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安ヵ川大樹 インタビュー 〈2〉

2010年8月10日 (火)

interview
安ヵ川大樹




--- 安ヵ川さんは、食べ歩きをされたりするのもかなりお好きだとお伺いしたのですが、そういったこともすべてイメージを膨らませる材料だったり、色々な創作活動に繋がっているということも言えそうですよね?

 かもしれないですよね。昔はそんなこと意識していなかったですけど、色んなことがすべて繋がっているんだなと最近特に思うことが多いので。日常の中で、音楽の練習をするというのはもちろん大切なのですが、それはごく一部なわけであって、食事したり飲みに行ったりしてみんなとワイワイ話すということが重要なときもやっぱりあるわけですよね(笑)。


--- 「日常の中で」という部分では、ダイキムジカレーベルのジャケット・アートワークにしても、どこかほんのりと生活感や季節感などが漂っていますよね。例えば、「四季」であったりを意識してリリースのタイミングを決めたりされることもあるのでしょうか?

 去年のリリースのタイミングに関しては、かなり偶然が重なった部分もあるのでしょうけれど(笑)、とにかくレーベル自体を認知される必要があると思ったので、リリースのタイミングに関しては今後さらに早くしていきたいなとは思っていますね。

--- そういう中においてもパッケージなどにもこだわりを持ち続けていくと。

 元々僕は、イースト・ワークス(ewe)から3枚アルバムを出させていただいているのですが、そのときデザインを担当されていた北川正さんに、僕が出演していた、とあるライヴでばったり会ったんですよ。そこで初めて名刺をいただきまして。ちょうど、ダイキムジカレーベルを立ち上げようかということをおぼろげながらに考えていた時期でもあったので、もし立ち上げた際には、引き続き北川さんにデザインをやっていただきたいなと思っていて、その旨連絡したんですよ。そうしたら「全面的に協力しますよ」とおっしゃってくれて、今に至るまでデザインを手掛けていただいています。

 僕自身、以前はそこまで強く意識はしていなかったのですが、先ほどの柏原さんのように、最近はクリエイターの方々からお声をかけていただくことが多くなりました。元来、例えば音楽にしても、そういうものであったとは思うので、これからは特にそうした関係性を強めることができる方向性にどんどん進んでいけたらいいですよね。

--- レーベル・オーナーとしてのお考えの中には、ジャケットを含むこうしたパッケージが世の中からだんだんと姿を消していくようなことを危惧されているところもあるのではないでしょうか?

 それが支持される、されないということよりも、アーティストがそのパッケージを利用して表現を発信できる場であっても面白いなと思います。例えば、柏原晋平さんがCDのジャケットを担当するという話になったときに、柏原さんはご自身の絵なりグラフィックなりのデザインを提供する。そして、それが市場に流通する。そういうことに大きな悦びを感じているアーティストがたくさんいるということに気が付いたんですよね。

--- 少しでも多くの人に作品を見てもらえる機会を提供できる。

 そこに実はアーティストとしての大きな悦びがあるんだなと。例えば、この村山くんの『Ballad Of Lyrics』のジャケットにしても、村山くん本人のリクエストで画家の菊地雅文さんに描いていただいた抽象画なのですが、実際に中の音を聴いて即興で描いていただいたものです。それから、ファー・イースト・ジャズ・アンサンブルの『Live At Star Eyes』のジャケットは、大場富生さんという版画家の方の作品を使わせていただきました。

 こうした書き下ろしの絵画にしろ、版画にしろ、写真を使ったポートレートにしろ、ミュージシャンの色々なリクエストに答えられるようなパッケージにしているというのが、ダイキムジカレーベルの特色のひとつですよね。

 今回、僕のアルバムのジャケットは写真を使っているのですが、この写真だけを見たらピンと来ないかもしれないんですが、音楽と重ね合わせると「なるほど!」という感じがあったりすると思います。ジャケットと音楽は、ものすごいリンクしている。「50・50」の関係だと思いますよ。

--- 小池純子さんの『Danny Boy』にしろ、紙ジャケットの手触りが何とも言えず気持ちいいですよね。

 紙ジャケはやっぱりいいですよね。まずは外装ひとつにしても、そのアーティストが納得するものを作らないと、やっぱりセールスなんかにも繋がらないとは思うんですよね(笑)。「本人が納得してないものを売るか?」となったときに、まず売らないですよね。僕自身もミュージシャンですから、その気持ちは一緒です。「これは何としてでもみんなに手にとってもらって、聴いてもらいたい」というものを作れば、アーティストも本当に納得するだろうし、またその次に繋がると思いますね。

--- 色々な人の気持ちが関わっているから、妥協は絶対にできない。

 デザインにしろ、当然中身の音にしてもそうですよね。例えば、今回ミックスとマスタリングをアンディ・ベバンさんという方にお願いしているのですが、普通マスタリングの段階で何回もやり直すということは不可能なのですが、自宅スタジオですからレベルの上げ下げなどの微調整にしても何回でもできる。だから、最終段階で何度も何度も微調整してくれたので、僕自身もすごく助かりましたからね。

 商業主義的なものだけではなく、かと言って、そこまでマニア向けでもなく、且つ・・・言葉は悪いですけど、短絡的なものでもないというか、そういったレーベルが本来たくさんあっていいはずなのに、少なかったと思うんですよね。しかも、現在進行形で活躍している日本人のアーティストを取り上げているというレーベルは、特に。

--- それは、ダイキムジカレーベル設立のそもそものきっかけだったり、理念だったりでもあるということですね?

 そうですね。レーベルは、儲けを出して運営していくという側面が当然ありますから、まず最初に「どうやったら売れるのか?」ということに主眼を置くのは自然だとは思います。ただ、そういうことだけを考えていたら、今現在、作品を「出せる」アーティストというのはほとんどいないと思うのです。短期的に費用を回収しようと考えると、似たようなコンセプトのアーティストが増えてきてしまう。だから、ダイキムジカには、年齢や性別、人種は問わず、その世界で積み上げてきたアーティストの作品を発信できるレーベル、媒体を目指していきたいです。

 今現在、こういったCDを制作している方々の感覚と、一般のリスナーが「ポップだ」と思ったり「受け入れられる」と思って聴こうとしている感覚というのは、ズレてしまっている可能性があると思うんですよね。ストレート・アヘッドなゴリゴリのジャズがいいと思っている人が本当のジャズ・ファンなのかも知れないと思う一方で、もっともっと奇を衒わずにナチュラルに表現しているものがいいと思う人もたくさんいるのかなと。だから、すでに僕自身も自分の感覚を100パーセント信用しているわけではないですよ、年齢的な部分からしても(笑)。直感的に「ちょっとこれはさすがになぁ・・・」となったら話は別ですが、「これはどうなのだろう?」と少しでもなったときは、自分の中だけでは解決しきれませんから、とにかく色々な人に「どうかな?」ということを訊いたりしますよ。

--- 音楽・映像ソフトの売り上げが一様に苦戦を強いられているという市況下においても、音にしてもデザインにしても丁寧でこだわり貫いたものを提供するレーベルなりは、必ず必要とされると僕個人は思っているのですが。

 かなり究極的な話をすると、最初にダイキムジカを立ち上げる際に話をしていたのが、「売れなくてもいい」ということだったんですね。もちろん、最低限の回収はしないと次に繋がらないという部分はあるのですが、ただ、創作している側が「本当はこういう方向に行きたくないのに・・・」と思いながら、何か変な服を着させられたり(笑)、そうなってくると、かなり焦点がボヤケてきてしまうんですよね、当然ながら。 だから逆に、作っている人間に「オレにはこれしかないんだ!」というようなエネルギー漲る音源があれば、それがフリー・インプロヴィゼーションにしても何にしても、そのままのカタチで出す。そうすると、その人はもう矢面に立つしかない。言い訳ができないわけですから、自分の出した音に責任を持ってもらうという意味でも、作ったものはそのままのカタチで出します。マスタリングにしてもアーティストの意向を汲んで、100パーセント納得したものを、ということですよね。とは言っても、アーティストは、いつまでたっても100パーセントの満足を得ることができない生き物ですから(笑)、どこかで線引きしないと埒が明かないところもありますけどね。

--- そうしたことも踏まえまして、現在の日本のジャズ・シーンを総括的にはどうご覧になられていますか?

 すごくいい流れになってきているなとは思っていますよ。いい意味で、“身の丈に合った”ことができていると言うか。「ジャズ」に対するイメージが固定化されてきた時代が長かったんですよね。「こうでなければジャズではない」という、例えば、オーディオ・マニアを含めた人たちがジャズ喫茶でモダン・ジャズのレコードに聴き入るみたいなアナクロニズム、一種の化石化されたイメージがあったのですが、今そんなことしている人はほとんどいませんからね(笑)、ミュージシャンにしてもリスナーにしても。だから、「こんなのジャズじゃないよ」という人が徐々に減ってきたとは思いますね。「ジャズ」というものは、あくまで音楽の中のひとつの形態にすぎないわけですから、「ジャズと呼ばれるもの」が色々あっていいと思うんです。

--- アーティスト本人かレコード会社の意思なのか定かではありませんが、化石化されたジャズのイメージを払拭しようと、その対極にあるポップな、あるいは今様に洗練された方向に舵を切り過ぎているような作品も多いと昨今感じてしまうのですが・・・

 それは結局、新しいと見せかけて、逆に昔の流れから脱却できていないと思います。昔の仕切りのままで、看板を新しく持ってきただけと言うか。自分の想定内で物事を行うというのは簡単なことですけど、非常に世界が狭いですよね。

 この『Trios』のCDなんかは、もちろん僕の想定内ではあるんですが、ただ、メンバーにしろ、エンジニアにしろ、他の人に色々と“ブチ超えた”ものを求めているところはあるんですよね。そういう意味では、周りの人の力を借りながら、逸脱した表現をしていけたらなと。けれど、そうは言っても、『Trios』は、自分の中ではいい意味でかなりバランスのとれたアルバムになったとは思います。逆に、このアルバムだけとなると、僕の中ではバランスが崩れてしまうので(笑)、もう1枚、ソロの作品『Voyage』でバランスをとるようにしたんですね。これは完全に逸脱していると思うんですよ。コアな人が聴いてくれさえすれば・・・というか、それすらも考えず、ただやりたいようにやったという感じで(笑)。そういうものを作りたかったです。

--- こうしてお話を伺っていますと、アーティストとしての安ヵ川さんと、レーベル・オーナーもしくは事業主としての安ヵ川さん、2つのお顔を使い分けなければいけないときもやはりあると思うのですが・・・

 でも、まだ僕はほぼアーティストとしての脳みそでしか動いていないので、周りのスタッフに支えられているという状態ですよね。だから、「どう事業を展開していくか」ということよりも、「どんどん創作したい」という気持ちひとつでダイキムジカを立ち上げたと言っても過言ではないです。

 ただ、こうして活動していく上でも、立ち行かなくなるときも多々あるわけで。「なぜ、立ち行かなくなるのか?」と考えたときに、やっぱり“バックボーン”がないですよね。発信する媒体がない。みんな“後ろ盾”がないから、活動が先へ進まない。そうしたときに、「この状況を打開するにはどうしたらいいんだろう?」となれば、当然「後ろ盾を作ればいいんだ」となるわけですよね。例えば、最初に村山くんや高田さんのCDを作ったときに、録音したはいいが「出すところがない」となった。だったら、「自分たちで出すところを作ろう」となって、ダイキムジカを立ち上げたということになったんですよ。

--- ちなみに、ダイキムジカからは、ヴォーカル作品を今後リリースするご予定はあるのでしょうか? 実は、僕が初めて安ヵ川さんの演奏を生で拝見したのが、1年半前ぐらいに、与世山澄子さんのライヴでバックを務めていらっしゃったときだったんですよ。

 与世山さんだったら、それはいいですよね(笑)。リリースさせていただきたいですよ。感覚的にですが、レーベルの趣旨にも合いそうですからね。与世山さんは、もはや「歌」という感じではない・・・人間離れした何か特殊な、神懸かった感じがありますよね。

--- 与世山さんのダイキムジカからの新作発表、実現する日を楽しみにしております。では最後に、これからのレーベルの展望と今後の安ヵ川さんの活動予定などをお聞かせいただけますか?

 今後は、ソロ演奏のライヴをさらに精力的にやっていきたいなと思っています。だから逆に、ライヴ会場でCDを手売りするという流れよりは、CDショップなどで『Voyage』なり『Trios』なりのCDを買っていただいた方に、「このライヴを聴きたい」と、ライヴに足を運んでもらえるようになりたいですよね。僕らが学生の頃というのは、そうだったような気がするんですよ。レコードを買って、「このバンドのライヴに行ってみたいなぁ」となったら、自分で雑誌とかを見て色々と調べて、ライヴに行く。そういったワクワクする感じは、ネット社会による情報先行型のご時勢ですが、逆にあってもいいんじゃないかなと思うんですよ。

 レーベルからのリリースも、できるだけ自然なカタチで増やせていけたらなと思っていますね。僕の中での基準としては、30年後に作品を聴き返したときに、そのときのラインナップと遜色なくちゃんと聴ける、そういうものを出したいなと。あとは、フランスのディストリビューターと提携しているので、こういった日本人のアーティストをヨーロッパにたくさん紹介していきたいですね。村山くんがフランスに在住しているので、彼を軸に、ダイキムジカが日本とフランスの架け橋になっていければいいなと思っています。




【取材協力:ダイキムジカ】







安ヵ川大樹 今後のライヴ・スケジュール



> 2010年8月13日(金)
相模大野アルマ・オン・ミュージック☆レコ発ベースソロライブ 
開演20:00

> 2010年8月14日(土)
クロサワ楽器 新大久保本店 音川英二 DUOライブ
東京都新宿区百人町1-10-8
開演13:00
入場無料 要予約

問:SAXOPHONE-LABO (11:00〜20:00)
TEL E-mail:wind@kurosawagakki.com


> 2010年8月14日(土)
北千住バードランド☆レコ発リーダートリオ
堀秀彰(p)/柴田亮(ds)
開演19:30


> 2010年8月15日(日)
池袋 Apple Jump ベースソロライブ New CD発売記念
開場18:00/開演19:00
チャージ:2000円


> 2010年8月21日(土)
すみだジャズストリート☆ 出口誠ピアノトリオ、リーダートリオ
開演14:00

> 2010年8月24日(火)
六本木アルフィー☆リーダーライブ
堀秀彰(p)/柴田亮(ds)
ジャムセッション有り
開演20:00
チャージ:1000円


> 2010年9月3日(金)
高田馬場ホットハウス☆緑川英徳 as DUO
開演20:30

> 2010年9月28日(火)
目黒 Jay-J's Cafe リーダートリオ
古谷淳(p)/柴田亮(ds)
開演19:30


profile

安ヵ川大樹
(やすかがわ・だいき)

1967年、兵庫県西宮市出身。 幼少のころよりピアノを始め、音楽に親しむ。18歳で上京、明治大学入学後、「ビッグ・サウンズ・ソサエティ・オーケストラ」に所属、コントラバスをはじめる。牧島克彦氏、吉野弘志氏 吉田秀氏に師事。

1989年、「第19回山野ビッグバンドコンテスト」にて最優秀賞受賞。

1991年、アルファレコードより、CD『Down Under』に参加、プロ活動を開始する。96、97年にはマリーナ・ショー(Vo)の全国ツアーに参加。98年より、故日野元彦(ds)のクインテットに抜擢され、CD『ダブルチャント』 (EWE)に参加する。

2001年より自己トリオ、ソロライブ活動を開始。

2002年9月、EWEより全編ソロ・ベース・アルバム 『Let My Tears Sing』、同年2月、自己トリオ=Ya!3のアルバム 『LOCO』をリリース。

2004年7月 安ヵ川大樹トリオ 『KAKEROMA』をリリースし、好評を博す。

2006年5月、9人編成のリーダー・ビッグ・コンボ=ファー・イースト・ジャズ・アンサンブルを立ち上げる。

2007年8月、ファー・イースト・ジャズ・アンサンブルで、松江城国際ジャズ・フェスティバルにエディ・ヘンダーソン(tp)を迎え出演。各方面より絶賛される。

2007年8月、スキップ・レコードよりファー・イースト・ジャズ・アンサンブルのCD『FAR EAST JAZZ ENSEMBLE』をリリース。第2回PLAYBOYジャズ大賞候補作品に選出される。

2008年、ジャズレーベル、D-MUSICA(ダイキムジカ)を立ち上げ、高田ひろ子トリオ 村山浩トリオ(パリ録音)のCDを制作。

2009年より昭和音楽大学ジャズ科の非常勤講師を務める。

100枚を超える国内外のレコーディングに参加(小曽根真、大坂昌彦、デイブ・ピエトロ、アキコ・グレース、松永貴志、川嶋哲郎、小林桂、ウンサンなど)。TV、ラジオ等の出演や国内外のジャズ・フェスティバルにも数多く出演(Mt.Fuji、東京ジャズ、南郷ジャズ・フェス、宮崎フェニックス・ジャズ・フェス、ニュージーランド・クライスト・チャーチ・ジャズ・フェスなど)。 ジャズのフィールドだけにとどまらず、金子飛鳥ストリングス・アンサンブル、加古隆「色を重ねて」公演、テレマン交響楽団との共演など幅広い活動も行なう。 卓越した音楽センス、技量、スケールの大きなオリジナル曲、今最も注目を集めているベーシストである。