現存最古の演奏可能なリュートの一つから、限りないファンタジーが溢れ出す
中世末期からルネサンス期を経て17世紀に至るまで、持ち運びが比較的容易でありながら繊細精巧な多声音楽にも対応できると同時に、歌の伴奏にもうってつけの存在として愛され続けた撥弦楽器、リュート。その最盛期には知識人のための楽器の花形としてオルガンと並んでもてはやされ、そのために数多くの楽譜が書き残されてきました。やがて生活習慣の変化の影響や、チェンバロやピアノ、ヴァイオリンなどに人気を譲り徐々に廃れてゆきますが、ひとたび歴史の表舞台から姿を消したからこそ、その玄妙な響きに「ここではないどこか」の気配を感じ惹かれてゆく人が多いのかも知れません。
そんなリュート特有の過去への憧憬を強くかきたてるアルバムが、古楽器演奏の録音に秀でた「RAMEE」から登場。すでにこのレーベルでパートナーのコリーナ・マルティとともに多くの名盤を出しているポーランド出身の名手ミハウ・ゴントコが、現存する最古の演奏可能なリュートの一つとされる1595年の年記(製作年ではなく補修年の可能性も示唆されています)を持つオリジナル楽器を手に、忘れがたい魅力を放つ欧州各地の作品を綴ってゆきます。
ネックとヘッドこそかえられているもののボディはオリジナルのままという、この貴重な楽器に記された年号前後の作品を集めたプログラムは、東はポーランドからデンマーク、ベルギー、ドイツ、イタリアを経て西は英国に至るまで、地中海と北海にまたがる様々な地域に残る手稿譜や出版譜から厳選された、音による欧州大旅行のようなバランスの良い内容。まさにゴントコの広汎な知見なくしては実現し得なかった選曲と言ってよいでしょう。400年以上前の楽器から導き出される、典雅かつ優美でありながら、どこまでも力強い存在感を発揮する美音の粒は、1トラックごとの短さをいとおしむようにじっくり聴きたい稀有の響きを紡いでゆきます。ルネサンス名画の数々と同じ時代から届いたこの銘器の音色は、これまでリュート音楽をあまり聴いてこなかった方にも、強くお勧めできるものです。(輸入元情報)
【収録情報】
1. ジューリオ・チェーザレ・バルベッタ:第8パドアーナ、通称『Zo per la Brenta』
2. 作者不詳:リチェルカータ
3. ヴィンチェンツォ・ガリレイ:カリオペ
4. ロレンツォ・トラチェッティ:プレルディウム
5. シモーネ・モリナーロ:サルタレッロ
6. 作者不詳:クルレンテス(コルレンテ)
7. ジョヴァンニ・バッティスタ・ドメニコ:ベルガマスコ
8. カスパル・シェリツキ:プレアンブルム
9. 作者不詳:ポーランドの舞踏曲
10. ヤーコプ・ライス、通称ル・ポロネ:クラント
11. 作者不詳:ポーランド風ガリアルダ
12. ディオメデス・カート:ファンタジア
13. ヴァレンティン(バーリント)・バクファルク:パッセメッツォ、通称『ハンガリー風』
14. ニコラ・ド・ラン:ブランル
15. 作者不詳:しかるに祝福あれ、すべての
16. マティアス・ライマン:ガリアルダ
17. ヨハンネス・スパルカイベル:プレアンブルム
18. 作者不詳:たいそう麗しき少女が
19. ベネディクトゥス・デ・ドルジナ:ファンタジア
20. 作者不詳:マンスフェルト伯爵の舞曲/プロポルティオ
21. ジョン・ホスキンズ:とあるガリアード
22. 作者不詳:グローブに捧ぐアルマンド/ジョン・クーパー、通称コプラリオ:クーパーのジグ
23. バリック・ブルマン:とあるパヴェイン
24. アルフォンソ・フェラボスコ1世:表題のない楽曲(ガリアード)
25. R(ロバート?)・エスキュー:とあるジグ
26. ジョン・ホワイトフィールド:英国狩人風スープ
27. 作者不詳:トイズ
ミハウ・ゴントコ(7コースのルネサンス・リュート)
使用楽器:
パドヴァの逸名作者による1595年製作のオリジナル楽器(伝マルティーノ・プレスビテル作)
修復:ヨハンエンス・ゲオルク・ホウケン1996年
録音時期:2020年10月5-8日
録音場所:スイス、メーリン、聖レオデガー教会
録音方式:ステレオ(デジタル/セッション)