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「TAO」 企画前夜:ゲスト→吉田豪 4

2008年10月9日 (木)

吉田:僕は、緊張感を味わいたいんですよ。よくも悪くも、そういう緊張感を味わえるとたのしいんですよね。「うわあー、すごいことになってる今・・・」っていう(笑)。ハラハラしたいんですよね、基本的に。基本はそこなんで、だから、怖い人にわざと会いに行くのもそうだし、原稿わざとぎりぎりなこと書くのもそうだし(笑)。何かこう・・・地雷原ぎりぎりを歩いていたいみたいなのはあるんですよ、絶対に。あんまりこう、馴れ合い感が嫌いなんですよね。だから本当に仲良くなんないんですよ、対象と。

一番仲いい、梶原一騎先生の弟さんの真樹日佐夫先生とかでも、月1で取材してるけど、仕事以外で会うのは、年に2回だけですからね。クルーザーパーティーと忘年会で、ものすごい人がいっぱいいる中での1人なんで、全然深い付き合いにはならないんですよね。


最近ただ、友達を取材する機会とかが出てきて、それはやりづらいようでいて、逆のおもしろさなんですよね。Rhymester宇多丸さんを取材したんですけど、普段自宅に来るような人を取材するのは初めてだったんで、「そうなるとどうしよう・・・」って思った結果が、普段は聞けないことを取材に託けて、プライベートに土足で踏み込むっていう(笑)。普段の関係じゃ出来ないんですけど、取材なんで、「初体験はいつですか?」とか、聞けるわけですよ(笑)。「えーっと、ご両親の夫婦仲は?」とか(笑)。友人で聞いたら問題になるようなことが聞けるっていうのは、おもしろいですね。


---  そこで質問したプライベートなことについても、答えてくれますか?


吉田:答えてくれますよ、全然。向こうも、僕がどういう取材をして、「原稿チェックしない人が真の男」とかを言いふらしてるの知ってるから(笑)。事実関係ぐらいの直ししかしてないですからね。「母親怒るかなあ・・・」とか言いながら(笑)。だから、どこ行っても何とか、そういう緊張感をたのしむことが出来るんだと思いますね。あとはね、絶対、"無駄な知識"っていうのが役に立つんですよね、話してて。


---  "無駄な知識"?


吉田:だって、沢尻さんでも一瞬、歩み寄れた感じになったのは、そこですもんね。彼女が「最近は伝記を読むのが好きで・・・」って聞いた瞬間に、思わず笑っちゃって(笑)。「伝記?」って(笑)。「のび太のお父さんがのび太に買ってあげるようなああいう、偉い人の本?」と思ったら、まあ、知らないでしょうけど?みたいな感じで、「そういうんじゃなくて・・・最近はイーディ(・セジウィック)の本をちょっとね」って言ったんで、「ああ、知ってますよ。あの、(アンディ・)ウォーホルの恋人で映画とかも出てる方ですよね。あれ、僕も持ってます」って。そこまで被せられたんで、多少距離は詰まりましたね。「ご存知?」ぐらいの感じで来たものを拾えるか?みたいな部分はありますよ、絶対。


僕、もともとあれなんですよ、(ハードコア・パンク)のミニコミ(「修羅」)やってて、原点はミュージシャンのインタビューなんですよ。その時に、本当に音楽知識がそんなにこっちがなかったのを反省して、すごい埋めたことがあって。埋めたら、こっちの方が・・・当時は僕の方が年下で、年上を取材をして、そっちが音楽知識がないことに憤ったりとかしたんですけど(笑)。自分が年上になるとすごい何か、優しい気持ちで出来るじゃないですか?「ああ、あれも聴いた方がいいよ?」とかって・・・優しくなれる(笑)。だから今、ミュージシャン取材もすごいやりやすくなってますよ。


---  取材する方によって、全然違いますよね。話しの流れから「そういうことですよね?」ってお話ししたら、「そういうことって何?」って言われたり(笑)・・・っていうのが続いた取材の時は、本当に帰りたくなりました(笑)。


吉田:僕が最近取材した、樹木希林さん的な感じですかね?


---  樹木希林さんは、どういう感じだったんですか?(笑)。


吉田:すごかったですよー。たぶん、今年のナンバーワン(笑)。強敵(笑)。


---  強敵?(笑)。


吉田:潰されかけました(笑)。めちゃくちゃおもしろかったですけどね。自宅で取材だったんですよ。で、自宅の前でまず撮影からで。カメラマンが寄りで撮ってたら、「わたしねえ、寄りの写真って好きじゃないのよ」って言ってて。「でも、何か知らないけどカメラマンって、みんな寄りで撮りたがるのよねえ。人間そんなね、近寄られると不愉快な距離とかあるじゃない」とかって言ってて。

だから、ちょっと場を和ませなきゃって思って、「やっぱりあれじゃないですか、希林さんに近寄りたくなるようなオーラがあると思うんですよ」って言ったら、「あのねえ、笑い事じゃないのよ?わたしは冗談で言ってんじゃなくてね?(上目遣いで目を見る)」って(笑)。「うわー、いきなりそれ?」っていう感じの(笑)。仕掛けてくるんですよ、すごく。めちゃくちゃスリリングだった。

で、順番に話し聞こうと思ったら、「あなた、こうやって聞いていくわけ?順番に。それでおもしろくなるのかしら?そうなるとは思えないんだけど、あなたがそうしたいって言うなら、そうするけど」って、がんがんがんがん来て(笑)。


その取材に行ったきっかけは、松尾スズキさんが「hon-nin」って雑誌の責任編集されてるじゃないですか?松尾スズキさんが日本アカデミーですごい、「希林さんがおもしろかった!」って言ってて。『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』が6冠くらい獲りましたよね?で、希林さんが一人で、ガチなことばっかりコメントで言ってたんですよ。「これ、監督賞が余計だった」とか「組織票かと思いました」とか(笑)。言わないでいいことを連発するっていう。で、希林さん松尾スズキさんに窘められる・・・みたいな(笑)。「あなたねえー」って(笑)。

・・・っていう、おもしろイベントになってて、僕も爆笑しながら観てて・・・で、完全にガチだと思ったんで、「本音なのはわかるんですけど、どこかちょっと、笑いを取ろうと思ってるような部分もあったりしたんですか?」って聞いたら、「あなたはどう思ったの?」「僕はものすごい笑いました」「いや、あなたが笑ったとかじゃなくて、あなたはどう思ったの?」「いやいや、すごいおもしろかったです」「だから、おもしろかったとかじゃなくて、わたしが冗談を言うような女に見えますか?(と言いながら、上目遣いで目を見る)」「見えません!」「じゃあ、いいんだけどさあ」「おおー、怖い、怖い」って(笑)。


で、まあ、2時間くらいインタビューして、結構話し聞いた後に、「でもあれでしょ?あなた、わたしのこと、わたしより知ってるんでしょ?」あの・・・単行本の帯にね、そんなようなこと書いてあるんで(注:本人よりもその人に詳しい芸能本史上最強のインタビュアー)・・・「わたしのこと、わたしより知ってるっていうわりには、わたしが知らない話がまだ出てないんだけど?まだインタビュー、佳境にも入ってないんで、ちょっと休憩しましょ」って(笑)。「今まで出たの全部ね、前に話した話」って(笑)。「自分が知らない話が出るまで、終われないじゃない。わたしはやっぱり、おみやげが欲しいのよ。そういう、新たな気付きみたいな、で、まだ?」みたいな(笑)。

もうねえ、"共演者泣かせ"とは聞いてたけど、これは泣かされるだろうなと思いましたね。キャリア10年なかったら、僕も泣いてましたよ、たぶん(笑)。「すいませんでした!出直して来ます!」みたいな(笑)。のらりくらりかわしながら、なんとか・・・でも取材、4時間半行きましたね。


---  4時間半!(笑)。


吉田:ええ(笑)。でも、いい人ではあるんですよ。その休憩の時も家上げてくれて、普通に。2世帯住宅なんですよね、2Fがモックンファミリーで。さっきの、「わたしが冗談を言うような女に見える?」のつながりで、「わたし、お中元とかも本当に嫌いで、礼状書いたりとか大変だから、本当にいらないから、絶対いらないって言ってるのに、それでも送ってくる人間がいる。本当に腹が立つのよ!」って、お中元もらったけど腹が立ったってやつを「食べてって!家族が今いないから」って、トコロテンとか芋ようかんとか出してくれて(笑)。すごい至れり尽くせりしてくれましたね。その後、「今洗い物してるから、部屋でも見てて」って、寝室まで見せてもらって(笑)。すごくオープンで、いい人ではあるんですよ。ただし、仕事では本当に怖いっていう。


---  そんな緊張感の中で、吉田さんが取材されたから、希林さんなりの心の開き方をして下さったんじゃないですか?(笑)。


吉田:いやあ、どうなんだろうなあ、また微妙ですよ?本当に。いちいち何か、気を遣ったことに仕掛けてくるっていう感じで。裕也さんが・・・モックンがCMやってる関係もあって、コンビニに行くと、「伊右衛門どこだ、伊右衛門」って、伊右衛門を前に出してくる・・・みたいな活動をしてるみたいなんですけど(笑)、それを編集の人もたぶん知ってて、取材中のドリンク用に伊右衛門何本か持ってきて、置いたんですよね。そしたらその瞬間に、「え?これ買ってきたの?」ってすごい嫌な顔をして、「ペットボトルねえ、飲むんだったら、ちゃんと最後まで飲んでってよ?残されるのが一番嫌なのよ」って。いちいちそういう風に、かつんかつんかつんかつん仕掛けてくるんですよね。でも、"正論"ではあるという。「気持ちはわかります。僕もそうなんで、ちゃんと飲みますよ」って(笑)。

結局、原稿としては、希林さんの人となりを聞くというよりは、そういう希林さんらしい"仕掛け"を全部一気にするっていう(笑)。読んでる方が緊張感を味わうような文章になって。


僕は、"現場の空気を伝える"のがテーマで、盛り上がってる時はより盛り上がってる風に作るし、ぴりぴりしてる時はぴりぴりした空気を出すし、()で・・・(冷たく)とか(あっさり)とかって補いながら、空気感を出す。そうすると本当に、口調まで蘇るんですよね、知ってる人とかだと。プラス、すごい緊張感ある中でだんだん、距離が縮まっていく感じであったりとか、そういうのが見れたりする・・・っていうのがテーマなんですよね。

裕也さんなんか、そうですもん。完全に最初すごい緊張感あったのが、だんだん心を開いてもらえる流れみたいな、ドキュメントにしたり・・・。






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