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DVD チャイコフスキー:交響曲第5番、ストラヴィンスキー:『火の鳥』組曲、ムソルグスキー:『禿山の一夜』原典版 アバド&ベルリン・フィル(1994東京ライヴ)

チャイコフスキー:交響曲第5番、ストラヴィンスキー:『火の鳥』組曲、ムソルグスキー:『禿山の一夜』原典版 アバド&ベルリン・フィル(1994東京ライヴ)

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    いしきほう  |  長野県  |  不明  |  2015年08月16日

     昨年末のある日、テレビをつけたら恒例のクラシック音楽ハイライトをやっていた。出演者たちが年初に亡くなった指揮者、クラウディオ・アバド氏の功績を讃えている。  続いてアバド氏が率いるベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の日本公演の録画が流された。  1994年10月14日。サントリーホール。  冒頭から一気に記憶の海に引き込まれた。私にとっても忘れることのありえない特別なコンサートだったからだ。  ・・・その夕べ、私は幸運にもホール最上段の一隅に席を確保できていた。当夜のプログラム第1曲はムソルグスキーの交響詩「はげ山の一夜(原典版)」。アバド氏のタクトが振り下ろされた直後から私の魂は実(げ)に恐ろしげなはげ山のてっぺんにワープした。いきなりの迫力がそうさせたのだ。顔の表情も豊かにアバドさんが指揮をする。大編成のオーケストラが奏でる音は整然と爆発したかと思えば引き潮の如く遠く引いてゆく。凪から始まり心地よく揺さぶられたかと思えば途端に魑魅魍魎たちが跋扈する地獄の底(いや、山のてっぺんでした)へ打ち据えられる。そんな魔術をかけられたような感覚。鼓膜のみならず全身の肌で感じる“音楽風(かぜ)”。幻覚のようでいて決してそうではない。休む間のない目(いや、耳)の覚めるような美音で紡ぎだされた驚くべきレベルの名演だった。  次いで、ストラビンスキーのバレエ組曲「火の鳥(1919年版)」で七色に弾ける音の饗宴を体験。  最後はチャイコフスキーの「交響曲第5番」。このポピュラーな名曲は、レコード・CDや実演で私も数えきれないほど何度も鑑賞している。  が、これも凄かった。  正確な音程と、緩急・強弱、緊張と弛緩のメリハリ。指揮者、演奏者諸氏が確かな実力を備えた名人ぞろい。その上、選び抜かれた楽器の音質。優秀なホール。耳のみならず肌でも繊細な空気の流れの変化を感じ取る。 真面目な優等生たちが持てる力のすべてを出して一所懸命に演奏してくれている。そう見え、聴こえた。  聴き慣れている筈の曲なのに今までに経験のない新鮮な感覚。感動の限界を超えてしまいそうな私は「今、自分の人生全体の中で最高の感動を得ている」と確信した。  さて第4楽章大詰めのコーダに至ったときだった。第1ヴァイオリン最前列のコーリャ・ブラッハーさんが隣のコンサートマスター、ダニエル・シュタブラーヴァさんに微笑みかけたのである。次いで後ろのヴァイオリン奏者たちも互いに隣の奏者とチラッと視線を合わせ笑みを交わしている。前列から後列への微笑みの連鎖である。当夜の白熱の演奏もいよいよ終盤に差し掛かっていたから一仕事終える直前の達成感と互いの努力に対する慰労の表現と見えた。  後日、この微笑みの起点はアバドさんであったことを知った。ヴァイオリン奏者たちに大きな笑顔を向けたのだそうだ。指揮者としても大満足の出来栄えだったのに違いない。  ここで思い出から覚める。  世界中のファンに愛されて惜しくも故人となられたアバドさん。楽譜を細かく研究し作曲者の意図を解釈してそれをできるだけ忠実に実現する。これが基本。が、時には魔術を駆使して元の曲を上回る感動を与えてくれた。もし作曲者が聴衆にまじって聞いたら、自分の曲ってこんなに良かったのか、と驚いたのではないか。私はそう思っていた。今頃は天国で引き続き至上の音楽を提供されているに違いない。  この驚異的なレベルの公演を余すところなく収録したDVDである。私にとって一番の宝物となっている。

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