「ドレスデンを賞味する」
Thursday, May 7th 2009
連載 許光俊の言いたい放題 第163回「ドレスデンを賞味する」
早いもので歴史的な大洪水がヨーロッパを襲ったのは2002年、もう7年前のことだ。何しろドレスデンに至っては、オペラハウスにも浸水し、たいへんな損害を被った。もっとも、それを機に舞台機構を大いに改め、技術的には最先端の劇場となったというが。そのドレスデンからシュターツカペレが来日した。目玉は前半に「ツァラトゥストラ」、後半に「アルプス交響曲」というすさまじい組み合わせのプログラム。どう見ても、「今回はこれを聴けよ」と言いたげだ。
「ツァラトゥストラ」では繊細で室内楽的な表現が楽しめたのがおもしろかったが、やはりすごいとうならされたのは「アルプス交響曲」のまんなか1/3くらい。山登りも佳境となり、やがて頂上に達し、降りてくる間に嵐に襲われるという、一番劇的なところだ。いやはや、一流のオーケストラが集中力を発揮するとどんなことになるかという好例で、普段なら馬鹿馬鹿しいと嫌悪感しか憶えない作品なのに、圧倒されてしまった。描写音楽ではなく、音の建築、絶対的音楽としての抽象的な美まで感じさせられたのには驚いた。とにかく大編成のオーケストラだが、これがまさにひとつの楽器として収縮しうなりを上げるさまは壮観の一語に尽きる。言うなら、巨人が軍艦のように巨大なグランドピアノをバリバリ弾いている感じ。しかもこのオーケストラはオペラの手練れだけに、それらしい雰囲気や表情を出すのが巧みだ。だから、こんな曲をやっても轟音の大安売りみたいにならないのである。
さて、そのシュターツカペレがハイティンクとともに演奏したブルックナーの交響曲第8番が出ている。洪水後に行われたチャリティ・コンサートのライヴだ。ハイティンクは、はっきり言って私にとってはどうでもいい指揮者だけれど、このCDはオケのすごさを味わうには好適だ。ハイティンクの常で、オーケストラに朗々と音を出させる(第1楽章はやたらと鳴ったせいか、録音時にリミッターに当たってしまっているようだ)。彼が同じことをベルリン・フィルでやると、音の表面的な力だけが強調されて実に浅薄になるが、ドレスデンだとそういうことはない。その一方で、コーダの部分のくっきりとした明晰さなど並ではない。このオーケストラは特に弦楽器のフレージングが実にきっちりしている。
じっくりと進められる第3楽章ではその弦の表現力が堪能できる。ただ音が上がったり下がったりするのではなく、楽員が息を合わせて微妙に響きや表情や強弱を変える。こういうところもこのオーケストラのすごさ。間違ってもアメリカや日本の団体には求められない表現力なのである。場合によってはもっとスムーズに流したほうがいい気がしなくもないが、この濃密さにはとりあえず感心するしかない。最後などはここぞとばかり陶然と締めくくる。音色の明暗の幅も広い。
もちろんフィナーレも出だしからして快調。ブラスの一斉射撃は精度という点ではアメリカの名人たちにかなわないかもしれないが、低弦ともども重量感ある響きは他に代え難い。
なるほどチェリビダッケやヴァントのブルックナーはすばらしい。だが、最近とみに思うのだが、ああいう突き詰めた音楽のすごさは、決して誰にでもわかるものではない。もっとも繊細な味はそれをわかる舌でないと味わえないように。だから、一般向けに勧めるとしたら、このCDあたりがいいのではないか。これならおそらく十中八九、よほどの通人以外なら大満足できるだろう。
来日公演ではファビオ・ルイージがシュターツカペレを指揮した。若杉弘を元気にしたような振り方をする人で、取り立てて驚くような解釈など見せないが、ありがたいことにオケを壊すようなことはしない。ソニーから出ている「ドン・キホーテ」は、音符をすべて聴かせてくれるのではないかという鮮明な録音のせいもあって、ソロ楽器の演技達者や巧みなやりとり、作曲者が書き込んだディテールの妙が楽しめる。これもまた本来私の好きでない曲なのだけれど、うーん、おもしろいじゃないかと思わされた。この曲の演奏としてはカラヤンやセルが昔から有名だが、それはそれとして、曲自体の書かれ方を味わうにはこっちのほうがいいのではないか。「イタリアから」も、特にヴァイオリンがすばらしく流麗で、心地よく聴ける。
それにしてもこのオーケストラのCDは過去に何度も取り上げたが、毎回オーケストラがすごいすごいという話になってしまう。個性がたいへん強い指揮者は、この楽団の指揮台に上がらないということでもあるだろう。とはいえ、近頃はハーディングも定期演奏会に登場している。今季は、チョン・ミュンフンが「トゥランガリラ交響曲」を指揮するコンサートもあった。そうしたあまりそれらしくないであろう演奏も聴いてみたいものだ。
そうそう、ドレスデンと言えば、最近『シュターツカペレ・ドレスデン 奏でられる楽団史』(識名章喜訳、慶応義塾大学出版会)という本が出た。写真がいっぱい入った、このオーケストラのファンにとっては興味深い書物だ。来日公演だけではうかがい知れないできごとも記されている。楽団公認に近いだけに、スキャンダラスな内容は期待できないが、簡便な人物事典、年表、観劇案内なども含まれていて、価値は高い。これを読めば絶対にドレスデンに行きたくなるだろう。
(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授)
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Sym, 8, : Haitink / Skd +mozart: Sym, 38,
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Import Eine Alpensinfonie, 4 Letzte Lieder: Luisi / Skd Harteros(S)
Strauss, Richard (1864-1949)
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