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『寄り添う音、重なる想い。』 発売記念対談

2013年9月9日 (月)


寄り添う音、重なる想い


ローソンHMV限定発売コンピレーションCD

 V.A. 『寄り添う音、重なる想い』


寄り添う音、重なる想い
ピアノとヴォーカルが織りなす美しい調和。親密な空間に流れるリリシズムにそっと包まれる。
「ピアノとヴォーカルが織りなす美しい調和」をテーマに掲げ、瑞々しく透明感にみちたピアノ・トリオや、穏やかでメランコリックなピアノ・ソロ、そしてハートウォーミングなヴォーカルなどを集めたコンピレイション。アリ・バホーゾ/ルビー&ザ・ロマンティック/キャロル・キング/サイモン&ガーファンクル/ヘンリー・マンシーニの素晴らしいカヴァーをはじめ、さらにジャズ・ヴォーカリストのサラ・ガザレクによる人気ナンバー「Blackbird/Bye Bye Blackbird」のセルフ・カヴァー(Quiet Corner Version)も独占収録。

1. Blackbird/Bye Bye Blackbird (Quiet Corner Version) - Sara Gazarek & Josh Nelson *独占収録 / 2. Now At Last - Joe Barbieri / 3. Love Marks - Fleurine / 4. Summer Rain - Triosence / 5. Pra Machucar Meu Coracao - Peter Eldridge / 6. Debussy - Aram Sedefian / 7. La Tour De Nesle - Pierre Barouh / 8. Our Day Will Come - Armen Donelian / 9. Vienna Blues - Laurie Antonioli / 10. Songs & Lullabies- Fred Hersch / 11. Better Than - Gretchen Parlato / 12. Nica's Dream - Romain Collin / 13. Will You Still Love Me Tomorrow - Christine Tobin & Liam Noble / 14. Yesterday - Rene Urtrege / 15. Someday My Prince Will Come - Meredith d'Ambrosio / 16. Bridge Over Troubled Water - Mat Wilson / 17. Moon River - Melissa Stylianou





ピアノとヴォーカルの美しい調和

 川岸を寄り添いながら歩く男女の姿。まるで映画のワン・シーンを切りとったような趣を醸しだすロマンティックなジャケット写真。そんなモノクロームの情景に淡い色彩を描く音楽たち・・・。“Graceful Harmony- Piano and Vocal”――HMVが提案する心鎮める音楽スタイル“クワイエット・コーナー”が今回お届けする、こちらのCDは、「ピアノとヴォーカルが織りなす美しい調和」をテーマに掲げ、瑞々しく透明感にみちたピアノ・トリオや、穏やかでメランコリックなピアノ・ソロ、そしてハートウォーミングなヴォーカルなどを厳選して収録したコンピレイションです。内容はジャズを中心としていますが、ボサノヴァ/フレンチ・ミュージック/クラシック/映画音楽といったエッセンスも含んでいますので、ジャズ・ファンのみならず、幅広く良質な音楽を探しているリスナーの方にもおすすめです。そして2012年12月に発売されたコンピレイション『Pastoral Tone』の続編としてもお楽しみいただけます。どんな日常のシーンでも、傍らに素敵な音楽が寄り添ってくれれば、きっといつもより豊かな時間が流れることでしょう。このコンピレイションが、さりげなく特別な瞬間を演出してくれるようなBGMとなれば、この上なく幸いです。

(ローソンHMV 山本勇樹)




『寄り添う音、重なる想い』 発売記念対談
高木洋司 (Pastoral Toneレーベル・プロデューサー) × 山本勇樹 (ローソン HMV)



山本勇樹(以下、山本):2012年の12月に『Pastoral Tone』というコンピを高木さんと一緒に制作して、それから次の企画を立てたのがこの『寄り添う音、重なる想い。』になるわけですね。僕の中ではこの作品は『Pastoral Tone』の続編の存在でもあります。

高木洋司(以下、高木):今回から「クワイエット・コーナー・シリーズ」という名も付いていますね。

山本:そうですね、このシリーズはいわば読むQuiet Cornerではなく、聴くQuiet Corner。もちろん読みながら聴くのが一番理想的なので、そうしてもらいたいです!

高木:『Pastoral Tone』はしっとりしながらも、わりとカラフルな曲が集まって一枚に仕上がったのですが、次回作はもっと絞ったコンセプチュアルなものにしたいと思っていました。価値観をさらに徹底して、イメージとしてはモノクロ的というか。山本さんとのコラボでは、今回で4枚目になるわけですが正直クオリティーは一番高いと思います。もう何度も聴いていますが、全然飽きませんね。

山本:高木さんと何度かミーティングを重ねて、コンセプトを“ピアノとヴォーカル”に決めてから一気にイメージが膨らみました。題名も前作とはガラッと変わって日本語にしました。

高木:ジャケット・デザインも含めて、テーマが伝わりやすくなりましたよね。テーマは“ピアノとヴォーカルの美しい調和”で、この判りやすい定番の組み合わせでどこまで深くいけるか、ピアノとヴォーカルお互いが最高の形で寄り添う世界観をどれだけ表現できるのか。簡単なテーマだけに難しいかなと思いましたが山本さんが良い選曲をしてくれました。ただジャケにピアノとヴォーカルをそのまま出すのもちょっとストレート過ぎるというか、いたずらに開き直っているようなので(笑)、男女が川岸を寄り添って歩く写真を選びました。

山本:まるで映画のワンシーンのようですね。だからいろんな登場人物が出てくるストーリーではなくて、ある2人のストーリーのような、ある種パーソナルな内容かもしれません。

高木:そうですね。やはりカラフルではなくモノクロ的なんです。確かにジャケもサウンドもシネマティックな雰囲気は感じられますよね。

山本:今回は選曲のテーマも、タイトルもジャケのイメージもスタートラインできっちり高木さんと僕の中であったので、進めやすかったですよね。その中で高木さんもきれいなピアノ作品をリリースしていたので、よりゴールが見えてきた感じでした。

高木:そうですね。ちょうどそのタイミングでトリオセンスの新作とかサラヴァの復刻盤「ピアノ・パズル」を手掛けていたのですが、その影響は自分でも大きかったですよね。「とにかくピアノだ」という感じでした(笑)。あと山本さんはQuiet CornerでECMの特集を組んだりしていましたし、ここ数カ月はいろいろとシンクロしてましたね。このコンピの中にはヴォーカルもあればピアノ・トリオ、ピアノ・ソロも混ざって選曲されていますが、通して聴くとまるで全体で一曲のように聴こえる不思議な魅力があります。

山本:なるべく全体の色合いとか温度感は一定にしたいと思いました。だからこそトピックになる、芯になるような曲を入れたくてすぐに思い浮かんだのが、サラ・ガザレクだったんです。『Pastoral Tone』での彼女の曲も輝いていたし、それで今回のコンピのためにぜひ何か特別に録音してほしいなと、高木さんに相談しました。

サラ・ガザレク 高木:いや〜、いきなりハードルが高かったですけど(笑)、僕もそれは良いアイデアだと思いました。ただ嘘のようなタイミングでサラの来日公演が決まっており、ちょうど今年の5月でしたかね。彼女が来日した時に山本さんと一緒に楽屋で本人に直接オファーして、実際に企画内容の話が説明出来たことがとにかく大きかったです。ピアニストのジョシュ・ネルソンもいたので、その場で2人から前向きな返事をもらえました。演奏する本人たちが企画に賛同してくれたので、そうなるとあとはスムースでした。

山本:じゃあ彼女に何を歌ってもらおうと考えたときに、思い浮かんだのが「Blackbird / Bye Bye Blackbird」でした。これは彼女がファースト・アルバム『Yours』に吹きこんだ曲で今でも人気の高いですし、ライヴでも盛り上がっているのを観て、ぜひピアノとのデュオでしっとり歌ってほしいなと。

高木:山本さんからテンポとかリズムとか全体の雰囲気とか細かいリクエストをもらって、出来上がったものを聴いたら、それに近い仕上がりで驚きましたね。それにサラの表現力がファースト・アルバムに比べたらグッと深まっていたのも嬉しかったです。

山本:僕はサラの歌声が大好きなので、このコンピを企画した時から一曲目は彼女にしたいと考えていました。だからこのセルフ・カヴァーのヴァージョンを聴いてしまったら、もうこれ以外には選べないくらい素晴らしくて。イントロのピアノなんてまさにコンピの幕開けにぴったりです。もう既にこの曲を知っているファンの人もぜひチェックしてもらいたいです。

高木:そしてこのサラから続く流れもまたコンピを象徴していますよね。とてもいい始まりだと思います。「Quiet Corner」のファンであればすぐに気に入ってもらえると思いますよ。2曲目はジョー・バルビエリがブロッサム・ディアリーの持ち歌を歌った「Now At Last」、これはブロッサム繋がりですね。サラもブロッサムへのトリビュート作品『花とミツバチ〜ブロッサムへ』を作っていますから。

山本:そうですね。ジョー・バルビエリは繊細で中性的な部分も持っているシンガーですから、こういうカヴァーはしっくりはまりますよね。

ジョー・バルビエリ 高木:僕はここでピアノを弾いているアントニオ・フレーザが本当に好きなプレイヤーなんです。今までほとんど全てジョーの作品のアレンジも行っている人物で、ジョーとの相性はぴったりです。ジャズが基本の人ですがとにかくスコア作りが凄いし、弦の使い方とか本当に品があります。そう、品の良さがあるんですこの人は。この演奏なんかもまさに彼の持ち味が出ていますね。文字通りいっしょに歌っているようです。

山本:そして続くのがオランダのヴォーカリストのフルーリーンです。ピアノは旦那さんのブラッド・メルドーですね。途中の粒立ちのよいピアノ・タッチはいかにもメルドーらしいですよ。

高木:いや〜、実は前回『Pastoral Tone』で収録したルバ・メイソン同様に、以前この曲が収録されたアルバム『San Francisco』を国内盤で出そうとして実現できなかったのですが、今回1曲とはいえようやく陽の目を見ることができました。このパターンが定着しつつありますね (笑)。ここでのピアノは、もちろんブラッド・メルドーという個性派なので1曲目、2曲目とは全然雰囲気が違いますが、ヴォーカルに寄り添うような演奏という点では共通していますよね。ヴォーカルのムードとも一体化しています。この後はブラッド・メルドーの影響を受けたとおもわれるピアニストも登場しますし、もうこの3曲の流れである意味コンピは完成されたと思います。

山本:かなりしっとりしたオープニングだとは思いますけど、僕はこういったコンピの始まり方が好きですし、毎日の生活の中でBGMにするには、これくらいの方がちょうどいいと思います。

高木:音楽を沢山聴いている云々ではなく、毎日の生活とかに自分のきちんとした価値観をもっている大人の方にも聴いてほしい作品だと思いますし、きっとそういう方たちは気に入ってくれると思います。アート・ワークもブックレットにしてもかなり隅々まで丁寧に作りましたからね。

トリオセンス 山本:そして静かな三曲に続くのは、全体の穏やかなトーンの中でもアクセントになる存在になったトリオセンスです。冒頭でヴォーカルが三曲続いたので、次はインスト、そうであればやっぱりピアノ・トリオかなということで、この曲を選びました。

高木:この曲は人気ありますよね。冒頭のカリンバでコンピの色調を少しだけシフトしつつ、続く演奏はトリオセンスらしい田園風景をイメージさせる音像ですね。コンピレーションは、あるテーマを守りつつも濃淡が必ず必要ですが、これはぴったりです。それにしても大きなスケール感を持ったゆったりとした演奏です。これは例によってECMのレインボー・スタジオで録音されましたが、このコンピの裏テーマ的なECMのような世界観がよく出ていると思います。


ジョー・バルビエリ
『二人だけの小さな庭』


二人だけの小さな庭 “イタリアのカエターノ・ヴェローゾ”ことイタリアのSSWジョー・バルビエリ。ボサノヴァ、クワイエット・ジャズ、室内楽、イタリアン・シネマなどをキーワードにした南イタリアらしい甘美なメロディと、ラテン圏音楽全般を網羅したミクスチャー感覚は狂おしいほど切なく甘いサウンド。最新作『静かに、息をするように』、そして入手困難な旧作『夢のような家で、君と』『素直な気持ちで』からのセレクト。さらにこのアルバムのために書きおろし新曲4曲に加え、国内未発ライヴ音源から1曲と事実上のベスト・アルバム的な内容。


トリオセンス
『Turning Points』


Turning Points 哀愁の美旋律とリリシズムがロマンティックに疾走する“ユーロ・ピアニズム第3世代”トリオセンス待望の最新作!キース・ジャレットのブライトネスな面を感じさせつつ、欧州北部らしい陰影も忍ばせるベルンハルト・シューラーの美しいオリジナル曲(M-13のみクルト・ワイルのスタンダード)が、澄んだ空気のような音で奏でられる極上の一枚。身悶えするようなバラッドだけでなく、従来以上にダイナミズムも獲得したまさに彼らのターニング・ポイント盤!






山本:あと、高木さんとコンピを作るからには、欠かせない存在であるサラヴァ・レーベルですね。

高木:サラヴァにはいいピアノの曲が多いですからね。6曲目、7曲目がサラヴァ音源で、そして次の8曲目、これはサラヴァ音源ではありませんが、このアーメン・ドネリアンも不思議とサラヴァの音の連続に聴こえてくるんですよ。調べたらアーメンってアルメニア人なんですね。実は6曲目のアラム・セダフィアンもアルメニア人なんです。7曲目のピエール・バルーはお父さんがユダヤ系のトルコ人です、だからもしかして山本さんここは何か東ヨーロッパ〜西アジアをルーツに持つ人たちを意識して選曲したのかなと。

山本:いやそれは偶然です(笑)。でも今回のコンピは、単なるジャズ・ヴォーカルとジャズ・ピアノを集めたコンピにはしたくありませんでした。それでどこかにヨーロッパ的なクラシカルな雰囲気も出したくて、それがサラヴァの持っている世界観だったんですよね。ピエール・バルーの「La Tour De Nesle」とかはどこか教会のような雰囲気ですし、アラム・セダフィアンもその名の通りドビュッシーに捧げた曲ですし。

高木:バルーの曲でピアノを弾いているのはモーリス・ヴァンデですね、あのイントロもいいですよね。教会の鐘に同調するような美しいピアノの音です。これが延々と続く気持ち良さ、そこにピエールの温かい声が調和する感じはたまりません。

山本:ジャズだからバップとか4ビートとか、そういう考えは全然なくて、むしろ個人的には淡々を綺麗な音が続く方がしっくりくるんですよね。

高木:よくわかります。だからこのコンピは山本さんのようにジャズもワールド・ミュージックもよく聴いている人だからこそ作れたと思います。後半のルネ・ユルトルジェのビートルズ「Yesterday」のカヴァーも含めて今回はサラヴァの曲が絶妙にはまりましたね。

山本:そういった意味では、以前作った『Saravah For Quiet Corner』にも通じるかもしれません。そこで選んだジョルジュ・アルヴァニタの「Contine」とかも、もしここに入っても何ら違和感ないですから。

フレッド・ハーシュ 高木:あと僕が気になったのはフレッド・ハーシュですね。これはたぶん山本さんが、このコンピ中では一番好きな曲なのでは?と思いました(笑)。ちょうど全体の真ん中の位置ですし、音楽的にも前半後半の重要なブリッジになっていて、このコンピ全体を象徴しているようです。先日発行されたQuiet CornerのECM特集号にも自然と繋がりますよね。

山本:まさにその通りです!このハーシュとノーマ・ウィンストンの「Songs & Lullabies」は特別な存在です。これが収録されているアルバム『Songs & Lullabies』も素晴らしい内容ですし、いわばQuiet Cornerを象徴するような曲でありアルバムですね。

高木:なんとも言えない静寂の世界観ですよね。ハーシュとノーマがずっと対話をしていますよね。ハーシュのピアノ・ソロになっても、そこにノーマの声があるように弾いて対話をしています。それこそ山本さんがQuiet Cornerの誌面でも書いていたように“音が無い所でも音が鳴っている”、つまりこれは2人が心から寄り添って築き上げた世界観なので、無音の箇所ですら強い主張が鳴っているんですね、たぶん。ここからコンピは後半になるわけで、とても大事なポイントになったと思います。

山本:個人的にもこの曲から次のグレッチェン・パーラトの「Better Than」へのつながりは気に入っています。淡い色合いが少しずつ深くなっていくような感じ、それはグレッチェンの声を支えるテイラー・アイグスティとかケンドリック・スコットたちのサポートの影響でもあるんですけど。『Pastoral Tone』と同じく、グレッチェンは今回も重要な役割をしてくれました。

グレッチェン・パーラト 高木:僕にとってこの「Better Than」はかなりフェイヴァリット・ソングです。この曲でテイラーが弾いているフェンダー・ローズも聴きどころです。2月のブルーノート東京の公演でこの曲をやった際のアレンジも最高でしたよね。もうほとんど曼荼羅というか、気持ち良い密教のようでした(笑)。この曲での揺らめくヴォーカルとフェンダー・ローズは、前曲のハーシュとノーマを受け継いでいます。そしてケンドリック・スコットのドラムも印象的です。このスロウなタイム感、信じられないですね(笑)。そうそう、11月にはグレッチェンの地元ニューヨークでのライヴCD+DVDを発売しますよ。テイラー・アイグスティ、アラン・ハンプトン、そしてこのケンドリック・スコットたちがどうやって演奏しているか確認できます!そしてこのケンドリックは、その次の曲にもつながってきます。

山本:ニューヨークつながりで次に選んだのがロマン・コリンのピアノ・トリオですね。こちらもドラムはケンドリック・スコット。ジャズの定番「Nica's Dream」で、この低温気味のアレンジはクールですよね。

高木:ピアノ・タッチも抑制されているし、やっぱりケンドリック・スコットのスティックさばきがいいですね。前半の静かな盛り上がりがトリオセンスなら、後半はこのロマン・コリンですね。コンピ全体は同じテイストの曲が並ぶよりも、こういうブリッジになる曲が入っていると聴いていて飽きないですよ。

山本:ロマン・コリンはニューヨークの若手の中でも注目のピアニストですよね。ロバート・グラスパーとのコネクションもあるし、本当にこの界隈は充実していますね。

高木:そして後半は名曲のカヴァーが並びますね。特にラスト三曲はもう「大人のための子守唄」ですね(笑)。メレディス・ダンブロッジオも淡々としているけど存在感ありますね。弾き語りですけど、ピアノもつぶやいているように聴こえますよ。いやーこれは本当に素晴らしい。

山本:このコンピに入っているのは一般的にはあまり知られてないアーティストばかりだと思うんです。だから耳で聴いたときに幅広いリスナーの人たちが反応してくれたらいいなと思って、こういうカヴァー曲を選びました。「いつか王子様が」「明日に架ける橋」「ムーン・リヴァー」なんですけど、でもありがちなカヴァーではなくて、どれも本物の価値があるカヴァーでもあると思います。


フレッド・ハーシュ / ノーマ・ウィンストン
『Songs & Lullabies』


Songs & Lullabies 静寂を奏でるピアニスト、フレッド・ハーシュと、英国を代表するヴォーカリスト、ノーマ・ウインストンとの奇跡の邂作。リリシズムの境地をみるピアノ=ヴォーカルの新しい可能性を探ったアルバム。ゲストにはヴィブラフォン奏者のゲイリー・バートンが参加している。 まさにECMのような透明感に満ちあふれた世界観。音の隙間じゃ行間にさえながれる抒情性とメランコリア、キース・ジャレットやビル・エヴァンス、最近であればカルロス・アギーレやアンドレ・メマーリにも通じる世界観。



グレッチェン・パーラト
『Lost & Found』


Lost & Found シンプリー・レッド(M-1)、ウェイン・ショーター(M-4)、パウリーニョ・ダ・ヴィオラ初期名曲(M-7)、ローリン・ヒル(M-11)、マイルス・デイヴィス(M-13)と相変わらず選曲センスは抜群。そしてオリジナル曲はため息が出るほどの美しさ。前作のセルフ・リミックス(M-10)も収録。プロデュースはロバート・グラスパー(p)が担当。ジャズやゴスペル、ヒップホップ、R&B、オルタナティブ・ロックなどのエッセンスを取り入れた斬新なスタイルで、新世代ブルーノート・レーベルの象徴らしくモダンなアトモスフィアに満ちたサウンド。グレッチェンのウィスパー・ヴォイスとの調和が素晴らしい。






高木:どの曲も、音も声も消えていくような雰囲気ですよね。マット・ウィルソンはピアニストではなくてドラマーなんですけど、このブラシも繊細にピアノに寄り添っていますよね。このブラシの音も消えていきますよ。この感じがいいですね。大体この「明日に架ける橋」って、アレンジがドラマティックになりすぎの傾向がありますが、これはどこまでもおだやかな雰囲気で絶妙ですね。

山本:13曲目のクリスティーン・トービン&リアム・ノーブルのキャロル・キングのカヴァー「Will You Still Love Me Tomorrow」もそうなんですけど、60年代とか70年代のポップスやSSWの名曲ももはやジャズの定番ですからね。メロディーを引き立たせるにはこういうシンプルなアレンジが一番ですよ。

メリッサ・スティリアノウ 高木:ラスト・ソングの「Moon River」も気持ちいいですね。これは企画の段階で山本さんからリストをもらって、はじめにこの曲を聴いたときから絶対に最後の位置だなと確信しました。曲が終わってから一瞬の静寂があって、オルゴールが鳴りだす演出とかたまらないですよね。あと、ここでピアノを弾いているジェイミー・レイノルズはフレッド・ハーシュの弟子みたいですね。だからブラッド・メルドーと兄弟弟子。

山本:いろんなところで繋がっていますね。とにかくこの「Moon River」を最後に持って来れたのは嬉しいですね。『Pastoral Tone』ではキャロライン・レオンハートの瑞々しいヴァージョンを入れましたし、ここで相応しいのは絶対にメリッサ・スティリアノウのこのヴァージョン。

高木:いや〜、70分あっというまに聴いてしまいました(笑)。秋の夜に聴くにはこれぴったりじゃないですか。音楽の贅沢というものを実感できますよ。


ローマン・コリン
『Calling』


Calling デビュー作でも、サンプリングした音とのシンクロなど、ピアノの繊細な響きと斬新なアレンジが話題になっていたが、本作も基本的にその路線の延長線上。北欧のエレクトロなサウンドなども見え隠れする演奏でシュールな幕開け。と、同時に、キャッチーなメロディも魅力である。シュールであるが、混沌というものではなく、楽曲はメロディアス。M-3 辺りには究極のピアノ・トリオの進行形的な音があり、EST の延長線上にあるピアノ・トリオを好むファンにもお薦め。またM-4 辺りには、不思議な牧歌的ムードも漂うトリオ中心の展開。この振り幅は一体どこから来るのか、不思議なアーティストである。



メリッサ・スティリアノウ
『Silent Movie』


Silent Movie 1999年に『It Never Entered My Mind』でデビューしたカナダ出身の女性シンガーMelissa Stylianou (1976年生まれ)の4枚目のアルバム。“Smile”, “Moon River”といったおなじみのナンバーからJames Taylor (“Something in the Way She Moves”), Paul Simon (“Hearts and Bones”) Johnny Cash (“I Still Miss Someone”), Joanna Newsom (“Swansea”)のカヴァーまで収録し、伸びやかでクセのない彼女の声質と、温かみのあるサウンドによる好感度100%な女性ヴォーカル作品。






山本:あと今回はこのコンピのために、ピアニストで作曲家でもある平井真美子さんに素敵なコメントをいただくことができました。透明感のある綺麗なピアノを弾く平井さんのコメントは何より説得力があると思いますよ。平井さんのファンにもこのコンピをぜひ聴いてもらいたいですね。


“エスセティックな響きに誘われてゆらりゆらり。
架空の物語を瞼にうつすこの感覚、恋の予感に似ている。心に忍び込むラブレターのよう・・・。”

平井真美子(作曲家/ピアニスト)


高木:平井さんのコメントもコンピに寄り添っていますね。何もリクエストはしていないのに、シネマティックな文章です。

山本:はい、やさしく沁みこんでくる言葉ですね。今回は本当に自分でも納得のいくコンピが出来たと思います。ぜひ高木さんとはまた何か一緒に作りたいですね。

高木:ぜひやりましょう。でも今回でかなりハードルが上がっちゃったなー(笑)。これより良いものをまたごいっしょに作れるよう色々と充電します(笑)。






【ローソンHMV限定盤】 チェット・ベイカー紙ジャケ復刻 
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【ローソンHMV限定盤】 『Pastoral Tone』 
くつろぎの空間にとけこむナチュラルでジャジーな音楽を集めたHMV限定コンピ『Pastoral Tone』の発売を記念して特別対談が実現。



【ローソンHMV限定盤】 「Come Rain Or Come Shine」 
信頼のレーベルMUZAKよりHMV限定コンピが登場。「雨と晴れ」をテーマにジャズ/ボサ/ソフトロックなどを選曲したクワイエット&スマイリーな2枚組。両面ジャケットの豪華仕様!


クワイエット・コーナー Vol.11 〜ECM特集〜 
時とジャンルを超えて心の琴線に響く名曲たち。HMVがお贈りする新たなる音楽との出会い。特集はECM。伊藤ゴロー氏の寄稿文も掲載中。