SIGH 川嶋氏コラム/BATHORY!

2013年10月4日 (金)

Mirai Kawashima / SIGH
Mirai Kawashima / SIGH
< 〜Bathory は Venom を知らなかったか?〜 >

BATHORY

 スウェーデンの Bathory がいかに偉大なバンドであったかについては、今更言及するまでもないだろう。バンド、という呼び方は語弊があるかもしれない。というのも Bathory というのは Quorthon という偉大なる人物の、ソロプロジェクトのようなものなのだから。まあ実際は、元祖一人ブラックと言われてはいるものの、初期の作品でも実は他のメンバーが参加していたりと、Bathory は虚々実々入り混じった、実にブラックメタルらしいファンタジーを備えているバンドであった。残念ながら、2004年に38歳の若さでこの世を去ってしまった Quorthon。早世とは言え、彼がメタル界に及ぼした影響は計り知れない。彼は数々の名作を発表しただけでなく、ブラックメタルとヴァイキングメタルという二つのジャンルを作り出したのだから。あらゆるジャンルには、オリジネーターとされるバンドがいるが、二つのジャンルのオリジネーターとなるのはそう簡単なことではない。Quorthon はそれを、38年間という短い人生の中で、易々とやってのけたのである。

Quorthon

 名作の多い Bathory だが、最も影響力を持った作品が1987年発表のサードアルバム "Under the Sign of the Black Mark" であることに異論がある人は少ないだろう。これぞまさに90年代北欧ブラックメタルの原型にして、すでに完成形。ヴォーカルスタイル、ギタートーン、ドラミング、シンセの使用に至るまで、すべてが90年代のブラックメタルそのまま。ただ Quorthon 自身は、もっと壮大な完成品が頭にあったようで、教会でのレコーディング、10人の合唱隊や14世紀の古楽器など、残念ながら実現しなかったプランを事前のインタビューで明かしている。確かにこのアルバムに本物の合唱隊が加わっていたら、さらにスケールの大きな作品になっていただろう。しかし今のままでも十分素晴らしい、というよりこれは直すところのないアルバムとして、完全に完成している作品だと思う。当時はブラックメタルなどという意識はなかったので、スラッシュメタルの名盤として、何か月も毎日毎日繰り返し聞き返したものだ。
 この作品もやはり、完全に Quorthon 一人による作品ではなく、別にドラマーが参加しているようだ。当時としてはとてつもないスピードとは言え、殆どオカズのない単調なドラミング、てっきり本職のドラマーではなく、Quorthon によるものだと思っていたのだが。そしてその稚拙なドラミングが、また90年代のブラックメタルにおいて、そのままお手本とされてしまったのだから凄い。派手にタムを回すようなドラミングでは、とても不気味な世界は演出できない。そこまで読んで単調なドラミングにしたのか、それとも単に技術的な問題だったのか。いずれにせよ偉大であることに変わりはない。ちなみに当時 Quorthon はインタビューで、「他のメンバーは精神病院に入院してしまっていない。」というようなことを言っていた。とにかく彼はファンを煙に巻くのがうまく、果たして Bathory というのは一人バンドなのかそうではないのか、さっぱりわからなかったものだ。
 いまだに信じがたいのだが、このアルバムのジャケットは絵ではなく、写真なのだそうだ。オペラのセットを借り、知り合いの有名なボディビルダーに被り物をさせ、撮影したらしいのだが、そう言われて見てみても絵にしか見えない。まあオペラのセット自体が絵だから当たり前なのかもしれないが、どう見てもボディビルダーも絵にしか見えないのは何故だろう。
 まさかブラックメタル好きで "Under the Sign of the Black Mark" を聞いたことがない人はいないと思うが、万が一手にしたことがなければ今すぐに注文を。これが90年代、特にノルウェーのブラックメタルがお手本とした作品だ。当然通常のスラッシュメタルファンでも楽しめること間違いなし。

 Bathory がオリジナリティを獲得したのは、その1枚前、85年リリースの "The Return" からであろう。これも 3rd ほどではないにしても、90年代以降のブラックメタルへの影響力は計り知れない。壮大さは 3rd に譲るとしても、不気味さにかけてはこちらの方が上かもしれない。当時の Bathory のキャッチフレーズが "Zero Melody" だった。ゼロメロディ。今じゃそんなバンドいくらでもいるが、当時はそのキャッチフレーズだけで胸が躍ったものだ。単調なリフ、やたらと多用される頭打ちのドラミング、そして邪悪すぎるヴォーカル。このアルバムも実際はベーシスト、ドラマーが参加しており、Quorthon の完全なソロではないようだ。

 で、今回一番話題にしたいのが、その前年、84年のデビューアルバム、タイトルもそのものズバリ "Bathory"。このアルバムは、このアルバムで素晴らしい。私も大好きだ。ただ 2nd、3rd、もしくはそれ以降の作品と比べると、Bathory 独自の世界を確立しているとは言い難い。もっとストレートに言えば、明らかに Venom の影響下にある作品である。しかし、何故かはわからない。何故かはわからないのだが、Quorthon は最後まで Venom の影響を受けたことを認めなかったどころか、Venom のアルバムなんて聞いたことすらなかったと言い張り続けたのだ! 1st アルバム発表後、初めて Venom を聞き、特に "Black Metal" が気に入ったことについては認めている。だが、1st アルバム作成前は、Venom なんて聞いたことはなかった、Venom なんかの影響は一切受けていないという点については、絶対に譲らなかった。

VENOM

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「Bathory を始めた頃は、VenomSlayer も聞いたことがなかったね。信じてもらわなくても結構だけど。俺はただ、。Black Sabbath の雰囲気と、Motorhead のエネルギー、それに G.B.H. のスピードをミックスしただけさ。」

元来 Quorthon は口も悪く、Celtic Frost「地球上で最も嫌いなバンド」と公言し、"Celtic Compost" = ケルトの肥料 と揶揄したり、Destruction「名声も商業的成功も無い、音楽的にも最低なバンド」とコキおろすなど、他のスラッシュメタルバンドへの態度は厳しかった。おそらくは、相当なライバル心を持っていたのだろう。しかし本当に Venom とはまったく関係なく、Bathory は結成されたのだろうか。普通に考えれば、あの当時スラッシュメタルバンドを始めるにあたり、Venom を聞いたことがないなんて有りえるはずがない。それに、Bathory が Venom の影響下にあったことについては、いくらでも証拠は挙げられる。あくまで状況証拠だが。

1. Bathory というバンド名

 まずはそのバンド名。Bathory という名を聞けば、スラッシュファンなら誰でも Venom の名曲、"Countess Bathory" を思い出すだろう。Bathory の結成は83年。それに対し、"Countess Bathory" 収録の Venom のセカンドアルバム、"Black Metal" は前年の82年リリース。Venom の曲名からバンド名を拝借したと考えるのが妥当な線だろう。しかし Quorthon 自身は、ロンドンにあるロンドンダンジョンという、有名な蝋人形や拷問道具などが置いてある場所を訪れた際、Elizabeth Bathory の蝋人形を見て、バンド名を思いついたのだと言い張っていた。うーん、そうですか。そりゃまあ Elizabeth Bathory という人物、歴史上の残酷物語などには必ず登場する有名な女性ですからね。Venom を聞いたことがなくても Elizabeth Bathory を知っている可能性は十分にありますけど。

2. アルバムのアートワーク

 アルバムジャケットのアートワークを見てみよう。悪魔を象徴するヤギの図柄は、Venom の 1st "Welcome to Hell"、2nd の "Black Metal" と完全に共通するもの。特に "Countess Bathory” 収録の "Black Metal" との相似性はかなり高い。微妙に角度が違うとは言え、この一致を偶然と言い張るのは厳しすぎる。誰がどう見ても Venom を意識しているとしか思えない。だけど、じゃあヤギは Venom の専売特許なのですか?と詰問されると、それはまあ確かに違いますけど。Angel Witch などは Venom より前にヤギ使ってますよね。Bathory だけを Venom のパクリだと糾弾するのは不公平かもしれませんね。

3. 収録曲のタイトル

 では曲名はどうだろう。Bathory の 1st 収録曲のうち2曲、つまり "Sacrifice" と "Raise the Dead" は、まったく同名の2曲が Venom の "Black Metal" に収録されている。さらに "In Conspiracy with Satan" も、Venom の "In League with Satan" からインスパイアされたとしか思えない。収録曲8曲のうち、3曲が Venom のそれと同じ、もしくは近い。偶然として有りえるだろうか?むしろ「Venomが大好きです!」と告白しているようにしか思えないのだが。もちろん "Sacrifice" などという曲名はありきたりですし、同名異曲はいくらでもありますよ。"Raise the Dead" もまあそれほどオリジナリティ溢れる曲名ではないです。偶然だと言い張られれば、論破するのは難しいですけど。それにしても普通3曲も曲名かぶりますかね?

 余談だが、Bathory のこのアルバムには "Necromansy" という曲が収録されている。普通ネクロマンシーのスペリングは "NecromanCy" だ。これ、アルバムの裏ジャケを Quorthon 自身がデザインしている時に、「C」のレタリング文字が無くなってしまったので、仕方なく「S」にしたのだそうだ。レタリングと言っても、今の若い人にはあまりなじみがないかもしれない。私の世代だと、若い頃カセットテープに曲名を書く際、手書きではなく、透明のシートに印刷されている文字を裏からコインなどでこすって転写する便利(でもないか。当時は便利だと思ったものだが。)なものを使っていた。それを使うと実に綺麗なカセットテープのケースができるのだ。で、確かにアルファベットの A〜Z というのは当然均等に需要があるわけではなく、QやZみたいに全然使わない文字もあれば、母音のようにすぐ無くなってしまうものもある。Quorthon も同じ苦労を味わっていたかと思うと、実に心が温まる。(とは言えこれ、個人所有のカセットテープではなく、オフィシャルなアルバムのリリースなのだから、もう一セットレタリングシートを買ってくれば良かったと思うのですけど。)

4. 音楽性


Quorthon
 そして肝心の楽曲。一番顕著なのは、その "Necromansy" だろうか。これはメロディこそ違え、メインリフのリズムが "Welcome to Hell" そのまま。しかもサビに至っては、リフまでもが "Welcome to Hell" そのもの。"Reaper" は "Live like an Angel" + "Acid Queen" と言ったところか。"Armageddon" は "Witching Hour" あたり? "War" はリフからサビの感じまで、相当 "Black Metal"だ。もちろんパクリなどではないですよ。あくまでインスピレーションの領域です。それに、Venom も Bathory と同じく Motorhead やハードコアパンクから影響を受けていた訳ですから、たまたま出来上がったものが近くなってしまったという可能性も0%ではないです。

 さて皆さんは、これだけの状況証拠の積み重ね、どのように感じられただろう。所詮は状況証拠でしかないだろうか?状況証拠とは言え、さすがにこれだけ数が集まれば、すべてを偶然として片づけるのは難しいのではないか?いずれにせよ、Quorthon は最後まで Venom からの影響を認めなかったし、インタビューでその点を指摘されると、激怒すらしたという。

 では真相はどうだったのだろう。Quorthon は本当に Venom を聞いたことがなかったのだろうか。上に挙げた数々の一致はすべて偶然だったのか。確率論的にはほぼゼロであろうが、完全にゼロとは証明できない。もしかしたらそんな偶然も、この世にはあるのかもしれない。ところが残念ながら、Quorthon が嘘をついていたことが、意外なところからバレてしまった。Bathory 結成当時のドラマー、Jonas Åkerlund があっさりと、「え? Bathory っていう名前は Countess Bathory からとったよ。当時皆でよく Venom を聞いたなあ。」と白状してしまったのだ! Quorthon が何十年にも渡り、必死に話を作り上げ、その作り話を押し通してきたというのに!すべてが水の泡である!!

BATHORY

 何故 Quorthon が、そんなバレバレの嘘をつき通したのかはわからない。それだけプライドが高かったのかもしれないし、丸出しの嘘をつき続けることによって注目を集めるというパフォーマンスだったのかもしれない。Bathory は Venom よりも後発とは言え、その名声、影響力は同等、もしくはそれ以上と言っても良い。もはや Venom に引け目も嫉妬も感じる必要はなかったはず。ちなみに Quorthon の不可解な発言は他にもある。例えば Viking Metal への転向については、「多くの奴が Manowar の影響で音楽性を変えたと思ってるようだが、俺は Manowar のレコードなんて一枚も持っていない。」と発言している。Viking Metal 期の Bathory と Manowar の音楽性の相似は、Venom と Bathory の1st程ではない。とは言え、Viking Metal期 Bathory の写真などは、かなり Manowar っぽい気もする。さらに、Bathory の初代ドラマーが大の Manowar ファンであり、Manowar のリズムが初期の Bathory に大きな影響を与えたことは認めているのだ。Venomの 件を考えると、わざわざ Manowar に言及して影響を否定するなんて、実はこちらもと勘繰りたくなる。それからもう一つ、Quorthon は歴史的名盤どころか Black Metal という一ジャンルを創出したアルバム "Under the Sign of the Black Mark" が大嫌いだと言うのだ。「Marshall ではなくて Rockman の糞みたいなアンプやギターシンセを使ったからな、大っ嫌いなアルバムだ。それにレコーディング中もずっとベロベロに酔っぱらっていたし。」あの Black Metal のトーンを定義づけたギターの音色、それにエクストリームメタルにおけるシンセサイザーの使用。こんな偉業を無碍に否定しているのだ!本気なのだろうか、それとも偉大なアルバムへの賞賛に対する照れ隠しだろうか?ワーグナーやベートーヴェンなどが大好きだった Quorthon は、その荘厳な世界観を Bathory に持ち込もうとした。そしてそれは我々ファンにとっては大成功に思える一方、Quorthon の頭の中では、もっともっと壮大な完成形が鳴っていたのかもしれない。

Qurthon (1966-2004)

いずれにせよ、残念なことに当の Quorthon はもうこの世にいない。これらの発言の真意を確かめる術は最早ない。Quorthon がもう少し長生きをしたら、いつの日か、Venom を聞いたことがなかったって?ああ、あれは冗談だよ、もちろん Venom からの影響は大きかったね。」なんて発言する日が来たのかもしれない。早世が実に悔やまれる。

川嶋未来/SIGH
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