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「女子高生も《オネーギン》」

2008年10月1日 (水)

連載 許光俊の言いたい放題 第153回

「女子高生も《オネーギン》」

 先日の東京二期会の「エフゲニ・オネーギン」は、好評のうちに終わったようである。たとえば、数ヶ月前に東京に上演された「アイーダ」などとは異なり、コンヴィチュニーの演出としてはおとなしめである。ぎょっとするような意外さはない代わりに、抵抗感を持つ人も少なかっただろう。きわめて丹念に心理を分析、提示していく手腕はすばらしいもので、「オネーギン」というとメリハリに乏しいオペラというイメージを持たれることが決して少なくないけれど、退屈とは無縁である。私がオランダで見たときには、もっとすさんだ感じがしていたが、日本の歌手が演じると結構普通の恋愛物語になっていたのが意外だった。
 ちなみに、私が見に行ったゲネプロは、高校生たちの鑑賞会も兼ねていた。何しろ東京文化会館が上から下まで高校生でビッシリ。うわあ、たいへんなところに来ちゃったなと最初は思ったのだが、彼らの反応が思いのほかおもしろかった。生徒によっては最初から興味がない者もいれば、一心不乱になって舞台に集中する者もいる。私の前にすわっていた女子高生は特に熱心に見入っており、すっかりこのドラマにはまったと言っていた。このような子が大人になると、韓流ドラマに熱中するのかとも思われる。
 とにかく初めてオペラを見る人たちだから、反応がダイレクトである。ラブシーンになると異常に関心を示すし(さすが思春期)、女主人公の「私もあなたを愛している!」という台詞ではどよめきが起きた。どよめきと言えば、歌手が舞台ではなく、客席で演技したときなどもそうだ。大人は何が起きても表情を殺して見ているが、子どもはそうではない。後日、通常の上演に出かけたら、お客が非常に静かなのでかえって変な感じがしたほどだ。もしかしたら、百年、二百年前のお客は今日の高校生みたいではなかったのだろうか。たとえば、モーツァルトのオペラの初演を見に来たような人たちは。

 ところで、ロシア音楽といえば、おもしろいCDが出ている。このCDについては書こう書こうと思いつつ、のびのびになっていた。ラフマニノフのピアノ協奏曲第5番だ。
 え、5番? でも、ラフマニノフのピアノ協奏曲は4番までしかなかったのでは? 
 そう、この第5番とは、なんと交響曲第2番をピアノ協奏曲として編曲したものなのだ。交響曲第2番を知っている人ならたちまち予想がつくだろうが、あのラフマニノフならではのロマンティックな旋律は、もちろんピアノで弾いてもいっこう構わないのである。何も知らなければ、ピアノのために書かれたと思いこむに違いない。
 とはいえ、もともとオーケストラが出す音をピアノに移しただけではないというのが、この編曲のおもしろいところ。編曲者は、ムラヴィンスキー時代のレニングラード・フィルでヴァイオリンを弾いていた両親から生まれたそうだが、全体を仕立て直し、長さも縮めて、この版を作ったのである。解説書によれば、原作の40.6%をカットし、代わりにカデンツァなどを書き加えたという。そして、元来は4楽章構成だったが、協奏曲らしく3楽章になっている。もしラフマニノフ自身が編曲したとしたら、これでもかというピアノの疾駆みたいなシーンをどんどん入れたり、音をいっぱい重ねたりと、もっと脂肪分が多くてエネルギッシュなものになっただろうが、編曲者の個性なのか、比較的淡泊である。
 もちろん、あくまで作曲者以外による編曲だ。無理があるというか、今ひとつ決まらない部分があるのは当然である。しかし、目先の変わったお遊びとしてはまったく悪くない。思い起こせば、「ルル」の第3幕、マーラーの交響曲第10番だって、とうていベルクやマーラーが書いたような音楽ではないが、今日では受け入れられている。だいたいバッハだってシェーンベルクだって、いろいろ編曲をしているのである。中には相当無理があるものだってある。最近はとにかくオリジナル志向が強いが、バッハもシェーンベルクも、鼻で笑うに違いない。

 ところで、このところ私がひそかに愛聴しているセットがある。まったく自分でも意外なのだが、ジョン・ケージの3枚組だ。私はこれまでごくごく一部の例外を除けば現代音楽にほとんど興味がなかったし、それほど聴いてもいない。ところが、これは聴き始めるや否や、妙にすっぽりと心にはまってきたのである。仕事のあとなどで聴くと、心が落ち着くのが不思議でしょうがない。特に1枚目と3枚目だ。1枚目はピアノ・ソロ、2枚目はピアノとヴァイオリンの曲が集められている。ケージというと、プリペアド・ピアノが有名だが、ここに入っているのは普通のピアノを用いた曲。当然、ロマン主義音楽みたいに感情移入を強いるわけではない。すきまが多いというか、空白が多いというか、それがたいへんリラックスできるのである。雨の日に、雨だれの音を聞いているとなんとなく落ち着くみたいな。私が喫茶店主なら、絶対にこれを店で流すだろう。もしかしてとうとう現代音楽開眼?
 現代音楽といえば、10月に発売される『クラシック・スナイパー3』では、片山杜秀+鈴木淳史が戦後音楽の魅力について語り、まずはこれを聴けというCD紹介を行っている。現代の音楽というと、まだまだ敷居を高く感じる人が多いが、参考にしてみたらいかが。そのうち「女子高生もジョン・ケージ」の時代になるのかも。

(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授) 

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