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2006年3月20日 (月)

連載 許光俊の言いたい放題 第52回

「ベルティーニの死を悼む」

 もう何人も、何人も、立派な音楽家が死ぬたびに文章を書いてきたが、今回もまた、その悲しい仕事を繰り返さねばならない。
 ガリ・ベルティーニが没した。先週、ドイツで、3月14日、ボッフム交響楽団出演の広告を見たばかりだった。ケルンから電車で30分のところにある小さな町だ。曲はラヴェルと「幻想交響曲」。お得意のプログラムだった。へえ、そんなところのオーケストラも指揮するのか、と意外に思っていた。
 ベルティーニは日本ではマーラーの名指揮者としてよく知られていたが、ヨーロッパでは、パリのオペラだとか、イタリアとか、あちこちを振り歩いている人だった。ミュンヘンでは「ヴォツェック」をやっていたこともある。日本でなどより、ずっと地味な存在だった。どこか、よいオーケストラの音楽監督になれればよいのに。私はずっとそう思っていた。けれど、ケルン放送交響楽団を除けば、ポストに恵まれたとは言い難い。フランクフルト・オペラとの関係はごく短期間に終わった。

 正直言って、パリのオペラで聴いた「コジ・ファン・トゥッテ」や、プロコフィエフ「戦争と平和」は、手放しで褒め称えたくなるほどのものではなかった。オペラでは、厳密にやりたがるのが、窮屈な感じを与えた。
 それに比べて、日本で聴いたコンサートのほうが、ずっと生き生きしていた。ケルン放送響とのマーラーや、「幻想交響曲」や、チャイコフスキー・・・。サントリーホールでは、いろいろな名演奏家が至高の芸術を私たちに聴かせてくれたが、ベルティーニの「千人の交響曲」「大地の歌」などは、それに含まれるだろう。日本の楽団との演奏会は、昔聴いて懲りて以来、足を運ばなかった。
 最後に聴いたのは、ちょうど一年前、ベルリンでのことだった。その日は、朝11時からインバル指揮ベルリン交響楽団のブルックナー第4番(初稿)という見事なコンサートがあり、しかもそのあとで、ラトル指揮ベルリン・フィルの同じ曲(ただし、通常の版)、ベルティーニ指揮ベルリン・ドイツ交響楽団のマーラー第4番という、1日にして重量級の演奏会を3つも聴けるという、惑星大直列みたいな日だった。
 ベルティーニが組んだのは、ゴルトシュミット、ブロッホ、マーラーというものすごいユダヤ作曲家プログラムだった。そのマーラーが本当に美しい演奏で、私は特に第3,4楽章を聴きながら、ギュンター・ヴァントが死んだあとずっと抱いていた不満が一気に解消されるような心地よさを味わった。これがオーケストラの響きなんだ、オーケストラの強い音、弱い音はこうでなくてはならないんだ、と何度も何度も思った。
 そのマーラー第4番は、同じ曲の録音より、はるかによかった。もっともっと甘く、悲しく、深く、自由だった。第3楽章から第4楽章にかけての部分は、今まさに天国の門が開かれるという感じがする音楽だが、荘厳な響きがホールを満たした。久しぶりに、オーケストラを聴いて恍惚とした。そして、驚いたことに、天上の様子を歌ったはずの第4楽章は、夜のとばりが降りてくるようにだんだん暗くなり、寂しくなり、溶けて見えなくなるかのように姿を消すのだった。まるで「大地の歌」のように。幸いなことに、その演奏は、良好な音質で放送局が録音した。早くどこかのメーカーがCD化すべきだろう。
 ベルティーニは、年齢からは考えられぬほど元気だった。小走りで指揮台に上がる感じはまだ残っていた。次はいつ、マーラーが聴けるだろう。私は楽しみにしていた。それだけに、訃報を聞いたときの衝撃は、事実上引退していたカルロス・クライバーのときより、よほど強い。
 夜中、車を走らせながら、マーラーの第3、4,5,9番、「大地の歌」といった曲のCDを、ゆっくりした楽章ばかり選んで聴いた。ベルティーニは正確な演奏を心がける人だったが、マーラーをやると、ただの正確さ以上に言いたいことがあることがよくわかる。インバルのように響きをぶつけ合わせて立体性を強く出すわけではない。テンシュテットのように暗鬱で絶望的で狂気に満ちた演奏をするわけでもない。肯定的な表情で、音色は明るく、美しく響く。地中海のマーラーと呼んでもいい。だが、情感は濃く、思い入れは深い。その魅力については、もうあちこちで書いたから、ここでは繰り返さない。
 間違いないのは、オーケストラ芸術の最後の担い手が、またひとり消えていったということだ。指揮者とは、20世紀の音楽的イメージであり、音楽的真実だったに違いない。

(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学助教授) 


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