TOP > Music CD・DVD > News > Classical > Choral and Vocal > 「脱力した笑い」(許光俊)

「脱力した笑い」(許光俊)

Thursday, August 18th 2005

連載 許光俊の言いたい放題 第62回

「脱力した笑い」

 あいかわらず暑い夏が続いている。こんなときはオーケストラが好きな私ですら、大規模作品はうっとうしく、ついついバロックやピアノに手が伸びてしまう。
 暑さが激しいほど、変なことをしでかす人間出てくる。凶悪犯罪や大事故が盛夏に頻繁なことは誰でも知っているだろう。
 しかし、暑くなくてもおかしい人はいるもので、たとえばクルト・シュヴィッタースという人など、「ドイツ史上10大おかしな人」でもやれば、間違いなく入ってくる人物だ。彼の作品を収めたCDが出たというので、さっそく聴いてみた。
 笑える。それも暑い夏にふさわしく、力が抜けたまま笑いがこみあげてくるという種類の笑いである。まずは何も考えず、彼が書いた変な歌や変な詩を聴いてみるのがいい。歌詞はドイツ語だが、意味がわからなくても、笑えるだろう(というか、大半は意味などないのだが)。あげく、子供じゃないが、マネをしたくなる。
 最初に入っている"What a beauty"は、このままでテレビCMに使えそうな歌で、比較的まとも。だが、まもなく日常の遠近感が崩壊した異常世界が広がってくる。ブブ、ププ、テーなどと意味のない音だけで歌ったり、巻き舌でルールー言ったり。大のおとながピーピー言って歌っている姿は、狂気の夏にふさわしい。内容について種明かしをするとつまらないので、これ以上は書きません。自分で聴いて笑ってください。笑うつもりがなくても、思わず吹き出します。
 こんな笑える作品を書いたシュヴィッタースとはどんな人か? 生まれたのは1887年、ハノーファー。第一次世界大戦くらいまでは勉強していたので死なないですんだ。ちなみに勉強したのは機械のデザインとか建築とかいたってまじめなこと。
 そのあとはいわゆるダダ運動の代表的人物として活躍した。もともとダダという言葉には芸術的意味はなかった。辞書をめくっていたら、幼児語で馬のことをだーだーと言うのが目に付き、採用されたのだという。
 ダダイストたちは、それまでの重厚で、真剣で、構成的な芸術作品の対極にある、もっとも自由なインスピレーションの発露をめざした作品を作ろうとした。だから、シュヴィッタースの音楽も、私たちが普段聴いているクラシックとはまさに反対。クラシックの傑作は人間の精神を緊張させる。が、これは弛緩させる。笑わせる音楽といっても、ハイドンやロッシーニとはまったく違う。状況が変とか、ユーモアといった、「まともなのはこれ」というのが崩れるおもしろさではない。訳もわからず、ただおかしいのだ。あなたは暑い昼、突然奇声をあげたくなったり、酒を飲んで意味もなく笑い転げたくなったりしたことはないか。そんな感じに近い。
 こんな芸術をやっていた人だから、当然、ナチスに追われた。まずはノルウェイ、それからイギリスに逃れた。というと、バルトークみたいに悲惨な例を思い起こしたくなるが、シュヴィッタースの場合、あいもかわらずバカな歌を作っているのが恐ろしい。"What a beauty"にしたところで、大戦末期の1944年に作られているのだから。悲惨な境遇を笑いで乗り越えるなんてものじゃない。ただただ変なのだ。
 もともと視覚系の人だから、怪しい美術作品をいろいろ製作した。日本でも各地の美術館に所蔵されているようだ。
 このCDをかけていると不思議と心がなごむ。アダージョ系ではない、新しいタイプの癒しCDなのかもしれない。なぜって? シュヴィッタースの変な歌には、虚無の中の憩いがあるから。
 でも、つきあい始めて日が浅い彼女へのプレゼントにしてはなりません。「これを聴けばボクがわかる」なんて言いながら贈ったら、目が飛び出さんばかりに驚き、二度と会ってはくれないだろう。
 また、道でいい女を見つけても"What a beauty"を歌ってはいけません。間違いなく警察が呼ばれます。

(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授) 

クルト・シュヴィッタース[1887-1948]:作品集
1.ホワット・ア・ビューティ または墓の横の微笑
2.リブル・ボブル・ピムリコ
3.朝焼けから暗闇まで
4.アンナ・ブルーメに
5.大いなる愛
6.ノルウェーからヘルムトラウトへの詩
7.ノルゲ
8.小さな手工業者のそばの書籍行商人
9.ビー・ビュル・リー
10.drei(3)(デュナーミク版)
11.Bii(3つのバージョン)
12.bel au hau ベル・アウ・ハウ(2つのバージョン)
13.古い音詩
14.耳の中のノミ
15.ある男が私に言った時
16.昔々、七人のご婦人方が
17.彼女はお人形でお人形遊びをした
18.薔薇がないんですよね
19.中国語じゃないでしょ
20.ディー・ツーテ・トゥーテ
21.ブー
22.ナー(2つのバージョン)
23.ドゥーフ(3つのバージョン)
24.くしゃみの猛威
25.原ソナタ 序奏と第1部
26.原ソナタ 第2部:ラルゴ
27.原ソナタ 第3部:スケルツォ
28.原ソナタ 第4部:プレスト
29.drei(メトロノーム版)

シュヴィンドリンゲ
 マルティン・エーベルト
 ジルケ・エーゲラー=ヴィットマン
 トルステン・ギーツ

Choral and VocalLatest Items / Tickets Information

* Point ratios listed below are the case
for Bronze / Gold / Platinum Stage.  

featured item

What A Beauty, Die Ursonate: Dieschwindlinge

CD Import

What A Beauty, Die Ursonate: Dieschwindlinge

Schwitters (1887-1948)

Price (tax incl.): ¥3,960
Member Price
(tax incl.): ¥3,445

Multi Buy Price
(tax incl.): ¥3,089

Release Date:20/August/2005
usually instock in 2-3days

  • Point x 1
    Add to wish list

%%header%%Close

%%message%%

許光俊