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ビートルズを語る! ピーター・バラカン氏 特別インタビュー 【後編】 2ページ目

2009年9月9日 (水)

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interview

Peter Barakan

---その頃ビートルズ以外は?

ストーンズを大きなきっかけにブラック・ミュージックに興味を持つようになりましたね。それでアニマルズ(※44)だとかキンクス(※45)だとかザ・フー(※46)だとか、よりR&Bに近いイギリスのグループがだんだん好きになったんです。スペンサー・デイヴィス・グループ(※47)だとかジョージィ・フェイム(※48)だとかね。そういう人たちが好きだったんだけど、じゃあブラック・ミュージックそのものをどのくらい知ってたかっていったら、最初の頃はそんなに知りようが無いんですね。メディアに出てこないから。

--- レコードもあまり入ってこない。

レコードはそもそもそんなに買えないんですよ。子供だからシングル盤を週に1枚買えないからね、とてもじゃないけど。お小遣いいくら貰ってたかな?…大したこと無かったはずですよ。当時の日本でも僕と同じぐらいの普通の子供だったらシングル盤だって買えなかったでしょ。ブラック・ミュージックで最初に買ったシングルはね、スープリームス(※49)辺りか、或はチャック・ベリーか、或はいきなりディープなものになっちゃうけどね、ハウリン・ウルフ(※50)の「スモークスタック・ライトニン」がイギリスのチャートに入ったんですよ、何故か。あれは、シングル盤で僕も買った。

あと、トミ・タカ(※51)の「ハイヒール・スニーカーズ」っていう曲。あれはかなりポップな雰囲気のR&Bでシングルで結構ヒットしてる。これもシングル盤で持ってました。でも、ブラック・ミュージックがどうこうっていうよりも、曲単位で考えていたんだろうね。ラジオで聴いて「かっこいいね」「これ欲しいね」「いま買う金あるから買おう」、そういう世界ですね。(ちょっといい話 11)(ちょっといい話 12)

--- 74年に日本に来られて、日本で生活している中で見るビートルズとイギリスで見ていたビートルズとでは違った見え方がするのでしょうか?

う〜ん、どうだろうね。日本に来て一つ驚いたのは、ビートルズのレコードがFMラジオでかかる頻度の高さ。今はそうでもないんだけど、昔はもうしょっちゅうビートルズのレコードがかかってた。

--- それは来日された当時ですか?

70年代半ばから後半にかけてです。「どうしてこんなにビートルズがかかるの?」って。ビートルズの特集をやったりとか、「今日は一日ビートルズ」みたいなのがよくあったんですよ。ビートルズって過去のバンドなのに、「偉大なのは分かるんだけどここまでかかるの?」っていうのが意外でした。

--- いま「過去のバンド」っておっしゃいましたが、バラカンさんの中で、一時期ビートルズを聴いていないときもあったのでしょうか?

ええ、ありましたよ。ロンドンで持ってたLPは基本的に全て母の家に預けて、日本に来た時は20枚ぐらい、当時一番好きなレコードだけをレコードケースにつめて持って来たんですよ。新しいものは日本で買うんだけど、ビートルズを買い替えたりはしませんでしたね。買う必要は無い、というか頭にすぐ浮かぶし。シングルのB面でも何でもいやというほど聴いてるからね。(笑)

--- 時折ビートルズを聴きたくなるときもあったのでは?

それこそここまで聴いていたらね、実際にレコードをかけなくても頭に浮かぶから。ただ、例えば子供ができて、子供たちはビートルズを知らない訳ですよね、当然。88年と91年生まれだから。彼らにビートルズのことを語っても分からないから聴かせて。1年ぐらい前に娘にね、「ビートルズのCD全部貸してくれる?」って言われて、彼女は全部iPodに入れました。聴きたくなったんだろうね、それは嬉しかったです。

---今回のリマスターで新しいファンがつく可能性というのは十分考えられそうですか?

音的にどう、ということはもちろん1つの売りだと思うんですけど…大体ビートルズのレコードがこれまでリマスターされないのがおかしな話ですよ。権利的な問題も色々あるから慎重にならざるを得ないんでしょうけど。そうした音的なことよりも、いまの日本でもさすがに、あの頃はビートルズがあれだけラジオでかかってたんだけど最近は全然そうじゃないじゃないですか。

いまの若い日本人はビートルズの何を知ってるかというと、「イエスタデイ」「レット・イット・ビー」「ヘイ・ジュード」…あと数曲は知ってるだろうけど、「ツイスト&シャウト」知ってるか?っていうと案外知らなかったり。ビートルズに限らずね、いまの世の中は過去の音楽が聴かれなくなってますよね。いまの日本のラジオはJ-POP一色になっちゃってる。(ちょっといい話 13)

--- そうした傾向はヨーロッパ、アメリカなども含めてですか?

ヨーロッパはまだいいです。アメリカもまだいいです。いわゆるクラシック・ロックだけのラジオ局があったりとかね。そうじゃないところでも過去のヒット曲が当たり前のものとして時々かかるから、当たり前の共通文化として消えることはないと思う。ただ日本ではね、とにかくJ-POPが出来てから、日本のラジオはほとんどJ-POP一色になってしまった。

--- 「最新の」J-POPだったり。

そうですね。いまやオールディーズと言えば80年代をさす時代ですからね。そもそも60年代の音楽、本当に「洋楽好き」と称する人たちと話しても「話題はどこかで読んだことがあるけど聴いたこと無い」ということがすごく多いから。僕としては自分が当たり前に聴いている音楽をラジオで紹介する時、「みんな知ってるからあまり説明するとうるさいだろうな」ってついつい思っちゃうんだけど、そうじゃないんですよね。

かなり説明しないと逆に分かんない。そういう意味でも今度のビートルズのリマスターがひとつのきっかけになって、若い人たちが少し目覚めてね、「過去の音楽がこんなにおもしろいんだ」っていうことに気づいて、少しでも現在の音楽界にいい刺激を与えることになればいいなと思っています。

--- 特に若いロック好きのリスナーに?

だって僕の世代はみんな黙っててもね、もう予約してると思いますよ(笑)。紙ジャケ(※52)を買うようなおじさんたちはもうとっくに。

--- 若い子には結構大変な値段ですけど(苦笑)。

個別にも売るんですか?

--- はい。「まずは何から」っていうのはありますか?

若い人がとりあえず1枚だけ買うっていうんだったら……僕が言うことは参考にならないかも知れないね(笑)…恐らくみんな『アビー・ロード』『サージェント・ペパーズ』になるだろうと思うけど、もし僕がおすすめするとしたら…そうだな、『リヴォルヴァ』『ラバー・ソウル』かな。

これはもう、ビートルズの頂点だと思う。『リヴォルヴァ』はね。サウンドもそうだし、探究心とか…なぜあの辺にこだわるかというと、最近思うんですけど、ジョンとポールがチームとして曲を作っていた時が一番だと思うんですよ。「ビートルズの中で最も好きな曲」と言えば「ツイスト&シャウト」「ストローベリー・フィールズ・フォレヴァ」かどっちか。

最も単純なロックンロールかあるいは最も変な曲。(笑)両方が大好きだけどね。「ストローベリー〜」は基本的にジョンの曲だし、でもね、全体的にビートルズのアルバムとしてはやっぱり二人一緒に作曲してるときのが一番いい。その最たるものが『ラバー・ソウル』『リヴォルヴァ』だと思うな。(ちょっといい話 14)

--- では、まずは『ラバー・ソウル』『リヴォルヴァ』を、と。

そうですね。あの2枚を聴いてもらって「ビートルズってやっぱりおもしろいな」と思って、もっとベーシックなビートルズを知りたければそこからさかのぼってもいいし、あるいは一番ドカーンとね、『プリーズ・プリーズ・ミー』。これだって素晴らしいレコードだからね。デビュー作としてこれだけのものを誰が作れるかっていうぐらい素晴らしいものがあると思う。

もちろん『パスト・マスターズ』のシングル盤、当時のイギリスではシングル盤をLPに入れないから。お客さんに対して不親切だと。

--- 「新曲を入れろ」と。

そう。LPはLPで新曲だけ入れる、シングルのB面だって入れないんですよ。だからシングルの素晴らしい曲をLPで聴けない。『マジカル・ミステリー・ツアー』はもともとLPじゃないからね。LPにするにあたって幾つかのシングル曲を入れて・・・あれはアメリカ企画だけどね。

とにかくイギリスの初期から中期のシングル盤はLPに入ってないから、『パスト・マスターズ』で聴けばいいです。本当にビートルズはシングルのB面が素晴らしい!いい曲いっぱいあるんですよ、ビートルズのB面って。「捨て曲」じゃないんですよ!!(ちょっといい話 15)

--- 最後に、今もしビートルズがストーンズのように現役で活動していたとしたら、どんな作品を作って、どんな活動をしていると想像されますか?

ストーンズと違って・・・ストーンズは「進化しない」バンドですよね。相変わらずね、R&Bバンドなんです。それはそれでいいと思う。進化しようとすると駄目だったから。『サタニック・マジェスティーズ』とかね(笑)。ストーンズは「進化しない」から、今も一緒にやっていけているんだと思う。逆に、ビートルズはすごく進化するバンドだから。

今もしやっていたら…とっくの昔にワールド・ミュージック、まだ「ワールド・ミュージック」と呼ばれてない時代に、その要素をかなり多く取り入れているだろうし、ジャズの要素もたぶん取り入れてるだろうし。逆に、ロックンロールの原点に戻ったり。ジョンもソロの『ロックンロール』でパンクに近いことやってるしね。そういう風にかなり色んなものを取り入れて…到達点はどこなのかな?(笑)

でも、あそこまで進化したらバンドとしては続けられないんじゃないかな。メンバー間の個人的な好みの違いってどうしても出てくるし。そうすると、やっぱりバラバラにならざるを得ないんだと思いますね。



※特典へのコメントを頂きました!

「いい年をしてこんなものでは興奮しないはずなのですが、ビートルズのアルバムのアートワークを施したバッジを見るとなぜか身に付けたくなる妙な懐 かしさに駆られてしまいます。どれを選ぶかが問題です。今日は『ア・ハード・デイズ・ナイト』かな....」

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注釈
(※44) (The Animals)1964年「The House Of The Rising Sun(朝日のあたる家)」のヒットなどで有名なイギリスのニューキャッスルのバンド。エリック・バードンのヴォーカル、アラン・プライスによる鍵盤を中心に、ブルース/R&B色をポップに聴かせるサウンドで人気を博した。(▲戻る)

(※45)(The Kinks)1964年デビュー。同年「ユー・リアリー・ガット・ミー」のヒットで一躍人気となる。ビートルズ、ローリング・ストーンズ、ザ・フーと並び称されるイギリスのロック・バンド。70年代以降はヒットに恵まれず不遇な時代を過ごしたが、その作品の質は常に一定の評価を得ている。(▲戻る)

(※46) (The Who)1964年結成されたイギリスの大物ロック・バンド。ギタリストであるピート・タウンゼントの風車奏法やキース・ムーンによる豪快なドラムを擁したライヴがデビュー当初から話題を呼び、「マイ・ジェネレーション」のヒットで若者のヒーローとなる。スモール・フェイセズと並ぶモッズ憧れのバンドだった。(▲戻る)

(※47) (The Spencer Davis Group)1963年、英国バーミンガムで結成されたブリテッシュR&Bバンド。当時10代という若さからは想像もつかないスティーヴ・ウィンウッドによる驚異的なソウル感覚あふれるヴォーカルで話題を集めた。(▲戻る)

(※48) (Georgie Fame / 1943年1月26日〜)イギリスのブルー・アイド・ソウル・シンガー/ピアノ/ハモンドオルガン奏者。R&Bやジャズの要素をうまくブレンドさせたポップなサウンドが特徴。90年代以降のアシッドジャズ/DJ文化を背景にその音楽性が再評価された。(▲戻る)

(※49) (The Supremes)1959年結成。ダイアナ・ロスを擁する3人組女性ボーカル・グループ。"You Can't Hurry Love (恋はあせらず)"など、60年代後半にモータウン・レーベルから多くのヒットを放った。1977年に解散。彼女たちがモデルとなった2006年の映画『ドリームガールズ』はまだ記憶に新しい。(▲戻る)

(※50) (Howlin' Wolf /1910年6月10日 〜 1976年1月10日)米ミシシッピ州生まれの黒人ブルース・シンガー。強烈なダミ声がトレードマーク。ローリング・ストーンズを筆頭とする60年代イギリスのロック・バンドに影響を与えた。(▲戻る)

(※51) (Tommy Tucker / 1933年3月5日〜1982年1月17日)64年のヒット「ハイ・ヒール・スニーカーズ」で知られる、オハイオ州スプリングフィールド出身のブルース/R&B・シンガー、ピアニスト。(▲戻る)

(※52) LP時代のジャケットをCDサイズで復刻した紙ジャケット仕様盤。往年の名盤再発モノを中心にベテランのリスナーからは蒐集の対象として人気が高い。(▲戻る)



profile

1951年ロンドン生まれ。
ロンドン大学日本語学科を卒業後、1974年に音楽出版社の著作権業務に就くため来日。
現在フリーのブロードキャスターとして活動、「CBSドキュメント」(TBSテレビ)、「ビギン・ジャパノロジー」(NHK総合テレビ)、「ウィークエンド・サンシャイン」(NHK-FM)、「バラカン・ビート」(OTONaMazuインターネットラジオ)などを担当。
著書に『魂(ソウル)のゆくえ』(アルテスパブリッシング)、『ロックの英詞を読む』(集英社インターナショナル)、『ぼくが愛するロック名盤240』(講談社+α文庫)などがある。

Peter Barakan ちょっといい話 11

週に1枚なんて買えないですよ。だからブラック・ミュージック云々って今みたいにね、興味を持てば何でもレコード買いに行きゃいいっていう世界じゃないですからね、子供の頃は。例えばアニマルズのシングルが出てるからそれが欲しい、とか欲しくても買えないんだから今回はしょうがない、ラジオでかかってるからそれで満足する、みたいなね。そういうこともいっぱいあるから。

ちょっといい話 12

図書券と同じように「レコード券」っていうのがあってね。誕生日とかクリスマスに、例えば親戚から「何欲しい?」て言われたら、「レコード券!」って(笑)。1ポンドぐらいのレコード券を貰えれば、シングル3枚買える。でも1ポンドって当時のお金では価値があったからそんなに貰えなかった。

Peter Barakan ちょっといい話 13

僕の大好きな「レイン」だったり「イエス・イット・イズ」とかね、シングルのB面だったような素晴らしい曲がいっぱいあるんだけど、そういうの知ってるか?っていうと知らない。知らないのは別に罪じゃないけども、どうせなら知って欲しいな。

ちょっといい話 14

あの二人が一組になったときの素晴らしさって格別なんです。ポールはポールだけで作ってる曲にもちろんいいものもあるけど、ジョンと一緒にやってた時には及ばないと思う。ジョンも素晴らしい曲もソロの曲でもあるんだけど、やっぱり彼もポールと一緒に作ってるときが一番じゃないかな。曲の良さ、そういう意味で言えば『リヴォルヴァ』までだと思う。

Peter Barakan ちょっといい話 15

アメリカなんかすぐにね、シングルのA面B面を二つずつぐらい入れてあとはもう隙間を埋め合わせるぐらいのカヴァ・バージョンとかね。ビートルズは一切そんなことやってない。