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20世紀の実は偉かった人たち

Wednesday, July 25th 2018

連載 許光俊の言いたい放題 第262回



 いやいや、今更偉いと言うのも失礼だが、改めてすばらしさに感じ入ったものを2つばかり。

 ケンペとドレスデン・シュターツカペレのリヒャルト・シュトラウス演奏は、ベームのそれと並んで、ひとつの規範とされていた。まったく当然だと思う。EMIの管弦楽曲全集のセットは、珍しい曲が入っていることもあって、私もLP時代には愛聴したものだし、オペラ「ナクソスのアリアドネ」もよかった。
 しかし、世の中的にはカラヤンのシュトラウス演奏のほうが人気があるのではないか。でも、私はある時期からあとのカラヤン、ベルリン・フィルの録音は嫌いだ。それは大トロと霜降り肉をサンドイッチした上に、さらにバターとクリームを載せて照り焼きソースをかけたような代物もので、そんなにくどくやらなくていいと言いたくなるのだ。下品だ。悪趣味だ。要するに、客を馬鹿にしているんだろ? と考えてしまうのである。
 そんなことを改めて思ったのは、LPで発売されたケンペ指揮ドレスデン・シュターツカペレ「英雄の生涯」が実にすばらしいから。豊麗きわまりない、しかも気品のあるオーケストラ。冒頭からして十分に颯爽としているが、決して荒々しくない、せっかちでもない絶妙のテンポ設定、音楽の運び方。英雄の妻を描く部分は、一直線に熱いのに驚かされる。ドレスデンの響きというと、すぐに渋いとか重いとか言われるのだけれど、このLPのこの部分で聴く白銀色が私のイメージには近い。そんな音が次々に渦を巻く。たまらない。
 戦いの部分は若々しく、ずっとわくわく感が持続。だが、最後はしみじみ感たっぷり。どんどんテンポが遅くなっていく。金色の蜜が滴るような弦楽器の官能的な響き。暗色の響きとのコントラストは強い。いやはや、表現の幅が実に大きい。
 弦楽器の端正かつ効果的なフレージングや抑揚や響きの作り方。木管楽器の一体感あるアンサンブル。重みのある金管楽器。いい。本当にいい。若い人には、ぜひこういうのを聴いて耳の力を養ってほしいと思う。
 このライヴ盤は、前回取り上げたラトルとベルリン・フィルのセットがマニア向きなのに比べるまでもなく、まさに万人向けの名演奏だ。通俗性のかけらもないシュトラウス演奏とはどういうものか。これを聴けばわかる。シュトラウスは音が多くてうるさすぎると思う人こそ、これならばと満足できるのでは。


 ザンデルリンクは、引退後にいろいろなライヴ音源が発売された。いずれも気持ちよく聴けるものばかりだが、新譜のブルックナー第3番は特に見事だ。この演奏の頃に引退宣言を行ったという。健康状態のせいでもう大曲は振れないという、そのギリギリ最後ということか(30分以上は無理ということで、引退コンサートのメインはシューマンの交響曲第4番だった)。
 結果的に言うと、これまで発表されているザンデルリンクのブルックナー演奏の中では、これが圧倒的にすばらしいし、おもしろい。テンポをゆったりめにとり、しかも変化の幅が大きい。抒情的なところは濃密にロマンティック。最晩年だからこそ。
 第1楽章冒頭から、うならされる。これがドイツのオーケストラ、これがドイツの音楽、そういう響き、そういう音楽が鳴り出すのだ。あ、ブルックナーはドイツではなくてオーストリアですけどね。
 9分過ぎあたりからの、まるで幻想の世界に飲み込まれていくかのようなミステリアスな音楽。もしかして、私たちが一度は生を聴きたいと思っているフルトヴェングラーもこうだったんじゃなかろうか。とにかく、第1楽章だけで、交響曲ひとつ聴いたような満腹感がする。
 第2楽章は、ぶあつい弦楽器がよく歌う。絹ではなく、麻のような、磨きすぎない感じがいい。ぴかぴかきらきらした音も結構だけれど、これにはこれのよさがある。神経質でなくて、ざっくりやっているようで、おおざっぱではない、ザンデルリンクならではの大きな音楽のつかみ方。
 フィナーレもたっぷり鳴らしていく。この楽章はまるでブルックナーのオルガン演奏を聴かせてもらっているかのような音楽だけに、それでいい。それがいい。そこに不思議にも侵入してくるワーグナー風音楽。演出っぽくないだけに、かえってどきりとさせられる。
 最後のまさしく威厳たっぷりの堂々たる終わり方。

 ケンペもザンデルリンクも、オーソドックスなドイツの指揮者というのが一般的な理解だったはず。でも今回の録音2点は、驚くほどすばらしかった。今は消えてしまった音楽美なのだった。

(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授)

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