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TOP > My page > Review List of うーつん
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3 people agree with this review 2021/10/13
しっとりとした情感が全曲通して感じられる。雨が滴り落ちるような丸みを帯びたフォルテピアノ(1842年製 プレイエル)の音。録音場所の特性と思われるが、音の発せられた後に残る響きが伸びやかで、まるで夢うつつの中で聴いているような印象を持たされた。その音響のせいだろうか、聴いていて「マヨルカ(マジョルカ)島の僧院の中。月明かりの差し込む中、ショパンが独り静かに演奏している」情景をイメージした。ノクターンがメインであるが、小品がノクターンの中に配置され程よい味付けと香りづけをしてくれている。誰もが知るノクターン Op.9-2などヴァリアントを添えた仕上がりになっており「ノクターンのマンネリ」にならないところや、「春 Op.74-2」をアルバムの前後に置きアルバムの始まりと終わりという円環を形作る構成力がすばらしい。おすすめです。
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2 people agree with this review 2021/09/22
これからもっと伸びていくであろう俊才の、シューベルトの名を借りた「ポートレート」。フォルテピアノ(コンラート・グラーフの1817年製モデルの再現楽器とのこと)のひなびた落ち着いた音色が心に沁みていく。その当時であれば最新の機能を競い合っていた「成長産業」だったが今となっては「古き佳き時代」の思い出として奏されるフォルテピアノであるが、電子音にまみれている現代だからこそこの音色は心に響いてくるのかもしれない。川口成彦によって表された、ほんのり苦みと儚さを滲ませたシューベルト。「さすらい人幻想曲」も楽器の特性に合わせた演奏で、いわゆるヴィルティオーゾ型の演奏とは距離をとり楽器の音と音楽そのものを味わえる。曲目も有名曲の脇を愛すべき小品がかためてあり、一連の流れとしてうまい具合に我々を「シューベルトへの旅」に案内してくれる。 じっくりとシューベルトに向き合いたい方、フォルテピアノの響きに興味のある方、早弾きや爆演などに疲れた方などにお勧めしたい。 蛇足ながら、私が現在読み進めている『フォルテピアノ 〜 19世紀ウィーンの製作家と音楽家たち〜 (筒井はる香 著 アルテスパブリッシング 刊)』も同時にお勧めしたい。ちょうどこのディスクを聴きながら読むと、耳と頭と心に程よく相乗効果を発すると思います。
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0 people agree with this review 2021/08/30
ブラームスの小品集(2017年録音)に続いてシューベルトの最晩年のソナタ(2018年録音)。両者の晩年の作品を美しいピアノで彩っている。 当盤では悲壮感や苦しみを表現している感覚は少ない。ひたすら美しい音が素晴らしい。その音ゆえか、ここでのソナタ演奏は生前の(または死の間際で苦しんでいる)シューベルトを想起させるより、むしろ死んでしまった者を輝かしく思い出しているような感触をもってしまう。死んでしまった者への心からの贈り物といった情景。カップリングのメヌエットも然り。他の演奏でよくカップリングされる即興曲集(D899、935)やD946でなく、ソナタD958、960とのカップリングでもない、純真で小さいメヌエットを、この上ない美音で大切に優しくしずかに弾いていく…。想い出をそっとつま弾くような演奏と曲目に仄かな哀しみを感じてしまった。
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0 people agree with this review 2021/08/29
ヴォロドスがブラームスの小品を弾く…何やら奇抜な印象をまず最初に受けてしまった。前のレビューの方と同様、私もアルカディ・ヴォロドスはよく言えばヴィルティオーゾ型、意地悪く言えば爆演型と思っていた。が、これを聴いて考えを改めた。音楽について明確な志向を持ち、音に対する鋭敏な感覚とそれを実現可能にする技術も持ち合わせたピアニストだった。彼ならではの技術はこのような小品をきちんと弾くために必要な基礎となるのだろう。幾分明るい音色と録音を駆使し、美しくも儚いブラームスのメランコリックな面を耽美的に表していく。耽美的と言ってもG.グールドのそれとは違う。あくまでピアノに歌わせてブラームスの心中に分け入っていくような印象の演奏。
1 people agree with this review 2021/08/19
バッハを、音楽を、歴史と芸術を愛する方々に読んでいただきたい。元々バッハ・コレギウム・ジャパンの定期演奏会のプログラムに入っていた文章を再構成し集めたものらしいがどれも分かりやすい言葉で我々に語りかけてくれる。平易な文章で書けるのはバッハを深く理解できているからこそ。タイトルに「神」とあるがキリスト者でない私でも抵抗なく読むことができる。各人にとって「神」なるものが何であれ、バッハの音楽はあまねく我々に癒しと慰めを与えてくれ、さらに知覚の覚醒を促し、進むべき道を照らしだしてくれる…。つまるところ、著者の願いもそこに行き着くのではないだろうか。バッハというフィルターを通して世の中を眺め、「バッハの音楽に何ができるだろうか」を考えつつ実践している著者の今後のさらなる活躍を期待しつつ、愉しむことができる良書としてお薦めする。
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1 people agree with this review 2021/08/17
ヨハネの福音書を土台にした「ドラマ」を体験するというよりは、受難曲という「歌」の集合体を体験する盤と思う。とにかく各トラックの歌への工夫や熱の入れ方が素晴らしいと思う。合唱とソロとがバランスよく活用され、所々で通常なら合唱のみで歌われるところにもソロや重唱を配置し次第に合唱に発展させることによって(バッハが指揮していた当時の考え方でいうと)会衆が集う場所で呼びかけ、呼応し、合唱していくことでキリスト受難への想いを共有する過程を想像させる。「歌」としてのヨハネ受難曲を聴きたい方にお薦めしていきたい。もちろん響きや演奏も悪かろうはずはなく、最終曲が終わった後に「ボツにしたアリア」も入れる手の込みようでサービス精神もうれしいところである。ただ最後の第40曲「Ach Herr, Lass Dein Lieb Engelein」を聴いた後はそこで余韻をかみしめつつ静かにおしまいにしたいのが正直なところである。そこにもう少し工夫を凝らしてもらえたら嬉しいが…。(でも3枚組にして値段が上がるのはやめてほしいです)
ある意味、ブランデンブルク協奏曲の王道と言えるかもしれない。攻めすぎず、かといって守りに入っているわけでもない。イケイケでパンクみたいな攻めのムジカ・アンティクワ・ケルン(1986-87年録音、アルヒーフ)と、演奏が柔らかで癒し感満載のバッハ・コレギウム・ジャパン(2008年録音、BIS)の中間といったところか。どれがいいということはない。その時の気分によって聴き分けているのでベストを決めることはしないが、中庸の美という観点で同曲を探している方にはこちらの盤をお薦めしたい。 ちなみに私が注文し発送を待っている時(2021.8.10頃)、同楽団による同曲新録音のニュースが聞こえてきた。「そっちを待てばよかったかな?」とほんの少しだけ思ってしまったことも告白しておく。 I.ファウストやA.タメスティらも参加してのブランデンブルク。当盤の演奏をはるかに上回る新しい王道の演奏、もしかするとムジカ・アンティクワ・ケルンの攻めの更に上を行く演奏になりそうな気もするので楽しみにしている。入手した時点で新旧両盤を聴き比べる楽しみがまた増えることになるだろう。
1 people agree with this review 2021/08/02
純真にシューベルトのピアノ・トリオを愉しむことができる。どこまでも朗らかな第1番とドラマチックな展開を宿した第2番。これに加えてノットゥルノと若い時期のトリオも含み、聴きごたえもあるし、シューベルトのピアノ・トリオの創作史を紐解くこともできる。 私が特に大好きな第2番、通例で行われてしまうカットが無い完全版の第4楽章を愉しむことができるのが購入の動機。カット版(約100小節弱削られたバージョン)の第4楽章が好きな方にもトラックが用意され、どちらのバージョンも聴き比べることができるのは、音楽学者でもあるロバート・レヴィンらしい計らいといえよう。 シューベルトの心の闇や絶望を抉り出すような演奏とは違う。客観的かつ落ち着いた足取りで演奏が行われる。それは私の好みとはどちらかというと違うものだが、晴朗な雰囲気の中に苦みや渋みをほのかに漂わせる丁寧なつくりに好感を抱いてしまう。このレーベルらしい芳醇な赤ワインのような味わいに酔いしれてみてはいかがだろう。
1 people agree with this review 2021/07/31
控えめな表現の中にバッハの音楽への共感が詰まっているような演奏。音響もテンポも表現の幅も他のディスクと比べると「がっつり」演っているようには聴こえない。決してマイナスの意味で言っているわけではない。前のめりになることなく、じっくりと前奏曲を奏しきっちりとフーガを築いていく。音楽を積み重ねていくというより音の重なりやつながりを丁寧に冷静に表していく態度で一貫しているように感じる。その綾織りのような重なりや連なりの中にわずかずつ、小さな宝石のような煌めきがちりばめられていることを発見できるディスクだと思う。
2 people agree with this review 2021/07/26
カラフルで明るさあふれる曲集。ヴィヴァルディなど音楽先進国だったイタリアのテイストをバッハがどのように吸収し、自分のものにしていったかを感じることができる好企画だ。CD1のチェンバロは音の粒が明るくキラキラしている。CD2では「ペダル付きチェンバロ」という耳慣れぬ楽器も登場し、チェンバロでありながらオルガンのような複雑な音楽の絡まりを体感。CD3ですばらしいオルガンの音色と偉容にも圧倒される。しかし、どのディスクも重々しさはなく、タイトルにもある「イタリア」の陽光を思わせるきらびやかな明るさと創意の充実を感じさせる。第5集が今から楽しみになる愉しいディスクなのでおすすめしたい。
5 people agree with this review 2021/07/21
自由闊達、天衣無縫のベートーヴェン。自由闊達といってもやりたい放題の意味ではないし、天衣無縫といっても基礎の練習や研究を充分にやった上のものであろうと思う。「ベートーヴェンのピアノ協奏曲全集たるものは…」というイメージで聴くと、その軽やかな演奏に足をすくわれることになると思う。もっとも令和の今に「重厚・がっしりでないとまかりならん」のベートーヴェンもそうないであろうが。 全体を通してツィメルマンがラトル&ロンドンsoと戯れながら楽しんで弾いているなぁ、という印象をもった。あまり深刻ぶらず、学究的にならず自分の手中に入っている曲を楽しんで演奏していると感じる。ツィメルマンの茶目っ気といったらよいだろうか。もちろんベートーヴェンの曲の精神性がおろそかになる事はないが、精神性を理解しつつ、そこに凝り固まらない融通無碍の境地で弾いている気がする。バックを支えるのが共演が多いラトルだからなのかもしれないがオケと対峙するというより規模の大きい室内楽でもやっているようなイメージだ。とにかくオケと合わせるのが楽しくて仕方ない、という印象を受けた。 バックがラトルとなると数年前に内田光子(ベルリン・フィル)との共演が比較対象として思い出される。緊密で彫りの深いのは内田光子盤、自由で開放感のあるのはツィメルマン盤と区別したい。ピアノや音楽について一家言ある二人の性格に合わせてオケをリードし、曲のカラーや陰影、スポットライトの位置を見事に変えていくラトルの変幻自在も評価したい。
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0 people agree with this review 2021/07/19
ガーディナーの心のふるさとを聴くようなアルバム。モンテヴェルディ合唱団の精緻でありなが親密な温かさも備えた内容が好ましく感じる。曲目はイースター(復活祭)にちなんだプログラムらしいが、イースターそのものに理解が浅い私には「祈りの音楽」の曲集として徐々に内容にも親しんでいきたい。
5 people agree with this review 2021/07/18
詩情あふれる香りが夜に漂うような美しさとはかなさ。 ショパンの夜想曲全集はいくつか所有しているが、このディスクで最後にしようと思う。そう思わせるほどショパンの夜の世界が描写されている。使用楽器の選定もこの描写に一役買っている、というよりこの楽器だからこそこの音世界が現出したのだろう、と確信している。ひそやかなルバートと、ふとため息をつくかのような、またはふと想いが変化するかのような部分を表す繊細なタッチはプラネスの感性と技術の最上の融合と思う。 ショパンの夜想曲はよく「ロマンチック」と言われる。それもこの曲たちの一面であろうが、私はそれ以上に「孤独」「郷愁」「傷心」「絶望」「祈り」のような要素も感じてしまう。それほど夜想曲は多面的で複雑なのだと思う。 私事をレビューに書くのは反則で申し訳ないが、最近、友人を一人失った。私の行いにより友人と断絶することになってしまった。失意と絶望、自己嫌悪に苛まれた時、このディスクが届いた。聴いて、胸がしめつけられ、涙を流してしまった。自分が友人に向けた行いとは、かくも孤高に美しいこれらの音楽に対しても背を向ける行いであったのだ。逆説的な物言いだが、かくもこのディスクの音楽は人の心の奥に沁みこんでくる。静かに、そして深く…。
0 people agree with this review 2021/07/04
前作より更に自由自在に吹かれたフルートで400年のタイムトラベルが愉しめる。 優れた録音により、フルートが息を吹き込むことで音が発せられるということに改めて気づかされるほど息遣いの豊かさに驚かされた。以前はフルートから出る音があまり好きになれなかったのだが、ここ数年だろうか、音のみでなく息遣いにも耳を澄ますようにしてフルートにも親しむようになった気がする。そのきっかけを作ってくれたのが有田正広の代表作『パンの笛〜フルート、その音楽と楽器の400年の旅(アリアーレ、1998年)』だった。 当盤ではソロに徹することでよりフルートの表現を堪能することができ、現代曲や自作も入れて表現の可能性もアピールしてくれた。楽器の細かい話は解説書に詳しく書いてあるが、曲ごとにフルートの音が変わり違う時代・部屋に案内されたような気がする。それこそが「旅」である。 私が一番気に入ったのは有田の自作。親交のある陶芸家・中里 隆氏の陶芸風景にインスピレーションを得たということだが、私のつたない感想としては陶作で土にこめる力や、(詳しいことは知らないがキイとタンポ皿?でパタパタ音を出す表現により)陶作が「手触り」の芸術である事も想起し、炎(炎もフルートの音も空気、または息が必要だ)が立ち上り焼成されていく過程を想像することができた。作品の凛とした佇まいにも想像の奥行きが広がる。実際に聴かれて各々で解釈を楽しんでほしいところだ。 音楽を愉しむだけでなく、フルートという楽器の変遷を学び、音色の個性に親しむ格好のディスクとしておすすめしたい。前作をお持ちの方ならなおさらお薦めしたい。
0 people agree with this review 2021/06/27
シューベルトの歌心(とその中に秘められた苦み)をみずみずしく歌い上げた作品集としておすすめしたい。私はこの3CDセット販売でなく、過去に単品で購入し聴いているが、この度再発売され、多くの人に聴いてもらえることが実に喜ばしい。 当セットでは3つの歌曲集に含まれる苦しみや悩み、葛藤などが積極的に表出される姿勢ではないと思う。プレガルディエンの視線は歌の美しさと構成を大切にすることにあり、歌の行間に前述の想いがほのかににじむように感じている。その意味で、プレガルディエンの瑞々しい声質と成熟した解釈表現がバランスよく表されている。 ミヒャエル・ゲースとアンドレアス・シュタイアー、2人の伴奏者にも恵まれており、モダンピアノとフォルテピアノの楽器の聴き比べもできるのだから非常にお得なセットだと思う。これを機にファースト・チョイスとしてシューベルトの歌曲の世界に足を踏み入れてみてはいかがだろうか。もちろん、その世界に詳しい方にも新たな世界を指し示すものとなると思う。お勧めです。
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