テンシュテットのドヴォルザーク
Thursday, August 30th 2007
連載 許光俊の言いたい放題 第119回「テンシュテットのドヴォルザーク」
やっと暑さも一段落である。この前も大野和士が東フィルを指揮した「幻想交響曲」を聴きに行ったが、熱演だけにものすごい大音量攻撃にへとへとになり、後半はわざわざ舞台から遠い席に移動したほど。オペラシティの1階13列目真ん中あたりは、ピンポイントで音響調整したのか、CDみたいなバランスで音が飛んでくるのである。木管なんて、「本当かよ」と耳を疑うほどでかい音量で聞こえる。老人になって耳が遠くなったら、ここにすわろうっと。
「幻想」といえば、かねてから懸案の超しつこい聴き比べ本をこの夏には完成させたいのだが、足踏み状態が続いている。書き下ろしの本というのは、私の場合書けば書くほど水準を前より上げたくなるため、なかなかしんどいのである。まあ、それがやりがいでもあるのだが。
で、暑いさなかに、繰り返し聴いて楽しんだのが、意外や意外、ヴァント指揮ミュンヘン・フィルのブラームス1番とベートーヴェン1番だった。実はこのCD,最初に家で聴いたときには、ちょっとヴァントらしくない、そしてミュンヘン・フィルらしくない重たい響きのうえ、すでにおなじみのレパートリーなので、心そそられずにいたのだ。演奏自体も悪くはないが、ものすごいというわけではない。ところが、ふとしたことで、カーステレオ、あるいはラジカセに毛が生えたような装置で聴いてみたら、よけいな重たさが取れ、実にスッキリとした、それこそヴァントっぽいシャープな音楽に聞こえるのである。再生装置によって演奏の印象が大きく変わってしまうことについては何度も述べたが、これもまたその最たる例のひとつだ。もったいぶらずイン・テンポで進行していくブラームスは暑苦しさ無縁のクールな美しさできわめて快適。透かし彫りみたいな明快さが心地よい。5,6回ぶっ続けに聴いてしまったほどだ。いつも思うのだが、たとえば私が書いている文章を読んで「これ、違うじゃん」と思っている人も、同じステレオで聴いたら、なるほどと腑に落ちるかもしれない。まあ、それはともかく、現在私にとって一服の清涼剤(死語)となっているのがこのヴァントなのである。
テンシュテットのライヴが安いセットになって売れているようだが、確かドヴォルザークの交響曲第8番についてはコメントしていなかった。この指揮者のドヴォルザークといえば、第2楽章がお化けが出そうなほど暗くて不気味な「新世界」(ベルリン・フィル)が何と言っても忘れられない。この第8番は、最晩年の録音ゆえ、それ以上の異常性を期待してしまうが、意外にも穏やかである。弦楽器が限界までたっぷりと歌い、あちこちで大きくリタルダントし・・・というスタイルだ。それだけでも十分に魅力的な演奏なのだが、一番の聴きどころは、何と言ってもフィナーレの7分過ぎである。ただでさえしみじみした部分なのに、テンシュテットはなおさらしみじみと、まさに別れの音楽のように演奏するのだ。まるでマーラーの「大地の歌」フィナーレみたいな雰囲気なのである。悲しみにジタバタするわけではなく、泣いたりわめいたりもしない。微笑さえ浮かべながら、「いつの日かまた会うこともあるかもしれませんね。それを祈りつつ、さようなら」と告げるような風情。すばらしく美しい。これは何度でも聴きたくなる。こんなのを聴くと、やっぱり最晩年の芸術なのだと思わされる。
しかも、さすがはテンシュテット、そのあとのコーダでは突然躁状態になり、ビョロビョロ〜と狂ったように金管楽器が暴れ始めるのには笑ってしまう。この分裂ぶりには、人間性の不思議を感じるしかない。ドヴォルザークという人が、マーラーっぽい分裂的な発想の音楽を作っているのは確かである。
この曲では、やはりジュリーニ指揮コンセルトヘボウの演奏が、実にゆったりしたテンポのしみじみ系。気品あるセル指揮クリーヴランド管も比類なき高級感あふれる演奏。この2点プラス今回のテンシュテットが私のお気に入りである。
(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授)
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