【インタビュー】Akira Kosemura pt.2

2010年2月10日 (水)

interview

軌跡



-- 音楽を作るとき、小瀬村さんはいつもどのように作られているんですか? 何かにインスピレーションを受けて音楽を作られたりとか?

K  そうですね。僕の中で音楽を作るっていうのは、音楽を作ってるっていう感覚ではないんですよね。例えば、「Light dance」というピアノ曲も気がついたら出来てたっていう感じなんです。ピアノを弾いてたらいつの間にかA、B、Cくらいまで出来ていて。もちろんそこからはちゃんと作曲しているんですが。 基本的に曲を作る時はピアノの前に座って何も考えないで弾いてるだけなんです。それで出てきたものから作曲していく事が多い。だから音楽を作ってるっていう感覚になっている時は、出てきたものから世に出せるものにする為の準備をしている時なんです。

-- ピアノの前に座って弾いている時の状態は日々違うと思うんですが、その日その日の感覚や気持ちも影響してくるものなんでしょうか?

K  そうですね、いい時はすぐなにか出来ているし、悪い時は2〜3時間弾いても何も出てこないですね。そういう時は諦めます。

-- 気分転換などしてまた弾く?

K  その日はもう弾かないですね。





-- 今作『grassland』では多数ゲストミュージシャンが参加されていましたが、以前の作品からそういったことは頻繁に行われていたんでしょうか?

K  いえ、『It's on Everything』というアルバムに関していえば、これは完全に自分一人で作っていたので。でもそれはそれで、コンセプトがしっかりしているものであれば、自分一人で作った方がうまくいく場合が多いと思います。

-- 『Tiny Musical』の頃はどうでしたか?その前に発表した『Afterglow』の影響もあったんですか?

K  もちろん『Afterglow』を二人で作ったことで得られた影響はあったと思います。 そのせいもあってか、自分のやっている音楽に対する窮屈さを感じ始めていて。コンセプトを設けると音楽が作りやすくなるんですが、コンセプトを設けた事で必要以上に自分が窮屈に感じる事があるんです。そういうものを少し取っ払った状態で音楽をやりたいと思っていた頃で。 だからといって今回のようにゲストミュージシャンを入れるという話ではなくて、その時に考えていたのは、自分のなかで抱えている窮屈さを取り除いたところで音楽を作ろうということだったんです。なのであのアルバムはほとんど自分一人で作っています。そういう意味では、『It's on Everything』から『Tiny Musical』で一つ広がりを見出せたというか。余計な事にあまり捕われずに、いま自分が鳴らしたい音を鳴らせたんですね。
例えば、小学校の音楽の授業で、音楽室にある楽器を使ってみんなで一つの曲を練習して発表するっていうのをやったと思うんですけど。その時に、音楽室にあるアコーディオンとか鉄琴とか、いろんな楽器を好きに触ってみて、これはこんな音がするんだとか、みんなで演奏するとこういう音になるんだとか、そういう想像力が湧いてくる瞬間って、初めて音楽への純粋な喜びのようなものを感じた瞬間だったと思うんですね。だから、あのときの感覚っていうものを思い返していて。 音楽は本来ものすごく自由度の高いものだし、何をやっても間違いではない。そういうところに立ち返って、本当にいま自分が鳴らしたい音は何だろうっていう。だから何かの為に音楽を作るというよりは、ただ自分の中に入って循環して出て行くもの、それがたまたまアルバムになったという感覚ですね。

-- 『It's on Everything』から『Tiny Musical』、そして今作ということで、三部作というイメージはあるんですか?

K  作ってた頃はなかったです。 僕にとってアルバムは日記みたいなもので。だから作っているときに考えてた事とか、見てたもの、聞こえてた音が反映されているものなんですね。 だけど、いまこうして一連の作品を並べて聴いてみたときに新しく気付く感覚っていうのはあるんです。 例えば『It's on Everything』は部屋の窓が閉じていて、その部屋の中から見えるものを表現しているような。 『Tiny Musical』では、少し窓を開いた状態で風を取り込んでいる。 今回『grassland』で、ようやく窓を完全に開けたという印象があるんです。つまり僕の中で一つ終わってしまったということなんですけど。 でもだから逆に、これから行く新しい部屋がどんなところなのか、僕自身すごく楽しみではあるんです。

-- まさにそういう印象ですね。まだ早いですが、次の作品が楽しみになりました。 では、前の作品よりいい物を作ろうっていう気持ちで作ったりはしないんですか?

K  そういうふうに考える事もあったんですが、じゃあいいって何だろう?ってなるんですよね。

-- アーティストによっては「前よりいい物を作ろう!」って行き詰まったりとか「今のものを聞いてくれ」とか、「善し悪しは自分で決めてくれ!」とかあると思うんですが、 どういう考えなんでしょうか?

K 僕の場合は、その時に考えていた事とか、自分が聞きたい音楽、求めてる音を作っているつもりなんですよ。今回のアルバムを出して、ソロアルバム4作とも聞いてくれてる方もいると思うんですが、今回のアルバムが一番好きじゃないって方もいると思います。でもそれに対して僕が言える事はあまりなくて。

-- まさに今表現したい音を今作ったって事ですね。

K  そうなんです。いつもそういうつもりで作っているし、これからもそれは変わらないんじゃないかな。





-- 間に『polaroid piano』という、少しイメージの変わったアルバムが入っているんですが、流れ的には『polaroid piano』が今一番新しいものなんですか?『grassland』は制作期間が長いとお伺いしているのですが。

K  そうですね。『Tiny Musical』がリリースされて一ヶ月後くらいには『grassland』を作り始めていて。でももちろんその頃はアルバムを作っているという感覚ではなかったんですが。『polaroid piano』は『grassland』を作り始めて半年後くらいからですね。なので製作期間は少し重なっています。 『grassland』に関してはコラボレーションも多かったのと、ほとんど全曲しっかりと構築した音楽になっていて、曲が出来上がってからもミキシングで悩んだり、とにかく時間が掛かるアルバムだったんです。 でもそういう、緻密な作業を続けているとやっぱり違う事をやりたくなる時期があって。ちょうどその頃に『polaroid piano』の話があったんです。

-- 『polaroid piano』はレーベル側から提示された写真を元にそれを音楽で表現するというプロジェクトだったと伺ったんですが?

K  そこまで決め込まれたプロジェクトではないんです。 ローレンス (room40/someone good レーベルオーナー) が言っていたのは、ポラロイド写真に対して僕が持っているイメージを音に具現化できないかっていう話だったんです。なので、ある特定の写真に固執して作ったアルバムではなくて。 僕が考えていたのは、ポラロイド写真の持っている特質なんです。ポラロイドカメラは瞬間を切り撮っているものだから、それを音楽にするなら、やっぱり瞬間的な音を捉えたいと思ったんです。 つまり、音楽は準備をしようと思えばいくらでも出来るんですけど、その準備をまったくしないで、今この瞬間でしか弾けない音を撮ろうと思いました。かなりチャレンジだったんですけど。

-- 『polaroid piano』は何テイクか録ったうちの一つなんですか?

K  いや、違うんですよ。

-- ほぼ?

K  あれしか録ってないんです。

-- そうなんですか!?

K  そうなんです。なので国内盤用のボーナストラックの話がきた時に、もうなにも残ってなくて。だからボーナストラックは別の日に、全く違う撮り方で撮っています。

-- 一発録りなんですね。

K  そうですね、正真正銘。1曲目を弾いて、それから2曲目を弾いて。始めから10曲という話だったんで、10曲弾き終えてそこで終わっちゃったんですよ。

-- (笑)。

K  なので曲順も弾いた通りの順番になっています。だからその後では何も出てこないんですよね。

-- 今このインタビューを読んでる人たちは相当興味持ったと思いますよ!『polaroid piano』ってどんなアルバムなんだって絶対思っているはずですよ(笑)!







※ 『Grassland』全曲レビュー&scholeカタログレビューはコチラから


profile



小瀬村晶 Akira Kosemura
[producer / composer / schole records A&R]

1985 年生まれ、東京都在住。 国内外の音楽レーベルから作品を発表する傍ら、CM音楽の制作、映画やダンス公演、アパレルブランドへの楽曲提供など、多方面で活動を展開するアーティスト。 schole recordsを主宰し、多くのアーティストを輩出、複合メディア「Clarity x Leaf disc」クリエイティブディレクターを努める。 2008年「Tiny Musical」を発表後、ヨコヤマアヤノ(舞踊)千葉祐吾(映像)と共に、全国各所でライブパフォーマンスを展開。 2009年には、ポラロイド写真をテーマにしたピアノアルバム「POLAROID PIANO」をリリース。その他、ライブミニアルバムや、サウンドトラックも発表。 2010年2月にこれまでの集大成となる作品「grassland」を限定生産盤(CD+DVD)と通常盤(CD)にて発表。





schole Free paper 『little letter pt.2』


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