
フランス革命を生き延びたG.F.クープランによる革命由来作品
ジェルヴェ・フランソワ・クープラン:ソナタ、変奏曲、ロンド
シモーネ・ピエリーニ(フォルテピアノ)
クープラン一族の最後を飾るジェルヴェ=フランソワ[1759-1826]の作品集。フランス革命を生き延び、復古王政シャルル10世の時代まで活躍したジェルヴェ=フランソワ・クープランは、一族の伝統によりサン・ジェルヴェ教会のオルガニストとして亡くなるまで37年間奉職する一方で、古典派スタイルの鍵盤楽曲も書いていますが、ここではまさに歴史の生き証人ともいうべき題材の作品も収録。19枚組ボックス
「クープラン・ダイナスティ」のCD19と同じ音源です。
ギロチン・ファッションまであった恐怖政治終焉後の過激な自由を描写
「レザンコヤブル」と「レ・メルヴェイユーズ」は、どちらも恐怖政治を生き抜いた貴族やブルジョワが、生き地獄の記憶をとどめながら奇抜な服装で自由を謳歌していた社会現象を扱った曲で、「レザンコヤブル」が男性たち、「レ・メルヴェイユーズ」が女性たちの様子を描いたものです。
首にギロチン刑を示す赤いリボンを巻いたり、襟首をギロチンの刃を連想させるように張り出させたり、帽子をギロチンの刃のような形にしたり、横長のギロチンの刃のような髪飾りを後頭部に付けたり、裸同然の薄いドレスを着たりとめちゃくちゃでしたが、身内や知人が残酷に殺害された人々にとって、生き残った自由の喜びの表現は屈折していても無理はありません(もっともギロチンネタは一時的なもので、その後は気楽なおふざけコスプレ的な展開となっていき、フランス・ファッションの隆盛にも繋がって行きます)。
「R」の発音をめぐる混乱
また、平民への憎悪からか、平民の多くがまだ巻き舌で発音していた「R」を、まったく発音しないだけでなく、書かないものまで現れるなど、言葉の面でもなかなかの混乱状態に陥っています。当時の上流階級の若者同士の挨拶言葉「Incroyable !」は、「生き残ったのが信じられない!」という意味が込められたものですが、発音の際には「R」を抜いて「アンクロヤブル!」のところを「アンコヤブル!」としていたため、ここでは定冠詞「Les」付きの曲名を「レザンコヤブル」と訳しておきます。
革命歌による変奏曲も作曲
一方でジェルヴェ=フランソワは、革命時に平民の間で流行っていた革命歌「ああ! うまくいくさ!」による変奏曲と、同じく革命下で流行した「ベアルヌ風哀歌」による変奏曲も革命時に作曲していますが、その後、職場のサン・ジェルヴェ教会も略奪されているので、ジェルヴェ=フランソワの気持ちは「アンコヤブル!」側にいってしまったかもしれません。
ソナタとロンドにはベート−ヴェンの雰囲気も
2曲のピアノ・ソナタとロンドはベート−ヴェンを思わせるような雰囲気もある作品で、チェンバロ的な語法とのミックスもおもしろくなかなかの聴きごたえです。
使用楽器はウィーンのヨハン・ハーゼルマンによる1800〜1810年頃のオリジナルで、巧みなレストアのおかげかとても心地よい音がします。
ブックレット
8ページ。テキストは英語。演奏者ピエリーニによる作曲者と作品についての解説が掲載されています。CDの顔となる表紙の画像は、作曲家と同時代を生きたフランスの画家、アンリ・クルボアジエ・ヴォワザン[1757-1830]が1820年頃にサン・ジェルヴェ教会周辺を描いたカラフルな絵です。革命を生き延びた人々の喜びが伝わるような雰囲気があり、CDの内容にもよく合います。
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演奏者情報
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シモーネ・ピエリーニ(フォルテピアノ)
1996年、ローマで誕生。フル・ネームは、シモーネ・エル・ウーフィル・ピエリーニ。8歳でピアノを始め、18歳で高校を卒業後、ローマ聖チェチーリア音楽院でマウラ・パンシーニに師事してピアノのディプロマを取得。その後、フィエーゾレ音楽院でエリソ・ヴィルサラーゼに師事し、ボリス・ベルマン、ニコライ・デミジェンコ、パーヴェル・ギリロフらのマスタークラスにも参加。
その後、アレクセイ・リュビモフ、アンドレアス・シュタイアー、トビアス・コッホ、コスタンティーノ・マストロプリミアーノ、ステファノ・フィウッツィの講座やマスタークラスに参加したほか、FIMA(イタリア古楽財団)で、アンドレア・コーエンにチェンバロと歴史的鍵盤楽器奏法を、ジョヴァンニ・トーニに通奏低音を師事。
CDは、Brilliant Classicsからケルビーニのフォルテピアノ・ソナタ集、ティナッツォリの鍵盤楽器作品全集、Da Vinci Classicsからメンデルスゾーンのヴァイオリンとフォルテピアノのためのソナタ全集がリリースされていました。

トラックリスト (収録作品と演奏者)
ジェルヴェ=フランソワ・クープラン[1759-1826]
1. ◆
レザンコヤブル(奇抜な服装の上流階級男性たちの挨拶) Op.6 10'45
2. ◆
革命歌「ああ! うまくいくさ!」による変奏曲 6'23
3. ◆
レ・メルヴェイユーズ(奇抜な服装の上流階級女性たち) Op.7 9'00
4. ◆
ロンド ニ長調 3'09
◆
ピアノ・ソナタ ハ長調 Op.1-1
5 I. Allegro assai 7'56
6 II. Andante 6'00
7 III. Rondo. Presto 1'43
◆
ピアノ・ソナタ ニ長調 Op.1-2
8 I. Allegro 5'56
9 II. Amoroso. Aria con variazione 8'12
10 III. Presto 5'08
11. ◆
ベアルヌ風哀歌による12の変奏曲 7'42
シモーネ・ピエリーニ(フォルテピアノ)
使用楽器:ヨハン・ハーゼルマン(1800〜1810年頃のオリジナル)
ピッチ:A=430Hz
録音:2023年9月18〜21日、イタリア、モンテ・コンパトリ、アンニバルデスキ宮
Track list
G.F. Couperin
Sonatas, variations & Rondos for fortepiano
1. Les Incroyables Op.6 10'45
2. Ah! ça ira, mis en Variations 6'23
3. Les Merveilleuses Op.7 - Pièce musicale 9'00
4. Rondo in D 3'09
Sonata in C Op.1 No.1
5. I Allegro assai 7'56
6. II Andante 6'00
7. III Rondo. Presto 1'43
Sonata in D Op.1 No. 2
8. I Allegro 5'56
9. II Aria con [7] variazioni 8'12
10. III Presto 5'08
11. Variations on Complainte Béarnoise 7'42
Simone Pierini fortepiano
Total time: 71'59
Recording: 18-21 September 2023, Palazzo Annibaldeschi, Monte Compatri, Italy