―ライブではすごく気持ち的に助けられてます―
-練習ってうまく行かなかったり弾けなかったりするとイライラすることってあるんですか?
押尾:「うーん、まあそういう時はありますよ。」
-えっ、押尾さんにもそういう時あるんですか?
押尾:「ありますよー、特に練習の時は。でもそれは絶対人前ではやっちゃいけない。ほんと大昔ですけど・・・まだメジャーじゃない時に、やっぱりシチュエーションが悪くてイライラして演奏してしまったことがあってすごく怒られたことがあったんですよ。だってこんな環境でできないですよ、なんて偉そうに言ったことがあって・・・誰も見てへんやん、みたいに言ったんですよ。そしたら、いや、いるよ、いてたよ、って言われて。その時は悔しかったけど、それからはライブでは、一人でも聴いてくれている人がいるなら、その人のために弾こうって思っているから人前ではないですね。でも練習ではありますね。弾きたいのにイメージ通りに弾けない時とか。」
-弾きたいのに弾けない、そういう葛藤みたいなものが…?
押尾:「でもライブではすごく気持ち的に助けられてますよ。好きで聴いてくれる人に対して弾いてるとすごく素直に音もメロディも響くというか。お客さんがいて、演奏する、セッションする人がいて、あとは楽しもうっていう一体感があれば練習とかそれ以上にうまく行くことがすごくありますね、不思議なんですけど。」
-曲によってギターを持ち替えて演奏していらっしゃいますよね。今持っていらっしゃるのはグレーベンですけど、確か押尾さんが初めてグレーベンのギターを持ったのは高校の頃でしたよね?中古で20万前後だってお伺いしましたが。
押尾:「よくご存知で(笑)。ずっと家にあったギターを弾いてたんですけど、師匠であるギタリストの*中川イサトさんがグレーベンのギターを使ってて、そのイサトさんから『今グレーベンの中古の安いのがあるけどどう?』って勧められて。んで安いって言われたからてっきり5万円ぐらいだと思ってたんですよ、そしたら25万、安いやろ!?って言われて。高校生に25万て…(笑)。でもせっかく大好きな人に勧められてどうしても断りたくなくてね。母親に一生のお願いで頼みました。イサトさんが紹介してくれたギターがどうしても欲しくて。18の時から30の時までずーっとその1本でやってたんですよ。今も家にあるんですけどさすがにボロッボロだったですね。表面はもとより内側も力木がはずれてたりして。で、30になって、『あのー、18歳の時にこのギター買いに来た押尾コータローと言います、このギター修理して下さい』って差し出したら、『コレ、もう鳴らんぞ』って言われたんだけど、これは捨てられないんで治して下さいって強引にお願いして。で、修理の間にもう1本必要じゃないですか。それでコレとおんなじ(インタビュー中に持っていたギターを指して)、グレーベンのDタイプをその時一緒に買ったんです。」
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*中川イサト
五つの赤い風船ギタリスト&シンガーソングライターとして活動後、村上律と中川イサトというフォークデュオを経て、『1310』を皮切りにギターインストゥルメンタル作品を発表、日本におけるオープンチューニングを多用した、タッピング・スタイルのソロ・ギター・インストゥルメンタルを築き上げた"ミスターギターマン"の異名で知られる超大御所。一方、後継者育成にも力を注ぎ、ギター・スクール('76〜'89年)も開校。押尾はここの門下生。嘉門達夫、岸部眞明、ゴンチチらも、彼の土壌から生まれた次世代ギターマン・スタイルであることは言うまでもなく、現在も重鎮としてカリスマ的存在だ。
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鼻唄とお月さん |
-じゃあ今ギターって何本ぐらいお持ちなんですか?
押尾:「最初は2本でローテーションで1部2部制でライブやったりして休憩の間に弦を張り替えたりってやってたんですけど、そのうち2本が3本になってって、照明とかスタッフとかが入りだすと続けて曲をやりたいっていう時にチューニングが変わったものをローディが持ってきてすぐに演奏するってスタイルの時にはやっぱり最低5本はいるなーって。それに予備で2本、さらに楽屋で1本とどんどん増えてって、常備8本はライブで必要になってきたんですよね。で結局、ツアーなんかで使ってると運搬中にヒビが入っちゃったり演奏中にヒビが入っちゃったりとかで3本ぐらいギターが入院、ってことがあって、そんな感じで2軍選手が必要になってきちゃって、今は10本ぐらいかな。」
-押尾さん御用達の楽器屋さんは、なんだかものすごくこだわりのある方だとお噂お伺いしたんですが…?
押尾:「HIRO CORPORATIONヒロ・コーポレーションって言う楽器店なんですけどね。楽器屋さんって普通は顧客のニーズに答えて『いらっしゃいませ』って感じなんですけど、わりと突っぱねるんですよ、商売っ気がないって言うか、いきなり説教始めちゃうような人なんで(笑)。敷居が高いです。でもね、本物のギター置いてますね、そこは。だからボクはその説教聞くために行く時もありますよ。」
-押尾さんに説教…ですか(驚)
押尾:「されるんですよー。僕の場合だとまずこのピックアップをはずしなさい、って言われますね。『こんなもん付けてたら音ならなくなるからはずせ、電気に頼るな!』ってね(笑)。で、会場がデカイと音が聞こえなくなるからしょうがないんですよ、って言うと、『それはわかってる、わかってるけど、その気持ちは忘れるな』って言うんですよね。僕がライブの中でマイクで拾ってライブをやるコーナーがあるんですけど、それは冨田さん(HIRO CORPORATIONオーナー)のその言葉からですね。今どき珍しい楽器店だと思いますよ。大手だとなかなかそういう商売はできないですからね。」
-ファンの間ではHIRO CORPORATIONは結構有名なお店みたいですよね。
押尾:「そうそう、そんで行ってびっくりするんですよね、ギターショップらしくないからって(笑)。」
―どんなものでも言葉でもいいから音楽と出会うきっかけになって、そこから―
-ところで、ソロギターっていうスタイルってジャンルで言うとニューエイジっていうカテゴリーになってしまいがちなんですが、そのことについて何か抵抗とかあったりしますか?アーティストの中にはそういう方もいらっしゃるようなんですが・・・
押尾:「うーん…抵抗感じる気持ちはわからなくもないですけど、ニューエイジっていうジャンルはもうある程度定着した感はありますよね。いずれにせよジャンルは決めなくちゃリスナーも聴きづらいだろうし。ニューエイジって言うとヒーリングとか癒しとかって言葉が先行しちゃっているかもしれないですね。」
-以前、ジョージ・ウィンストンさんにもお会いすることがあったんですが、彼もやっぱりニューエイジって言葉をひどくあの当時は嫌悪してました。"認めない”ときっぱりクギを刺されました。
押尾:「うーん…僕はジョージ・ウィンストンみたいな大それたことは言えないけど…たぶん、オムニバスがすごくたくさんあるのも原因かも知れないですね。クラシックなんかのパッヘルベルのカノンだとか、”癒し”をテーマにいろんな企画盤が出ることが多い。ジョージ・ウィンストンなんかは癒し的に聴こえる曲ももちろんあるけど、すっごくアグレッシヴな曲とかもあるじゃないですか。僕のCDなんかも"癒し”にするにはちょっと違うなって言うのもありますしね。例えば今回の『Nature Spirit』のRushin’なんかは”ん?癒し・・・?”って思うんじゃないかな。病院とかでかけるならこの2曲目(Russin‘)は飛ばしてかけて下さい、って言わないと(笑)。でも僕はそんなに嫌悪感はないですよ」
-日本ではニューエイジ=癒し、ヒーリングってイメージが固定したのは90年代半ばあたりからなんですけど、それまでのニューエイジと言えば色んな要素がありましたよね。スピリチュアルなものだとか、ルーツ音楽的なものから派生したメディテーション要素だとかいうふうに。今のように即、癒し、ヒーリングではなかった気がします。そういう中にウィンダムヒルのようなアコースティック・サウンドという分類があったというか。
押尾:「うーん、なんだろうなぁ、ヒーリング、ニューエイジでもなくって…例えばウィンダムヒルってすごいレーベルだなって思うのは、あそこのレーベルのものはだいたい同じテイストの音楽が聴けるっていうか、それはニューエイジでもなくてワールドがあったりジャズがあったり、あいまいなんだけど、でもウィンダムヒルのカラーがあって…あのあいまいさってウィンダムヒルが先駆ですよね。そのあとNARADAってレーベルも出てきて、そういうものを一括りにしてニューエイジって呼んできたんですよね。でもまあ、癒しという意味も人によって様々ですし、癒しにせよヒーリングにせよ、どんな言葉でもいいから音楽と出会うきっかけになって、そこから癒し以外の何かも感じてもらえればそれでいいと思うし。」
-ニューエイジに代わる言葉…いつもそこで悩むところです。そういう中でソロ・ギターを探しに来るリスナーは確実にすごく増えました。特に押尾さんのCDを買う方々は、ライブで実際に聴いて、CDも買って、DVDも観て、さらに自分で弾く、っていう勉強熱心なファンが多いですよね。最近はネット配信やデータで音楽を手軽に楽しむ時代ですから、相当熱烈なユーザー層だと思います。
押尾:「確かに簡単にダウンロードやデータで音楽を聴けるようになって、もちろんそれは便利でいいことなんだけど、作る側の僕らもやっぱり買って持っておきたいなって思ってくれるものを残したいですね。ずっと聴いていたい音楽を手元に置いときたいって思われるものを。」
インタビュー後記...
アコギスト、ギター・レジェンドの穏やかな表情と、訥々と言運ぶ姿がまず印象的でした。その物腰の静けさと貫禄とのコントラストが、より一層ギターへの深い愛情と熱い思いを伝える、終始そんな空気に包まれたなかでの取材。こちらの質問に答えながら、時折合いの手のように、ごく自然に爪弾かれるギターの音色に何度もハッとながら、あっという間の1時間のロング・インタビューでした。取材を終え部屋を後にする私たちを、優しく彼のギターが送り出してくれた、まさに贅沢なで至福のひと時。
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