--- 菊地さんを含めジャズメンとのタイアップは、スーツ屋にとってもより効果的と?
菊地 ジャズメンはステージがあるってことですよね。例えば、DJがいくら綺麗なポートレイトを撮っても、じゃあ着てるところを観に行こうってなった時に、ブースの中でこうやっててもね(笑)っていう。お洒落なDJはいっぱいいるけどね。そういった人達がバシッと決めてDJやってたら、カラーからラペルからいいスーツだなって思うけど、残念ながら下までは分からないしね。シルエットまで分かんないじゃない?
だけど、ジャズメンの場合、スーツ着て、バァーッってステージに出て行くから。しかも6人揃っているわけだから、6着見れるわけでしょ?身長も違う。チビもいれば、デカいのもいますから、ウチは。デブはいませんけど、本当はデブもいればもっといいですよね。ヒップホップみたいなさ(笑)。「デブにも似合うぞ」(笑)っていうことが分かれば、あらゆるマーケットに対応できるというか。女もいればね。クール・ストラッティンってレディースもあるから。ピアノが女かなんかで、かっこよくスーツ着て、そのピアノで弾いているのも「Cool Struttin'」(ソニー・クラーク)って。そうなると、もっとマーケットが広がるんだけど。要するに、ジャズメンにはステージがあるってことね。そういう意味でも、プレイヤーと組むっていうのは賢明だっていう。
--- クール・ストラッティンのオフィシャル・ページを拝見してて、そこで菊地さんが「お金のある無しはドレスアップの精神とは関係ない。ドレスアップということの意味を、もっと広げたい。」ということを記していたのですが、それはつまり、今おっしゃていたことに附随していることなのでしょうか?
菊地 クール・ストラッティンと組んでいることによって、そこでの利益がいつもコネクトしてしまうから、発言がかなり狭められちゃうんだけど・・・クール・ストラッティン度外視して言えば、スーツ・カンパニーもあるわけなんですよ、言ってしまえばね。簡単に言うと、ドメスティック・ブランドもバーゲンもある(笑)と。
実際のスーツの値段は、上見たらキリないからね。ディオール・オムとかを買ってるコたちは、洋服以外何も趣味がないと思うんですよね。コンビニ飯らしいんだよね。要するに、お金全部ディオール・オムに突っ込まないと買えないから。一点豪華主義ですよね。その代わり、服はみんなディオール・オムだっていうさ。CDは買わなくても、カフェやクラブで聴けばいいっていう。オシャレなの聴けるし。食事もカフェ飯は安上がりだしぐらいの感じじゃないですか。
でも、そんなことしなくても、今日はジャズのライヴを聴きに行くんだから、安くてもいいから、自分なりにパリッとスーツ着ようよって。その形式がいいんだっていうね。フォーマルだってことが。安い高いはもういいよっていう。モッズの精神だってそうなんだから。ユースの中でモッズの形としてスーツ・ルックが広まって、いまだにロックの文脈の中にスーツは残っているけど、ジャズにはないじゃない?スカパラはかっこいいけど、ジャズとは呼べないですよね。だけど、既存のビッグ・バンドとかになると・・・何ていうか・・・何とも言えない感じですよね(笑)。ユースでかっこよくスーツ着るってことが、ロックに持っていかれちゃって久しいんだけど。
だから、安かったりしても、形が独特で自分の美意識に合って、しかもフォーマルだっていうセンスがあれば、何でもいいんだっていう意味合いで言ったわけなんだけど。・・・でも、さっき言った様に、クール・ストラッティンと組んでる限り、例えば、極端に言うと、スーツ・カンパニーで買ったものに、自分で一個ボタン付けたらだいぶ違うじゃん、っていうようなことまで具体的には言えなくなっちゃいましたよね。だけど、言いたいことはそういうことです、結局。
今は、結構な格差社会なんで、必要以上にルサンチマンが、つまり恨みが溜まっちゃっているというか。別にやりくりすれば、今ジャズ聴きたいけどスーツ持ってないって人でも買えると思うんですよ、スーツを。何らかのカタチで。だけど、「スーツなんか着る奴は、もう敵だ!F--K!」っていうさ。そういう形の壁ができつつあると思うんですよ。ボクは、そういう格差の壁っていうのは、一概に100%悪とも言えないと思うんだけど。アメリカにそういう格差の壁がいっぱいあったおかげで、ジャズにダイナミズムが出たと思っているから。色々あっていいと思うんですが・・・とは言え、そんなにいきなり怒ったり、拗ねたりしなくても(笑)、ちょっと考えればお洒落にできるんじゃない、もうちょっと?っていうような余地が常にあると思うんですよ。
ボクのことが好きで、他にジャズは何も聴かなくて、ボクのライヴには行きたいんだけど、スーツ着て来なきゃいけないみたいよ、って思ってるテクノ好きの青年がいたとして。普段Tシャツしか持ってないよっていう人がいたとしたら、可哀想じゃない?・・・可哀想じゃない?っていうか、ある意味ボクも可哀想なんですよね(笑)。そういう人がキレたりすると。落ち着けっていうさ(笑)。ちょっとぐらいあるから!何か道がって(笑)。一応、お前スーツ着れないだろってバカにしてるわけじゃないんで。何とかして着てくればいいじゃん、面白いし、そういうのも遊びじゃない、とかさ。
オレが若い頃、「ムゲン」に行くときは、ちゃんとコンポラのスーツ着て行かなきゃ、ブラック・ミュージックも聴けなかったとか、そういうのが面白かったんだよっていう感じが、今はもう、そういったユニフォーミティーがどんどんダウンしてきてて。テクノはTシャツ、ヒップホップはエイプで、とかさ。バチンバチンに決まっちゃってて。で、そういうのがないのはジャズだけだと思うんですよ。PIT INNで聴き馴れている人は、スーツ着てわざわざ行くかって、始めからもう決まっちゃってるしね。動かないですよね。動かないところっていうのは、もう死んじゃうから。常に動いてないと。
ボクで初めてジャズ聴く人とか、あるいは、すでにジャズを聴いていたけど、邦人は聴いたことなかったとかさ。色々いると思うんですよ。そういう人でも、ボクのライヴにスーツ着て、女性はドレス・アップして来るっていう楽しみ事をやった方が、幅は広いですし。そういうことで、ドレス・アップの意味合いが、ジャズ側から変わるっていうところだと思うんですよね。そういう楽しみも含めたいっていう。