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ウィルコ ライヴ・レポート@ZEPP TOKYO 2010.04.23

Friday, April 30th 2010


ウィルコ@ZEPP TOKYO

 

 

1. Wilco(The Song)
2. Bull Black Nova
3. You Are My Face
4. I Am Trying To Break
    Your Heart
5. One Wing
6. Shot In The Arm
7. At Least That's What
    You Said
8. Radio Cure
9. Muzzle Of Bees
10. Deeper Down
11. Handshake Drugs
12. Impossible Germany
13. Via Chicago
14. Poor Places
15. Reservations
16. Spiders (Kidsmoke)
17. Hummingbird
18. Jesus, Etc.
19. You Never Know
20. I'm Always In Love
21. Heavy Metal Drummer
22. Hate It Here
23. Walken
24. I'm The Man Who
      Loves You

     ---encore---

25. The Late Greats
26. I Am Wheel
 「7年殺し」ならぬ「7年焦らし」。そんな一日千秋感を ”引っさげて”、いよいよ実現したウィルコ初の単独来日公演。舞台は、冬の幕張から春のお台場へ。

 小雨が八重桜を散らす月曜日の夕刻どきにもかかわらず、会場となるZEPP TOKYO周辺は早ものすごい人だかり。2004年のアルバム『A Ghost Is Born』がグラミーとの”まさかのタイアップ効果"を生み、そこを契機に世間的な認知度もグンとアップした彼ら。

 前回来日時は「Magic Rock Out」なる不特定多数群集向けフェスティバル。右肩上がりのフー・ファイターズがヘッドライナーということでやや盛り上がり的に分の悪かったところもあったが、一部では、”主役喰い"の声もあがるほど秀逸なパフォーマンスを残し彼らは故郷シカゴの帰途に着いた。

 ただその後は、海の向こうから届けられる、あるいはネット上をかけ巡るニュースに目配せするも一向に”来日"という祝言は見当たらず。当時、ラディカルとぐーたらを履き違えそうになるぐらい無知で恐いもの知らずだった、ある種夢見る20代の僕も、いつのまにか縦割り社会の主役予備軍ともいうべき不毛の30代半ばを迎えてしまった始末・・・

 草臥れた30年目のGスポットを優しく包み込んで、刺激的に弄りながらも、冷たく突き放す。そしてまた明日から変わらぬ日常は続く・・・そんなウィルコの「Love You Live」。


7年辛抱したご褒美、といえばあまりにも抽象的だが


 ”庶民のファンファーレ”のようなSEが高らかにバーストする中、ギターやピアノを手にした遠いアメリカの民が、極東民族の琴線をふるわせる聖者へと姿を入れ替える。

Ladies And Gentlemen、Wilco!

 愛想はいいが、どこかふてぶてしい。振った尻尾には、毒針が。これぞジェフ・トゥイーディ。
ヌーディ・スーツ? そんなはんなりとしたヤツらではない。ネルシャツにデニムで十分だ。

 挨拶代わりの「Wilco(The Song)」。酩酊気味の聴衆、その7年越しのリベンジを嘲笑うかのようにバンドはまだまだ冷静にアイコンタクトを取り合っている。

 箍が外れ出すのはここから。3本の[ギター]が代わる代わる放たれる「Bull Black Nova」は、さしづめツーシームのように、微妙な変化をつけながらぐいぐいと胸元に食い込んでくる。

 しかし敵も然るもの。ちらりとフロア中腹に目を遣れば、テーパーズ・セクションに陣取られた無数の山高マイクが、鎌首をもたげながらウィルコを合法的に狙う。遊撃手も彩り鮮やか。僕の脇にいた初老の男性など1曲毎にしゃかりきにメモを取っているぞ。

2mの大男は各種ギターをチェインソーのように次々にふりかざし、「悪魔のいけにえ」の愛すべきシーンを軽々と彷彿させる。ネルス・クラインの”ジキルとハイド”ぶりにしばし目頭を熱くさせられた「Handshake Drugs」。 「Spiders (Kidsmoke)」で轟音を響かせる一方、「Walken」などできっちり聴かせるラップ・スティールの腕前もかなりのもの。

 スウェーデン人とアイビー生い茂る真夏の庭園でお茶会を開いたかのようなアルバム・ヴァージョンも良いが、その湯飲みが実は茶渋でかなり黄ばんでいることを知る「I'm Always In Love」の細マッチョな素顔。「You Never Know」から襷をうけた流れとともにかなり体温が上昇した瞬間だった。

 ドライなジェフはMCでスマイリーなジョークを交えながらも、淡々とマイペースを守り、しっかりとゴールを見据える。それゆえにショウはグッと引き締まる。実に理知的な男だ。

 ボブ・ディランはかつて”言葉の壁”を理由に長く日本及びアジア公演を拒み続けていた。何を訴えても「イエ〜イ♪」としか返ってこない関係にリアルに失望したくなかったのだろう。少なからず外国のアーティストにとっては、言葉が円滑に通じない国でのコンサートにジレンマをおぼえていることは想像に容易い。ただ人間の前頭葉の働きをナメてはいけない。

 言語自体の効力が薄くとも、そこに付随する風景、匂い、そしてメロディに否応なしに心を突き動かされる場合がある。前頭葉が快活にエンジン音を上げ、眉間部がせり出し、第3の眼が開く。聴き手それぞれの人生経験が我さきにと言わんばかりにその風景、匂い、メロディにすがり交配を求める。

 そして、もはや言葉では言い表せない白目むくアクメの瞬間が間々あるではないか。

 そんなディランだって「Like A Rolling Stone」や「Simple Twist Of Fate」の風景と旋律を先週同じ場所で僕らの前頭葉に食い込ませたばかり。そこに日本英語教育の”ゆとり”などは関係なかったはずだ。

 感性は文化的国境を越える、だなんていまさらだが、そのことをあらためて証明した「I Am Trying To Break Your Heart」、「Via Chicago」、「Jesus, Etc.」での大合唱。それ相応の前置きをさせるほど、そこには前頭葉が肥大しまくるような感慨深いものがたしかにあった。

 2時間半、全26曲。ひとことで言えば、全くムダのないライヴ。そして一分のスキもない完璧なまでのウィルコのショウだった。7年辛抱したご褒美、といえばあまりにも抽象的だが、これこそギミックなしのライヴ・アクトだけがこっそり教えてくれる音楽の旨味ではなかったのだろうか?

 さて今回、2000年に新ドラマーとして正式にバンドに加入したグレン・コッチェにインタビューする機会に恵まれ、そこでも彼が話していたことだが、やはり日本からの熱烈なラヴ・コールは十分すぎるほど彼らに届いており、彼らもまた訪日のタイミングを折にふれて見計らっていたという。

 ただひとつ”足かせ"となったのは、大量の機材の輸送問題。

 たしかに、現在の6人のラインナップになってからは、そうした部分がひとつの問題として浮き彫りになってくるのは明確かもしれない。

 実際にライヴでは、マイケル・ヨルゲルセン、パット・サンスンがキーボードを主に操りながら、それぞれプロ・ツールのマニュピレーションやサイド・ギターを副操。ネルス・クラインも曲毎にギターを換え、ステージ立ち位置脇には常時10本近くのギターがストックされていた。

 ステークホルダー的な状況を鑑みれば、今回の単独来日興行においても大阪、東京各1公演ずつという小規模なパッケージにとどまった理由ももちろん判らなくもないのだが・・・

 舞台裏の事情あれこれに首を突っ込むつもりは毛頭ないが、次の来日がまた「7年後」になることだけは絶対にないように、ファンとして願わんばかりだ。

 ではこれから、大阪BIG CAT公演テーパーズに、トレードの打診をしてまいります。





 
Ashes Of American Flags
 
Ashes Of American Flags 
Nonesuch/elektra 2.451644  2009年04月28日発売
 ウィルコの2008年USツアーの模様をシューティングしたライヴ・ドキュメンタリーDVD。2月、ナッシュビルのライマン・オーディトリアムとタルサのケイン・ボールルームで行われたパフォーマンスを収録。これまで彼らの映像作品を手掛けてきた独立系メディア=Trixie Filmsのブレンダン・キャンティとクリストフ・グリーンによってディレクションされている。また、13曲のライヴ音源と7曲のボーナス・トラックがダウンロードできるリンクも含まれている。 ※日本語字幕はございません。





 
Kicking Television  -Live in Chicago
 
Kicking Television -Live in Chicago 
Nonesuch/wea 7559799032  2005年11月14日発売
 2005年、シカゴの殿堂ヴィック・シアターで4日間にわたり行われ、各公演即ソールド・アウトとなったウィルコ初のオフィシャル・ライヴ・アルバム。ジャケット写真は、ライヴの瞬間を切り取ったようなショットで雰囲気が良く出ている。ステージ上には大量のギターが並び、イクイップメントを操作するジェフ・トゥイーディが格好良い。各アルバムから満遍なくセレクトされたセットは、楽曲の美しさとその狭間で時々荒れ狂うような轟音とが絶妙にバランスを保っている。中でも、「Via Chicago」のアレンジはスタジオ盤にはなかった手法で驚かされる。本盤を聴いて、是非とも生で彼らのライヴを観てみたいと熱望したリスナーが続出した。





 
Jeff Tweedy / Sunken Treasure: Live In The Pacific Northwest
 
Jeff Tweedy
/ Sunken Treasure: Live In The Pacific Northwest
 
Wea WEA7559799022  2007年04月17日発売
 ウィルコのフロントマン、ジェフ・トゥイーディの弾き語りによるソロ・ライヴを収録したDVD。声、ギター、ハーモニカのみで演奏される「Sunken Treasure」、「Summerteeth」、「I Am Trying to Break Your Heart」、「Heavy Metal Drummer」といったウィルコの新旧の代表曲は、ジェフ独特の語り口と間の取り方による独演で全く新しいかたちのものとして提示されている。 ※日本語字幕はございません。


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