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鈴木惣一朗に聞く、ワールドスタンダード『シレンシオ』の世界

2010年10月15日 (金)

interview


ロングセラー・アイテムでもあるビートルズのカヴァー集『りんごの子守唄』や『雪と花の子守唄 -バカラック・ララバイ集-』のプロデュースで知られる鈴木惣一朗氏率いるワールドスタンダードは今年で結成25周年。そして多くの音楽から絶賛の声を浴びた、前作『カノン』から3年。遂に待ち望んでいた、静かなる大傑作『シレンシオ』が完成。今回、『シレンシオ』の発売を記念して、鈴木惣一朗さんにアルバムの制作秘話から自らの音楽ルーツ、そしてアルバムにも影響を与えたというアルゼンチン音楽シーンへの想いなど、色々と興味深いお話を伺うことが出来ました。インタビュアーは今は無きHMV渋谷「山ブラ+素晴らしきメランコリーの世界」コーナーの担当、山本勇樹(Y)と河野洋志(K)です。


--- ワールドスタンダードの新作『シレンシオ』発売を記念しまして。本日はワールドスタンダードを率いる鈴木惣一朗さんをお迎えして色々とお話を伺いたいと思います。よろしくお願いします。(Y)

よろしくお願いします。

--- 今回の作品『シレンシオ』が南米音楽、特にアルゼンチン音楽が影響の一つにあるとお聞きしました。(K)

そうですね。アカ・セカ・トリオを幹とするとわかりやすかったです。モノ・フォンタナにもエグベルト・ジスモンチにもセルジオ・サントスにも繋がるし、ウルグアイのエドゥアルド・マテオにも繋がりました。アカ・セカ・トリオのフアン・キンテーロのソロ作も大好きです。プエンテ・セレステも良かったなぁ。以前から、YouTubeで彼らの映像は覗いていましたが、こうした音楽家たちが、一体どういうピープル・ツリーなのか全く分からなかった。それで、アプレミディの橋本君が選曲した『素晴らしきメランコリーのアルゼンチン』を聴いたり、大洋レコードのHPを見たりしているうちに、自分なりのピープル・ツリーが書けてきて…。前作『カノン』を作った後に、すぐに『シレンシオ』を作ろうと思ったのは、今のアルゼンチンのシーンとは違うけれど、映画音楽で有名なグスタヴォ・サンタオラーラを聴いて、そこから自分の中でエグベルト・ジスモンチやカルロス・アギーレに繋がったから。以前“ディスカヴァー・アメリカ”シリーズを作った時は、ジョン・フェイヒィやジム・オルークといったキーパーソンがいました。僕はギタリストでピープル・ツリーを作るのが癖なので、そうすると、ヴィラ=ロボスのような偉人がいて、ジスモンチが受け継いでグスタヴォ・サンタオラーラからカルロス・アギーレにも繋がっていくのが見えてしまったら、自分的にその影響を形にする意味がある、やらざるを得ないですね。だから、カルロス・アギーレやアカ・セカ・トリオの存在は特に大きかったです。

--- 2曲目に収録されたセルジオ・サントスのカヴァーも印象的ですね。(K)

『シレンシオ』は実は、HMV渋谷の“素晴らしきメランコリーの世界”からリアルに反応したものではないと思っているんですが、いつものように影響を潜伏しちゃうと分かり難くなり過ぎるので一曲だけすごくはっきり、そのメッセージを入れた方がいいのではないかなと思って。それで、セルジオ・サントスは以前から本当にいい曲を書く人だなぁ、と感じていて。カヴァーするなら今のシーンに呼応したいから昔の曲ではなく新譜がいいかなと。

--- カルロス・アギーレの音楽を聴いているとセルジオ・サントスのようなミナス・ミュージックにも通じる何かを感じます。(Y)

ミルトン・ナシメントにはじまるミナスの音楽の浮遊感や賛美歌的なもの、少し視点は違うけどジャズのリチャード・ボナとかメセニー、セネガルのコラの音楽にもミナス感がある。ワールドスタンダードの音楽を客観的に見た時に、そういう浮遊感とか多幸感は結成当初からイメージとしてあったので上手く融合できるんじゃないかと『カノン』を作った時に思いました。あの時はテーマはイタリアで、それで次は横目をしてポルトガルだけれどファドをやる訳にはいかないから、飛び火して南米〜ミナスに向かってゆくんだ、と。僕的にはこんな自然の流れが2008年の時点で見えていました。その後、怒涛の勢いだと思っているんですけど、アルゼンチンでいい音楽がどんどん出てきて、その中でマストな盤を見つけて、それがセバスチャン・マッキ/クラウディオ・ボルサニ/フェルナンド・シルヴァの『Luz De Agua』でした。パッケージ、録音やミックスの仕方も含めてすべて好きでしたね。

--- 『Luz De Agua』はカルロス・アギーレが主宰するレーベル、シャグラダ・メードラの一枚でもあります。(K)

(栗本斉さんが選曲した)『Organic Buenos Aires』のコンピレイションにも少し入っていたし、かなり気になってました。『シレンシオ』に対する存在単位の決定打がカルロス・アギーレならば、アルバム単位の決定打はこの『Luz De Agua』でしたね。なかなか手に入らなくて聴けるまで8ヶ月ぐらいかかりましたよ(笑)。

--- 私達もカルロス・アギーレなどの繊細で美しい音楽を聴いてきた流れからすると、ある意味、私達にとっての決定打が『シレンシオ』ですよ。(Y)

とんでもないですよ(笑)。

--- 『Luz De Agua』の小さな火が少しずつ燃え上がってきた感じですよ。『シレンシオ』はHMV渋谷の“素晴らしきメランコリーの世界”で心から展開したかった作品だと思いました。残念です。“シレンシオ=静寂”というタイトルも素敵ですね。(K)

僕は寝ている時にはアギーレの『Violetta』を爆音で聴いて寝ていますよ(笑)。気持ちよくてね。“シレンシオ”というのは心の状態であって、にぎやかな音楽でも心が静寂であれば眠ることができるし、それは「りんごの子守唄」のシリーズを作っている時にも感じたことで、僕のやっている音楽は色々な形態があるけれど、アンビエントということではなくて、聴いていて心が静かな状態になればいいなという、ひとつの想いですね。

--- 7曲目のサラ・タヴァレスのカヴァーも美しいですね。(Y)

彼女はカボ・ヴェルデのポルトガル系アフリカ人ですよね。アフリカとポルトガルは近似値で繋がっていく感じで、サラ・タヴァレスの音楽はみんなすごく綺麗なのですぐにカヴァーをしたくなりました。アフリカの音楽ってアグレッシヴな所に興味が行きそうですけど静かなアーティストも何人かいるので、そういう中ではサラ・タヴァレスは特別でしたね。

--- またレイチェル・ダッドの歌声がこの曲にとけ込んでいましたね。(K)

2008年に「Ave Maria」の録音があって、ちょうど知り合いのレイチェル・ダッドが来日していたので「来る?」と誘って一緒に録音しました。彼女とは一度対バンをやって、それで気に入ったんですね。彼女のアルバムもほとんど持っていたし、でも、ずいぶん気さくな人でしたね。沢山いるジョニ・ミッチェル・タイプの中でも群を抜いていましたよ。

--- まったく同感です。惣一朗さんがプロデュースした『雪と花の子守唄-バカラック・ララバイ集』にも参加されていましたよね。(K)

そう、だから今回の録音は2回目になりますね。今いるシンガー・ソング・ライターの中で、レイチェル・ダッドとイノセンス・ミッションのカレン・ペリスは特筆モノ。あと“素晴らしきメランコリーの世界”にも並んでいたローズ・メルバーグもいいなぁ。

--- 本当に皆さん魅力的な声ですよね。(Y)

そう、か細いけど存在感がある、そういう人が嗅覚的に好きなので。イノセンス・ミッションのカヴァー集『ナウ・ザ・デイ・イズ・オーヴァー』があったじゃないですか。あれを聴いて実は『りんごの子守唄』シリーズを作ろうと思ったんですよ。この2枚が並んで、同じ質感というか肌触りで聴いてくれたら嬉しいですね。


(次項へ続きます)



新譜WORLD STANDARD 『シレンシオ』
細野晴臣絶賛、
ワールドスタンダード25周年を祝福する待望の新作は、静かな光のエキゾティシズム。


鈴木惣一朗率いるワールドスタンダードが3年間の長期レコーディングの末にたどり着いた、なんとも美しい”静寂”の新境地。南国風が奏でるように響くエキゾチックなサウンド。祈るように語りかけるポルトガル語の柔らかくやさしいささやき。天上に輝く星のような聖なる調べ。
EGO-WRAPPIN' AND THE GOSSIP OF JAXXでもおなじみの武島聡や星野源、細野バンドでもおなじみの伊賀航などをはじめ、鉄壁の布陣で送る至高の音楽がここに!
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profile

ワールドスタンダード (鈴木惣一朗) :
1959年生まれ。
83年にインストゥルメンタル主体のポップグループ World Standardを結成。細野晴臣プロデュースでノン・スタンダード・レーベルよりデビュー。95年、ロングセラーの音楽書籍『モンド・ミュージック』で、ラウンジ・ミュージック・ブームの火付け役として注目を浴び、97年から5年の歳月をかけた「ディスカヴァー・アメリカ3部作」は、デヴィッド・バーンやヴァン・ダイク・パークスが絶賛。
近年ではビューティフル・ハミングバード、中納良恵、ハナレグミ等、多くのアーティストをプロデュース。