柳樂光隆の「インディペンデント・ブラック・ジャズ・オブ・アメリカ」書評
2014年5月8日 (木)
世界最高峰の黒いジャズ・カタログ
「インディペンデント・ブラック・ジャズ・オブ・アメリカ」」書評
00年代の始めごろ、家ではロックやテクノやヒップホップも聴きながら、クラブにもたまに行きながら、大学の近くのジャズ喫茶に通ってはジャズを聴いていた。ジャズ喫茶の店主と仲良くなってからは、レコード屋に行っては、ジャズを買い、ジャズ喫茶に持っていって聴かせてもらったりしていた。もちろん、レアグルーヴも聴いたし、ブルーノートもプレステッジも、フリージャズもヨーロッパジャズも聞いた。その中で、ジャズ喫茶の店主やお客さんとの会話が最も盛り上がるのが、スピリチュアルジャズだった。
お、ストラタイースト、懐かしいねぇ。うちにもあるよ、『ミュージック・インク』や『イン・ザ・ワールド』や『カプラブラック』
このネイト・モーガンって知らないな。なんか、マッコイみたいなピアノだけど、かっこいいね。
『アダムズ・アップル』は当時、ジャズ喫茶では流行ってたと思うよ。そのレーベルはいいのも結構あったね
なんて、親子ほど歳の離れたジャズリスナーたちの話を聞きながら、クラブシーンで再評価されたストラタ・イーストやニンバスやブラックジャズをジャズ喫茶のシステムで聴いたものだ。70年代のスウィングジャーナルのバックナンバーを見てみるとわかるように、ストラタイーストやロフトジャズなども当たり前のようにかなり取り上げられていて、スピリチュアルジャズは、当時のジャズリスナーにとって、かなり身近なものだった。 そういう意味で、僕にとってのスピリチュアルジャズは、その暑苦しく、攻撃的な音楽性とは真逆で、ジャズファンとクラブ以降のリスナーを繋いでくれる最もフレンドリーなジャズだったと言えるかもしれない。
ちなみに、90年代以降に再評価されたスピリチュアルジャズはクラブシーンからの要請で盛り上がったものだった。アシッドジャズ方面からのファラオ・サンダースの再評価から、カール・クレイグなどデトロイトテクノ周辺、近年ではカルロス・ニーニョ=ビルド・アン・アークの一連のプロジェクトなどで数多くのリスペクトが捧げられてきたし、マッドリブの「MEDICINE SHOW #8: ADVANCED JAZZ」のアートワークでは、マイルスや、ミンガスと同じ地平に、フィル・ラネリンやファラオ・サンダースが描かれていたのも記憶に新しい。
UKソウルジャズ・レコーズからのいくつものコンピレーション「Universal Sounds Of America」「Soul Jazz Love Strata East」「The Best Of Black Jazz Records」「Message From The Tribe」、また日本では若杉実氏が編纂したP-vineによるコンピレーションなど、その元ネタともいえる音源も順次リリースされてきた。そして、その後、ストラタ・イースト、ブラックジャズ、トライブ、カタリスト、ニンバスなど主要レーベルが作品単体で再発されるようになり、数々のレア盤が次々にCDになっていった。近年ではソウルジャズからリリースされたロイ・ブルックスなどが話題になったが、それもあくまで一例に過ぎず、そのリリースは枚挙に暇がないほどだ。そして、発掘は日本のジャズにも及んだ。スピリチュアルジャズの日本版として、板橋文夫や、森山威男にも目が向いたことが、日本のジャズの魅力の発見に繋がったことは、特筆すべきだろう。
「インディペンデント・ブラック・ジャズ・オブ・アメリカ」 (尾川雄介・塚本謙:著)
“スピリチュアル・ジャズ”や“ドロドロ・ジャズ”とも呼ばれるインディペンデントな精神を持った黒人ジャズ作品をより深く探索して網羅的に紹介。主要レーベルの全作品紹介、マニア垂涎のレア盤を多数含むディスク・カタログ、関係者インタビューや貴重な当時の資料など、圧倒的なボリュームでお届け。
【目次】
ストラタ・イースト・レコ−ド / ブラック・ジャズ・レコード / トライブ・レコード / ストラタ・レコード / ニンバス・レコード / インディア・ナヴィゲーション / ブラック・ジャズ・カタログ / 日本のレーベルから発売された作品 / ヨーロッパのレーベルから発売された作品 / コラム
【著者紹介】
尾川雄介 : 中古レコード店“ユニバーサウンズ”店主。ジャズ〜ファンク〜レア・グルーヴ全般への造詣が深く、世界屈指のレコード・コレクションを有する。その発掘力/アーカイヴ力をもってして、再発シリーズ「Deep Jazz Reality」の監修、レーベル universoundsの運営、DJ、ライターなど幅広く活動している。
塚本謙 : インディーズ・レーベルのディレクターとして、「Deep Jazz Reality」、「Return Of Jazz Funk」、「Black Jazz」、「Tribe」、「Black Ark」といった再発シリーズを手掛ける。ライター活動も少々(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)。
前置きは長くなったが、それらの流れを汲んで、00年代から現在まで、数多くのジャズを紹介しているのが、本書の監修の一人である尾川雄介だ。自身でレコードショップ ユニバーサウンズを運営するほか、DJでもあり、ライターでもある尾川は、その傍ら、Shout!を始め、P-vine、各メジャーなどをも巻き込みながら、ジャズとレアグルーヴ、ディープファンクを軸に、数々のブラックミュージックの再発CD化を手掛けている。
そんな尾川が、自身が追ってきたスピリチュアルジャズを軸に、ロフトジャズやフリージャズなどのアメリカの黒人によるインディペンデントレーベルを集め、盟友の塚本謙と共に、まとめたものが本書と言えるだろう。600枚を超えるレコードがひたすら並んでいるだけでも、圧巻だが、ジャケットの両面を全てカラーで見せ、ストラタイーストに関しては、貴重な国内盤の帯までもカラーで掲載しているところは、レコード屋ならではのアイデアと言える。全ての作品を同列に扱い、参加メンバーを全て明記しているのも、レーベルやクレジットを元に”掘ってきた”彼らならではの気遣いだろう。評論よりも、カタログ的に情報を丁寧に並べるこだわりは、掲載されているレーベルが当時の雑誌に載せていた貴重な広告やポスターの掲載なども含め、随所に見られ、執念さえ感じるほどだ。
そして、もっとも重要なのが、スタンリー・カウエル=ストラタ・イースト、ダグ・カーン=ブラック・ジャズ、ウェンデル・ハリソン=トライブの各レーベルの首謀者へのインタビューをとっていることだろう。先に記したように、クラブシーンからの数々のリスペクトが逆にこれらのミュージシャンやレーベルを過度に神格化してしまった面もあり、その実情がなかなか描かれてこなかった。本書は、これまでのクラブ出自のジャズ本では、なかなか見られなかったこれらのインディーレーベルの実像をようやく等身大で記したものとも言える。インタビューを読めば、これらのレーベルが、崇高な魂や硬派な意志のもとにあるものなどではなく、自分たちの音楽を届けるための当時のシーンの状況に適した手法の一つだったことがよくわかる。そして、彼らが、ビジネスとしてのレーベル運営の中で、それらを実に自然に行っていたことも。
それはジャズ評論家であり、Whynotレーベルのオーナーでもあった悠雅彦氏へのインタビューにも表れている。当時、スイングジャーナルなどにも数多くのスピリチュアルジャズやロフトジャズの原稿を書いていた悠雅彦が再び語る当時のNYのジャズシーンの光景は、本書のハイライトのひとつとも言えるのではないだろうか。
また、尾川、塚本のレビューやコラムにも、クラブシーンからの再評価の文脈を一貫して廃しており、肥大化した伝説を一度、剥ぎ取り、歴史として記そうとする意図を感じさせる。その姿勢は、一貫しているように思える。
本作は、クラブシーンから再評価されたジャズを、ジャズの歴史に再接続させる試みの力作だ。そして、これもジャズの歴史の見直しを求められている今でなければ、生まれなかった21世紀らしいジャズ本といえるだろう。
(なぎら みつたか)
多彩なジャンルを自在に横断し、融合をはじめた21世紀のジャズ。名門ブルーノートの「今」を体現する風雲児ロバート・グラスパーを主人公に据え、稀に見る盛り上がりを見せつつも体系的にまとめられることのなかった2000年代以降の海外ジャズ・シーンに特化して紹介する1冊。主要アーティストへのインタビューやコラム、豊富なディスク・ガイドなどで紹介。もちろん世界初の試み!
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