赤い文化住宅の初子

2007年12月6日 (木)

大嫌いな赤毛のアンは、いつもあたしと一緒にいた。

貧乏、初恋、ひとりぼっち。

いつもひとりぼっちの初子。うちには、お金も電話も、何もない。ほんとの気持ちを言える相手もいない。決して夢なんて見ない、と自分に言い聞かせながら、初子は、切なすぎる青春を歩く。

原作・松田洋子が初めて挑んだ純愛コミックを、タナダユキ監督が、渾身の力を込めて映画化。

吉田戦車氏が「ヒロインの半端でない幸薄さとささやか極まりない希望。泣けた」と絶賛し、南Q太氏が「なんて切ない青春！」と涙した、とてつもなく薄幸の少女・初子がただひとつ「恋」を支えに生きる珠玉の純愛恋愛コミックが、どう映画化されているのか、体験してみて下さい。

UAが、本作を見て書き下ろした、"Moor"。

この作品を見て、UA自身が作詞を手掛けた"Moor"。物語のエンディングで流れるこの曲は、あまりにも切ない初子の物語を愛おしむかのように、心をぎゅっと締めつけます。そして、サントラには、今作が映画音楽としては初の、豊田道倫が参加。

1月25日リリース。

STORY

兄の克人と二人暮らしの中学3年生・初子。父は借金を残して蒸発、母は先立ってしまい、二人の生活は苦しかった。初子はなんとか生活費を稼ごうとラーメン屋でバイトをするが、そこもクビになってしまう。しかも兄が電気代を使い込んでしまい、家の電気は止められてしまっていた。そんな中でも初子は、「一緒に東高へ行く」という同級生の三島くんとの約束を果たすべく勉強を続けるのだが･･･。

赤い文化住宅の初子

STAFF

脚本・監督：タナダユキ

原作：松田洋子（『赤い文化住宅の初子』太田出版刊）

音楽：豊田道倫
主題歌：UA 「Moor」

CAST

東亜優、塩谷瞬、佐野和真、坂井真紀、桐谷美玲
江口のりこ、鈴木慶一、鈴木砂羽、浅田美代子、大杉漣･･･

director's comment

ほんのささやかな、ほのかな暖かい灯りは絶望の中でしか美しくみえないのでしょうか。

暖かい灯りを手に入れることは奇跡に近いことを、初子は知っている。知ってしまっている。その灯りを渇望してしまう自分がいることも、渇望すればするほど、自分のたっている場所の暗闇は際立ち、より深く、より暗い闇へと落とされることも。

見上げた空の星々が瞬いて見えるのは、自分の立っている場所が闇に満ちているから。手に入らない光ほど美しく見えることはない。美しく見えるその光ほど、哀しくなることはない。その光に一つ一つのぬくもりがあって、そのぬくもりが手に入らないことが哀しい。光を見ることができても、ぬくもりは触れなければ感じられない。

希望を持てばその瞬間に絶望が隣り合わせにいるだろう。しかし初子は何より、頼りない希望を持つことでしか人は生きられないという事もわかっている。

「赤毛のアン」が大嫌いな、15歳の、一人ぼっちの女の子。

初子はきっと大阪で誰かと出会い、三島くんはやがて他の誰かと結ばれるかもしれない。けれど、あの時の初子に三島くんがいたことだけは確かで、あの時の気持ちだけは本当のことで、それは初子を少しだけでも支えてくれるだろう。

赤毛のアンの感想を言ったら「宇野がそんなんいっぱいしゃべるん初めてじゃけえ、ええ思う」と言った三島くん。卒業式で迎えに来てくれた三島くん。ビスケットをのどに詰まらせながら一緒に食べてくれた三島くん。

二人は、手を繋がない。小指どうしを遠慮がちに絡ませる。遠慮がちに、しっかり絡ませる。絡めたその小指から伝わる三島くん自身のぬくもり。感触。それだけが本当のこと。なにものにも代えられない、哀しみと隣り合わせの、愛しいもの。

絶望的な哀しみの中に在る愛しいものをフィルムに残したい。その衝動だけで、映画を作りたい。そんなふうに思った。

タナダユキ

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