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ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト 【映画の詳細】

Wednesday, April 15th 2009

ローリング・ストーンズ「シャイン・ア・ライト」DVDリリース





「ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト」
で再確認できた、ストーンズこそ”安息の地”


 ローリング・ストーンズの薫陶を受けた一個人としての観点から云わせて頂くと、結局、「ストーンズこそ安息の地」ということになりますでしょうか。しかも、このことは、マーティン・スコセッシにとっても、同じことが云えるのではないかと。

 何かしらの必然性も相俟って、なんとなくの”背伸び”をして聴いている音楽、良し悪しの判断も付かぬままMP3プレイヤーに放り込まれた”愛着のない”音楽にまみれ・・・。もはや、居心地の悪さを、はりぼての笑顔だけで乗り切ろうとしているような、健全な音楽生活の崩壊の中で、彼ら、ローリング・ストーンズの音楽だけは常に、圧迫感も違和感もなく、私個人の全細胞にすべり込み、ここまでの人格形成のほとんどを担ったのだ、と勝手に信じ込んでおります。

 私個人の人生における窮地、修羅場で、ストーンズの楽曲が、ことごとく見事な”火消し役”的立ち回りを果たした・・・とまでは、さすがにいかないのですが、ある種の覚醒にも似た習慣も含めて、「バットを抱くとよく眠れる」ナイーヴな四番打者の如きの安堵感と居心地の良さに包まれ、己を取り戻していったことは確かなのです。

 1994年の「ヴードゥー・ラウンジ・ツアー」以降、「Not Fade Away」、「No Expectations」、「Monkey Man」といった長らくライヴのセット・リストから外されていた(あるいは初・披露)楽曲を、積極的に取り上げることに意味を見出したストーンズ。ややもすると、「Satisfaction」、「Jumpin' Jack Flash」、「Angie」のような代表曲以上に、完成度が高いのでは?とも思わせる、こうした燻し銀楽曲。幻の初来日公演に日本中のロック・ファンが涙を呑んだ、1974年に生を受けた私個人の完全なる主観ではありますが、彼らのCD、レコードを擦り切れるほど聴いた、その成果というのは、必ずやこうした楽曲に顕著に反映されるということ。つまりは、全国ヒットからかけ離れた、例えば、「Monkey Man」のような、半ば浮世離れしたマテリアルに、いかに”居心地の良さ”を感じていくことができるかということになるのではないでしょうか。これは、ストーンズだけに限った話では勿論ないのですが。

 現に、「ア・ビガー・バン・ワールド・ツアー」の一部を切り取った、この「ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト」映画本編においても、「She Was Hot」、「Loving Cup」、「You Got the Silver」のようなレアな楽曲が飛び出すことで、重鎮スタジアム・バンドにありがちな、凡百銭ゲバ・ショーとは一線を画した、至極”温度のある”ステージが成立し、私のような人間にとっては、まさに”居心地の良さ”以外の何物でもない感覚を覚えてしまうわけなのです。極端に云ってしまえば、これらの楽曲を耳にし、初めて「あぁ、今ストーンズを聴いているんだな」という実感が沸いてくるぐらいなのですから。

キース・リチャーズとマーティン・スコセッシ
そういった意味でも、「ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト」というタイトルを付けたスコセッシに、大きな拍手を送りたいのです。72年リリースの2枚組アルバム『メインストリートのならず者』のラスト1曲前に収められた「Shine A Light」。奇をてらったわけではないはずです。奇をてらうだけならば、「Ventilator Blues」でも、「Let It Loose」でもよかったわけなのですし。スコセッシのストーンズへの愛情とはまた違う何か・・・それが、”居心地の良さ”なのかな?と。この「Shine A Light」に、スコセッシなりの安堵感を求めた、その道筋のようなものは、映画本編を見ていただければ、しっかりと確認できるかと思います。正直、マーティン・スコセッシ云々という論点からは、深く語れる立場ではございませんが、逆に、スコセッシ以外の監督がストーンズにカメラを向けたときに、この「シャイン・ア・ライト」のような、”煌びやかな大人の社交場をひっくり返す、やんちゃな子供たち”然とした素晴らしきロックの不文律を表現できたか否かというところには、「いやぁ、できないだろうね」と濁せる感触だけは残っています。これは別に、ザ・バンドのラスト・ステージを捉えた「ラスト・ワルツ」の残像が、そうさせているわけではないと思いますが。

 常に用意周到で撮影に望むスコセッシと、直前まで公演のセット・リストを明らかにしないミック・ジャガーとがぶつかり合うシーンを、これでもかと繰り返し登場させるオープニング。バンドの低迷期とされる80年代中頃のミックとキースのすれ違いを暗に表現していたのでは・・・?とは、かなりの深読みぶりですが、このぶつかり合いこそが、最高のエンターテインメント、ひいては、最上級のクリエイティヴィティを生み出す、というスコセッシの強い信念を如実に表した重要シーンと云えるのではないでしょうか。

 スコセッシが、若い頃に慣れ親しんでいた「三文オペラ」を引き合いに、ストーンズを「その当時の彼らの音楽は、僕自身にとって「三文オペラ」と同じような影響力を持っていて、全てのインスピレーションの源だったんだ。」と語っていたこと、それこそが、スコセッシにとってストーンズは、帰るべき処に帰る”安息の地”=”居心地の良い場所”であることを意味しているのではないでしょうか。恐れ多くも、スコセッシとのそんな連帯感を感じてならない作品だったのではないかな、と思う今日この頃なのであります。





世界最強のロック・バンドと謳われる所以を

 ツアー・マネージャー、マイケル・コールのMCでカーテン・アップとなったビーコン・シアターの饗宴。オープニングの「Jumpin' Jack Flash」は、大方の予想通り(というか、このツアーの固定・開幕曲ですよね。)というところで、直前にセット・リストを手にしたスコセッシも、「ほらな」と。ミックの緊張感も携えた気合十分の固めな表情とは異なり、キースは、「お楽しみはこれからだぜ」とでも云いたげな、喜びに満ち溢れている表情。このコントラストが、実に堪りません。2人の性格の違いを言い当てた英国R&Bの重鎮アレクシス・コーナーの言葉、「何かをするときに、キースは信念で動き、ミックは失敗への恐怖で動く」。この言葉が、かなりのリアリティをもって脳裏を過ぎった瞬間でもありました。

ジャック・ホワイト参加の「Loving Cup」
 さて、「ストーンズ・ツアー楽曲予想屋」の一番の泣かせどころとなる、2曲目、3曲目が、やはり、ファンにとっては注目に値するところではないでしょうか。78年『女たち』より、ニューヨーク・シティの混沌を歌った「Shattered」(リチャード・ヘルのカヴァーも必聴です)、そして、ミックとキースの確執が表面化してきた83年の『Undercover』より、「She Was Hot」が演奏され、観客もヒートアップ。立て続けに『ならず者』所収の「All Down The Line」と、アップ・ナンバーを挟み、まずは、1人目のゲストとして、ホワイト・ストライプスのジャック・ホワイトが登場。チャック・リヴェール(オリジナルは、ニッキーホプキンス)による柔らかいタッチのピアノのイントロに導かれた「Loving Cup」では、アコギを弾くミックとのデュオで、「Give me little drink from your loving cup♪」とキメてくれます。そして、60年代ストーンズに全てを捧げたオールド・ファンにとっては、文字通り涙ものの「As Tears Go By」。シッティング・スタイルで12弦ギターを爪弾くキースと、「いい曲だろ?」と最前列の若いおネエちゃんに微笑みかけるミックが、デビューして間もない頃の、あの青臭くも甘酸っぱい時代に戻れる唯一の時間のように思えました。

 「Some Girls」、「Just My Imagination」と、『女たち』からの代表曲に続き、こちらも同アルバムからの人気のカントリー・ナンバー「Faraway Eyes」。アルコール依存症から見事に立ち直り、再びギタリストとしての成長をはかろうとする気概に満ちたロン・ウッドのペダル・スティールに酔いしれ、とどめは、曲後半で、ミックとキースが1本のマイクでハモってみせるその姿。「As Tears Go By」同様、”くされ縁”という名の温もりを感じずにはいられないでしょう。

 2人目のゲストは、シカゴ・ブルースの今昔を知り尽くす、巨匠ギタリスト、バディ・ガイ。競演曲に選ばれたのは、マディ・ウォーターズの「Champagne & Reefer」。くわえ煙草の煙を燻らせるキース、ブルース・ハープを片手にシャウターぶりを見せつけるミック、そして、ミックとの掛け合いに応戦するバディ御大。今年6月に亡くなったボ・ディドリーや、ロバート・クレイ、タジ・マハールなどを招いた近年のライヴ・セットにおけるブルース・ジャムの中でも、群を抜いて白熱したジョイントとなり、こちらも映画本編のハイライトのひとつと云えるでしょう。

キース・リチャーズ
 『ならず者』からの代表曲シングル「Tumbling Dice」後のバンド紹介を経て、お待ちかねの人は、お待ちかねの「キース・リチャーズ 歌の時間」。ロング・コートを羽織り、煙草片手に、ゆったりと歌い出すのは、『Let It Bleed』に収められた「You Got The Silver」。ギターは持たず、場末のバーの片隅で酔いどれたビート詩人のように、体を揺らしながらエモーショナルに歌い上げるその姿に、キースの”歌い手”としての魅力を再発見してほしいものです。ロニーのスライド・ガット・ギターも、フェイセズ「Around The Plynth」を思い起こさせるようなシュアなプレイで、間違いなし!2曲目は、キースのソロ・プロジェクト=X-ペンシヴ・ワイノウズのレパートリーとしてもすっかりおなじみの「Connection」(オリジナルは、67年『Between The Buttons』に収録。最古のキース・リード・ヴォーカル・ナンバー)。「get back you〜♪」のお尻に付く、必殺の「ハニィ」や「ベイベ」が、やはり辛抱たまらん具の合です。ちなみに、今回リリースされるDVDのボーナス映像、またはサントラCDには、『刺青の男』所収の「Little T & A」も収録されておりますので、そちらも是非、というか必ずどうぞ。キースとロニーの”ニュー・バーバリアン”コンビによるルーズなインタビューも挿入され、映画本編のキース・コーナーは、サントラ盤よりも盛り上がる瞬間が多いのではないでしょうか。キースの「オレたちは、ギターはヘタだけど、2人いれば最強なんだ。」という言葉は、私、ギタリストではありませんが、墓場まで持って行ってやろうと思っています。

 キース・コーナー後の定番曲「Sympathy For The Devil」、3人目のゲストとなるクリスティーナ・アギレラとのジョイント「Live With Me」以降は、”マスからコアまで掛け値なし”のヒット・パレード・オン・ステージ。「Start Me Up」、「Brown Sugar」、「Satisfaction」と、きりもみ式に80、70、60年代と遡っていく、いかにも時間軸にうるさい(?)ミックらしい演出で、大団円。アイボリー・カラーのギブソンのセミ・アコ、ドワイトで鳴らす「Satisfaction」では、キースの右手に、まだまだ”ガッツ”が宿っていることを、嫌というほど思い知らされることになるでしょう。



「あんたはぼろぼろの服をまとって   路地裏に酔い潰れちまってる
深夜の友はみんな   冷たい闇にあんたを放ったまま消えちまう
たくさんのハエどもがあんたにたかるんだ   俺には掃いきれないよ・・・
・・・俺にはあんたへ送るささやきが聞こえるんだ   目をさまして 目をさまして さぁ、目をさまして」

(「Shine A Light」一部対訳より)



 祭りのあとの一抹の寂しさと、まだ冷めぬ興奮を胸に、エンド・ロールに流れる「Shine A Light」が、ひときわ染み入る師走の夕べ。世界最強のロック・バンドと謳われる所以、しかと観させていただきました。




ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト