傾けたが 一筋縄ではいかない 金管はピリオド 木管は現代 弦はガット弦と混ぜこぜ テンポはベートーヴェンの指定を遵守して 演奏時間も61分台と快速だ そこから生まれた音響はというと驚く そこにはカオスが広がっている 主旋律も対旋律もない 全てが同等の主張をする或いはしないのだ これが最終楽章の声楽が登場しても貫かれている ロマッンチック・ベートーヴェンに慣れ親しんだ向きには違和感を超えて噴飯物だろう こうでなくてはアントニーニのベートーヴェンを聴く価値はない 先ごろ鳴り物入りでマーマーの第6を発表して年間大賞を贈られたやはり古楽出身のロシア人がいたが その平凡さに呆れた記憶がまだ消えないが アントニーニは期待を裏切らない ロックを愛する人に聞いて欲しいベートーヴェンだ あなたも如何

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     2018/12/31

    もう古くなったギャグ”欧米かよ”じゃないが 欧米はここまで来ている 今更ベートーヴェンかよっていうのが本音だった ナガノがカナダのオケを振って全集に取り組むのに齟齬を感じていた ドイツのオケを常任していた時に何故やらなかった しかもピリオド楽器と奏法によって時代は変わっている時に現代の大型オーケストラを振って何をしようというのか ナガノのファンでありながら疑心暗鬼を生じていた だから聴きかけて辞めてしまった 気の迷いかひょんな事から第1番を聴いてしまった 驚いた 素晴らしい 直ぐにベーレンライターのスコアを出して来た その美しいソノリティはベートーヴェンが思い描いた音楽を完全に再現していた 古楽復興が何だ ヴィブラートがどうだとか そんなことを云々している日本のオーケストラ現場が世界から取り残されていることをナガノ=OSMの演奏は示している このテンポも奏法も欧米ではスタンダードになっている 何故なら古臭かった音楽に命の火が灯ったからだ 遅ればせながら あなたも如何  

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     2018/12/30

    harmonia mundiのドビュッシー没後百年記念シリーズの一枚 統一された意匠の箱入りで美しい フランスのピリオド・オーケストラ レ・シエクルの演奏が嬉しい ピストン・ホルン バソンなど当時フランスで使われていた楽器とガット弦を弾く弦楽器群による音色と響きは あのパリ音楽院管弦楽団のソノリティを彷彿とさせる しかも演奏会ライヴのDVD付きなのだ 曲目が”遊戯”と”夜想曲”の二曲はCDとDVDで同じだが音源は異なる さらにCDでは”牧神の午後への前奏曲”を DVDでは”スコットランド風行進曲”を聴くことができる ”牧神〜”の演奏風景も見たかったというのが本音だが これは今後に期待しよう 指揮棒を用いないロトの指揮法も垣間見得て興味深かった なんにしても今世界のどこに行っても聴くことができないサウンドを聞き逃すのは勿体無い 20世紀の初頭 ドビュッシーやラヴェルはこの音響を頭に描いて作曲していたのだ ピリオド楽器と奏法がもたらしてくれた景福を大いに愉しんだ あなたも如何   

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     2018/12/30

    ヴァニュハルにファンは多い ハイドンより少し後輩で同じく70代まで長命であったから 同様多数の作品が残った しかしハイドンがエステルハージ公爵家に長年雇用されていたとは対照的に ヴァニュハルは自由音楽家の走りだった これが何を意味するか それは作品の発表機会と出版量の差となった これが現代に至るまでその知名度と演奏機会の差となている ここにCKが演奏している5曲は疾風怒濤期を中心とする作品だと思うが 未だ体系的演奏録音が世に出ていないので 此れを以てヴァンハルの全容とは言えないけれど その魅力の一端は伝わってくる 歴史の一時代に二人の天才は要らないのかもしれない ただ何時の時代にも差別と選別は行われたのではないか チェコの出であるヴァニュハルが負の位置に置かれた可能性は想像に難くない ヴァニュハル一生の果て1813年はベートーヴェン43歳の年で 交響曲第7番と第8番が初演されている この5曲がヴァニュハルの傑作だとすれば 明らかに時代遅れである しかし忘れ去られるには惜しい あなたも如何  

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     2018/12/29

    全てのパートがソロで演奏されるところから生まれるソノリティは啓示に溢れている バロックのConcertoはロマン派の同曲とは似て非なるもの感を深くした 音楽も社会と人間の志向にシンクロナイズする まだ音楽が個人の表現手段と認知される前の実態を如実にした チェロ・ソロのConcertoをアクセントに置いた”調和の霊感”からの後半6曲が面白かった バッハがチェンバロ協奏曲に編曲して耳に馴染んでいる4Vnと2Vnソロを有する曲も含まれ興味は尽きない Vnのパブロ・バレッティとCembのセリーヌ・フリッシュはアルゼンチン出身であったことに思い至った バッハ由来のバンド名からドイツ系楽曲に目が行きがちだったが ヴィヴァルディに限らずイタリア系フランス系へも手を広げてほしいものだ それにしても音楽の粋はアンサンブルにあると感じさせずに置かないカフェ・ツィマーマンだ あなたも如何

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