バッハの引用も印象的な個性的力作
ファニー・メンデルスゾーン:「一年」、他
ガイア・ソコーリ (ピアノ)
バッハのヨハネ受難曲のアリア「全ては成し遂げられた」の引用で始まり、同じくバッハのコラール前奏曲「古き年は過ぎ去りぬ」の引用で終わる「一年」は、ファニー・メンデルスゾーン充実期の力作。
Piano Classicsレーベルでは、2022年に第1稿によるマルティーナ・フレッツォッティの演奏で「一年」を発売していましたが、今回は第2稿による演奏となり、違いの大きな「6月」については第1稿も収録。組み合わせは同じく充実期に書かれた「3つ性格的小品」で、こちらも聴きものです。
ソコーリのファニー・メンデルスゾーン第2弾
イタリアのピアニスト、ガイア・ソコーリ(ソコリとも。本人の発音ではソコーリ)によるファニー・メンデルスゾーン作品は、2021年に
ピアノ・ソナタ集が発売されていたのでこれが第2弾。ソコーリの演奏は、作曲された時代にふさわしい粒立ちの良い克明かつ切れの良い音が特徴で、その明確なイントネーションと躍動感は、音を伸ばしてペダルでぼかす20世紀的な耽美系フラット演奏とはまったく異なります。
ファニー・メンデルスゾーンの創作時期は19世紀前半なので、こうしたアプローチには説得力がありますし、前作のピアノ・ソナタ集でも見事な演奏を聴かせていただけに、今回の性格的作品での成功も納得です
充実したブックレット
装丁はディジパック仕様で、ブックレット(英語・12ページ)には、ソコーリの師で、メンデルスゾーンの研究と演奏により権威と目されるロベルト・プロッセーダによる解説のほか、「一年」自筆譜の各曲扉部分に書き込まれている詩文テキストを原語(ドイツ語)と英訳で掲載するなど内容充実。
チャイコフスキー「四季」の35年前
「一年」、各月を表現した12曲と後奏曲のコラールで構成。似た趣旨のチャイコフスキーのピアノ曲集「四季」が完成するのは1876年のことなので、ファニーが35年ほど先行しています。
凝った自筆譜の体裁
ファニー・メンデルスゾーンが「一年」に取り組んだのは1人息子ゼバスティアン[1830-1898]にあまり手がかからなくなった頃のことで、時間的余裕もあったのか、作品ごとに色分けした紙を使用して五線譜をつくり、各曲の扉にはゲーテやシラー、アイヒェンドルフ、ティークらの作品から引用した詩文の一節を載せ、曲の冒頭部分の余白には、宮廷画家である夫のヴィルヘルム・ヘンゼル[1794-1861]が挿絵を描きこむという凝りようです。
「3つの性格的小品」
ファニーの創作の絶頂期ともいわれる1846年の作品群から、H.414とH.442、H.452の3曲を選び、1996年にカッセルのフローレ・エディションが出版した曲集。同社は1989年に「一年」(第1稿)を出版していました。
▶
Piano Classics 検索
演奏者情報
ガイア・ソコーリ (ピアノ)
1998年にイタリア北部のエルバ(Erba、エルバ島はElba)に誕生。クラウディア・ボーズにピアノの指導を受けた後、イモラのピアノ・アカデミーでレオニード・マルガリウスに、アカデミア・ムジカフェリックスでロベルト・プロッセーダらに師事。
その間、13歳でニューヨークのブラッドショー&ブオノ国際ピアノコンクールで第1位を獲得してカーネギーホールのワイル・リサイタルホールにデビューするなど数多くのコンクールでも活躍し、イタリア、アメリカのほか、フランス、スイス、ルーマニア、アルバニア、ロシアでも演奏。CDは、Piano Classicsなどから発売。
ちなみに左腕のタトゥー「Quod me nutrit me destruit」は、ラテン語で「私を養うものは私を滅ぼす」といった意味の自戒の言葉です。シェイクスピア別人説でもおなじみのイギリスの劇作家クリストファー・マーロウ[1564-1593]の21歳の時の肖像画にも大きく書き込まれており、女優のアンジェリーナ・ジョリーがタトゥーにしたことでよく知られるようになりました。
トラックリスト (収録作品と演奏者)
CD 65'50
ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼル [1805-1847]
12の性格的小品「一年」H.385(第2稿) [1841〜-42]
1. 「1月」 夢. アダージョ、クワジ・ウナ・ファンタジア 3'01
2. 「2月」 スケルツォ. プレスト 3'16
3. 「3月」 前奏曲とコラール 6'00
4. 「4月」 カプリッチョーゾ 3'07
5. 「5月」 春の歌 2'50
6. 「6月」 セレナーデ・アレグロ 3'26
7. 「7月」 セレナーデ・ラルゲット 3'05
8. 「8月」 アレグロ 4'20
9. 「9月」 川のそばで. アンダンテ・コン・モート 3'13
10. 「10月」 アレグロ・コン・スピリト 3'38
11. 「11月」 メスト 5'34
12. 「12月」 アレグロ・モルト 4'01
13. 「後奏曲」 コラール 2'13
12の性格的小品「一年」H.385(第1稿) [1841]より
14. 「6月」 セレナーデ・ラルゴ 5'32
3つ性格的小品 [1846]
15. アレグロ・モルト・ヴィヴァーチェ・エ・レッジェーロ H.414 2'54
16. アレグロ・モルト・ヴィヴァーチェ H.442 4'27
17. アンダンテ・コン・モート H.452 5'10
ガイア・ソコーリ (ピアノ)
録音 2023年3月4日、5月9日、20日、イタリア、プラート、ムジカフェリックス・スタジオ
Track list
FANNY MENDELSSOHN-HENSEL 1805-1847
Das Jahr H385 12 Charakterstücke für fortepiano [second version, 1841-42]
1. January. Ein Traum. Adagio, quasi una fantasia 3'01
2. February. Scherzo, presto 3'16
3. March. Praeludium und Choral 6'00
4. April. Capriccioso 3'07
5. May. Frühlingslied 2'50
6. June. Serenade, allegro 3'26
7. July. Serenade, larghetto 3'05
8. August. Allegro 4'20
9. September. Am Flusse, andante con moto 3'13
10. October. Allegro con spirito 3'38
11. November. Mesto 5'34
12. December. Allegro molto 4'01
13. Postlude. Choral 2'13
Das Jahr H385 12 Charakterstücke für fortepiano [first version, 1841]
14. June. Serenade Largo 5'32
3 Charakterstücke [1846]
15. Allegro molto vivace e leggiero in B major, H 414 2'54
16. Allegro molto vivace in C major, H442 4'27
17. Andante con moto in E major, H 452 5'10
Gaia Sokoli piano
Total time: 65'50
Recording: March 4, May 9 and 20, 2023, Musicafelix Studio, Prato, Italy