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【特集】 はじめてのソニー・ロリンズ

Tuesday, August 31st 2010


はじめてのソニー・ロリンズ



 「ビル・エヴァンス没後30周年」、「ベニー・グッドマン生誕100周年」、「ジャンゴ・ラインハルト生誕100周年」、「〈Bitches Brew〉発売40周年」などなど、今年はジャズ・ジャイアンツの軌跡を振り返る記念行事が花盛りのようでして、各社趣向を凝らしたコンパイル及び装丁でその偉業を称えまくる今日この頃。さて、我らが御大、ソニー・ロリンズは今年の9月7日をもってめでたく「傘寿」、つまりは80歳のバースデーを迎えることになりました。

 ジャズに深い造詣がなくとも、「ソニー・ロリンズ」という名前だけはどこかで耳にしたことがあるのではないでしょうか? 映画「アルフィー」の音楽を手掛けていた人、あるいは、ローリング・ストーンズ「友を待つ」で琴線弄りまくりのテナー・ソロを吹き上げていた人として多少の既知感があったり、またあるいはこんな感じのジャケットに見覚えがあったりと。

 Wikipedia風に記するところ、このソニー・ロリンズというジャズメンは、アメリカ合衆国のテナー・サックス奏者。本名をセオドア・ウォルター・ロリンズ(Theodore Walter Rollins)。ハード・バップの代表的演奏者であり、ジョン・コルトレーンと並ぶジャズ・サックスの巨人と讃えられ、その歌心溢れるアドリブは今も多くのファンに支持されている、となるでしょう。1949年に初レコーディングを行っているので、実に半世紀以上ジャズ界の第一線で活躍していることになります。当然それだけでも大偉業なわけですが・・・何と言っても、上(↑)の写真。フィッシュボーンのアンジェロではありませんよ。「モヒカン刈」のロリンズ。しかも60年代初頭。パンク・ファッションもデニーロの「タクシー・ドライバー」も世に出る遥か以前。ロリンズは、1950年代末突然の引退からのカムバック劇を、ジャズ史上前例のないヘアー・スタイルで飾った人物でもあるのです。

 1963年9月の初来日公演では、会場となった産経ホールにやおらこの頭で登場。多くの日本のジャズ・ファンに強烈なインパクトを与えたのは語り草となっています。後に「僕は同じマイノリティ(アフリカ系アメリカ人)として、インディアンが抱えていた社会問題とは無縁でいられなかったから、衝動的に髪を剃った」と発言していたそうです。ただ、「モヒカン=粗野」という表層的なイメージだけで捉えていただくのではなく、ソニー・ロリンズの吹く音色には、力強くもあくまで聴き手を心地良く酔わせ踊らせるメロディアスな節を多分に含んでいるということをまずは知っていただきたい次第なのです。ラテンやカリプソの要素を取り込んだ陽気な「St. Thomas」、「Don't Stop The Carnival」や、センシティヴな「Everything Happens To Me」などは、そんな ”ロリンズ節” の最たるものが詰め込まれた楽曲と言えるでしょう。また付け加えるならば、「思い立ったが吉日」という人並みはずれた行動力も、良くも悪くもロリンズの個性だと言えましょうか。

 初来日公演以降はかなりの日本びいき、というかむしろ「日本はわたしにとって精神的にも特別な場所」と仰せられるほどの入れ込みぶり。「ヨガ」、「禅」、「神道」といった東洋哲学〜日本文化にも深く理解を示し、今日までに20回を超える来日公演を行っています。「これからはアメリカ以外でツアーを行わない」と公言しても、日本には必ずやって来て、手馴れた日本語で「ドウモアリガトウゴザイマス」とMCを挟めば、相思相愛、日本のジャズ〜文壇においても植草甚一氏の雑記や筒井康隆氏の小説などに「ソニー・ロリンズ」という名は幾度となく登場。日本で最も愛されている海外ジャズメンと言っても過言ではないでしょう。 そして今年10月、「引退ツアー」とされていた2008年5月以来の日本公演が実現。「ソニー・ロリンズ “80歳記念”ツアー2010」という直球ド真ん中の興行タイトルにて、御大の歌心たっぷりのブロウが3都市4公演を包み込みます。

【来日公演日程】
2010年10月1日(金)札幌市民ホール
2010年10月4日(月)JCBホール
2010年10月7日(木)東京国際フォーラムホールA
2010年10月9日(土)NHK大阪ホール

(問)読売新聞東京本社文化事業部 03-3561-6346
> 日本公演の詳細はこちら

 「来日」、そして「傘寿」を祝して、ソニー・ロリンズのアーカイヴ・リイシューが続きます。極めつけとなるのは、御大の誕生日当日出荷となるユニバーサル社の2枚組ベスト『Jazz Colossus - 80th Anniversary Best』。1951年録音の初リーダー作『Sonny Rollins Quartet』(Prestige)から2000年録音の『This Is What I Do』(Milestone)に至る50余年のキャリアからの代表曲を、レーベルの垣根を越えて網羅しているまさにオール・タイム・ベスト。Prestigeを皮切りに、Contemporary、Verve、Impulse!、Milestone、Blue Note、RCAと、これ1枚でソニー・ロリンズの偉大なる軌跡を概ねフォローできる優れモノ。入門に是非どうぞ。 


 
Jazz Colossus

ジャケの出典はもちろん→
Saxophone Colossus
 
Sonny Rollins
 Jazz Colossus
 ユニバーサル UCCU1271 2010年9月8日発売 2枚組

【DISC-1】
1.スロウ・ボート・トゥ・チャイナ 2.エイジアティック・レエズ 3.セント・トーマス 4.ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラヴ・イズ 5.朝日のようにさわやかに 6.イッツ・オールライト・ウィズ・ミー 7.キス・アンド・ラン 8.テナー・マッドネス 9.俺は老カウボーイ 10.アイヴ・グロウン・アカスタムド・トゥ・ユア・フェイス 11.ボディ・アンド・ソウル

【DISC-2】
1.イズント・シー・ラヴリー 2.アルフィーのテーマ 3.橋 4.スリー・リトル・ワーズ 5.オン・インパルス 6.ドント・ストップ・ザ・カーニヴァル 7.ホールド・エム・ジョー 8.ヒア・ユー・カム・アゲイン 9.ビジー 10.ジャスト・ワンス 11.バークリー・スクエアのナイチンゲール








 今後のリリースとしては、『Saxophone Colossus』(国内盤初回生産限定)、Blue Note作品『Sonny Rollins Vol.2』(輸入盤)の各SACD再発、1973年の来日ステージをコンプリート収録した『Complete Sonny Rollins In Japan』の期間限定廉価盤再発などが予定されています。

 通算3度目の来日となった1973年9月30日の東京中野サンプラザ公演を収めた『Complete Sonny Rollins In Japan』にレギュラー・ギタリストとして参加していた日本人ジャズ・ギタリスト、増尾好秋について少し補足を。

増尾好秋
とソニー・ロリンズ 1973年日本公演
 渡辺貞夫グループを離れた1971年の渡米後、リー・コニッツ楽団を経て、同楽団に共に在籍していたアルト・サックス奏者のボブ・ムーヴァーを介してソニー・ロリンズのグループに1973年から参加することとなった、当時弱冠26歳の増尾好秋(この少し後にチック・コリアのリターン・トゥ・フォーエヴァーからも入団の誘いがあったそうです)。「ハーフ・ノート」ジャズ・クラブへの出演、Milestoneレーベルからの2作目となるアルバム『Horn Culture』のレコーディング・セッション、ニューポート・ジャズ・フェスティヴァルなどを経て、この凱旋帰国と相成りました。その後もカーネギー・ホール、ハリウッド・ボールといった”殿堂”にロリンズ・グループの一員として出演。「Masuo」の名はあっという間に世界中に広まり、巧みなギター・プレイを繰り出す ”サムライ・メジャー・リーガー” の活躍は各国で大絶賛されました。その後1976年まで同グループに在籍し、一時退団後の1980年からも再びロリンズのグループで活躍することになります。 ちなみに、1963年の初来日公演の音源も2008年に海外のマイナー・レーベルからですが、『Sonny Rollins Quintet Tokyo 1963 with Paul Bley』というタイトルにてようやくCD化され話題となりました。



増尾好秋レギュラー参加が当時話題を呼んだ、1973年中野サンプラザ公演完全収録盤

 
Complete Sonny Rollins In Japan
 
Sonny Rollins
 Complete Sonny Rollins In Japan
 ビクターエンタテインメント VICJ61626 2010年9月22日発売 期間限定盤

【DISC-1】
1.ポワイ 2.セント・トーマス 3.アルフィー 4.モリタート

【DISC-2】
1.サイス 2.ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド 3.ホールド・エム・ジョー







 はじめてのソニー・ロリンズ。「ベスト盤もいいけど、オリジナル・アルバムをまずは・・・」という方におすすめしたいのは、ベタではありますがこちらの『Saxophone Colossus』を。1956年、通算10枚目のリーダー作品としてPrestigeからリリースされたこのアルバム。「サキソフォンの巨像」といかめしいタイトルが付いておりますが、まぁとにかく聴きやすい。聴きやすいというのは、メロディが際立っているので、耳なじみがよく、ついつい口ずさんでしまう曲が多いという意味で。また、ジャケット・アートワークのインパクトにおいても求心力は抜群。ブルーを基調とした全体の色合い、主役ポートレートの潔さ(?)、どれをとってもこの時代の活気に満ちたモダン・ジャズの興隆ぶりというものを顕しているかのように思えます。

ソニー・ロリンズ
 収録曲は全部で5曲。冒頭、カリプソ(カリブ海の音楽スタイルのひとつ)の陽気なメロディに心踊る「St. Thomas」、ドイツの演劇/オペラ・ミュージックの作曲家クルト・ワイルによる三文オペラから引っ張り出してきた「Moritat」なんかが特に親しみやすいのではないでしょうか? 「Moritat」は、エラ・フィッツジェラルドの名唱でも知られる「Mack The Knife」というタイトルで日本で大ヒットしたことでも有名です(同じ曲ということですね)。

 編成は、ロリンズ以下、ピアノにトミー・フラナガン、ベースにダグ・ワトキンス、ドラムにマックス・ローチという布陣のカルテット演奏。主役のアドリブ・ソロを一層引き立たせるため、アンサンブル重視のかなりカッチリとした演奏が続きますが、ラストの「Blue 7」におけるロリンズとマックス・ローチのインタープレイなど、要所要所でスリリングな絡みを聴かせてくれます。

 ロリンズらしい豪放なトーンで誰にでもとっつきやすいメロディをシバきあげる。ジャズ喫茶で頭を抱え込みながら聴くような哲学的な音楽ではありませんが、「ジャズを聴く愉しみ」を最短距離で体験させてくれる、最長不倒のベストセラー・アルバム。もちろん60年代当時のジャズ喫茶においてもスピンされまくっていたそうです。こちらのアルバム、10月には高音質SACD盤も発売されますので、この機会に是非どうぞ。



『Saxophone Colossus』 高音質SACDリリース

 
Saxophone Colossus

 
Sonny Rollins
 Saxophone Colossus
 ユニバーサル インターナショナル UCGO9005 2010年10月27日発売 高音質SACD 初回限定盤

【収録曲】
1.セント・トーマス 2.ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラヴ・イズ 3.ストロード・ロード 4.モリタート 5.ブルー・セヴン









 『Saxophone Colossus』を聴いて、少しでもソニー・ロリンズというジャズメンに興味をおぼえていただいた方に、次の一手としてコンタクト願いたいのがこちらの『Way Out West』。1957年にContemporaryレーベルから発表されたアルバムで、その名のとおり、「ウエスト・コースト・ジャズ」の台頭が著しかった時代にかの地L.A.に赴き、レイ・ブラウン(b)、シェリー・マン(ds)という米西海岸の名うてのジャズメンらと行った交流会の記録となります。

 自身のサックスに、ベース、ドラムのみという、いわゆる「ピアノレス」トリオによる演奏世界を確立した作品でもあり、メロディ、リズム両方において当時最も重要視されていたピアノという楽器を必要としなかったということは、いかにロリンズのアドリブが音色、旋律、音圧共に卓越していたかということを証明していたに他なりません。リズム隊ながら、とりわけ全体のハーモニーの構成力に長けていたレイ・ブラウンシェリー・マン、最高のバックアッパーがロリンズを盛り上げている、という構図も勝因のひとつでしょうか。にわか仕込みの ”マカロニ・ウエスタン” 風ジャケットに一瞬怯む方も多いかと思います(「俺は老カウボーイ」、「ワゴン・ホイール」といった西部劇映画の楽曲もしっかり取り上げています)が、『Saxophone Colossus』と並び今日でも人気の高いアルバムなのです。ロリンズの「ピアノレス」トリオとしては、初のライヴ作品となったBlue Note盤『Night At The Village Vanguard』も有名で、ロリンズの名ソリスト、名インプロヴァイザーぶりを確認するにはこちらも打ってつけの1枚と言えるでしょう。


 
Saxophone Colossus

 
Sonny Rollins
 Way Out West
 ユニバーサル インターナショナル UCCO9015 2010年6月14日発売 初回限定盤

【収録曲】
1.俺は老カウボーイ 2.ソリチュード 3.カム、ゴーン 4.ワゴン・ホイール 5.ノー・グレーター・ラヴ 6.ウェイ・アウト・ウエスト 7.俺は老カウボーイ(別テイク) 8.カム、ゴーン(別テイク) 9.ウェイ・アウト・ウエスト(別テイク)








 上述2作とほぼ録音時期が同じと言える1956年の『Tenor Madness』というアルバムにおいては、偶然スタジオに居合わせていた当時新進気鋭のテナー・サックス奏者だったジョン・コルトレーンとの競演が実現します。タイトル曲の「Tenor Madness」1曲のみの競演なのですが、すでにジャズ界においては、4つ年下のソニー・ロリンズの方がビッグ・ネームではあったのですが、一方のコルトレーンもマイルス・デイヴィスのグループでメキメキと頭角を現していた時期だっただけに、両者一歩も譲らぬ白熱したブロウ合戦を愉しむことができます。また、競演(むしろ対決?)は後にも先にもこれっきりということもあって、この『Tenor Madness』は、ジャズ史における歴史的価値の高い1枚だと言えるかもしれません。


 
Tenor Madness

 
Sonny Rollins
 Tenor Madness
 ユニバーサル インターナショナル UCCO9016 2010年6月14日発売 初回限定盤

【収録曲】
1.テナー・マッドネス 2.恋人が行ってしまったら 3.ポールズ・パル 4.マイ・レヴェリー 5.世界一美しい娘








ソニー・ロリンズ
 ここからはまた略歴的なお話になってしまうのですが、ソニー・ロリンズは人気・実力共に絶頂期であった1950年代末に突如引退・・・というか ”雲隠れ” 的にシーンから姿を消します。「自分の演奏を見つめ直すため」という志に基づいた結果だそうですが、1961年の秋にはカムバック(オーネット・コールマンの出現がきっかけだったそうです)し、RCAレコードと契約。翌年には、雲隠れ中のサックスの練習場所にちなんだ『The Bridge(橋)』というアルバムを発表しました。商売柄、ひとときの人気に溺死するミュージシャンが多く存在する中で、この超ストイックなミュージシャン・マインドはまさに奇跡。 ”雲隠れ” は「奇行」ではなく「英断」だったのです。

 折からのフリー・ジャズの勢いに触発〜対抗するかのように、よりパワフルなブロウを標榜したロリンズは、その後Impulse!レコードに移籍。一般的に「不振」だの「異色作どまり」だの言われているRCA時代のくすぶりを一掃。1966年には、イギリス映画「アルフィー」の音楽制作、『Sonny Rollins On Impulse』の発表と充実したアルバムを連発します。特に後者ではスケールの大きな”ロリンズ節”が完全に復活し、ラテン調の「Hold 'Em Joe」という代表曲も生まれました。1968年には、1963年”モヒカン日本公演”に次いで2度目の来日公演を行い、日本のジャズ・ピアニスト、菊地雅章と共演を果たしましたが、1969年の秋、ロリンズはまたしても活動停止を宣言することになりました。

 1972年にMilestoneレコードに移籍し、再度の復活を果たしたソニー・ロリンズ。その後は、エレクトリック・ジャズの分野に挑戦したり、ローリング・ストーンズのレコーディングに参加(オーバーダビングですが)したり、ジャズとクラシック音楽との融合を試みたりと、マイペースではありますが意欲的な活動を続け、70年代以降から現在に至るまでに20枚以上のアルバム(ライヴ盤含む)を残しています。2005年には、自主レーベルのDoxyレコードを立ち上げ、翌年スタジオ録音アルバム『Sonny Please』を発表。前年日本各都市で「ソニー・ロリンズ ラスト・コンサート Live In Japan」が行われていただけに、このアルバムの登場は日本のロリンズ・ファンを大いに沸かせてくれました。

 長々と、めくるめく、ソニー・ロリンズの ”偉大さ” みたいなものに触れてきましたが、ロリンズの音楽そのものには「ジャズ概念」特有の小難しさや高尚さは一切ありません。みんなが心踊るようなメロディを力いっぱい吹く。それ以上に何が必要でしょうか? 「St. Thomas」が今も愛され続けている理由はきっとそんなところにあるのでしょう。80歳にして現役バリバリ。最後の「ジャズ巨人」にして最後の「ジャズの良心」。そういえば、最新号の「Jazz Life」誌にロリンズの独占インタビューが掲載されていましたが、ルックス的にはちょっと若返った印象が・・・来日公演が愉しみです。初めてのジャズ・コンサートがソニー・ロリンズだったらどんなに幸せなことか。『Saxophone Colossus』にピンときたら足を運んでみるのはいかがでしょうか?



 
Jazz Life 2010年 9月号

 
 Jazz Life 2010年 9月号
 ジャズライフ 2010年8月発刊

【contents】
◆カヴァー・ストーリー:大西順子
 レーベル移籍第1弾 『バロック』を語る
◆祝80歳記念ソニー・ロリンズ特集
 来日直前インタビュー/本誌選定『ジャズ・コロッサス〜オールタイム・スーパー・ベスト』アルバム紹介
◆ギター・レジェンズ=インタヴュー
◆夏休みスペシャル講座 第2弾:THIS IS JAZZ
◆ジャズ入門:日本のジャズ ほか








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