プクルの”アブストラクト・ソサエティ”
Friday, August 17th 2012
いいぞ、プクル! もっとやれ!
アブストラクト・ソサエティがジャズの厭世を斬る哉。
一見すると、スカコア〜ネオスカ・バンドを想わせる風体の輩たち。中央ではにかむアニキなんてまるでスラッカーズのアノ人、いや「アダルト♂スクール」のときのヴィンス・ヴォーンみたい...
と、伝わりづらいアナロジーはこの辺で自重しつつ。実はこのアニキ、NYCからはるか三十万里、中央ヨーロッパ・アルプス諸国が誇る”緑の宝庫”スロヴェニア共和国出身のジャズ・サックス・プレイヤーなのであります。名をユーレ・プクル。ビールっ腹もやや眩しい、35歳。これは気風の良いナイスガイに違いないぞ。
オフィシャル・サイトによれば、地元スロヴェニアや隣国オーストリア・ウィーンのレーベルなどからこれまでに5枚のリーダー・アルバムをリリースしてきたというプクルですが、残念ながらそのほとんどが日本未流通ということでして、要するに今回の最新リーダー作『Abstract Society』が本邦お披露目盤、つまるところ記念すべきワールドワイド・デビューと相成るわけです。リリースは、今年設立60周年を迎えるご存知コペンハーゲンの老舗銘柄ストーリーヴィルから。
さて、本題に入る前にここで少し予備知識を。1991年に独立国家となったスロヴェニアのジャズメンと言えば、皆さん真っ先に誰を思い浮かべるでしょうか? フリージャズ方面で引く手数多の辣腕ドラマー、ズラトコ・カウチッチ、旧ユーゴの英雄デュスコ・ゴイコビッチのコンボにも参加していたピアニスト、ピーター・ミケリッチ、ウディ・ショウとの共演でも知られるサックス奏者トーネ・ヤンシャ、はたまたリュブリアナ放送ビッグバンド... 「バルカン・ジャズ」という括りであれば朝飯前ですが、よほどの東欧・中欧ジャズ好事家でない限りスロヴェニアのジャズメンを枚挙するのは至難の業かもしれませんね。”花形不在”と呼ぶのは勿論失礼千万でしょうが、事実それだけスロヴェニアという国の音楽は、我々アジアの民にとっては全くといっていいほど馴染みのないもの、と言えるのではないでしょうか。
しからば辞書を引くまでよということで。ウィキをはじめ、大使館や旅行専門店などの各種関連サイトを参考にしながら、スロヴェニアという国の音楽文化事情をざっくりと調べてみたところ。
イタリア、クロアチア、ハンガリー、オーストリアと隣接する土地柄も手伝って、都市部においては中欧諸国の中でも特に国際色豊かな風土と文化を持つと言われているスロヴェニア。一年を通して国内のあらゆる町で様々なフェスティバルが開催され、地元の人や観光客が一体となって愉しんでいるというのが、欧州ツーリストたちの間での専らのウワサ。
中でも首都リュブリャナと、今年「ヨーロッパ文化首都」に指定された第2の都市マリボルでは、殊更人気のあるフェスが行なわれ、毎年この時期のリュブリャナでは、「リュブリャナ・フェスティバル」という大規模な音楽コンサート(主にクラシックとジャズ)、さらにはジャズと民族音楽の祭典「ドゥルガ・ゴドバ・ジャズ・フェスティバル」をはじめ各所で大規模な文化的催しが開かれているのだそうです。一方、マリボルでも毎年50万人もの観客を動員するヨーロッパ最大のサマー・フェスティバルのひとつ「レント・フェスティバル」が行なわれ、また秋には、こちらもジャズと民族音楽の祭典「イズズベン・フェスティバル」が開催。そのほか、クロアチアの国境近くの町ブレジツェや北西部ラドウリツァの「オールド・ミュージック・フェスティバル」、アドリア海沿いの港町ピランの「フェスティバル・タルティーニ」、ゴレンスカ地方ブレッドの「フェスティバル・ブレッド」といった音楽フェスティバルが各都市で開催されているのだそうです。
ソース丸写しか! とキツめのツッコミが入りそうなザックリ解説で大いに恐縮ではあるのですが、これがスロヴェニアを取り巻く音楽文化状況と言いますか。総じて、クラシック、ジャズ、そして広く東欧〜バルカンの民族音楽が”古典”としてしっかりと基盤を成し、その上にドラムンベースやエレクトロを取り入れた所謂バルカン・グルーヴスのような新しい世代のダンス・ミュージックがレイヤードされていくと、実以て絵に描いたような温故知新型の状況を窺わせています。
そんな音楽土壌で育まれ、このたび晴れて全国制覇の第一歩を踏み出すユーレ・プクルの最新アルバム『Abstract Society』。なかなか気になるタイトルですよね。早速チェックしてみましょう。
収録曲
- 01. Circle Mind
- 02. Waterfalls
- 03. Abstract Society
- 04. Random Logic
- 05. Intermission: Sir Dracula
- 06. O.M.
- 07. The Force
- 08. Sequence U
- 09. The Mind And The Soul
Jure Pukl (ts,ss) / Vijay Iyer (p) / Joe Sanders (b) / Damian Reid (ds)
Recorded Live at Brooklyn NYC, Samurai Hotel Recording Studio
May 11th, 2011
なんでも主役のプクルは、スロヴェニア・ジャズ・シーンの新世代を牽引するヤングライオンとして注目を集め、すでに「真にオリジナルなジャズを生み出す新星」と地元各メディアから称賛の声が上がりまくっている未来のスター候補生。”二代目スティーヴ・コールマン”襲名もほぼ確実視されているという下馬評もあながちブラフではなさそうです。
オーストリアのウィーン音楽院、グラーツ音楽院、また奨学金を得て米ボストンのバークリー音楽大学でジョー・ロヴァーノやジョージ・ガゾーンに師事しながら徹底的にジャズ・サックスを学んできたプクル。ヴィールス(ウィルス)・クインテットを率いた自身のリーダー作の他にも、これまでにメイシオ・パーカー、アーロン・ゴールドバーグ、ジェレミー・ペルト、ジョナサン・ブレイク、マーカス・ギルモア、EMJO(ヨーロピアン・ムーヴメント・ジャズ・オーケストラ)、ヨーロピアン・ジャズ・オーケストラ、さらには今をときめくエスペランサ・スポルディングなど、数多くのレコーディング、ライヴに参加し、ジャンジャンバリバリ吹きまくってきたという経験豊富な超実力派。その程は、本作に参加している、2009年の『Historicity』で一躍時の人となったピアニスト、ヴィジェイ・アイヤーからも「プクやんの才能はズバ抜けとる!」とお墨付きをもらうほど。
ジャケ写、宣材スチール、アルバム・タイトル、あるいは「新世代を牽引する」などと謳われている寸評を目にすれば、特に若い人の中には、何となしにクラブジャズめいた音、つまりスタイリッシュに踊れるハードバップ体系のジャズを予想してしまう方もいるとは思いますが、自由度の高いソプラノ・サックスが鳴り響く冒頭の「Circle Mind」や「Waterfalls」を聴けば、そんな短絡的なイメージはアッという間にはるか彼方へ飛んで行ってしまうはず。
フリー・ジャズ〜ロフト・ジャズの系譜にあるフリー・グルーヴと例えるのが適当でしょうか。ただし”ドシャメシャ”ではない分、そこにはスピリチュアル・ジャズやアンビエント・ミュージックなどが持つある種の幽玄さやカタルシスのようなものも感じさせてくれます。「Waterfalls」の美しく神秘的な過激さに胸を打たれることは必至。21世紀の「Naima」、はたまた「The Creator Has A Master Plan」の誕生?
表題「Abstract Society」は聴き手をさらに深遠な世界へと導きます。ESP-DISKがトグロを巻きはじめた時代から脈々と迷い子たちを囲い続けてきたアシッド・テンプル、脳内迷宮世界、魑魅の庭、音の竜宮城とも言うべきディープでサブライムでシャーマニック(?)な音の連綿たる磁場。悦と恐怖が入り乱れる瞬間のサークルへようこそ。啜り泣きシャクリ泣き、ときに金切り声を上げるプクルのテナーが、嗚呼愛おしい。
アイラーの亡霊やブロッツマンの生霊を呼び集めそうな「Random Logic」、「Intermission: Sir Dracula」のユニークなテーマは、豊かなヴァリエーションの総体”ニューシング”の過去・現在・未来を一気に、なお悠然とつんざくかの如く。
ワダダ・レオ・スミス、スティーヴ・コールマンといった”クセ者”たちとの共演でおなじみのヴィジェイのピアノはやはり大胆不敵で、ニクらしいほどに特異。主役の咆哮もさることながら、「O.M.」はヴィジェイのちょっとした独壇場といったところでしょう。インド移民というハイブリッドな感性と類稀なピアノのコミュ力(りょく)は、今回のレコーディングにおいて、プクルの楽想やコンセプトにズッパマリだったに違いありません。
後半の「The Force」、「Sequence U」、「The Mind And The Soul」では、凡そフリーキーなれどカルテット全体のアンサンブルがさらにタイトに引き締まっていく感覚を憶えるのではないでしょうか。ロバート・グラスパー・トリオの初期メンバーでもあったダミアン・リードの柔剛併せ持った安定感抜群のドラムと、ドレッドの牛若丸ジョー・サンダースの太くキレのあるベースが核となりながら、といった感覚。あるいはコールマン文脈で言うところの「M-BASEノリを徐々に強めながら」と表現してもよいのかもしれません。「The Force」での”後期コルトレーン・クインテット”っぽさには少しばかり照れくささも。
スロヴェニアの気鋭とニューヨークのキレ者たちによるポストバップ・イディオムのカウンターパンチ。大袈裟な形容に聞こえるかもしれませんが、いずれにせよここまでガッツ溢れる硬派な作品にお目にかかれる機会というのは、昨今あまりないのではないでしょうか。では最後、大袈裟ついでに。国士無双のアブストラクト・ソサエティ、ジャズの厭世を鮮やかに斬る哉!?
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