昔日のフランス北部に花開いた「宮廷式恋愛」の息吹
中世の貴人たちを虜にした南フランスの宮廷詩歌人(トルバドゥール)たちの歌を集めた『オクシタニアの夜』、ドイツ語圏のミンネゼンガーによる宮廷音楽を集めた『菩提樹の下で』に続くアンサンブル・セラドンの中世音楽アルバムは、フランスの北側で活躍した宮廷詩歌人(トルヴェール)たちの音楽を厳選。カタルーニャ語やスペイン語にやや近い南フランスの言葉で詩歌を作ったトルバドゥールと違い、ここに集められた曲はどれも現代フランス語の直接の先祖となる北フランスの言葉で詩句が編まれており、パリでノートルダム楽派のポリフォニー教会音楽が花開いた時代にあってフランスの貴人たちが艶やかな恋愛に憧れ、高度な文学・音楽芸術を愉しんでいた様子を窺わせるものとなっています。
14世紀に編纂された史料をもとに、セラドンの音楽家たちはニュアンス豊かな詩句の味わいを最大限に活かす音作りでみずみずしい解釈を聴かせ、冒頭トラックのように数十秒にわたり鳥の声など自然音を取り込んだ演出も歌詞に即して導入、各作品の魅力をいっそう豊かに伝えてくれます。ヴィエルのル・グェン、オルガネットのヒュン・ファン・シュアンなど新旧世代の名手が集う器楽勢の頼もしさもセラドンならでは。緑豊かな中世フランスで、既婚女性へのプラトニックな恋慕を軸とした「宮廷式恋愛」がどんな芸術的瞬間へと昇華されていったか、1枚を通じて深く聴き確かめられる内容になっています。
※ブックレットの歌詞は原詩のみの掲載で英訳等はありません。(輸入元情報)
【収録情報】
中世フランス北部のトルヴェールの歌
『良からぬ夫を持った妻』
01. 作者不詳:サンザシの咲き乱れる園で
02. エティエンヌ・ド・モー(生歿年不詳、13世紀に活躍):わたしの夫は嫉妬深く(器楽による演奏)
03. 作者不詳:麗しのヨランは
『聖母の奇跡』
04. 作者不詳:わたしは夫など要りません(器楽による演奏)
05. ゴーティエ・ド・コワンシ[1177-1236]:今朝、陽が姿をあらわす頃に
『宮廷式恋愛の駆け引き』
06. ティボー・ド・シャンパーニュ[1201-1253]:わたしは一角獣のごとく
07. マロワ・ド・ディエルニョ(または貴婦人マロワ。生歿年不詳、13世紀に活躍):なんと嬉しいことには
08. ギオ・ド・ディジョン(生歿年不詳、1215-1225年頃活躍):わたしは歌わねばならない、誰よりも美しい人のため
『麗しき季節の訪れに』
09. 作者不詳:五月、麗しき季節の訪れに
10. 作者不詳:花を育む朝露の間で(器楽による演奏)
11. 作者不詳:ある時、わたしが馬を進めていると
12. 作者不詳:羊飼い娘の物語詩(器楽による演奏)
13. 作者不詳:お望みですか、わたしからあなたに捧げる歌を
アンサンブル・セラドン(声楽、古楽器アンサンブル)
クララ・クトゥリ(ソプラノ)
ポラン・ビュンドゲン(カウンターテナー、シフォニ=小型ハーディガーディ、指揮)
ノルウェン・ル・グェン(弓奏ヴィエル=中世フィドル)
カロリーネ・ヒュン・ファン・シュアン(オルガネット=ポルタティーフオルガン、クラヴィシテリウム)
フローラン・マリー(リュート)
グウェナエル・ビアン(中世フルート、リコーダー)
リュドウィン・ベルナテネ(打楽器)
録音時期:2024年2月
録音場所:リヨン、サン=ルイ=サン=ブリュノ学院礼拝堂
録音方式:ステレオ(デジタル/セッション)