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2006年12月5日 (火)

連載 許光俊の言いたい放題 第42回

「秋の甘味、レーグナーのセットを聴く」

 この秋は聴ききれないほど、あれこれ新譜が発売されている。しかも、いちいち文章にしている暇がないほど、よいものが多いのである。まったく驚いている。各社がライヴの宝探しを熱心にやっているからか。
 さて、ハインツ・レーグナーのブラームス+シェーンベルク・セットが登場した。レーグナーの音楽は、いかにもドイツ風といった重々しさからは一線を画している。リズムはやや軽めでくっきり。ヴァイオリンが強く出るため、響きが明るめで繊細。微妙に音色が移りゆく。強弱の幅はそれほど広くなく、響きの変化で聴かせるのがモダン感覚。
 ブラームスの第3番は適度に歯切れよく、適度に湿り気があり、淀まずよく流れる。神経質でない程度に表情も細かく、一般的に喜ばれる演奏であろう。全体にヴァイオリンの艶っぽい歌が好ましい。第3楽章は粘らず、拍節感がくっきりとしているが、ちゃんと柔らかい匂いを放っていて、レーグナーらしい美しさだ。弱音も趣がある。
 こういう演奏を聴くと、音楽の美しさとは、単に巧い下手では言えないことがよくわかるはずだ。なるほど、このオーケストラはベルリン・フィルような名手揃いではない。が、はるかに繊細で、はるかに味わいがある。フィナーレは軽快で、鈍重な暑苦しさがない。軽快と軽薄が違うのはもちろんのことだ。音の見通しがよい、あえてたとえるならメンデルスゾーンのようなフィナーレである。
 当然第1番も、もたれない。スイスイ進む。これでもかとリズムを打ち込み、刻み込む演奏が多いが、和音をぐじゃーんとやらないでぱっと切るので、押しつけがましくない。これまた細部の音がよく聞こえる。この点ではフィナーレが特におもしろい。こんな風にそれぞれのパートが動いているのか!と、情報量の多さに驚くはずだ。
 第2楽章は、穏やかで、音色の変化がとてもきれいだ。これまた最近のベルリン・フィルなど、まるでシンセサイザーのように均一化された音を出して平然としているが、レーグナーは違う。和音によって音色が変わり、楽器の音域によって変わり、音の強さによって変わる。こうでなくちゃ。
 第4交響曲は他と違って、思う存分、粘っこいほどに歌う。こういうふうに曲によって大きくやり方を変えてくるのがレーグナーのおもしろいところだ。ロマンティックな豊かな歌、重なり合う弦楽器、これぞブラームス、これぞドイツ音楽、これぞクラシックと、満喫する人も多いだろう。
 シェーンベルクはの「浄夜」がまたいい。甘い、陶酔的な演奏で、ブラームスの交響曲のゆっくりした楽章みたいな雰囲気だ。妊娠問題が解決した後半は、チャイコフスキーの「弦楽セレナーデ」も顔負けなほどにトロリとしている。のびのびとした開放感がある。当然、「ペレアス」もこの傾向が顕著。いかにも世紀末的な音響の渦に浸れる。シェーンベルクがリヒャルト・シュトラウスと同時代の、それもウィーンの人だとあらためて教えてくれる。
 レーグナーの達者な腕を再確認できるセットだ。と同時に、この人も録音と生で演奏態度が若干変わっていたのだとわかる。録音向けにはきっちりと楷書風、生では流れ重視ということだ。「ペレアス」やブラームスの第3番など、特にそれが長所になっている。

(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学助教授) 

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