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【特集】 キース・ジャレット ”スタンダーズ” トリオ

2013年5月8日 (水)


キース・ジャレット・スタンダーズ・トリオ30周年
キース・ジャレット・スタンダーズ・トリオ 結成30周年
トリオでの”最後”の来日公演を目前に新作『サムホエア』が日本先行発売!!


 キース・ジャレット 『サムホエア』

キース・ジャレット、ジャック・ディジョネット、ゲイリー・ピーコックという巨匠3人による、現代ピアノ・トリオの最高峰、通称“キース・ジャレット・スタンダーズ・トリオ”結成30周年作品。歴史的名盤『ケルン・コンサート』をはじめとして数多くの名演を残したキース・ジャレットの代名詞ともいうべき即興演奏をメインとしたソロ・ピアノとは異なり、スタンダード楽曲メインのキース・ジャレット・トリオの作品は、毎作品キースの既存のファンはもちろんジャズ初心者にも馴染みやすい内容になっています。トリオの作品は2009年にリリースされた『イエスタデイズ〜東京 2001』以来約4年ぶり。今回の作品は2009年7月11日、スイスのルチェルンにて行われた公演を収録した最新ライヴ音源。 (メーカーインフォより)





もうひとつの表現域としてのライヴの場が存在

中山康樹(音楽評論家)


 最近は、キース・ジャレット『サムホエア』ウエイン・ショーター『ウイズアウト・ア・ネット』のあいだを行ったり来たりしている。きのうはキース盤の《トゥナイト》を聴き、次にショーター盤の《ペガサス》を聴いた。そしてショーター盤について考えた。ショーターの『ウイズアウト・ア・ネット』は超ド級の傑作だが、わずかに疑問が残る。だからといって評価が下がるわけではないが、ぼくが考えていることとは、つまりはこういうことだ。

 『ウイズアウト・ア・ネット』は、ライヴ音源を再構築することによって、1枚のアルバムとして完結した世界観をつくり上げた。スタジオとライヴの狭間にある、異質にして唯一無二のサウンドというべきか。したがって大きくライヴ・レコーディングとは謳われず、最後の曲はフェイドアウトという手法で閉じられる。疑問に思うのは、では同様の手法を用いれば、超ド級の傑作が無数につくられるのではないかということだ。水準以上のライヴ音源を素材に新たに再構築して順次アルバム化していけば、それこそ傑作や名盤を毎日のように生み出すことだってできる。だから超ド級ではあるけれど、ショーターにとっては奇跡でもなんでもなく、これが「フツーの演奏」なのかもしれない。

 しかし、とここで立ち止まる。ショーターは、あえてこのような手法をとった。それはライヴでしか生まれえない瞬間的な創造の爆発をアルバムという「かたち」のなかに封じ込めたかったからだろう。

 そういった「ライヴの神秘」を、キース・ジャレットは昔から信じてきたように思う。通称スタンダーズ・トリオのアルバムに圧倒的にライヴ・アルバムが多いのは、そうした理由によるものではないか。当たり前のことだが、片っぱしからライヴ・レコーディングをして、それらを適当にライヴ・アルバムとして発表しているわけではない。スタンダーズ・トリオが残した、数少ないスタジオ録音盤と多数のライヴ盤の関係は、ぼくにはいまだに謎の部分が多い。スタジオ録音の再現がライヴということではなく、そのライヴにしても、前言を翻すようだが、周到に準備された上で発売スケジュールが決められているとも思えない。明白なことは、スタンダーズ・トリオは、スタジオ録音よりもライヴのほうが圧倒的に自由度が高く(しかしそれは「ライヴだから」という理由だけではない)、トリオの演奏は、時に途方もない地点に着地する。スタジオ録音では、それがあらかじめ見える場合がある。

 ここから話はさらにややこしくなるが、ぼくがいっていることは、「ジャズはライヴに限る」とか「制約の多いスタジオから解放されたライヴだからこその自由な展開」といったことではない。キース・ジャレット(とウエイン・ショーター)は、スタジオでもライヴ会場でもない、もうひとつの表現域としてのライヴの場が存在することを知っているように思う。第3のライヴとでもいうべきか。

 先に挙げたショーター盤の理屈からいけば、したがってスタンダーズ・トリオのライヴ・アルバムに凡作がなく、すべてが傑作かそれに準じる作品であることは、むしろ当然かもしれない。ややキース寄りにみれば、ショーターが目論んだかもしれないことを、キースはすでに30年近く前に発見し、スタンダーズ・トリオをその実践の場として捉えているということになる。ふつう、これだけライヴ・アルバムがつづけば、さすがに食傷気味になるだろう。しかしスタンダーズ・トリオの演奏には、そういった限界や弱点がまったく感じられない。それどころか、あえて意識しなければ、それがライヴ・レコーディングであることを忘れることさえある。

 最新作の『サムホエア』は、時系列としては過去(09年)のライヴ・レコーディングに入るが、スタンダーズ・トリオの場合、先のショーター盤とともに、そうした「時間」がどのような意味があるのだろうかと疑問に思う。記録としての側面を宿命的に背負いこむライヴ・アルバムに「時間」が存在しないという音楽的・創造的真実。

 最後に新たな疑問が出たところで、これから2枚のアルバムをまた行ったり来たりしよう。さて、きょうはどの曲を聴こうかな。



中山康樹 (なかやま やすき)
音楽評論家。1952年大阪府生まれ。最近はローリング・ストーンズ3部作(『ローリング・ストーンズを聴け!』『ローリング・ストーンズ全曲制覇』『ローリング・ストーンズ解体新書』)の執筆に没頭していたが、今年の後半にはジャズ書を執筆予定。目下研究・検証中のミュージシャンは、ゲイリー・バートン。いつか一冊にまとめてみたいと思っている。ジャズやロック、マイルスやビートルズ関連の著作多数。


旧譜8タイトルも期間限定リーズナブル・プライスでリイシュー!


キース・ジャレット・トリオ  新作『サムホエア』、さらにはGWのオーラスを飾る5月6日からスタートの結成30周年記念来日公演に合わせて、いずれもスタンダーズ・トリオ充実のレイト90s〜ゼロ年代を記録した近作8タイトルが一挙リイシュー。

 『TOKYO‘96』に収められているオーチャードホール公演以降病に伏していたキースだが、その復帰後、前哨戦的な『ウィスパー・ノット』公演(1999年7月)を経て、2000年代を迎えたスタンダーズ・トリオはあまりにも神懸かっていた。口火を切った『インサイド・アウト』、『オールウェイズ・レット・ミー・ゴー』では、立て続けに稀有なインプロヴィゼーション・トリオとしての側面を見せつけ、また一転『アップ・フォー・イット』では、「スタンダードを、原曲の持ち味を生かしながら別次元へと昇華する」というトリオの本分に立ち返り、恐ろしく繊細で獰猛で官能的なライヴを展開。極めつけは、『ジ・アウト・オブ・タウナーズ』から、『マイ・フーリッシュ・ハート』、『イエスタデイズ』に至る6年の時をかけての2001年音源3連発で、トリオの心技体が最も充実していたことを伝えてくれる。中でも、トリオでは5年ぶりの来日となった東京文化会館公演を収録した『イエスタデイズ』では、「ピアノトリオの新たな伝説がここに誕生!」と祝すべき、神々しいまでの演奏が繰り広げられている。

 と、今さらそんなこと、ハードコアなキース・ウォッチャーを前にしては釈迦に説法でしかないが、初めてスタンダーズ・トリオの作品に触れたいという方には、諸手を挙げてオススメしたいこちらの8タイトル。お手頃価格での再発につき、この機会に是非どうぞ!  



「イエスタデイズ:東京 2001」 (2009)

2001年4月30日 東京文化会館 ライヴ録音
M-9:2001年4月24日 渋谷オーチャード・ホール 録音

イエスタデイズ: 東京 2001 2001年の日本ツアー最終日にあたる4月30日上野・東京文化会館公演を収めたライヴ作品。90年代後半に難病で長らく演奏活動を中断していたキースにとって、このときの来日公演はトリオとしては実に5年ぶりとなるもので、満員の聴衆の大きな期待が注がれる中で繰り広げられた、まさに伝説のパフォーマンス。ラストに収められた「星影のステラ」は、渋谷オーチャード・ホール公演のサウンドチェック時の貴重な記録。当然ながら(・・・と言っていいものなのか)キースの”呻き声”は聴こえないが、実に生き生きとした表情の演奏を聴かせてくれる。同時期の日本公演は、後出の『オールウェイズ・レット・ミー・ゴー』にも収録されているが、そちらは即興演奏を中心とした選曲ということで、この年の”スタンダーズ・トリオ”の強力且つ無双のスウィング感に体を揺らすのであれば断然こちら、ということになるだろうか。「ユー・トゥック・アドヴァンテージ・オブ・ミー」、「ショウナフ」、「ア・スリーピン・ビー」といった怒涛のアップや華麗なミドルは、いずれもキースおよびトリオの心技体の充実ぶりを窺わせる磐石なもの。


「マイ・フーリッシュ・ハート」 (2007)

2001年7月22日モントルー・ジャズ・フェス ライヴ録音

マイ・フーリッシュ・ハート トリオの活動25周年を記念してリリースされた、2001年7月22日モントルー・ジャズ・フェスティヴァルでのライヴ作品。「いつになく激しいな・・・」と誰もが固唾を呑んで上気したであろうマイルスの「フォア」から早くもトップスピードに乗る一枚岩のスタンダーズ・トリオ。ライナーに綴られた「ジャックもゲイリーも僕も、今は全員がマスターたちの面影に近づいている」というキース自身の言葉どおり、25年目にしてようやく掴んだ自信や確信、聴衆との関係性を含むあらゆる面において、崇高な理想像との距離を縮めたことに対しての悦びを素直に爆発させているかのようだ。ゲイリー、ディジョネットの怪演ぶりに引っ張られるかのようなキースとするか、キースのほとばしりに両者が鼓舞されたとするか、このトリオにおいてこうした類の議論はまず決着を見ないが、いずれにせよ運命共同体さながらの一蓮托生アンサンブルはジャズの極楽浄土を完全に視界に捉えていた。エヴァンス愛奏でもおなじみの表題曲の構成が何とも心ニクイ。





「ジ・アウト・オブ・タウナーズ」 (2004)

2001年7月28日ミュンヘン国立歌劇場 ライヴ録音

ジ・アウト・オブ・タウナーズ ”ヴィンテージ・イヤー”と呼んで差し支えないトリオの絶頂期2001年のライヴ音源はどれを嗜んでも間違いはないが、スタンダード演奏をそつなく纏めたものと対を成すかのように、フリー・インプロヴィゼーションやソロピアノを収めた(一部含んだ)、トリオの”アナザーサイド”を窺い額づく(?)作品もあり、本作では、「アイ・ラブ・ユー」のような有名スタンダード曲がある一方で、表題曲「ジ・アウト・オブ・タウナーズ」、「イッツ・オール・イン・ザ・ゲーム」という、トリオ・インプロ、完全即興による美しいソロピアノがそれぞれ配されている。勿論そこには ”猫だまし”的であったり、また”箸休め”的な要素は欠片もない。有名曲とショート・ピース、そしてフリー・インプロヴィゼーションという2つの軸があってこそのスタンダーズ・トリオということ。同年4月の日本公演に何度も足を運んだ方々にとっては、この両軸の”すくみ”がたまらなく刺激的なのだ。そういった意味でも本作は、”一粒で二度三度美味しい”一枚でもあり、この年のスタンダーズ・トリオが向かわんとしていたベクトルを顕著に捉えた感度のいい、そして贅沢な記録盤と言えるかもしれない。





「アップ・フォー・イット」 (2003)

2002年7月16日フランス・アンティーブ・ジャズ・フェス ライヴ録音

アップ・フォー・イット トリオ結成20周年にあたる2003年にリリースされた本作は、『インサイド・アウト』、『オールウェイズ・レット・ミー・ゴー』という2枚のフリー・インプロヴィゼーション・アルバムが続いたこともあり、その名のとおり彼らの”スタンダーズ・トリオ”としての本来の意義や本領に渇望していた人々にとってあまりにも期待値の大きい一枚となった。2002年7月16日、フランスはコートダジュールで開催されたアンティーブ・ジャズ・フェスティバルに登場したトリオだが、癌の手術を終えたばかりのゲイリーの体調不良や当日の悪天候など、何ひとつとして追い風になる要素がなかったという。しかし一度ステージに上がれば何とやら。奇跡といえばそれまでだが、音楽の神を味方に付けたようなファインプレーの連続がすべての暗雲を吹き飛ばす。ゲイリーのベースは病み上がりとは思えないほどの冴えをみせ、それに応えるかのようにディジョネットが猛プッシュ。「イフ・アー・ワー・ア・ベル」で、「ブッチ・アンド・ブッチ」で、「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」で、トリオ全体に眩いばかりの明光が差し込んだ。当時において、一方では食傷気味とも揶揄されていたスタンダーズ・トリオだが、不確定要素を多く孕む様々なドラマと懇ろになって発展し続けるという点からも、そこにはやはり新鮮な感動があり続けるはず。ラストの「枯葉」からのオリジナル曲「アップ・フォー・イット」は圧巻の一言。



「オールウェイズ・レット・ミー・ゴー」 (2002)

2001年4月渋谷オーチャード・ホール/東京文化会館 ライヴ録音

オールウェイズ・レット・ミー・ゴー 上掲の『イエスタデイズ:東京 2001』と対を成す、2001年4月23、24、30日の日本公演(渋谷オーチャード・ホール、東京文化会館)で演奏された”インプロヴィゼーション・プログラム”を収録した一枚。「スタンダードか? インプロか?」。丁半どちらが出ても興奮と感動は約束されているものの、公演前夜における聴衆の地に足着かぬ期待感は相当なものだったと伝え聞く。初日、2日目に長尺のインプロをメインに繰り広げたトリオは、2000年のロンドン公演を収録した前作『インサイド・アウト』でネクスト・ステージに突入したことを、改めて日本のファンに告げたことにもなる。”あえて”全曲をインプロ・コンテンツで固めた意図などおよそ知る由もないが、フリーフォームになることによって、トリオの緊密な関係性というものがよりハッキリと見えてきた。冒頭の32分に及ぶ大作「ハーツ・イズ・スペース」は、後半に進むにつれドライブし高揚していくトリオ展開が鳥肌モノ。静謐なソロピアノからなだれ込む「トリビュタリーズ」でジワジワと互いの距離を詰めながら幻妖なインテンポに入っていくまでのドラマや、キース特有の民族音楽的テクスチャを盛り込んだ「フェイシング・イースト」でトリオがタイトに引き締まっていく感覚も実に見事。



「インサイド・アウト」 (2001)

2000年7月26,28日ロンドン・ロイヤル・フェスティヴァル・ホール ライヴ録音

インサイド・アウト 2000年にロンドンで録音されたライヴ盤であり、いわゆるスタンダード・トリオ・ファンにとっては代表作ともいえる1枚。ゲイリー・ピーコックとジャック・ディジョネットとの三者による濃厚極まりないインタープレイの数々は、いささかキース・ビギナーには重たい印象を与えるかもしれない。というのもスタンダードといいつつも、フリーに傾倒した演奏が主体であり、前年の1999年のフランスでの復活祭になったライヴ録音盤『ウィスパー・ノット』と比べると、感触や温度の違いは歴然としている。よってコアなキース作品という方が相応しいかもしれない。といってもただひたすら難解なフリー・ジャズを聴かせてくれるわけではなく、キースのタッチはやはり綺麗であるし、これぞECMと叫びたくなる瞬間も目白押し。そして三者の絡みもいたって繊細な印象を与えてくれる。アルバム冒頭の23分の「フロム・ザ・ボディ」、続く21分の「インサイド・アウト」という高き山を登った後の「恋に落ちたら」の美しさといったら、きっと誰もが言葉にできない余韻につつまれるだろう。





「ウィスパー・ノット」 (2000)

1999年7月5日フランス・コングレ・パレス ライヴ録音

ウィスパー・ノット 極度の披露が原因で体調を崩し長らくピアノから遠ざかっていたキースが、ゲイリー・ピーコックとジャック・ディジョネットとともにパリで録音したライヴ盤。多くのリスナーが期待するスタンダード・トリオの演奏と楽曲、それにキースのピアノ・タッチはまるで長き暗いトンネルを抜けたような、開放感と瑞々しさを宿し、三者のインタープレイも輝きをみせている。そういう意味ではこれがスタンダード・トリオの代表作であり傑作という評価を付けずにはいられない。キース・ビギナーにも十分におすすめできる作品である。2枚組というヴォリュームも忘れるくらい、聴く者に心地よい集中力を与えてくれるし、もちろんBGMで流してもその真価を失うことはない。しかも選曲も心憎い。メロディアスでロマンティックなスタンダードを多く配し、そこには前年の名作ソロ『メロディ・アット・ナイト、ウィズ・ユー』の後日談的な解釈も可能だ。中でも ジョージ・シアリングの「コンセプション」の名演には、エヴァンスのヴァージョンよりも太鼓判を押したくなる。   





「TOKYO '96」 (1998)

1996年3月30日渋谷オーチャード・ホール ライヴ録音

TOKYO '96 採り上げているのはどれも耳タコのスタンダード曲かもしれないが、スタンダーズ・トリオの手にかかれば、萎びたクラシックもあれよあれよという間に瑞々しいツヤとハリを取り戻す。そんな魔法のような一時を味わえる彼らのライヴ・ステージ。1996年3月30日渋谷オーチャード・ホールでのステージを収めた本作は、記念すべきトリオ初の日本公演録音盤となる。ちなみにこの日の模様は当時WOWWOWでテレビ放送され、本作に先がけて、1993年のよみうりランド・オープン・シアター・イースト公演をカップリング収録した『Live In Japan 93/96』として映像ソフト化(レーザーディスク)もされている。「ネヴァー・レット・ミー・ゴー」、「モナ・リザ」、「枯葉」、「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」といった王道曲を組み込んだセットはいくらか日本のファン向けと言えるかもしれないが、「分かっていてもやっぱり気持ちイイ」というのがこのトリオの”孤高”たる所以。スリリングさに欠けるきらいはあるが、名曲の持つ普遍性と、そこに対峙しながら再生〜新生させていくトリオの冴えたカスタマイズ・アプローチにじっくりと耳を傾けることができるという点でも至極とっつきやすい一枚。同年4月、キースは慢性疲労症候群という難病を発症し、その後約2年間の音楽活動の休止を余儀なくされる。




ECM公認(!) 特製クリアファイルをプレゼント!

 HMV 店舗(表参道店・阿倍野店を除く) およびHMV ONLINE/MOBILEで、新作『Somewhere』国内盤(UCCE1138) をお買い上げのお客様に、先着でECM公認特製クリアファイルをプレゼントいたします。またHMV店舗とHMV ONLINE/MOBILEとでは特典付与パターンが若干異なります。詳しい特典情報は下記をご覧ください。

* 裏面は共通の「ECM」ロゴデザイン。背景はホワイト。サイズはA4(W210mm×H297mm)となります。

HMV 店舗 (表参道店・阿倍野店を除く)

対象商品(いずれも国内盤 / 1点から)
『Somewhere』(UCCE1138)
『Yesterdays: 東京 2001』(UCCE9210)
『My Foolish Heart』(UCCE9211)
『Out-Of-Towners』(UCCE9213)
『Up For It』(UCCE9214)
『Always Let Me Go』(UCCE9215)
『Inside Out』(UCCE9217)
『Whisper Not』(UCCE9218)
『Tokyo 1996』(UCCE9220)

HMV ONLINE/MOBILE

対象商品
『Somewhere』(UCCE1138)

*数に限りがございます。お早目のご購入をおすすめいたします。
*『Somewhere』 輸入盤は対象外となります。何卒ご了承ください。










 DVDも期間限定廉価リイシュー (こちらの商品は特典対象外となります。ご了承ください)

「スタンダーズ・ライヴ '85」


スタンダーズ・ライヴ '85 日本におけるキース・ジャレットの絶大なる人気はここから始まったと言っても過言でない、1985年2月15日東京・厚生年金会館でのスタンダーズ・トリオの初来日公演。「ステラ・バイ・スターライト」「ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド」などの名曲を、ベースのゲイリー・ピーコック、ドラムのジャック・ディジョネットと共にグルーヴィに繰り広げる。独特のポーズで唸りながら超絶のピアノを聴かせるキースの姿は圧巻。


「スタンダーズ U」


スタンダーズ U 前年の大成功を受けて、再び日本にやってきたキース・ジャレット・スタンダーズ・トリオ。1986年10月26日東京・昭和女子大人見記念講堂での収録で、「星に願いを」「わが心のジョージア」といったおなじみのナンバーを含むスタンダードの名曲をたっぷり12曲演奏。ベースのゲイリー・ピーコック、ドラムのジャック・ディジョネットとの息もますますピッタリで、会場を得も言われぬ高揚感に包み込む。



「ライヴ・アット・イースト 1993」


ライヴ・アット・イースト 1993 1993年7月25日よみうりランド・オープン・シアター・イーストという1万人を収容する野外会場で行なわれたライヴ。当日は、開演直前まで大雨という悪条件の中、楽器を狂わす湿気との戦いにナーバスになったメンバーを、雨をおして集まったファンが盛り立てた。ステージと聴衆が一体となって成功させたコンサートの記録。


「コンサーツ 1996」


コンサーツ 1996 スタンダーズ・トリオが1996年に来日した際のライヴ演奏。好きな音楽家のひとりにキース・ジャレットを挙げていたという皇太子ご夫妻もご観覧された1996年3月30日東京・渋谷オーチャードホール公演で、結成から12年を経たトリオの新境地を聴かせる。CD版『TOKYO '96』でオミットされていた「オール・ザ・シングス・ユー・アー」、「トンク」も収録。




スタンダーズ・トリオ:パーソナル

キース・ジャレット (Keith Jarrett)

キース・ジャレット 1945年5月8日ペンシルヴァニア州アレンタウン生まれ。3歳でピアノを始め、7歳で初めての「リサイタル」を開いたという。62年に学校を卒業するとバークリー音楽院に学び、この頃からボストン周辺で彼のオリジナル・トリオで活動を開始している。65年ニューヨークに移ったキースはアート・ブレイキーとジャズメッセンジャーズに4ヶ月ほど参加。初期のキースの姿を捉えた貴重な作品とも言えるこの時期の演奏は『バターコーン・レディ』として残っている。66年、テナー・サックスのチャールス・ロイドのバンドに参加。1969年までの在団時に、ピアニストとしての評価を固めることになる。その後、9月には名作『Forest Flower』に参加、ヨーロッパ・ツアーに出発、やがて大きな影響を与える「この地」に演奏家としての初めての足跡を残している。1967年5月4日、初リーダーアルバム『ライフ・ビットウィーン・ザ・イグジスト・サイン』を、チャーリー・ヘイデン、ポール・モチアンという最高のサイドメンを従えて、アトランティック・レーベルの傍系Vortexレーベルに吹き込んでいる。1968年から1969年は、キースにとって次の飛躍へのステップの中間の年であり、68年10月にはキース・ジャレットのオリジナリティを初めて世に問うた名作『サムホエア・ビフォー』を、前作と同じくヘイデン〜モチアンとのトリオで録音。「民族派」もしくは「カントリー派」的な感性を感じさせている。やがて、キースは1969年11月の『フォレスト・フラワー '69』をもってロイド・グループを退団する。

1969年、マイルス・デイヴィスに請われ彼のバンドに参加。当時マイルスが追求していたエレクトリック・サウンドに合わせるかのように、キーボーディストとして登用され、先に同バンドに在籍していたチック・コリアとのツイン・キーボード制の中で主にオルガンを演奏した。「第3回ワイト島ポップ・フェスティバル」での演奏など、3ヶ月強というごくわずかなツイン・キーボード体制の後、チック退団に伴いひとりでオルガンとエレクトリック・ピアノを担当することになる。在籍中には、『ライヴ・イーヴィル』、『アット・フィルモア』、のちの『ゲット・アップ・ウィズ・イット』などに参加する。

71年、発足間もないECMレーベルへ、ジャック・デジョネットとのデュオによる作品『ルータ・アンド・ダイティヤ』を録音、新しい出発を図った。続いて、契約が残っていたらしいアトランティック・レーベルに『モーニング・オブ・ア・スター:流星』、『バース:誕生』を録音。後者ではトリオにデューイ・レッドマンが参加、この後のグループとしての表現形式がかたち作られている。一方でECMへはソロピアノ・ブームの先駆けとなった初期キースの最高作『フェイシング・ユー』を1971年11月に録音。さらに72年春には、“勇み足”と後年揶揄された『エクスペクテーションズ』をColumbiaからリリースする。この時期、キースはマイルス・バンドで共演したアイアート・モレイラの『フリー』や同じくアイアートが参加したCTIでのフレディ・ハバード『スカイ・ダイヴ』にも参加している。キースにとって次のキース時代への序章とも言える時期で、後年、形を成す表現フォーマットを矢継ぎ早に試している。

発売は相前後するが、Impulse!録音の『シェイズ』でレギュラー・カルテットを解散したキースは、ソロ活動と共に新しいカルテットを、2歳年下の北欧ノルウェイの若き獅子ヤン・ガルバレクを迎えて結成。一方、75年に入るとキース・ブームを巻き起こし、『リターン・トゥ・フォーエヴァー』と共にECMレーベルの基礎を固めたLP2枚組のソロピアノ・アルバム『ケルン・コンサート』を録音する。当時までの常識からいって、LP2枚組のソロピアノ作品など考えられない時代だったが、この作品は爆発的なヒットを記録する。その後は、それまで築いてきた路線を進化させると共に、新たなオルガン表現の可能性を模索した『スフィアズ』を発表。のちも、ソプラノを吹いたり、ソロピアノを弾いたりと、ややクラシカルな表現をとりながらも独自の道を切り開いていった。

『チェンジズ』でまさに「変換」を宣言したキースは、『スタンダーズ, Vol.1,2』の成功によって、図らずも次の表現フォーマットを固定。それは、80〜90年代を通じて多くのジャズ・ファンを獲得、さらにアメリカ・ジャズの呪縛に苦しんでいた(?)ヨーロッパのピアニストたちを解放することになる、ゲイリー・ピーコック、ジャック・デジョネットとの「スタンダード・トリオ」である。この作品以降、スタンダード曲を、ある意味でヨーロッパ的な感性を含む表現で演奏した作品が、ヨーロッパから輩出する。空間を意識したホールトーンを基本とする録音方法と、スタンダード曲のクラシカルな解釈によって、キース・ジャレットは、意識しなったにもかかわらず、ウイントン・マリサリスの登場によって「ジャズの伝統」への回帰を意識していた当時のアメリカにおける「ネオ・クラシカリズム」に対応した形で人気を博していく。90年代中盤過ぎ、精神的なプレッシャーから、立ち止まったキースだが、『メロディ・アット・ナイト、ウィズ・ユー』で見事復活。さらに2000年にはパリでのスタンダード・トリオによるライヴ盤『ウィスパー・ノット』を発表する。確かに、かつての氷を凍らせるようなハイテンションと、鼓膜を緊張させる美しいピアニズムにはまだ遠いが、キースの持ち味を十分に発揮した演奏は、21世紀に向かって彼の新しい表現の可能性を感じさせる演奏だった。00年代以降も、ベクトルをインプロヴィゼーション演奏に向けた『インサイド・アウト』、『オールウェイズ・レット・ミー・ゴー』といったライヴ盤でトリオの別軸を提示しながら精力的に活動を続け、結成から25年、30年という時間が瞬く間に流れていく。

マイルスの時代が終わりを告げ、ヨーロッパから、独自の感性が押し寄せた80年代後半、キース・ジャレットは、ピアノトリオにおけるビル・エヴァンス以降初めての「ザ・トリオ」を確立、前述したようにヨーロッパのミュージシャンに大きな影響を与えた。そうした意味ではキース・ジャレットこそが、ヨーロッパの「国替え=国家再編」の時期に生まれた新しい「時代」の象徴だったのかもしれない。





ゲイリー・ピーコック (Gary Peacock)

ゲイリー・ピーコック 1936年アイダホ州バーレイ生まれ。フリージャズ・ムーブメント真っ只中の60年代初頭にニューヨークへ進出。ポール・ブレイ、ドン・チェリー、アルバート・アイラー、サニー・マレイ、ミルフォード・グレイヴスらとの共演を重ねる。一時の活動休止後の70年代半ばに、ポール・ブレイのトリオでシーンに復帰。1977年には、キース・ジャレット、ジャック・デジョネットとのトリオで、ECMリーダー・デビュー作となる『テイルズ・オブ・アナザー』を録音した。このトリオは、1983年から「キース・ジャレット・スタンダード・トリオ」として活動し、度々来日公演を行なっている。また、東洋思想や禅の世界に興味を抱き、1969年から2年間日本に滞在し、菊地雅章、村上寛らと初リーダー・アルバム『イーストワード』を録音。1986年には、富樫雅彦、佐藤允彦と「ウェイブ」を結成。90年代には、菊地雅章、ポール・モチアンと「テザード・ムーン」結成するなど、日本文化に対する理解の深さ、あるいは日本のジャズメンとの交流の多さは、米国のジャズメンの中でも群を抜いている。



ジャック・ディジョネット (Jack DeJohnette)

ジャック・ディジョネット 1942年イリノイ州シカゴ生まれ。60年代半ばより地元シカゴのAACMに参加した後にサン・ラー、ジャッキー・マクリーン、リー・モーガン、チャールズ・ロイド・カルテット、さらには『モントルー・ジャズ・フェスティヴァルのビル・エヴァンス』として作品化もされたビル・エヴァンス・ピアノトリオなどへの参加でキャリアを磨いた。ピアニカの腕前も披露した初のリーダー・アルバム『ジャック・ディジョネット・コンプレックス』発表後の68年、トニー・ウィリアムスの後任としてマイルス・デイヴィス・グループに入団。『ビッチェズ・ブリュー』、『ジャック・ジョンソン』、『オン・ザ・コーナー』といったエレクトリック期の重要作品に参加。また、フィルモアやワイト島フェスティヴァルでの演奏により、白人ロック・ファン〜ヒッピーたちにも強烈な印象を残したと言われている。マイルス・グループを抜けた71年には、ボブーモーゼス(ds,vo)らと初の自己グループ「コンポスト」を結成。Columbiaから2枚のアルバムを残し解散後、ECMレコードにてデイヴ・ホランドとともにチック・コリアのレコーデイングに参加。その他、新たな自己グループとなる「ディレクションズ」、「ニュー・ディレクションズ」の2つのグループで活動し、また、ゲイリー・ピーコックと共にキース・ジャレットとのスタンダーズ・トリオでの活動を行なっている。最新リーダー・アルバムは、ジェイソン・モラン、エスペランサ・スポルディング、ボビー・マクファーリンといった多彩なゲストを招いて制作された2012年リリースの『サウンド・トラヴェルズ』。



『サムホエア』、そして結成30周年に寄せて


 5月、キース・ジャレット“スタンダーズ”トリオの『サムホエア』が手元に届いた。2009年の『イエスタデイズ:東京2001』から数えて4年ぶりのニューリリース。そして、その音源の出典においては、2003年の『アップ・フォー・イット』に収められた2002年7月16日のフランス・アンティーヴ・ジャズ祭出演時のものを大きく更新する、2009年7月11日のライヴ録、つまりは現時点での“最新”のソースが届けられたというわけだ。それでも現在時間と照らし合わせてなお4年近くのラグがあるのだが、これは時間軸や整数のイデオロギーを遥かに超える、ECMの牢乎な芸術理念に沿ったスペーシーなアーカイヴ商法(?)を理解して汲めば、その鮮度の釈義諸々、今となってはさして大きな問題ではない。

 とはいえ、スタンダーズ・トリオの2001年の音源が足かけ7年、さみだれ式にリリースされてきた現実を省みると、リアルタイムの本人たちとは別時間/別次元(200%過去になるのだが)の“彼ら”が今ここに新登場する意義とは? という疑問にもぶちあたる。もちろん純粋な「復刻」「再発」「掘り起こし」品に漂うようなノスタルジアがほぼ皆無であることが第一条件であり、それは例えば、昨年リリースされたヨーロピアン・カルテットでの『スリーパー』やオルガン・ソロ作『ヒムス/スフィアズ』といったプロダクツとはおよそ同列に語ることができないことを意味している。


キース・ジャレット・スタンダーズ・トリオ

 いずれにせよ、キースの復活後はほぼ3年置きに来日公演を行ない、ハッとしてグッとさせられた宝のような思い出をわれわれに残してくれる現役バリバリの彼らを前にしながらも、「スタンダーズ・トリオにとってのレコーディング作品とは一体何ぞや?」と、語らずも沈思するリスナーがこの10年どれほど多かったことか。裏を返せば、キースおよびスタンダーズ・トリオの魂焦がした凄演を、わずか直系120mmの記録媒体に封じ込めることがどれだけ恐れ多く気骨の折れることか、ということでもあって、ECM主宰マンフリート・アイヒャーによる “寝かせまくり”、 からの厳しい検閲を受けなければ、おいそれと人目に晒されることは許されなかったわけなのである。

 ただ、キースに限って言えば、2011年4月ブラジル・リオでのソロピアノ公演を収録した『リオ』や、盟友チャーリー・ヘイデンとのデュオ『ジャスミン』といった作品が、このテン年代において “バッファ待ち”なしで首尾よくリリースされている。そして何しろ、今現在も精力的にコンサート活動を行ない、世界各国で聴衆を興奮させ陶酔させているのだから、おそらく心技体ともに特段申し分のない状態だ。ゆえに、「特別なもの」と自負するスタンダーズ・トリオを除くその他のプロジェクト作品は、今後もきっと鮮度の高いままファンに届けられることは概ね間違いないだろう。


キース・ジャレット・スタンダーズ・トリオ

 5月6日からスタートする日本公演は、惜しくもこのトリオでの最後のものと告げられている。出逢いがあれば別れもあるのが人生だが、再会あるのもまた人生。別に解隊するわけではないし、いつかまた三人揃って成田空港のロビーに降り立つ日がやって来るのではなかろうか。また下衆な詮索ではあるが、5年後ぐらいに今回の日本公演が音盤化されるのだろうなと。トリオ結成35周年に聴く、“最新”の結成30周年記念公演音源。このことを各人どう捉えるかはさておき、それでも聴き手を完璧なまでに酔わせてくれることを期待せずにはいられない。

 なぜなら、ここにある、2013年に出た2009年の最新音源『サムホエア』がまさにそのことを代弁してくれているから。人類とあらゆる物質〜創造物との関係性は、まるで“片手落ち“のタイムマシンのように、半永久的に現在と過去を往復するだけのものだとも言われているが、結成30周年というある種のマチュアをたずさえた彼らスタンダーズ・トリオには、そんな形式ばった時空理論や理屈を飛び越えて、有無をも言わさずそのレーゾンデートルを正当化させる、計り知れないエネルギーがまだまだ残っているんだと思う。

小浜文晶 (ローソンHMV エンタテイメント)

トリオ結成30周年特別記念公演 2013

[東京公演] Bunkamura オーチャードホール
2013年5月6日(月・祝) 開場18:00 開演19:00
2013年5月9日(木) 開場18:00 開演19:00
2013年5月15日(水) 開場18:00 開演19:00

[大阪公演] フェスティバルホール開業記念公演
2013年5月12日(日) 開場18:15 開演19:00

* チケットはいずれも完売となっています。ご注意ください。







こちらでは、ジャズ・ピアニストたちの最もお気に入りのキース・ジャレットのリーダー・アルバムをご紹介。

スタンダーズ・トリオ、ヨーロピアン・カルテット、ソロピアノ、デュオなどのECM作品に限らず、アメリカン・カルテットでおなじみのImpulse!、キャリア初期のAtlantic/Vortex 作品などもひっくるめ、「わたしの好きなキース・ジャレット」と題して、レコメンド&コメントを掲載してまいります!


第2弾 (5/8UP)

自己トリオおよび自己カルテット「GO THERE!」を率い、また綾戸智絵トリオ、菊地成孔とのデュオ、与世山澄子の歌伴活動でも知られ、さらには「白鍵と黒鍵の間に」などエッセイストとしても才筆をふるうピアニスト、南博さんからコメントをいただきました。


第1弾 (5/2UP)

まずは第1弾。
昨年この世を去った、 ECMと並ぶドイツの名門 ジャズ・レーベル enjaの名プロデューサー、ホルスト・ウェーバーに捧げられた新作『さよならの記憶〜ホルスト・ウェーバーに捧ぐ』をリリースしたピアニスト、ティチアン・ヨースト。こちらも先頃新作『ターニング・ポインツ』をリリースしたばかりの”ユーロ・ピアニズム第3世代” トリオセンスのピアニスト、ベルンハルト・シューラー。間もなく新作発表もアナウンスされるという、ベルギー出身の新感覚ヨーロピアン・ピアニストの急先鋒エリック・レニーニ

さらにさらに、新作『AFRODITA』も好評な東京ザヴィヌルバッハをはじめ、菊地成孔率いるDCPRGやダブ・セプテットでの活動などでもおなじみの坪口昌恭さん。昨年末リリースのドラムレス・ギタートリオによるニューヨーク録音作『アフター・アワーズ2』がロングセラーを続ける山中千尋さん。

以上、”キースにたしかな一家言もつ” 5人のピアニストたちからコメントが届きました。



南博

キースは僕にとって影法師だ
Facing You 『Facing You』

さて、ここに挙げたレコード盤一枚が、高校二年だった僕の全てを変えてしまった。そして、今その頃の事を思い出しつつこの一文を書いている。キースは僕にとって影法師だ。意識、無意識を超えた僕の内面のどこかに、彼は常駐している。そう、SHADOWと英語で書いた方がふさわしいかもしれない。彼のトリオのサウンドも僕にとってはSHADOWである。どこかに影がつきまとう。その影は、どんなに明るい調性の曲を演奏していてもまとわりつく、サウンドと共に有る濃紺の影だ。その影のうつろいの魅力に惹かれて、その色合いを味わってきた。さて、次の色合いは如何に?


南博






Soul Cookin' 南博 『Body & Soul』
表題曲をはじめ、南博が敬愛する作曲家ビリー・ストレイホーンの楽曲から2曲、ビル・エヴァンスの美しく聡明なナンバー「タイム・リメンバード」など、このトリオの魅力が如何なく発揮される珠玉のスタンダードナンバーが並ぶ3rdアルバム。南オリジナルの、美しいメロディを持つ軽快なワルツ曲「ロンサム・ワーズ」はどこかスタンダードの風格すら感じる名曲だ。

山中千尋

それいけ! キース君
Facing You 『Facing You』

みなさんはキース・ジャレットについて、どんなイメージをお持ちでしょうか? ため息が出るようなどこまでも美しいピアノ。黒檀と象牙(あ、もう象牙鍵盤は使えないんですね)から、官能のドラマを引き出すキースはジャズ界の王であり、同時にとんだお騒がせさんでもあります。南欧の夏の野外のコンサートで契約書に「ノー・モスキート(蚊が絶対にいないこと)」「キープ28℃」でなきゃやんない! という無茶な条件を出したとか出さないとか。まあジョークかもしれないけど、こんなジョーク絶対に思いつかないよ! かぐや姫みたいなんだから。この盤を聴いたらそういう変人チックなとこも許したろう、という気持ちになってしまいます。やっぱりキースって宇宙人なんですね。

山中千尋





After Hours 2 山中千尋 『After Hours 2』
オスカー・ピーターソンへのトリビュート作として制作され、日本ゴールドディスク大賞を受賞した名盤『アフター・アワーズ』の続編。従来のピアノトリオのドラムスの代わりにギターを加え、変幻自在のアレンジを魅せる“アフター・アワーズ・プロジェクト”の最新作。「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」や「モーニン」といった超有名曲を中心に、山中本人がスタンダード・ナンバーと呼ばれるにふさわしい名曲をカヴァー。


坪口昌恭

三者のサウンド・ベクトルの一致は奇跡的
Whisper Not 『Whisper Not』

通称“スタンダーズ”の代表作といえば『Still Live』(1988年)の方かも知れないけれど、1999年病み上がりだったキースの演奏はどこか吹っ切れていて親しみやすく、演奏欲も刺激されました。特にバップ寄りの選曲がツボで、この中の半分以上が筆者のレパートリーにもなったほど。奇をてらったところがないのにキース節は健在で、三者のサウンド・ベクトルの一致は奇跡的。高尚というよりはポップアートな印象で聴けてしまう、ピアノトリオのスタンダード曲集としては現代の規範といえる名作ではないでしょうか。

坪口昌恭





AFRODITA 東京ザヴィヌルバッハ 『AFRODITA』
エレクトリックのソロアルバムとして、進化した東京ザヴィヌルバッハのサウンドを提示する最新作。 自動変奏シーケンスソフト”M”によるリズムとともに、今作ではローズピアノを全面的にフィーチャー。複雑に絡み合うポリリズムの上に、ローズピアノの鮮やかな旋律が鳴り響く。村井康司氏による解説ほか、菊地成孔による長文解説「キカイダー撤退。犬から猫へ」を収録。

エリック・レニーニ

若い頃の僕にインスピレーションを与えてくれた
Standards Vol.2 『Standards Vol.2』

大好きなキース・ジャレットの作品は『The Standards Vol.2』。まず、曲目が素晴らしく、メロディーが美しい。新鮮さあふれる1曲1曲の奥底にまで魂が込められている。キース・ジャレットは伝統的な演奏スタイルと自分の個性との間でうまくバランスを保って演奏できるアーティストだ。このトリオのインタープレイは、ジャズの歴史を創ったと言えるだろうね。彼の存在は、若い頃の僕に大いなるインスピレーションを与えてくれたひとつでもあり、おかげで僕は自分のオリジナルの演奏スタイルを確立することができたんだ。

エリック・レニーニ





Sing Twice! Eric Legnini & The Afro Jazz Beat 『Sing Twice!』
2011年の『Vox』に続く、エリック・レニーニのアフロ・ビート・ジャズ名義のアルバム。今作では、イギリスからヒュー・コルトマン、マリからママニ・ケイタ、アメリカ×日本のハーフ、エミ・マイヤーという紅二点・計3人のシンガーを6曲でフィーチャー。前作のテーマだったアフロビートに加え、ジャズとポップの結びつきを深めた作品となった。


ティチアン・ヨースト

ジャズの歴史におけるマイルストーンだ
Belonging 『Belonging』

キースの演奏スタイルが私に直接の影響を与えているというのではないけれども、私はキースの音楽の大ファンだ。彼の想像力と創作力は抜きんでている。西洋音楽の歴史におけるあらゆる音楽の伝統に深く根ざしているが、彼はいつもそれをあからさまにはしない。みんながよくやるようなフレーズを弾いたりする時も、同時にこちらが予想しなかったような、そして完璧な一音を新たに付けくわえたりする。こういうことがキースの音楽的冒険が始まるプロセスなんだと私には思える。いつも新鮮で新しい。

キース・ジャレットの素晴らしいアルバムは沢山あるが、個人的に大好きな一枚は、彼がヤン・ガルバレク、パレ・ダニエルソン、そしてヨン・クリステンセンと共演した『ビロンギング』。多分、私がジャズ・ピアノ・プレイヤーを志すずっと前から数え切れないほど聴いていたからだと思うが、このアルバムに録音されている全ての音に親しみを感じる。とてもスピリチュアルな作品であり、とりわけ素晴らしいのは、まるで作曲されたように完璧なインプロヴィゼーションがここに収められている。この作品はジャズの歴史におけるマイルストーンだ。

ティチィアン・ヨースト




さよならの記憶〜ホルスト・ウェーバーに捧ぐ Tizian Jost 『さよならの記憶〜ホルスト・ウェーバーに捧ぐ』
ECMと並ぶドイツの名門ジャズ・レーベル=enjaのオーナーであり、敏腕プロデューサーとしても数多くの名作を残してたホルスト・ウェーバー。2012年2月にこの世を去ったウェーバーを偲び、我が国でも人気の叙情派ピアニスト、ティチアン・ヨーストが深い悲しみを乗り越えて同郷のホルストへ心を込めて綴った心震わすレクイエム。

ベルンハルト・シューラー(中央) / トリオセンス

この清らかさと美しさは、素晴らしすぎる
Jasmine 『Jasmine』
(w/ Charlie Haden)


キース・ジャレットの『ケルン・コンサート』を聴いて育ち、このアルバムは演奏家としての僕に大きな影響を与えた。しかし、現在のお気に入りといえばキースとチャーリー・ヘイデンの『ジャスミン』だ。このアルバムで奏でられている清らかさと美しさは、素晴らしすぎる。


ベルンハルト・シューラー (トリオセンス)




Turning Points triosence 『Turning Points』
“ユーロ・ピアニズム第3世代”トリオセンス待望の最新作。録音はECMの拠点オスロのレインボー・スタジオで、あのヤン・エリック・コングスハウス(ECMの名エンジニア)が録音。キース・ジャレットのブライトネスな面を感じさせつつ、欧州北部らしい陰影も忍ばせるベルンハルト・シューラーの美しいオリジナル曲が、澄んだ空気のような音で奏でられる極上の一枚。







キース・ジャレット・スタンダーズ・トリオ、こちらもお忘れなく!

* 『チェンジズ』(1983)は現在お取り扱いしておりません。ご了承ください。

Standards Vol.1
「スタンダーズ Vol.1」 (1983)

「なぜスタンダードなのか?」「なぜこの3人なのか?」というシンプルな問いに答えてくれるように、このアルバムはピアノ・トリオの意味をしっかり教えてくれる、1983年の記念碑的作品。そもそもはゲイリー・ピーコックの1977年のリーダー作『テイルズ・オブ・アナザー』にキースとディジョネットが参加したのがはじまりで、ECMオールスターという言わば最高峰の三賢者の集まりでもある。三者は哲学を語るのに難しい言葉を使わなかった、誰もが知っている言葉(=メロディ)を用いた。ピアノ・トリオの最高の瞬間は、その美しいメロディを生み出すときである。奇をてらったオリジナルでは勝負しない。言い換えれば境地に達したような表現かもしれない。そして「ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド」の新たなる解釈に息をのむだろう。



「スタンダーズ Vol.2」 (1983)

Standards Vol.2 前出の『スタンダーズVol.1』や『チェンジズ』(CDは現在廃盤)と同じく1983年1月のニューヨーク・パワーステーションでのレコーディング・メニューを収録。多彩でインプロヴィゼーション要素が幾分強かった『Vol.1』に比べて、テーマがわかりやすく、またリリカルなバラード・ナンバーが多いこともあって、「スタンダーズ・トリオの入門盤」としてしばしばレコメンドされることも。冒頭「ソー・テンダー」はいきなりのオリジナル・コンポジションだが、空間いっぱいにとめどなく溢れる美しく忌憚のないアドリブのメロディはまさにキース印。これぞ瞭然たる名曲だ。歌心が“呻り声”とともに天空に放たれてゆく「ムーン・アンド・サンド」、この3人でしか成しえない傑出した詩情「ネヴァー・レット・ミー・ゴー」、エヴァンス・トリオの名演にも並ぶ「アイ・フォール・イン・ラヴ・トゥー・イージリー」など、初期スタンダーズ・トリオが持っていた最も純然なロマンティシズムに触れることができる。





「スタンダーズ・ライヴ」 (1985)

スタンダーズ・ライヴ:星影のステラ 1985年2月のトリオ初来日公演の興奮冷めやらぬ、そのわずか5ヶ月後に届けられた、同年7月パリはパレ・デ・コングレでのステージを収録したトリオ初のライヴ盤。リリースの順序としては、前出の『スタンダーズVol.2』より早いものとなり、この時点で早くも「スタンダーズ・トリオ=ライヴ」という図式が成り立とうとしていたのにも頷けるほど、機知に富み、テンションの高い演奏を繰り広げている。邦題にもなった「星影のステラ」や「恋に恋して」、「今宵の君は」といった超有名スタンダードでは、まるで、原曲が含む熟成した旨みをベースにしながら、そこに新種のスパイスやエキスを加えてできあがった、これまでにない斬新なオリジナル・カクテルをドキドキしながら味わっているかのような気分にさせられる。“標準”であり“定型”だと思っていたものが、こうまで変わるものなのか、とそのクオリティの高さや比肩ない美しさに皆感嘆するばかり。ナット・アダレイ作の「オールド・カントリー」は、当時のキースのお気に入りだったLP『ナンシー・ウィルソン&キャノンボール・アダレイ』に収録のヴォーカル・ヴァージョンにインスパイアしたものらしい。



「スティル・ライヴ」 (1986)

スティル・ライヴ 最高傑作との呼び声も高い、スタンダーズ・トリオのライヴ・レコーディング第2弾。1986年7月13日、ECMのお膝元ドイツ・ミュンヘンはフィルハーモニック・ホールでの演奏記録だ。冒頭「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」でのにわかに即興とは信じがたい饒舌に突き抜けるインプロヴィゼーション、そしてまこと美しい旋律。僥倖を得るには、もはや寄せては返すその音の大波・小波に体を預けるしか手はない。キレのあるチョップスで16分音符を飾り付けていくイントロからテーマになだれ込む「歌こそは君」は終盤のダイナミックなアフロ・キューバン・テイストのトリオ・アンサンブルで大団円を迎える。パーカー、ロリンズ、マルサリスら器楽奏者による名演は多数あるけれど、こんなに振り切れた「歌こそは君」は聴いたことがない。これがジャズのリアリティってやつか・・・聴衆もあんぐりだ。ゲイリーのベース・ソロが発火点となり自在に展開する「枯葉」ほか、「いつか王子様が」、「あなたと夜と音楽と」、「星に願いを」・・・まずもって全曲がハイライト。初期スタンダーズ・トリオは、ジャズの歴史と向き合いながらも数々の記録と記憶を塗り替えて、ここでひとつの最高到達点に達したと言うべきだろう。




「チェンジレス」 (1987)

チェンジレス 1987年10月、全米各地で行なわれたツアー音源をまとめた、トリオ初の全曲オリジナル・コンポジションによるライヴ盤。「ダンシング」は14日のデンバー、「エンドレス」は11日のダラス、「ライフライン」は9日のレキシントン、「エクスタシー」は12日のヒューストンという内訳で、いずれもフリー・インプロヴィゼーションによって構築されたオリジナルとなる。表題も含めて、1983年のパワーステーション・スタジオ録音のインプロ作『チェンジズ』の続編的性格をイメージさせるが、こちらはガチのライヴ録音ということもあって、興奮か恍惚か、モチーフ・フレーズの反復がより執拗で当たりもキツめな印象。「ダンシング」での中毒性を帯びた、あたかもファンクのようなグルーヴや、「エクスタシー」にそこはかとなく漂う美しくも幻想的な寂寥感は、“現代音楽家”キースおよびそのトリオの真髄を露にしていると言えるかもしれない。また、ECMの看板デザイナー、ディーター・レームによるジャケットもミニマルにして、この真髄を的確に表現している。



「オール・オブ・ユー」 (1989)

オール・オブ・ユー (Tribute) 精力的に作品を発表するスタンダード・トリオであるが、それゆえにリスナーにはお腹いっぱい感も拭いきれない。もはや一聴して、そのままCD棚に眠らせてしまうことも少ないだろう。そういう意味ではこの作品は常にリピート率の上位を保っている。個人的にはこちらに納められた演奏にスタンダードの真髄を聴くことが出来ると思う。主観かもしれないが、やはりエヴァンスへの敬愛をこめた「ソーラー」が逸品。もちろんマイルス、コニッツをはじめとするジャイアンツの見事なまでの解釈も隙がない。鍵盤からこぼれる音の雫、脈を打つようなベースの調べ、鼓動にも似たドラムを感じれば、ピアノ・トリオの桃源郷をみることができるだろう。静寂のイントロから徐々にヒートアップしていき、アグレッシブな演奏も多々顔を出すが、そこはやはりECM、どこか静寂の余韻を残している。ちなみに原題は「Tribute」。





「スタンダーズ・イン・ノルウェー」 (1989)

スタンダーズ・イン・ノルウェー 1989年秋のヨーロッパ・ツアーから、『オール・オブ・ユー(=Tribute)』に収録されたケルン公演の8日前、10月7日オスロにおけるライヴ(リリースはこちらが後)。その『オール・オブ・ユー』と重複する「オール・オブ・ユー」、「リトル・ガール・ブルー」、「ジャスト・イン・タイム」、「アイ・ヒア・ア・ラプソディ」を聴き比べてもらえば一目瞭然で、本作に収められた演奏は、「慕情」などで味わえるスリリングな瞬間こそわずかだが、三者がしっぽりと微睡みながらリラックスした対話を愉しんでいる、そんな”よき湯加減”。力んで構えていると良い意味での肩透かしを食らう。とはいえ、決してダレることがないのがこのトリオの素晴らしいところ。キースの音の煌き粒立ちが百点満点ならば、トリオ各者のインプロヴィゼーションを主導する掌握術も完璧。ゆえに、ファンには最も人気の高い一枚でもあるのだ。







「ザ・キュア」 (1990)

ザ・キュア モンク独特のハーモニーに繊細且つ天然なるキース色が織り交ぜられながら昇華されていく、モンクの「ベムシャ・スウィング」から景気よくスタートする、1990年4月21日ニューヨークはタウンホールでのライヴ録音作。「ブレイム・イット・オン・マイ・ユース」あたりから表題どおりの “癒し”の時間が本格的に幕を開ける。キースのピアノがふんわりと聴き手を包み込む。夢心地というのはまさにこのこと。極めつけは、耽美なソロピアノを経てテーマが顔を出す「ボディ・アンド・ソウル」。ただ美しく優しいだけではない。徐々に熱を帯びていくキースのタッチ。バラードがミディアムへと自然にアップリフティングされていく中にもある種のカタルシスがありそうな、これぞスタンダーズ・トリオならではの快演だ。哀愁メロディがタイトなアンサンブルによってさらに際立つ「ゴールデン・イヤリングス」、オハコとも言えるフォーク的質感のユニークなリフが支配するオリジナル曲「ザ・キュア」などを聴くと、あたかも彼らによる“癒し”のための音の処方箋とは、軽薄なヒーリング要素を指しているのではなく、総じて人間の内から湧き出る自然治癒力のようなメンタリティのアロマにインスパイアしているのではないかとさえ感じさせる。ラストでの聴衆の力みなぎる喝采からもそれが窺えそうだ。


「バイ・バイ・ブラックバード」 (1991)

バイ・バイ・ブラックバード エレクトリック・マイルスには欠かせない存在であったキースの指先。そんな彼の心の拠り所でもあったマイルスを失った悲しみ。死去13日後に録音して、1993年に発表したトリビュート・アルバムである。マイルスも愛したスタンダードの選曲をみればキースのただならぬ愛情を汲みとることができるだろう(ちなみにキースのあるうねり声もいつも以上にすごい)。そこには、60年代後半にトニー・ウィリアムスの後任として任命されたジャック・ディジョネットの深い悲しみもあるし、共演経験のあるゲイリー・ピーコックもきっと同じ想いのはず。しかしなぜだろう、この「Bye Bye Blackbird」を聴いたあとの爽やかな感じは。改めてマイルスを聴こう、そんな前向きな気持ちにもさせてくれる、スタンダード・トリオのひとつの到達点的作品。







「アット・ザ・ブルーノート」 (1994)

アット・ザ・ブルーノート・コンプリート・レコーディングス スタンダーズ・トリオの真価が発揮されるライヴを6枚組にてパッケージ。キースのCD6枚組というと、1976年日本でのソロ・ライヴを5公演分収めた『サンベア・コンサート』(オリジナルLPは10枚組)が思い出されるだろう。こちらはそれに次ぐ快挙と言える、1994年6月3日から5日にかけての3日間、ニューヨークのブルーノート全6公演で演奏された38曲を完全収録したボックス・セット。言うまでもなく各公演、開演1時間前から超満員。店内禁煙および演奏10分前からの飲食サービス中断という“厳戒態勢”までが敷かれたのも今や語り草だろうか。レアなクラブセットで、さらに曲の重複がほぼない点も含めて、各ディスクどれから聴いても最高の高揚や陶酔は約束されているが、このトリオならではの凄みのあるインタープレイにとにかくゾクゾクしたいのであれば、「オン・グリーン・ドルフィン・ストリート」から聴きはじめるのもオツ。結成から10年が経過。マチュアな魅力が増すも、まだまだ手綱をゆるめないトリオが辿り着いた“小バコ”ならではの桃源郷か。本セット制作をオファーした制作側の情熱にも惜しみない拍手を。





テイルズ・オブ・アナザー
ゲイリー・ピーコック 「テイルズ・オブ・アナザー」 (1977)

ベース・マスター、ゲイリー・ピーコックの1stリーダー・アルバムは、それこそ自然発生的な流れをもって、のちの“スタンダーズ・トリオ”結成への足固めともなった、記念すべき三者初の邂逅セッション禄に。表向きはサイド参加のキースとディジョネットだが、実際はトリオの対等なパワーバランスが音によく顕れている。とはいえ、要所要所でイニシアチヴは当然ながらゲイリーが握っているという関係性。「こんなのはどうだ?」「じゃあこっちはどうだ?」と言わんばかりの誘い水的な即興メロディやスペースをちらつかせ、ふたりの覚醒(確変?)を待望しているようだ。三すくみのまま一定の距離を保ちながらも、おいそれと飛びつく瞬間もいくつかあり、「トーン・フィールド」や「メイジャー・メイジャー」には、悦に入って“呻く”キースがいる。同じく辛抱たまらず爆発するディジョネットがいる。トリオのインタープレイが、押し黙らせるかのようなテンションと酩酊にすら向かわせる絶世の美を生んだ「トリロジー組曲」にしても同様。ここに、およそ四半世紀後の『インサイド・アウト』や『オールウェイズ・レット・ミー・ゴー』などにつながるスタンダーズ・トリオのフリーキー・サイドの起点を見る。







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