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【特集】 いつか聴いた歌 〜 はじめてのスタンダード・ソング [前編]

2013年2月13日 (水)




いつまでも歌い継がれているスタンダード・ナンバーの魅力がたっぷり。
第一弾となる本作は「恋」をテーマに甘く、時にほろ苦い48の物語が収められています。


  『いつか聴いた歌 〜スタンダード・ラヴ・ソングス』

Sony Musicが有するColumbia、RCAといった歴史あるレーベルの音源を中心に、Universal Music、 EMI Musicなどの音源も収録。まさに名アーティストによる珠玉のラヴ・ソングのスタンダートを収録したコンピレーション。CD収録タイムぎりぎりの48曲を収録。企画・監修・選曲・解説はグラフィック・デザイナー、イラストレーター、エッセイスト、映画監督など、様々な分野で幅広く活躍を続けている和田誠氏。スダンダード曲に造詣が深く、スタンダード曲の魅力をまとめた「いつか聴いた歌」(文春)の著書もあり、今回のタイトルにもなっています。ジャケットのイラストレーションも和田誠氏による書下ろし。さらに今回の歌詞の対訳も和田誠氏が手掛けており、スタンダード・ソングの魅力を歌詞の面からもお楽しみ頂けます。






初回盤のみ3種類(和田誠氏のイラストレーション:フランク・シナトラ、トニイ・ベネット、エラ・フィッツジェラルドを使用)のメッセージ・カードを封入。


『いつか聴いた歌』のこと、スタンダード・ソングのこと、和田誠さんに色々とお訊きしました。



『いつか聴いた歌 〜スタンダード・ラヴ・ソングス』から始める
はじめてのスタンダード・ソング

 「スタンダード」とは文字通り「標準」「規準」を意味することば。音楽の世界では、50年以上に亘って標準であり続ける、つまり多くの音楽家たちによって、時間を越えて今なお歌い継がれ、演奏され続けている曲を一般的に「スタンダード・ソング/ナンバー」と呼んでいます。歌い手や演奏家のオリジナリティに沿った、または時代に応じた様々な解釈がなされることで原曲の表情はみずみずしくも多彩に変化。古典といえども決して過去の遺産として封じ込められるわけではなく、事あるごとに取り上げられてはそこに新しい息吹がもたらされていくものがほとんどです。

 ここでは星の数ほどあるスタンダード・ソング/ナンバーを、和田誠さん監修・選曲の『いつか聴いた歌』収録曲に照らし合わせながら厳選。さらにジャズ器楽奏者の名演など、”聴き比べ”に持ってこいの作品を(わずかながらですが)もろもろ追加。

 「スタンダードの名唱・名演をさがせば、必ずやジャズのマスターピースに突き当たる」(その逆も然り)ということで、まずは前編として、ディスク1 [Love Is] サイドの24曲と、そこに準じた都合84作品をご紹介しましょう。


 「What Is This Thing Called Love ?」 (恋とは何でしょう)

作詞・作曲: コール・ポーター [1929年録音]

1929年、ミュージカル「ウェイク・アップ・アンド・ドリーム」の中でエルシー・カーライル(ロンドン公演)とフランセス・シェリー(ニューヨーク公演)によって歌われた恋の歌。「神様に聞いてみた、恋とはいったい何なのでしょう?」とポツリ。この曲のコード進行を引用したタッド・ダメロンの「ホット・ハウス」がチャーリー・パーカーに取り上げられたことから、ビ・バップ以降のジャズメンたちにも多く愛奏されている。

Lena Horne 『The Essential -The RCA Years』
1952年録音。黒人ミュージカル映画の傑作「ストーミー・ウェザー」で主役を務めたことでも知られるリナ・ホーンの強くしなやかな歌唱を。伴奏はルー・ブリング楽団。

Mel Torme
『At The Crescend』
(1957)

若き日のメル・トーメがハリウッドのクラブ「クレッセンド」で披露した素晴らしいライヴを収録。マーティー・ペイチ楽団とのやりとりも楽しい、エンターテイナーとしての実力も垣間見せる名作。
Clifford Brown / Max Roach
『At Basin Street』
(1956)

クリフォード・ブラウンとソニー・ロリンズの若き2管をフロントに据えたハードバップ・コンボの名演。数ヵ月後、不慮の事故でブラウニーが急逝し、ブラウン=ローチのスタジオでのラスト作となった。


 「My Romance」 (マイ・ロマンス)

作詞: ロレンツ・ハート/作曲: リチャード・ロジャース [1935年録音]

1935年、ミュージカル「ビリー・ローズのジャンボ」の主題歌として歌われた。当時はヒットしなかったものの、1962年にドリス・デイ主演で映画化され、そのドリスのヴァージョンが最も有名だろう。「素敵なムードはいらない。あなただけでいいの」という一途な恋を表した歌詞。シンガーだけでなく、ビル・エヴァンスをはじめ多くのピアニスト〜器楽奏者にも愛奏され続けている。

Doris Day 『Jumbo』 (1962)
1962年公開のミュージカル映画「ビリー・ローズのジャンボ」で披露され最もポピュラーとなった、主演ドリス・デイによる歌唱。共演相手で当時の夫でもあったマーティン・メルチャーに艶っぽく語りかけるように。

Tony Bennett
『Sings The Rodgers & Hart Songbook』
(1973)

トニーの自主レーベル:インプロヴで73年に録音されたロジャース&ハート作品集2枚をまとめたもの。バラードをじっくりと聴かせるテクニックは見事。ルビー・ブラフ=ジョージ・バーンズ・カルテットの粋な演奏にも注目。
Bill Evans
『Waltz For Debby』
(1961)

1961年6月25日、日曜日、ニューヨークのクラブ「ヴィレッジ・ヴァンガード」は静かな興奮に包まれていた。午後2回・夜3回のステージをライヴ・アルバムとして録音。エヴァンスの最高のプレイがここに収められ、観客のざわめきは、そのまま「時代の空気」を伝えてくれる。


 「Embraceable You」 (君を抱いて)

作詞: アイラ・ガーシュイン/作曲: ジョージ・ガーシュイン [1930年録音]

1930年、アイラ&ジョージのガーシュイン兄弟がミュージカル「ガール・クレイジー」のために書いたもので、ジンジャー・ロジャース(レッド・ニコルス楽団伴奏)によって歌われた。その後1932、43、65年に映画化され、それぞれアーリーン・ジャッジ、ジュディ・ガーランド、コニー・フランシスによって歌われた。

Frank Sinatra 『Sings Gershwin』
1944年録音。「女学生たちのアイドル」の名を欲しいままにしていた若きフランク・シナトラがしっとりと歌い上げる。晩年の『DuetsU』では、リナ・ホーンとの味のあるデュエットも聴くことができる。

Sarah Vaughan
『With Clifford Brown』
(1954)

サラのスキャットを聴けば、彼女が楽器に引けをとらないインプロヴァイザーであることが分かる。揺れるようなピアノに乗って歌う「Embraceable You」はパーカーの名演に匹敵するロマンティシズムを運んでくれる。初期サラのエッセンスが全て詰まった永遠のヴォーカル定番。
Hampton Hawes
『Trio Vol.3』
(1956)

ハンプトン・ホーズの「ザ・トリオ3部作」の第3集。ウエスト・コースト派のピアニストでありながら東海岸のビバップ・スタイルに根ざしたタッチがここでも快調。盟友レッド・ミッチェルの堅実なベースに乗せて、ブルース&スウィング感溢れるホーズのピアノが心地よい。

Barney Kessel
『To Swing Or Not To Swing』
(1955)

チャーリー・クリスチャン直系のギタリスト、バーニー・ケッセルが繰り広げるスウィンギーな世界。洒落た演奏で人気を博したウエスト・コースト・ジャズ諸作の中でもとりわけご機嫌な内容を誇る。ケッセル絶頂期の最高傑作。
Dianne Reeves
『The Calling』
(2001)

サラ・ヴォーンというジャズ・ヴォーカル界が生んだ最高のディーバに捧げられたアルバム。冒頭「Lullaby of Birdland」〜「Speak Low」の流れはサラの雰囲気を自分の個性へと純化した気持ちの良い流れを感じさせる。スキャットでの個性もサラにはなかった新しい感覚。


 「The Nearness Of You」 (あなたのそばに)

作詞: ネッド・ワシントン/作曲: ホーギー・カーマイケル [1937年録音]

1938年のパラマウント映画「ロマンス・イン・ザ・ダーク」で挿入されたのが最初と言われているスタンダード・バラードの代表曲。「ぼくの気持ちが高ぶっているのは、君のそばにいるから」という典型的なラブ・ソングは、40年代のグレン・ミラー楽団&レイ・エバールを皮切りに、現在でもノラ・ジョーンズなど多くのシンガーに歌い継がれている。

Sarah Vaughan 『In Hi-fi』 (1955)
1949年録音。サラ・ヴォーンの『Sarah Vaughan in Hi-Fi』から(ちなみにこの曲にマイルスは不参加)。この後何度も取り上げることとなる彼女の最初期の吹き込み。別テイク共々、深く広く表情豊かなその声に酔う。

Ella Fitzgerald / Louis Armstrong
『Ella & Louis』
(1956)

エラ・フィッツジェラルドとルイ・アームストロングの究極のデュエット・アルバム。聴く者を楽しませるエンタテイナーとして、共に卓越したセンスと実力のキング&クイーンだけに、本物の恋人のような仲睦まじい歌声が堪能できる。
Frank Sinatra
『The Voice of Frank Sinatra』
(1946)

1946年にリリースされたフランク・シナトラの初アルバム。ビルボード・チャートで7週間全米1位を獲得し、その後1948年の夏までトップ5に居座り続けたというベストセラー作。

Gerry Mulligan
『Gerry Mulligan Quartet』
(1955)

10インチ盤で発売されていたPacific Jazz盤2枚を中心としたオリジナル・ジェリー・マリガン・カルテットによる初期演奏集。マリガンとベイカーのコンビネーションも絶妙で、このグループの成功が西海岸ジャズを決定付けたと言っても過言ではない。
Norah Jones
『Come Away With Me』
(2002)

第45回グラミー賞主要4部門を含む8部門を受賞したノラ・ジョーンズのBlue Noteデビュー盤。ブルージーなフィーリングとアーバン・カントリーな味わいなど、彼女が持っている幅広い音楽的な素養が結実した、実に21世紀的な作品。


 「Fools Rush In (Where Angels Fear To Tread)」 (恋は愚かと言うけれど)

作詞: ジョニー・マーサー/作曲: ルーブ・ブルーム [1940年録音]

キャピトル・レコードの創始者でもあるソングライター、ジョニー・マーサーがルーブ・ブルームの曲に詞を乗せたもの。1940年にグレン・ミラー楽団&レイ・エバールが録音してヒット。同年トミー・ドーシー楽団の伴奏でフランク・シナトラも歌っている。ほか、ディーン・マーティン、エルヴィス・プレスリー、リッキー・ネルソンなどポップス界でも頻繁に取り上げられた。

Dean Martin 『Dream With Dean』 (1964)
バーニー・ケッセル(g)、レッド・ミッチェル(b)らジャズ・コンボをバックに悠々と歌う、シナトラ一家(ラット・パック)のディーン・マーティン。聴き手の女性をウットリさせる歌唱はまさに伊達男の本領。

Glenn Miller
『The Essential』

スウィング・メロディの魔術師、“キング・オブ・スウィング” グレン・ミラー。最大のヒット曲「In The Mood」から「G.I. Jive」まで一気に聴かせる不滅のグレン・ミラー・サウンドを堪能できるベスト盤。「Fools Rush In」はレイ・エバールが歌う1940年のヒット。
Stan Getz
『Plays』
(1957)

ゲッツはホットとクールの両面を持ったジャズ史上最高の“メロディスト”だった。実はウォームな一面を多く持つゲッツの典型的なアルバムで、次々と印象的なフレーズを繰り出す尽きぬクリエイティヴィティを満喫するにも最適な一枚。


 「It Could Happen To You」 (あなたに降る夢)

作詞: ジョニー・パーク/作曲: ジミー・ヴァン・ヒューゼン [1944年録音]

1944年の映画「アンド・ジ・エンジェル・シング」で使われ、ドロシー・ラムーアとフレッド・マクマレイによって歌われた人気スタンダード。「恋の病に気をつけなさい」といった内容のユニークな恋愛歌で、ビング・クロスビー、ジョー・スタッフォードらが歌い、またマイルス・デイヴィス、ホレス・パーラン、秋吉敏子などによって絶妙なアレンジが施された様々な名演が生まれた。

Anita O'day 『Incomparable!』 (1964)
魅力的のハスキー・ヴォイスで一世を風靡したアニタ・オデイ絶頂期の吹き込み。ビル・ホルマン楽団のゴキゲンな伴奏に乗って少し蓮っ葉に歌い上げるアニタ。チクリと入れる歌詞の世界にぴったりハマった名唱。

Chet Baker
『It Could Happen To You』
(1958)

ケニー・ドリューのトリオをバックに吹き込まれたチェット・ベイカーの“メロウ系50年代ジャズ”の典型作品。ジャケットのイメージも含めてチェットの全半生でも最も女性に人気のある一枚で、『Chet Baker Sings』と双璧を成す作品。渡欧前のドリューのプレイにも注目。
Miles Davis
『Relaxin'』
(1956)

4枚の「マラソン・セッション」の中でも人気・出来共にトップに挙げられるアルバム。冒頭のレッド・ガーランド弾き直しは、ジャズが生成されていく過程を図らずも披露した、ジャズ史上最も素晴らしい瞬間。マイルスが、トランペッターとしてクリフォード・ブラウンの高みに迫った時間がここにある。


 「My Funny Valentine」 (いとしのヴァレンタイン)

作詞: ロレンツ・ハート/作曲: リチャード・ロジャース [1937年録音]

1937年のミュージカル「ベイブス・イン・マイ・アームズ」で使用された曲で、2年後の映画化の際にはジュディ・ガーランドによって歌われている。甘く蕩けるようなムードを連想するが、「わたしを心から笑わせてくれる、かわいくて面白いヴァレンタイン」と内容はまさに”ファニーな男”のことを歌っている。女性シンガーだけでなく、チェット・ベイカー、フランク・シナトラら多くの男性シンガーにも取り上げられている。

Chet Baker 『Sings』 (1956)
耳元で囁くようにそっと歌われたこの曲も、都合100テイクはレコーディングされたと言われている。当初、評論家筋ウケこそ決して良くはなかったが、女性のハートはしっかりキャッチ。チェットが歌えばすべてが媚薬となる。

Ella Fitzgerald
『Sings The Rodgers & Hart Songbook』
(1956)

Verve移籍後の1956年から64年にかけて作曲家たちの作品を「ソングブック」シリーズとして吹き込んだエラ。リチャード・ロジャース&ロレンツ・ハートの名曲を、絶頂期のエラがアドリブ抜きで堂々とその実力を発揮し歌い上げた傑作。
Miles Davis
『My Funny Valentine』
(1965)

1964年2月12日のライヴを本作と『Four & More』に分けて発売。静の『My Funny Valentine』と動の『Four & More』と評された。マイルスのライヴ演奏の中でスロームードの演奏を集めてこれだけのレベルを保った作品は他にない。「My Funny Valentine」を録音した名盤は数あれど、これぞマイルスによる決定盤。

Bill Evans / Jim Hall
『Undercurrent』
(1962)

クールなリリシズムと最高のインタープレイ。稀代の個性を持ったピアニストとギタリスト、ビル・エヴァンス&ジム・ホールのデュオによる繊細で重厚なジャズ最上のセッション。「My Funny Valentine」などバラードを主体としながらもスリリングなインタープレイを展開。
Lincoln Briney
『Lincoln Briney』
(2012)

ソフトでジェントルな歌声と爽やかなウエスト・コーストの空気をいっぱいに吸い込んだ、リンカーン・ブライニーの2ndアルバム。「PARTYside」はホーム・パーティでのウォームでリラックスしたセッション。「CHETside」は敬愛するチェット・ベイカーへ捧げられたトリビュート・ライヴを収録。


 「My One And Only Love」 (ただひとつの恋)

作詞: ロバート・メリン/作曲: ガイ・ウッド [1953年録音]

ロシアのクラシック音楽アントン・ルービンシュタインの「ロマンス」をベースにして作られたと言われており、1953年にフランク・シナトラが歌って大ヒットした大人の男のラヴ・ソング。ジャズ・シンガー/器楽奏者にも多く取り上げられるようになるが、その規範となったのは、1963年のジョン・コルトレーンとジョニー・ハートマンによる共演ヴァージョンだろう。

Doris Day / Andre Previn 『Duet』 (1962)
ドリス・デイがアンドレ・プレヴィンのピアノトリオ伴奏で歌うスタンダード。クラシックの作曲家・指揮者としても高名なプレヴィンの流麗なピアノが主役の貞淑な歌唱を支え、はんなりとしたムードを演出している。

John Coltrane / Johnny Hartman
『John Coltrane And Johnny Hartman』
(1963)

黒人クルーナー、ジョニー・ハートマンとコルトレーンが共演した異色作品ながら、声質とテナーの音色が見事に溶け合ったメランコリックでロマンティックな名作。「They Say It's Wonderful」、「My One And Only Love」、「You Are Too Beautiful」のバラード3曲が聴く者の心を奪う。
Oscar Peterson
『We Get Requests』
(1964)

オスカー・ピーターソンの「黄金のトリオ」による名盤。レイ・ブラウン、エド・シグペンとの絶妙なコンビネーションは、ジャズ・ピアノにおけるひとつの典型として長く記憶される。ゴスペルにルーツを感じる演奏やボサノバ・タッチなど後年の多くの演奏家たちが試みた演奏の原初形態がここにある。


 「But Beautiful」 (バット・ビューティフル)

作詞: ジョニー・パーク/作曲: ジミー・ヴァン・ヒューゼン [1947年録音]

1947年のパラマウント映画「ロード・トゥ・リオ(南米珍道中)」の挿入歌として書かれ、ビング・クロスビーが歌い大ヒットを記録。クロスビーの代名詞的1曲となった。「恋は可笑しかったり、悲しかったり・・・浮かれては泣いて、でも、ひたすら美しい」という究極的な価値観を表した人生讃歌。

Nancy Wilson 『Music For Lovers』
1969年録音。ポップスやソウルもいけるナンシー・ウィルソンが、ハンク・ジョーンズのトリオにギター名手ジーン・バートンシーニを加えたカルテットの伴奏でしっとりとバラードを歌う。歌伴に定評のあるハンクのピアノも控えめながらお見事。

Bing Crosby
『Crosby Classics』

「White Christmas」などのヒットで「クリスマスソングの王様」とも呼ばれ、またスマートで滑らかな歌唱法の「クルーナー・スタイル」を確立した国民的シンガー、ビング・クロスビー。自らが出演する映画「珍道中」シリーズの第5作目「Road to Rio」で歌われた「But Beautiful」を収録。
Freddie Hubbard
『Open Sesame』
(1960)

歯切れのよいタンギング、芯のある太くふくよかな響き、完璧にコントロールされた高音域、湧き出るアイディアを淀みのないフレーズに変える表現力と、その持ち味を発揮した、フレディ・ハバード 22歳の初リーダー・アルバム。ティナ・ブルックスのプレイもフレディに多くのヒントを与えている。


 「It Had To Be You」 (もしあなただったら)

作詞: ガス・カーン/作曲: アイシャム・ジョーンズ [1924年録音]

1924年以降、現在も愛唱・愛奏され続けている息の長いスタンダード。アイシャムが自己楽団で最初のヒットを記録し、マリオン・ハリス、アーティ・ショウ楽団の録音で一躍有名となった。「僕の運命の人、あなたでなければだめなんだ」という切実な想いを託した歌詞と哀愁のメロディ。アンディ・ウィリアムス、フランク・シナトラ、昨今は、ハリー・コニックJr. やロッド・スチュワートなどポピュラー方面でも度々取り上げられている。

Andy Williams 『Dear Heart』 (1965)
ビング・クロスビー、トニー・ベネットらと並ぶクルーナー・スタイルの代表的シンガー、アンディ・ウィリアムス、黄金のColumbia時代。よく伸びる美声が過不足なく響きわたり、ミュート・トランペットが優しく繊細な音色でそれに呼応する。

Dinah Shore
『Best of:Capitol Recordings』

独特の知性と気品に満ちた歌で全世界を魅了した米ヴォーカル界の名花ダイナ・ショア。『Yes Indeed!』、『The Fabulous Hits Of』、『Dinah Sings, Previn Plays』といった円熟味を帯びてきた後期Capitol時代の名作からの厳選ベスト。
Django Reinhardt
『Djangology』

フランスが生んだ最も偉大なジャズ・ミュージシャンとしてジプシー・スイングのコンセプトをジャズと融合したジャンゴ・ラインハルト。僚友ステファン・グラッペリと共に、ヨーロッパの格調と香気に満ち、郷愁と哀愁溢れる決定的名演の数々を生んだ。


  「All The Things You Are」 (君は我がすべて)

作詞: オスカー・ハマースタイン U世/作曲: ジェローム・カーン [1939年録音]

1939年のミュージカル「5月にしては暖かい」のために書かれた、元々はスローテンポのバラード。舞台はヒットせず、曲自体も広い音域を必要とするために、取り上げるシンガーは少なかったが、その斬新なハーモニーなどがミュージシャンにウケて、古くはチャーリー・パーカー、80年代にはポール・ブレイ、近年ではパット・メセニーなど、原曲とは異なる様々なアレンジで演奏されるようになった。

Frank Sinatra 『I've Got A Crush On You』
1945年録音。盟友アクセル・ストーダルのオーケストラをバックに、優雅に、且つ情熱的に歌い上げる ”スウィーナー” 本領の1曲。ラストのエモーショナルな歌唱は鳥肌モノ。

Ella Fitzgerald
『Sings The Jerome Kern Songbook』
(1963)

プロデューサー、ノーマン・グランツとのコンビによって企画・制作された、ネルソン・リドルの編曲・伴奏でしっとりと聴かせるジェローム・カーン・ソングブック。エラは他のどのシンガーも成し得なかった、偉大なる作家たちの名曲群を自分のものにすることができた。
Sonny Rollins
『Night At The Village Vanguard』
(1957)

豪快な音色、自在なフレーズ。ソニー・ロリンズがピアノレス・トリオで残した至高のセッション。ニューヨーク名門ジャズ・クラブ、ヴィレッジ・ヴァンガードにおける歴史的な初ライヴ録音。テナーサックスの表現領域を明らかに広げ、今日に至るまでその影響は多くのテナーマンに及んでいる。


 「Body And Soul」 (身も心も)

作詞: エドワード・ヘイマン、ロバート・サウア、フランク・アイトン/作曲: ジョニー・グリーン [1930年録音]

1930年のレビュー「スリーズ・ア・クラウド」でリビィ・ホルマンが歌った、「身も心もあなたのものなのに、どうして振り向いてくれないの?」と恋の不条理に悶えるバラード。決定打は、1939年のコールマン・ホーキンスによるソロ録音、そして1957年のビリー・ホリデイの歌唱。胸を締付けられる切ない名演・名唱によって一大スタンダードへと押し上げられた。

Billie Holiday 『Body And Soul』 (1957)
この曲のスタンダード化を決定的なものにしたビリー・ホリデイ晩年の名唱。ハリー”スウィーツ”エディソンのトランペットも彩りを添えている。当時麻薬とアルコールで心身共にボロボロの状態にあり、昔の恋人でマネージャーでもあったルイ・マッケイとの破局・・・何もかもが限界にあったからこそ生まれた絶唱なのかもしれない。

Eddie Jefferson
『Body And Soul』
(1968)

有名な楽器のソロ・パートに詞を付けて歌うヴォーカリーズ・スタイルの創始者にして立役者エディ・ジェファーソン。ホレス・シルヴァー「Psychedelic Sally」やジョー・ザヴィヌル作「Mercy, Mercy, Mercy」ほか、スタンダードもインスピレーションに基づいて即興で歌い上げる。
Coleman Hawkins
『The Definitive』

フレッチャー・ヘンダーソン楽団を退団したコールマン・ホーキンスが1939年に吹き込んだ「Body And Soul」。強烈なアドリブ奏法を用いた当時において革新的な演奏で、聴衆はおろか多くの同業ジャズメンの度肝を抜き、時代は確実にスウィングからビバップへと移り変わっていた。

Thelonious Monk
『Monk's Dream』
(1963)

孤高のピアニスト、セロニアス・モンクがColumbia移籍後発表した最初のアルバム。音符を省略し、テンポを飛ばし、ストライド・ピアノから一気にユニークなモンクへとなっていく以前、チャーリー・ラウズ(ts)を従えたカルテット編成で最も親しみやすいモンク作品と言えるかもしれない。
Jose James
『Dreamer』
(2008)

ジャイルス・ピーターソン主宰のBrownswoodレーベルよりリリースされた、類稀なる才能を持つ男性ジャズ・ヴォーカリスト、ホセ・ジェイムスのデビュー・アルバム。その歌声は、ジャズの過去と現在を結ぶ所謂「クラブジャズ」コンテクストだけにとどまらない深みを持っている。


 「Like Someone In Love」 (ライク・サムワン・イン・ラブ)

作詞: ジョニー・パーク/作曲: ジミー・ヴァン・ヒューゼン [1944年録音]

1944年の映画「ユーコンの美女」の挿入歌として書かれ、その劇中でダイナ・ショアが歌った甘美なスロー・バラード。「この気持ちは何? まるで恋してる人みたい」という内容で、フランク・シナトラ、ビング・クロスビー、サラ・ヴォーンら多くの大物シンガーに取り上げられている。器楽演奏では、エリック・ドルフィー、ジョン・コルトレーン、アート・ファーマーによるヴァージョンも素晴らしい。

Dinah Shore 『Best Of The War Years』
映画「ユーコンの美女」の中で、ダイナ・ショアが初々しくも優しく気品に溢れた見事な歌唱をみせた。1959年に吹き込まれたアンドレ・プレヴィン・トリオとの共演ヴァージョンも、深みが加わった歌とシンプルな伴奏で人気が高い。  

Frank Sinatra
『Songs For Young Lovers』
(1954)

ロックンロールの台頭も何のその。名匠ネルソン・リドル指揮・編曲による洒脱で華麗なオーケストレーションに乗せてゆったりと歌われるミディアム〜スローバラードに世界は酔う。「My Funny Valentine」、「Violets For Your Furs」、「Like Someone In Love」などを収録した究極のラブ・ソング集。
Art Farmer
『Modern Art』
(1958)

盟友ベニー・ゴルソン(ts)の参加とアレンジを得て、アート・ファーマーがソウルフルなプレイを繰り広げる傑作。加えて、このようなファンキー・セッションに顔を出したことのないビル・エヴァンスとの共演もトピック。いつものリリカルなプレイを強調しつつも、ブルージーなタッチを響かせるところが興味深い。


 「Love Me Or Leave Me」 (ラブ・ミー・オア・リーヴ・ミー)

作詞: ガス・カーン/作曲: ウォルター・ドナルドソン [1928年録音]

”トーチ・ソングの女王” ルース・エティングが、エディ・キャンター主演のミュージカル「ウーピー」で歌いヒットを記録。その後1955年に彼女の伝記映画「情欲の悪魔(Love Me Or Leave Me)」が作られた際に、エティング役のドリス・デイによって歌われ、ほか、ビリー・ホリデイ、アニタ・オディ、ペギー・リー、ニーナ・シモン、さらに日本の美空ひばりといった名だたる女性シンガーたちが取り上げている。

Doris Day 『With A Smile And A Song』
1920〜30年代に人気を博したルース・エティングの伝記映画「情欲の悪魔」で主役を演じたドリス・デイによる歌唱。彼女の歌には、癖こそないが、ジャズでもポピュラーでもない独特の世界がある。

美空ひばり
『ジャズ&スタンダード 1955-66』

昭和20年代頃に美空ひばりがジャズのスタンダードを歌った作品集。表現力の豊かさ、タメが効いた独自のリズム感、「A列車で行こう」における天性のスウィング感、シャンソンやブルースまでもをサラリと歌いこなすセンスなど、歌謡界の女王にとどまらないその芸と懐の深さは、やはり美空ひばりならでは。
Lester Young / Teddy Wilson
『Pres And Teddy』
(1956)

晩年のレスター・ヤングの作品中最もリラックスした雰囲気で、テディ・ウィルソンの上品なピアノに乗って気持ちよさそうに吹いている姿が目に浮かぶ。天才ならではの閃き、一瞬のタイミング、フレーズの抑揚に他の追随を許さぬ輝きを見せる“オリジナリスト”レスター。天才は最後まで天才だった。


  「Come Rain Or Come Shine」 (降っても晴れても)

作詞: ジョニー・マーサー/作曲: ハロルド・アーレン [1946年録音]

1946年、ミュージカル「セントルイス・ウーマン」の挿入歌として書かれ、リナ・ホーンの”トラ”として舞台に立ったパール・ベイリーによって歌われたラヴ・ソング。ミュージカルはヒットしなかったものの、「どしゃ降りだろうと、かんかん照りだろうと、君さえよければ、僕は君のことを想い続けたい」というシンプルな求愛歌詞と、ハロルド・アーレンの心地よく洗練されたメロディとが聴き手の心を捉えた。

Diahann Carroll 『Halold Arlen Songs』 (1957)
名アレンジャー、ラルフ・バーンズを迎えて吹き込まれたダイアン・キャロルのハロルド・アーレン集より。アーレン特有のブルーズ基礎のメランコリックなメロディを、若いながらも熱のこもった真情溢れる歌唱で歌い上げている。

Monica Zetterlund / Bill Evans
『Waltz For Debby』
(1964)

シンガー〜女優として高い人気を誇るスウェーデンの名花モニカ・ゼタールンドとビル・エヴァンスによる貴重な共演。モニカの歌をリリカルに包み込む一方、ピアノソロにも全力投球。名曲「ワルツ・フォー・デビー」に新たな生命が吹き込まれた。北欧ジャズの豊かな歴史にも触れることができる。
Pat Moran / Four Freshmen
『While At Birdland』
(1956)

N.Y.バードランドでナット・ピアース・コンボらを従え録音されたパット・モラン・カルテットのBethlehem2作目。ベヴ・ケリーを含む洒落たヴォーカル・ハーモニーが展開され、おなじみのスタンダードが一層モダンな仕上がりになっている。

Art Blakey
『Moanin'』
(1959)

日本中にファンキー・ブームを巻き起こしたことで、ブルーノート諸作品中知名度・人気度共に群を抜いて高い一枚。リー・モーガン、ベニー・ゴルソン、ボビー・ティモンズというやがてこの時代を動かすことになる若者達が怖いもの知らずに吹きまくる様は、40年以上経った今もまったく色褪せていない。「Come Rain...」にしてもファンキー。
Rufus Wainwright
『Rufus Does Judy At Carnegie Hall』
(2007)

ジャズ、クラシック、オペラ、タンゴからの影響も自己のポップネスへと昇華する稀代のシンガー・ソングライター、ルーファス・ウェインライトが、ジュディ・ガーランドの歴史的名演『At Carnegie Hall』にオマージュを捧げたライヴ盤。


 「All Of Me」 (オール・オブ・ミー)

作詞・作曲: セイモア・シモンズ、ジェラルド・マークス [1931年録音]

ベル・ベイカーによるヒットを皮切りに、1932年には映画「ケアレス・レディ」で使われ、その後ルース・エティング、ケイト・スミス、ビリー・ホリデイ、ダイナ・ワシントンなど女性シンガーの歌唱でもおなじみの曲。1952年のミュージカル映画「ミーティング・ダニー・ウィルソン」で主演のフランク・シナトラがスウィンギーに歌ったことでリバイバル・ヒット。「どうしてわたしの全てを奪ってくれないの?」という歌詞さえもシナトラ流に料理された。

Frank Sinatra 『Swing Easy』 (1954)
「シナトラの歌がすべての基準」と言われればそれまでだが、円熟期に差しかかるCapitol時代の作品にはいずれもそのことを納得させるだけの強く深い歌力や表現力が宿っている。プロデューサー、ヴォイル・ ギルモアとネルソン・リドル楽団とのコンビネーションも抜群。

Billie Holiday
『The Ultimate Collection』

シナトラ・ヴァージョンと並んでファンの多いのが、1941年にビリー・ホリデイがOkehレーベルに吹き込んだこの「All Of Me」。絶妙な間合いで柔らかく歌い上げるビリーと、そこに呼応するかのようにソフトに”歌う”レスター・ヤングのテナー。まさに愛の記録。
Lee Konitz
『Motion』
(1961)

エルヴィン・ジョーンズとの出会いがコニッツを一段とエキサイトさせた、まさにエモーショナルなアルバム。ソニー・ダラスのホリゾンタルなベース・ランニング、五線譜を掛けまわるコニッツ、ポリリズムに徹して我は関せずのエルヴィン。三者三様ながらまとまりのある不思議な名演。


 「Love Is Here To Stay」 (わが愛はここに)

作詞: アイラ・ガーシュイン/作曲: ジョージ・ガーシュイン [1938年録音]

1938年、映画「ザ・ゴールドウィンズ・フォリーズ」のために書いたと言われているが、兄ジョージはこの曲の完成を前に1937年7月死去。そのため親交のあったピアニストのオスカー・レヴァントが、作曲家のヴァーノン・デュークの協力を仰ぎながら仕上げたという。「ラジオや電話や映画は所詮流行りもの。でも、わたしたちの愛は変わらずここにある」という内容で、1951年の映画「巴里のアメリカ人」に使われ有名となった。

Julie London 『Your Number Please』 (1959)
魅惑のハスキーヴォイス、ジュリー・ロンドンが、アンドレ・プレヴィンの編曲・指揮によるフル・オーケストラをバックに色気たっぷりロマンティックに歌い上げる。ゴージャスなストリングスを配しながらも高尚になりすぎず、やすらぎさえ憶えてしまう彼女の声はやはりスペシャルだ。

Frank Sinatra
『Songs For Swingin' Lovers』
(1956)

ネルソン・リドルによるバックアップと、メロディを崩さずに歌いながらも他の歌手には表現不可能な世界を紡ぎ出すシナトラの真骨頂が凝縮された作品。「I Got You Under My Skin」は、シナトラ・スタンダードとして永遠に不滅だ。
Bill Evans
『Trio '65』
(1965)

チャック・イスラエル(b)、ラリー・バンカー(ds)という新編成トリオでお気に入りのレパートリーを取り上げ、新たな生命を吹き込んだ愛奏曲集。エヴァンス・トリオ史上最もリラックスした味わいのメンバー。ナチュラル感覚のサウンドが心地よい。


 「You Make Me Feel So Young」 (ユー・メイク・ミー・フィール・ソー・ヤング)

作詞: マック・ゴードン/作曲: ジョウゼフ・マイロウ [1946年録音]

1946年、映画「スリー・リトル・ガールズ・イン・ブルー」で、ヴェラ・エレンとフランク・ラティモアによって歌われた。1956年、フランク・シナトラが豪華なネルソン・リドル楽団をバックに「君の笑顔を見てると、とても幸せだ」と明るくダイナミックに歌ったことで一躍スタンダードに。ペリー・コモ、ポール・アンカ、ボビー・ダーリン、エラ・フィッツジェラルド、クリス・コナー、ジェリ・サザーンなど男女問わず多くのシンガーに取り上げられている。

Paul Anka 『The Essential』
1962年録音。「若いんだから、どんどん恋をしよう!」というコンセプトで制作されたアルバム『Young, Alive And In Love!』に収録。オープニングのコーラスに導かれ、まさに青春を謳歌するように勢いよくハジけるパフォーマンスにパワーをもらえる。

Beverly Kenney
『Come Swing With Me』
(1956)

夭折した悲劇の美人ジャズ・シンガー、ビヴァリー・ケニーのRoost3部作の2作目。ウディ・ハーマン楽団で活躍したラルフ・バーンズの指揮・編曲のオーケストラをバックにスタンダードを緩急のテンポを取りまぜて歌う一枚。ちょっと舌足らずな感じのキュートな語り口が魅力的。
Oscar Peterson
『Jazz Portrait Of Frank Sinatra』
(1959)

レイ・ブラウン、エド・シグペンとの”ザ・トリオ”による実質的な第1弾アルバム。フランク・シナトラゆかりのナンバーを、シンプルながらもまるで歌うようにピアノを奏でる、ピーターソンのスケールの大きなプレイが収められている。


「I Could Write A Book」 (書き残したい私の恋)

作詞: ロレンツ・ハート/作曲: リチャード・ロジャース [1940年録音]

1940年、ミュージカル「パル・ジョーイ」の中でジーン・ケリーが歌い、1957年、その映画化の際にフランク・シナトラが歌ったことで有名に。「あなたの歩き方、囁き方、愛し方・・・ 何でも知っているから本を書けるわ」という微笑ましくも心温まる歌詞のため、エラ・フィッツジェラルド、アニタ・オデイ、トニ・ハーパー、ダイナ・ワシントン、ベティ・カーターなど女性シンガーによる名唱が多いのも納得できる。

Betty Carter 『The Ultimate』
1955年録音。ライオネル・ハンプトン楽団で華々しくデビューを飾ったベティ・カーターの初アルバムから。バップ・イディオムの即興歌唱スタイルを得意とすることもあって、しっとりと歌う中にも独特のグルーヴと訛りがある。レイ・ブライアント・トリオの伴奏も文句なし。

O.S.T.
『Pal Joey』
(1957)

フランク・シナトラ、キム・ノヴァク、リタ・ヘイワース出演の映画「パル・ジョーイ(夜の豹)」の中で歌われた「I Could Write A Book」。コメディ・タッチになりすぎず雰囲気たっぷりに歌えるのはシナトラならでは。ほか劇中には「My Funny Valentine」などスタンダードが満載。
Dinah Washington
『Swingin' Miss D』
(1956) 

ボブ・シャッドのプロデュースによって制作されたダイナ・ワシントン中期の代表作。若きクインシー・ジョーンズのディレクション/アレンジの素晴らしさが、名作揃いのダイナ作品中でも一際輝かせることとなった。


 「That Old Black Magic」 (恋の魔術師)

作詞: ジョニー・マーサー/作曲: ハロルド・アーレン [1942年録音]

1942年、ビング・クロスビー主演のパラマウント映画「スター・スパングルド・リズム」の挿入歌として書かれ、ジョニー・ジョンストンによって歌われた、歌詞に大きな魅力を持つ恋の歌。「恋という名の古き黒魔術」というのがまさにその「恋心」。エラ・フィッツジェラルド、フランク・シナトラ、スキップ・ネルソン、ルイス・プリマ&キーリー・スミス、さらには1956年の映画「バス停留所」で歌ったマリリン・モンローの歌唱が有名だろう。

Frank Sinatra 『Come Swing With Me』 (1961)
ビリー・メイ楽団の洒脱な伴奏に乗って強烈にスウィングする、「スウィンギン・セッション」シリーズの最終作。この曲ではミドル・テンポでゆったりと揺れるしなやかさが肝となり、コクのある至福のシナトラ節を堪能できる。

Ella Fitzgerald
『Complete Ella In Berlin』
(1960)

エラの名声をさらに高めた1960年2月13日のドイツにおけるライブ盤。ポール・スミス(p)らをバックに、スローからハイテンポ、スキャットと縦横無尽に繰り広げられるエラ・ワールド。完全盤には当時未発表だった「That Old Black Magic」を収録。
Herbie Hancock
『Trio '81』
(1981)

60年代黄金の第二期マイルス・クインテットのメンバーとして活躍したハービー・ハンコック(p)、ロン・カーター(b)、トニー・ウィリアムス(ds)によるアルバム。「V.S.O.P.クインテットのトリオ版」とも言える『Trio '77』とはまた異なる成熟したピアノトリオ・サウンド。


 「I Concentrate On You」 (あなたに夢中)

作詞・作曲: コール・ポーター [1939年録音]

ミュージカル映画「ザ・ブロードウェイ・メロディ・オブ・1949」に使われ、主演のフレッド・アステアによって歌われた名スタンダード。「みんながお前はもう終わりだと言っても、僕は君のことだけを考えている」という歌詞が心に響く。ジャズはもとより、ラテンやボサノヴァ・アレンジのものも多く、アントニオ・カルロス・ジョビンとフランク・シナトラの素晴らしい共演なども残されている。

Ella Fitzgerald 『Sings Cole Porter The Songbook』 (1956)
コール・ポーター、ロジャース&ハート、ガーシュイン兄弟など、エラはVerve移籍後の1956年から64年にかけて彼ら偉大なるソングライターたちの作品を取り上げた歌唱集を8枚制作。ここでは、名士バディ・ブレグマンのスロー・アレンジに乗せ、一語一語丁寧に歌い込んでいる。

Chris Connor
『This Is Chris』
(1955)

ハスキーな歌声によるモダンなフレージングは、知的な雰囲気と共に気だるさを漂わせ、同時に”ケントン・ガールズ”の一人だけあって都会的な洗練されたスタイルも併せ持つ。クリス 27歳の時の作品「I Concentrate On You」など若き日の名唱が満載。
Frank Sinatra / Antonio Carlos Jobim
『Complete Reprise Recordings』
(1967)

フランク・シナトラがアントニオ・カルロス・ジョビンを迎えて録音したアルバム。クラウス・オガーマン指揮、ドン・ウン・ロマン(per)らを迎え軽やかに歌うボサノヴァ・タッチの一枚。1969年に録音されるも未発表となっていた『Sinatra / Jobim』を追加収録した完全盤で。

J.J. Johnson / Kai Winding
『The Great Kai & J.J.』
(1961)

Impulse! レコードの記念すべき第1作目となった、J.J.ジョンソンとカイ・ウィンディングによるトロンボーン・コンビの1960年録音双頭リーダー作。ビル・エヴァンスのユニークなピアノも相俟ってほのぼのとしたセッションの様子を伝える。
渡辺貞夫
『アイム・オールド・ファッション』
(1976)

70年代国産ストレート・アヘッド・ジャズの最高峰。ハンク以下、ロン・カーター(b)、トニー・ウィリアムス(ds)ら初代グレイト・ジャズ・トリオのバックを得て、ナベサダのアルトがピチピチと跳ね回る。


 「Too Marvelous For Words」 (口に出せない素晴らしさ)

作詞: ジョニー・マーサー/作曲: リチャード・ホワイティング [1937年録音]

1937年、ミュージカル映画「レディー・ウィリング・アンド・ エイブル」に使用され、ルビー・キーラーとリー・ディクソンによって歌われ、また同年にはビング・クロスビーのヴァージョンがヒットした。「君は素晴らしい。ウェブスター辞典にも形容する言葉が載っていないぐらい」というやや大げさな愛情表現の歌詞が人気となり、ナット・キング・コール、ヘレン・フォレスト、ドリス・デイ、さらにオスカー・ピーターソンまでにも愛唱された。

Rosemary Clooney 『Clap Hands! Here Comes Rosie!』 (1960)
「家へおいでよ」のヒットで知られるローズマリー・クルーニーが、ボブ・トンプソンの指揮・編曲でRCAに吹き込んだ人気アルバムから。バド・シャンク(as)、ピート・カンドリ(tp)らの軽快な演奏をバックに爽やかにスウィング。

Nat King Cole Trio
『Best Of』

1947年録音。歌唱以上にジャズ・ピアニストとして高い評価を得ていたナット・キング・コール。ジャイヴ感覚溢れる粋な演奏に艶のある歌声が乗る、トリオ時代のビッグヒットがこの「Too Marvellous For Words」。
Brazilian Jazz Quartet
『Coffee & Jazz』
(1958)

ブラジルで録音された南米ハードバップの歴史的名作。キラー・ジャズサンバが並ぶ中、ウエスト・コースト・ジャズにも通ずる、ホセ・フェレイラの哀愁に満ちた美しいアルトが堪能できる。


 「Alone Together」 (たった二人で)

作詞: ハワード・ディーツ/作曲: アーサー・シュワルツ [1932年録音]

ディーツ&シュワルツの名ソングライター・コンビによって、1932年のミュージカル「フライング・カラーズ」のために書かれた。マイナーからメジャーに転調するコード進行や変則的な構成から、器楽演奏で取り上げられることが多い。また、ダイナ・ワシントンとクリフォード・ブラウン、チェット・ベイカーとビル・エヴァンス、ケニー・ドーハムとトミー・フラナガンなどの名競演も残されている。

Tony Bennett 『Swings The Great American Songbook』
1960年録音。男の哀愁を漂わせ、言葉の意味を噛み締めるかのようにしみじみと歌い込むトニー・ベネット。転調後の高揚感にも堪らないものがある。

Peggy Lee
『Things Are Swingin'』
(1959)

ウエスト・コースト・オールスターズと言っていい豪華メンバーを従えたジャック・マーシャル楽団をバックに歌う円熟のペギー・リー。脂の乗り切っていたペギーと最盛期の西海岸との交流が生んだ奇跡の一枚。
Chet Baker
『Chet』
(1959)

甘い歌こそ披露していないものの、パシフィック時代とも異なるロマンチックな響きを持つインスト曲に耽溺。ビル・エヴァンス(p)の参加も貴重。「アローン・トゥゲザー」一曲でチェットの虜になることだろう。


 「Love Letters」 (ラヴレター)

作詞: エドワード・ヘイマン/作曲: ヴィクター・ヤング [1945年録音]

1945年、ジェニファー・ジョーンズとジョセフ・コットン主演の映画「ラヴ・レターズ」のために書かれたバラードで、ディック・ヘイムズが歌った。公開当初はヒットしなかったが、1962年に、キャブ・キャロウェイ楽団の元・専属シンガーとしても知られるケティ・レスターが歌ってビルボード5位のリバイバル・ヒットを記録。その後エルヴィス・プレスリーやナット・キング・コールらにも録音されている。

Nat King Cole 『Love Songs』
1957年録音。愛らしいメロディと蕩けるぐらいにロマンティックな詞。ハスキーがかった艶のある歌声で、キングは語りかけるかのように聴き手を柔らかく包み込む。絶世の名唱。

Ketty Lester
『Love Letters』

1962年録音。「大草原の小さな家」など70年代以降の女優業で注目を集めたケティ・レスターのシンガーとしてのヒット・シングル。クールな歌唱でR&Bチャート2位、米英のポップス・チャートで5位にランクインされ、ミリオンセラーとなった。
Kenny Drew
『Dark Beauty』
(1974)

ニールス・ペデルセン(b)、アルバート・ヒース(ds)との抜群のコンビネーション、そして静かに燃えるバラードとドライヴのかかったブルースとのバランスも絶品。デューク・ジョーダンの『Flight To Denmark』と並ぶ70年代屈指のコペンハーゲン録音作品。



[Torch] 編は3月7日掲載予定です。