--- 「常々、年老いた人々についての映画を作りたいと思っていた」ともありましたが、それはどのような想いがあってのことだったのでしょうか?
スティーヴン 僕の祖父母がね、すごくおもしろい人達だったんだ。その祖父は、おもちゃ屋さんを経営していたんだけど、子供にとっておもちゃ屋さんなんて存在、それ以上のものはないよね?(笑)。みんな、彼らのことが大好きだった。僕が長く生きてきて、いろんなユーモアやウイットを持った人に逢ってきて、彼らの持っている物語なり、存在を語ることが出来るのは、とても素晴らしいことだと思っていたし、それを何らかの形で映画化したいと思っていた。
あとは、イギリスで自分が育って、若い世代の、あるカルチャーの一面についてしか語られないところがあって、それは退屈だと思っていたんだ。一般の映画は、病気や死、セックスもそうだけど、ある一面しか描いていない気がしてね。そういう時に、このコーラスグループ、"ヤング@ハート"を見た瞬間、もう明白だった。「これしかない!」ってね(笑)。
彼らは実際、ロックミュージックで、"生"と"死"について歌っていることがとても素晴らしかったし、ある意味、ミュージカルのような感覚を持っていながら、自分達の生き方、物語を語っている。そして、彼らの内面、プライヴェートも明かしてくれながら、エンターテインメント性も持っているということ。そして、心を動かされながらも、可笑しい、たのしい・・・ということを全て含めて、僕の理屈に彼らがすごく合っていたんだ。
--- 「老人ホームを舞台にして、記録ドキュメンタリーと様式化されたミュージックビデオを融合させた映画を作ることを決めた」ともありましたが、彼らが衣装を着て、パフォーマンスなどをしていたその映像がすごくかわいくて、ユーモアもあり、とてもすてきでした。このミュージックビデオのアイデアは、どのようにして思い付かれたのですか?
スティーヴン もう、一番最初の段階で、それは思い付いていたんだ。彼らコーラス隊の演出家であるボブ・シルマンは、この映画化に対して、初めは全く興味を持ってくれなかったんだけど(笑)、でもなんとか理解してもらいたくて、一緒に朝食を取ることを約束してもらったんだよ。そこで彼にどうアプローチしようかって、いろいろ練っていたんだけど、彼はその時もやっぱり、この映画化に対して、全く興味がないっていうのが態度で明らかにわかったんだ(笑)。彼がやりたくなるには、どうしたらいいのか・・・ストーリーや老人のこととか、いろいろ話していったんだけど、全然ダメだった。壁にボールを投げてるような感じで、何も反応が返って来ない状況だね(笑)。
それで、ふと僕は、「なぜ、ロックバンドみたいに、ミュージックビデオを撮ったりしていないんですか?」って、初めに思っていたアイデアを話したら、彼の目が、ぱーって明るくなったんだ。そこで興味を持って、食いついてくれたんだね(笑)。そこからは彼と一緒に、「どの曲を撮ろうか」っていう、具体的な話をすることになっていった。
そこで選んだのが、ラモーンズの"I WANNA BE SEDATED"って曲だよ。それを老人ホームに設定したかったっていうのは、やっぱりそこにある、"皮肉"だね。それがとても気に入ったから、どうしてもやりたかったんだ。
あとは、このパフォーマンスでとても大事な、トーキング・ヘッズの"ROAD TO NOWHERE"っていう、彼らの代表的な曲。旅を意味するっていうのは、イコール"死"に向かう旅ってことを象徴している。そこから、生きることの祝祭として、どんどん曲が増えていって、デビット・ボウイのイメージも出てくる。
そして、一番最後に選びたかったのはやっぱり、ビー・ジーズの"STAYING ALIVE"だね。あれも、どうしても入れたかった。初めは、フレッド・ニトルの持ち歌的な要素があったから、彼のジョン・トラボルタ風のパフォーマンスを含めて撮ったんだ。映画の中で最終的には、コールドプレイの"FIX YOU"が彼の代表曲になっていくわけだけどね。
ミュージックビデオを撮影することは、すごくタイトだったんだけど、コーラス隊を含めてみんな、すごくたのしんで参加してくれたよ。たまたまね、そのコーラス隊の中の1人の息子さんが"熱気球"を持ってたんだ。だから、それも急遽入れることにして。そういう経緯があって、ミュージックビデオを入れたんだよ。
--- メンバーの2人、ボブ・サルヴィーニとジョー・ベノアが立て続けに亡くなるという出来事が起こりますよね?撮影期間は約6週間と伺ったのですが、彼らの悲報があったため、この期間で撮影が終わったのですか?それとも、初めから6週間しかない状況で、あのようなことが立て続けに偶然的に起こったのでしょうか?
スティーヴン 実際は7週間かかって作って、その中の1週間で2人が亡くなってしまったんだよ。この作品に取り掛かる前から、あのドキュメンタリー部分に関する期間は決められていたんだ。ミュージックビデオ的なところは、編集作業の間に撮影していたんだけど、最後の大きなショーに向かって進んでいって、そのショーで終わるっていう、大きな流れだけは決まっていたんだ。
でも、ボブ・サルヴィーニが亡くなった時点で、僕らは撮影を中断しようかすごく悩んだりもしたんだけど、メンバー達はみんな、前に進むこと・・・彼の分まで歌うことを決めて続けたんだよ。その時僕達はもう、彼らと家族のような、"ヤング@ハート"のメンバーの一員みたいな存在になっていたから、彼らが進むなら僕達も・・・と決めて、撮影を続けたんだ。その訃報の後に、地元の刑務所で因人達を前に歌うシーンは、ボブ・ディランの"FOREVER YOUNG"を歌うんだけど、すごく感動的なシーンだよね。
ジョー・ベノアの時も、そうだった。彼らの死によって何か、新しい力を得たような気がしたんだ。銃口を覗き込むような感覚というか、そういうところを表現出来ればっていう意識があったね。死に向かって、彼らがどう自分の人生を見つめているのか・・・って。「残りの生涯、10年生きる」と話していたりした人が、その3日後に死んでしまったりする。それはとても、感慨深いことだよね。最初は、とてもたのしいコンセプトとして始まりながら、途中からどんどん、"生"と"死"への瞑想みたいなものに・・・もっとより深いところに入っていくんだ。
人の人生、一生を描くってことは、とても大切なことだし、
繊細なことだと思うんだ。
--- 彼らの死が加わったことで、作品のテーマでもある"生"と"死"について、すごく説得力や深みが増していますよね。少し語弊があるかもしれませんが、すごくドラマチックと言いますか・・・。監督は多く、ドキュメンタリー作品を撮られていますが、わたしがドキュメンタリー作品に対して思うのは、「このテーマで撮ろう」と様々な監督が思い立って、カメラに記録していく中、結末が用意されていない状況で、とてもそれが偶然とは思えない・・・"因果"を感じるほどの事象も多く起こっていくと思うのですが・・・それがドキュメンタリーの不思議さというか、魔力なのかなあとも思うんですね?そういう目に見えない何かも、監督をドキュメンタリーへと向かわせている部分もありますか?
スティーヴン そうだね。"恐怖"、"不安"も、原動力になってるよ。まず、はっきり言ってしまうと、2人の死がなければ、僕が今こうやって、東京にいることがなかったかもしれないね。2人の死があって、「ここにいる」という現実は、やっぱりあると思うんだ。ドラマ性とかリアルな部分・・・この映画に"目的"みたいなものをもたらしてくれたとも言えるかもしれないね。ただ、2人の人間と実際に親密に知り合うことになって、目の前で亡くなって行くのを目にするのは、自分達にとっては考えもしなかったことだし、とてもショッキングなことだった。そしてそれは、この映画を大きく、必然的に変えていくことにもなるわけだよ。
映画的な魅力という意味で、観客にとってもそれは、大きな魅力として感じてもらえるものになっていると思うんだけど、それと同時に、これはかなり大きな"代償"でもあるんだよ。僕は、プロとして続けていくしかないし、仕事を全うしなければいけない。そして、周りの人に対しても、責任を負わなければいけない。自分の名前というものにも、答えなければいけないわけだから。そういった全てを含めて、一番最大級の仕事をしていくしかないし、もちろん今回も、それはやったつもりでいるよ。そしてそれを「真実味のある形で提示しなければいけない」ということも、理解しているつもりではいる。でもね、「完成形をどうしようか・・・」というのを編集の段階でもやっぱり、迷っていた。それに対して、上手く対処出来たかどうかっていうのも、はっきり言って、今もわからないよ。
死の扱い方は、基本的にすごく、難しいテーマだと思うんだ。間違った提示の仕方をしてしまう可能性っていうのは、多分にあると思うんだよね。ただ、未だに批評家や他の監督の方から、「スティーヴン・ウォーカーという人間が撮った映画で、彼の死の扱い方は間違っていた・・・」というような批判、意見は、今のところ1つも出てないし、ボブ・サルヴィーニやジョー・ベノアの遺族からも、「ちゃんとした表現をしてくれてありがとう」「彼らの生き様を誇りに思える」って、言葉をもらったんだ。
人の人生、一生を描くってことは、とても大切なことだし、繊細なことだと思うんだ。今は、無事に作品として完成することが出来て、世界中の人たちが彼らが生きていた時の姿を、この作品を通して観る機会が生まれて、とてもうれしく思っているし、これに関わったたくさんの人に勇気をもらったよ。
--- 本日は、ありがとうございました。
スティーヴン (日本語で)アリガトウ。
おわり・・・
映画は、11月8日(土)より、シネカノン有楽町2丁目、渋谷シネ・アミューズ他にて、全国公開中!
全米大ヒット!プリント4本から212本への拡大!
youtubeで人気に!特にフレッドが歌うコールドプレイの"FIX YOU"は、本家本元よりもアクセス数が多いとか?!
そんな、おじいちゃん、おばあちゃん達が歌うサントラのくわしく・・・は→こちら
映画の詳細は、こちら