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「ドイツ音楽至上主義」

Friday, November 30th 2007

連載 許光俊の言いたい放題 第129回

「ドイツ音楽至上主義」

 私には悪い癖というか習慣があって、おもしろそうな本を買ってくるととりあえず本棚に放り込んでしまう。で、出版から何年もたってからようやく手をつけるのだ。
 最近読んだ石井宏『反音楽史』(新潮社)もそんな1冊。なかなかおもしろい。ひとことでまとめれば、「ドイツ中心の(つまり、ドイツ人が作った)音楽史はインチキだ」というのがその内容だ。もともと18世紀はイタリア音楽家が圧倒的に優勢だったのは否定できない事実である。だが、後世のドイツの音楽史家はそうした事実を素直に受け入れなかった。バッハやハイドンやモーツァルトの同時代のイタリア人たちをみなつまらない連中として蔑んだ。石井氏はそれに腹を立てているのである。
 まあ、その主張、指摘自体が間違っているわけではないのだが、石井氏らしくむやみと感情的な書きぶりについていけない人もいるだろう。それに、昔ならいざ知らず、今ではドイツ至上主義もずいぶんぼんやりしたものになってしまっている。
 これを読んで思い出したのが、最近出たBBCライヴのゼルキンのモーツァルトだ。以前、このコラムでも取り上げたと思うが、今度もシュナイダー指揮イギリス室内管弦楽団が伴奏を務めている。
 これがもろに、ベートーヴェン風、石井風に言うなら、ドイツ音楽至上主義的演奏なのである。ピアノ協奏曲第14番の第1楽章からして深刻だ。短調になるや、やたらと悲劇的。ピアノの背景でちょっとした薬味を添える管弦楽も意味ありげ。もちろん第2楽章も超真剣だ。重々しい歩みで心を込めて歌い抜く。ロココ風、18世紀風、イタリア風、快楽主義的モーツァルトの姿は消えている。フィナーレでも、念を押すように和音をつなげていく弾き方がもろにベートーヴェンだ。余談だが、軽薄を気取ったフリートリヒ・グルダにしたところで、実はけっこうこういうベートーヴェン風な弾き方をしている。
 「行進曲ニ長調」もリズムが重いが、かえってそれが木訥な味になっている。
 「6つのドイツ舞曲」がなかなか強烈だ。まるでベートーヴェンのスケルツォみたいに攻撃的なのである。3拍子ではあるが、心は行進曲みたいな。気性の荒々しい男たちの踊りにふさわしい。打楽器が出てきてジャラジャラやるトルコ音楽の部分は、その荒々しさが効果的だ。

 ちなみに、ドイツ音楽至上主義の代表みたいなのがフルトヴェングラー。この世代の人たちは、平然とイタリア音楽をバカにしていた。リヒャルト・シュトラウスにしたところで、ワーグナーは賞賛する一方、ヴェルディの「オテロ」を許し難い愚作とけなしている。
 それはともかくとして、フルトヴェングラーがウィーン・フィルを指揮したブラームスの交響曲第1番は、聴き始めてすぐ、柔らかくてシルキーな音色に驚かされた。SP復刻ではあるのだが、あちこちで、まさにこの響きでなくてはという音色がするのである。音楽の起伏もなめらかだし、思いのほか色っぽい表情も見受けられる。第2楽章の休符など、実にいい雰囲気だ。フルトヴェングラーのこの曲というと、ベルリン・フィルの印象が強くて、いかにも深刻で暗いイメージがあるので、意外だった。私としては、軟派、軟弱、しなだれかかってくるようなこちらの演奏のほうが好みだ。
 第3楽章が優雅なのは当然、フィナーレもきれいなレガートで聴かせる。古い録音なのだが、不思議と弦楽パートの重なり合いがよくわかる。基本的には穏やかで抑制された指揮であるが、それがオーケストラの美点をうまく引き出す結果になっている。この曲は、あまりしゃかりきになってガリガリやると、ダサくなる。
 私は、フルトヴェングラーがこれでもかとばかりにテンポを変えたりした演奏を聴くと、生ならともかく、録音ではかなわないなあと思ってしまう。が、この演奏ではそうした抵抗感をまったく抱かなかった。

(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授) 


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