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作家・道尾秀介さんインタビュー (2)

Friday, December 4th 2009

interview
作家・道尾秀介さんインタビュー
--- 『球体の蛇』では、『星の王子さま』がモチーフのひとつとして登場しますね。『球体の蛇』を読んだ後に『星の王子さま』を読み返してみたんですが、王子さまの「人間はみんなちがった目で星をみているんだ」というセリフが『球体の蛇』と重なるように感じました。

 あぁ、なるほど。僕の感覚でも、王子さまにヒツジの絵を書いてあげるシーンが、『球体の蛇』のテーマと重なっている気がします。
ヒツジの絵を描いてくれと主人公が王子さまにせがまれて、どんなヒツジを描いても王子さまの気に入らない。最後に、ただの箱を描いて「ヒツジはその中にいるよ」って見せたら、王子さまが初めて気に入るというシーン。
あれは『球体の蛇』と同じテーマですよね。「景色は自分でつくる」という。

--- 本物の景色が正しいとは限らなくて、人生には偽物の景色が必要な時もあるのかもなぁと。そういう脆くて哀しくて、でも美しさのある世界を感じました。

 ラストは、ビターはビターだけど、救いはありますよね。
「真実はこうだ」っていう確定的なことはどこにも書いていなくて、いろいろな読み方ができる結末ではあるんですけど、でも、うん、救いは書くことができたと思っています。

--- はっきりと書かれていないからこそ、実際の人生により近いように感じました。

 そうですよね。実人生では、本当にわかることなんてないですから。
自分の気持ちだってわからなくなるときがあるのに、人の気持ちなんてわかるわけがない。三人称ならまだしも、一人称で結末に相手の心の中まで取り入れちゃうと、やっぱりつくりごとになっちゃうんですよね。
ハッピーエンドにすれば救いがあるのかというと、子ども向けの童話じゃないんだから、それは違う。「救い」を書くときに、ハッピーエンドにするほど芸のないことはない。作家はそれをやっちゃいけないと思うんですよね。

--- 道尾作品の魅力のひとつは、登場人物だと思うのですが、道尾さんの作品の人物からは、体温を感じます。今までの作品でも、主人公の持つ黒い部分や負の感情も描いていて、逆に、罪を犯したり、読者が嫌悪を抱くような立場の人物の白い部分も描いていると思うのですが、登場させる人物へのこだわりや思い入れはどういうところですか。

 完全な悪人や、完全な善人なんて会ったことがないですよね。それを小説に登場させたら、必ず違和感が生まれてしまう。だから自分の小説には完全な悪人や善人は出したくないですね。
それと、僕は、たとえば一瞬だけ出てきてすぐに退場しちゃうようなキャラクターでも、みんな心から大好きなんです。
好きだからこそ、ちょっとでも本当の人間に近づけてあげたいっていう気持ちがある。同時に、好きだからこそ、ある程度まで描いたときに相手が勝手に動き出してくれて、自分からどんどん人間の動きに近づいていってくれる。
僕は常に登場人物とシンクロしていますから、登場人物が大きなショックを受ければ、僕もショックを受けますし、先のことが不安になっていれば僕も不安になります。登場人物の感情と僕の感情はいつも一緒なんです。
『球体の蛇』はずっと男性の一人称ですし、成長小説でもありますから、感情の起伏、うねりが大きくて、シンクロの度合いは今まででの小説で一番大きかったです。
だからこそ、ラストシーンではすごく、自分自身も救われた気に僕はなりましたね。

--- 『球体の蛇』は作品を読み終えると、タイトルがさらにぐっときますね。

 これ、いいタイトルですよね。(しみじみ)

--- はい(笑)。

 いやぁ 本当にいいタイトルだなぁって・・・。(かみしめるように)

--- はい、そう思います。道尾さんの作品には、タイトルに干支が入った「十二支シリーズ」と呼ばれるシリーズがあり、今回もそのひとつ「蛇」ですが、このシリーズは特に、読み終わってからタイトルが沁みますね。今後も「十二支シリーズ」は読ませていただけるのでしょうか。

 別に干支で縛っているわけじゃないんで(笑)。
今回の「蛇」なんて、本当に偶然なんです。蛇という生き物と、スノードームのモチーフと、サン=テグジュペリの絵が、全部きれいに重なり合って『球体の蛇』というタイトルができただけなので、十二支でまたやるかどうかはわからないですね。

--- 『月と蟹』というタイトルの連載が始まっていますが、もしかして次は星座シリーズですか?

 え?星座シリーズ?

--- 蟹だから、かに座・・・次は星座シリーズを始められたのかな、と(笑)。

 いや、ないない!ないですよ(笑)。
あ、でも蟹・・・・・。それ面白いかもしれないですね。
何かテーマやモチーフが決まっていると、それがスプリングボードになって新しい話が出来たりもするんで。
星座、ちょっと考えておきます(笑)。

--- はい、よろしくお願いします(笑)。本日はどうもありがとうございました。

次ページでは、道尾さんのお気に入り音楽CDを挙げていただきました!ヘヴィメタから研ナオコまで聴く道尾さんのお気に入りとは!?)

『球体の蛇』 道尾秀介
新刊『球体の蛇』(角川書店) 道尾秀介
 
 あの頃、幼なじみの死の秘密を抱えた17歳の私は、ある女性に夢中だった・・・。
狡い嘘、幼い偽善、決して取り返すことのできないあやまち。矛盾と葛藤を抱えて生きる人間の悔恨と痛みを描く、人生の真実の物語。
青春のきらめきと痛みとを静かにうたい上げる、道尾秀介の新境地。

profile

道尾 秀介

  1975年、東京都生まれ。2004年、『背の眼』でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞し、デビュー。
2005年に発表した第2長編作『向日葵の咲かない夏』で、本格ミステリ大賞候補になり、注目を集める。
2007年『シャドウ』で、第7回本格ミステリ大賞を、2009年に『カラスの親指』で日本推理作家協会賞を受賞。
デビューからわずか5年ながら、ミステリー、ホラー、文芸など、ジャンルの壁を打ち破る大躍進を続ける、いま最も注目されている作家。
ほかに、『ソロモンの犬』、『ラットマン』、『鬼の跫音』、『龍神の雨』、『花と流れ星』などの作品がある。

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