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Review List of うーつん 

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  • 3 people agree with this review
     2023/02/23

    R.フォークトの逝去を知った上での鑑賞ゆえ、どうしても彼のピアノに耳と心を持っていかれてしまう。(先入観もあるのは承知の上で)私はフォークトのピアノを聴いていて「眼前に死を意識したからこそ、これほどの生の奔出」という印象をもった。それほどピアノの勢いと壊れそうなほどの優しさが特徴的なアルバムだ。最期の刻印は、長年の盟友テツラフ兄妹らと奏でるシューベルトの最晩年のトリオ(デュオも含む)。テツラフ兄妹だからこそこのすばらしいアルバムが制作できたのだと強く感じる。寄り添い、理解し合い、共に奏する…そんな室内楽のすばらしさを満喫できるのもこのアルバムのおすすめポイントだ。

      1番の明朗とした音楽の中には痛みや哀しみが潜み、2番の大らかな音楽では狂気すれすれの恐れや苦しみ、絶望が次々に襲いかかるが歌の力でなんとか持ち直す心情が含まれていると思っている。このトリオはこの大曲を実にいきいきと表現しており、たとえフォークトの「最期」と知らずとも襟を正して聴いてしまう勢いと深みと痛みと優しさを感じてもらえると思う。

      先にPentatone Classicsからリリースされた「白鳥の歌 D957他」と共に、フォークトの成し遂げた音楽の石碑がかくして遺された。おそらく故人に「私の遺言」という思いはなく、シューベルトの深さにのめり込んだだけ、という考えだろう。それでも結果的にはフランツとラルス両者が持った「死」への思いがあるからこそこの曲が作られ、奏されたのだと思わざるを得ない。

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  • 2 people agree with this review
     2023/02/05

    ひそけき雰囲気が漂い、古雅の趣きも充分なアルバム。

       シフがバッハを音楽活動の中心に置いているのは周知のことだが、ただバッハを弾いている、とは違うということを当盤で知ることができる。 それはつまり、バッハをレパートリーの中心に据えているという意味でなく、音楽の愛の中心に据えているという意味なのだろう。バッハの曲への解釈、バッハそのものへの理解をさらに深めるために大切に演奏されたクラヴィコード。曲目や演奏も実に趣深い、愛情あふれる内容。急ぐことなく、慈しむようにバッハで「歌って」いるシフの気持ちが伝わる。あまり音を大きくせずゆったりと聴いてみてほしい。シフの手による親密でひそけきクラヴィコード演奏。考えてみたらECMにぴったりのアルバムとも言えるのではないだろうか。

       ちなみに…インヴェンションとシンフォニア、デュエット以外の曲目は2022年秋の来日公演(ピアノを演奏。当日に曲目を発表しながら演奏するという興味深く、かつ濃密な演奏会だった)で奏されたものばかり。実際席に座った方はその日の演奏を思い出すきっかけとして、行かなかった方は当盤でじっくり聴いてみていただきたい。おすすめです。

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     2023/01/22

    心のひだの内側にじっくりと沁み込む美しさを感じる。もともとこの曲自体が派手さを嫌う、心に訴えるものではあるが、他の演奏と比べても前述の美しさは際立っていると思う。雨水が地表から地盤を長年月かけてろ過され滋味を加え湧き水としてあらわれてくるような印象も感じてしまう。ヘレヴェッヘの他の作品にも共通する、合奏と合唱のあたたかい精緻さは特筆すべき美しさ。おすすめです。

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     2023/01/22

    程よくロマン的な佳曲ぞろいの好アルバム。不勉強な私は当盤に入っているどの作曲家もどの曲もはじめて。それゆえに新鮮な気持ちで聴けたのも一因だと思うが、肩ひじ張らずに音楽を愉しめるのがいい。

      ロマン派の過度な感情移入はなく、コンサートホールで満員の聴衆を驚かせたり、うっとりさせる、熱狂させるというより、ジャケットの絵柄のように家庭内の集い(または小規模なサロン)で友人・家族が親密に談笑しつつ音楽を囲む・・・そんな風景を私は連想した。ロマン派の主力作品・大傑作ではないのかもしれないが、こんな愛すべき曲たちがヨーロッパ各地域、それぞれの家庭や集い、またはサロンで歓びをもって奏されていたのだろうか。音楽を拝聴するというよりは、「音楽する」といった趣を感じ、愉しむことができた。

      現在の私たちと違い、音楽がもっと身近で大切に扱われていた時代の1ページを垣間見るような選曲、楽器の音、そして演奏の品の良さ…。そんなことに想いを馳せることができる一枚。おすすめです。

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  • 2 people agree with this review
     2022/11/28

    後期ロマン派ドイツ歌曲の精髄ともいえるプログラム。と偉そうに言ってもプフィッツナーの歌曲はこれが初体験。渋くて難解かなと恐る恐る聴いたがなかなか濃厚な歌がそろっており、もっと触手を伸ばしてみようかなと興味津々。

      元々はゲルネの歌うヴェーゼンドンク歌曲集と「四つの最後の歌」の第4曲「夕映えの中で」が目当てで入手したのだが、全体の「夕映え」「夜」にちなんだ曲に彩られた濃厚な気配がとても気に入っている。「夜」が醸し出す、理性と狂気がすれすれに拮抗する不思議な情感。妖艶かつ、仄かな退廃の香りを漂わせたあやうい空気感が全体を通して漂う。これを演出するゲルネの深く濃厚な歌声に合わせているのがチョ・ソンジンの清らかな伴奏。質的に合わないのではないのだろうかと心配したが、むしろ上手い塩梅にマッチしているのが驚きだった。伴奏もこってりだったら少し辟易としていたかもしれない。チョ・ソンジンのピアノは知的であまり前に出ず、要所を丁寧におさえているような感じがして彼の資質の高さを感じた。

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  • 1 people agree with this review
     2022/11/23

    絶妙な渋好みのプログラミング。ゲルネとトリフォノフ、どちらのアイディアだろう。じっくりと、かつ深々として、心のひだに沁み込むようなゲルネの歌声は相変わらずのすばらしさ。そこに表現の広さと新たな物を吸収しようとする点では他の若手と比べ秀でたものを持つトリフォノフのピアノ伴奏を得て、素晴らしい出来あいだ。ブラームスは他レーベルに録音してあったが、ここに改めてのせてくるあたりにゲルネの並々ならぬ意気込みを感じる。ベルクの作品2はモノクロームに薄めの明るい光彩が添えられたような表現がやけに艶やか。ヴォルフとショスタコーヴィチは歌を愉しむというより詩を吟じ、味わうような趣き。シューマンは特にすばらしい。豊かな声量を振り回さず、繊細な歌いまわしによって傷つきやすい詩人の心の裡を細やかに歌い上げる。曲によって細やかに変化するトリフォノフの伴奏がゲルネの歌に寄り添う。ゲルネが次に来日するのはいつだろう。伴奏は誰がするのだろう。可能であればこのコンビと曲目で一夜設けてほしいものだ。とはいえ、この組み合わせでコンサート開くのは困難だろうから、このCDを繰り返し聴いて我が心の慰めにしていこうと思う。おすすめです。

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  • 3 people agree with this review
     2022/11/17

    極めて意志的な、歌と伴奏のぶつかり合い。ぶつかり合いといっても対立してのものではない。互いの持てる力を出し合い、掛け合いながら歌に想いを込めていく。そこから生まれてきたものは、はからずも伴奏者の「白鳥の歌」になってしまった…。

     ボストリッジによるシューベルト・3大歌曲集の掉尾を飾るはこの「白鳥の歌」。前作たちと異なりライヴと銘打ってないのは伴奏者L.フォークトの体調等によるものだろうか。もし、そこに聴衆がいたならこのぶつかり合いをどう聴くのだろう。おそらく壮絶な舞台として記憶に刻まれることになったのではないだろうか。それほどにこのディスクは激しく、いたたまれず、切なく、哀しく、だからこそ美しい。

     ボストリッジによる憑りつかれたような歌唱は言わずもがな。前二作に負けない憑依ぶり。それでも曲が台無しになるような下品さはなく、真摯に曲にのめり込んでいるように感じた。そしてフォークトのピアノ…。録音当時の体調は判らないが彼の脳裏には「これが最期の」という意識はあったと思う。それ故なのか、それとも歌い手の憑依に応えた結果なのか。多分その両方だったのでは、と思う。時おりピアノによって強い意志を以って刻み込まれる音の刻印。この刻印に彼が託した想いについて私(と、この後に聴かれる皆さん)はいろいろ考え続けることになるだろう。

     この盤の後にM.パドモア&内田光子による「白鳥の歌」(2022年録音、DECCAよりリリース。当盤と同じウィグモアホールで録音)も出て、代わる代わる聴いている。作品の性格や作曲当時の状況への想いも含み、それぞれのコンビがそれぞれの演り方で私たちに訴えかけてくる。これらの壮絶な表現について、「どちらが良い」「どちらが上手い」という比較はもはや意味がないと思う。簡単に比較してお終いというレベルを遥かに超越しているからだ。私なら次のようにお薦めしたい。「両方手許に置き、聴き続けるべき」と。

    最後に一言…。ラルス・フォークト氏の早すぎる死を悼み、フォークト氏のご冥福をお祈りします。彼の遺したディスクによって彼の「生きた証」が多くの人々の心に届きますように…

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  • 4 people agree with this review
     2022/11/14

    歌を削ぎ落し、詩の意味を突きつめていったその先にある絶世の「歌」。パドモアが歌う「遥かなる恋人に」なら2014年に録音したK.ベズイデンホウトとのディスク、「白鳥の歌」なら2010年にいれたP.ルイスとの名盤(いずれもハルモニア・ムンディよりリリース)がある。それぞれ美しい声と語りに重きを置いた豊かな歌が魅力で、もちろんこれらもお勧めしたいが、当盤ほど突き抜けてしまうと全く違う作品と思わざるを得なくなってしまう。こじんまりした録音場所(ウィグモアホール)らしい音響効果もあり、音は拡散せず自然と作品の内側にある「核」に向かって我々をいざなう。

      パドモアと内田の伴奏で、「美しく歌う」という行為を捨てて前述のとおり歌を削ぎ落し、詩の意味を突きつめていったその先に待ち受ける絶世の「歌」を体験されることになろう。パドモアの絶唱が凄まじいのはもうお分かりと思うが、ここで特筆すべきなのが内田光子の伴奏。もはや伴奏の域を超えてしまっている気がする。内田光子の演奏自体が「ここで聴かないといけない」ものになっている。  パドモアに寄り添いながらベートーヴェンとシューベルトの心の奥にまで踏み込む。他の奏者ではなかなか踏み入れることができない領域に彼女は旅し、我々に案内してくれる稀有な存在になっている気がしてならない。

      中でも気づかされたのは「白鳥の歌」における第14曲「鳩のたより」の存在。ハイネの詩による「ドッペルゲンガー」の大きなドラマの後に「オマケ」というと失礼だが、なにか「坐り心地の悪い」感じがする盤も時々ある中で、この盤では実に自然に収まっていると感じた。実際には出版の都合による寄せ集めなのかもしれないが、この盤では第1曲の「愛の使い」から「鳩の便り」まで実に理に適った円環を形作っているように思う。

      このディスクが日本先行発売されるきっかけとなるパドモア&内田のコンサートが2022年11月に予定されているが、こんなディスクを聴かされてしまうと「行かねばならない」と思い詰めてしまうだろう。このサイトはチケット予約サイトではないのでこの辺にしておき、ディスクの話に戻ろう。パドモアと内田のコンビによる当盤、どれだけ言葉を尽くしてもそのすばらしさを私ごときでは伝えきれない。そんな時、ジャケットの写真を見つめてほしい。そこに写った二人のポートレイトが百の言葉よりもこの盤のことを語ってくれると思う。

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     2022/09/06

    ラトルの「ストラヴィンスキーの祭典」! 一夜で3大バレエ曲をやるなんて気が知れない。食べ物で表現するなら…しゃぶしゃぶとすき焼きとステーキを一夜で食べろと言われて食べる気はしない。よしんば食べても絶対に飽きがくるはず。どこかのタイミングでまずい肉(演奏)を混ぜられてしまうに違いない…。普通はこんなメニューは出さない。と思ったがシェフ次第でこんなにも食欲が増すとは。

      就任記念のお祭り気分の中で行われているわけだが、一杯ひっかけて神輿を担ぐようないい加減な演奏はされていない。演奏はリズムがしっかりはじけ、ツボをおさえた充実したものだから納得感もある。

      このディスクの一番のキーワードは「祭典」だと思う。オケもこの祭りを本心から愉しみつつ参加しているような熱気を感じる。それを率いるラトルもオケと一心となって祭りを愉しんでいる。このディスクはしかめっ面で真面目に聴くような類とは少し違うと思う。「放蕩息子の帰還」とでも言っていいような帰還を祝福する熱気と期待、指揮者とオケの意気込みを感じながら聴いた方が面白いように思う。おすすめです。

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     2022/08/28

    極上のオケに乗ってシュタイアーが自在にドライブするようなバッハの協奏曲集だ。オケの性能があってはじめてソロ演奏者が本領を発揮できるのだろうか。シュタイアーはソロや掛け合い、そしてコンティヌオとしても自在に動き回る。オケもシュタイアーのソロがあるからこそアグレッシブに動ける。要はお互いが高め合って素晴らしい演奏になっているように思えた。


     特にシュタイアーのチェンバロ…適度に遊びと発想がちりばめられている。それが実に自然に聴こえる。両者とも過剰な部分はない。それでもかっちりとした演奏より頭ひとつ抜けた面白さがこのディスクにはあると感じた。やけにとんがっていたり、不必要なデコレーションはみられない。そんな無理なアピールをせずとも、バッハの音楽は充分な情報量を備えているのだから。でも、そこだけ演奏すればよいわけでもなさそうなのがバッハの難しさなのかもしれない。守りつつ、そこを抜けていける発想力と表現力も問われるのだろうか。そんな意味でも、このディスクはお勧めする価値があると思う。再発売をしてリリースしてくれた販売元に感謝。

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     2022/08/17

    Bagatelle−ささいなもの、取るに足らないもの。しかしその中に実は大切なものが隠れている。このディスクを聴いて、私はそのように感じた。小曲集のセットだが、大曲に引けを取らない内容。浅学の私が偉そうに講釈ぶつより、演奏者がライナーノートに綴った言葉を引用すればこのディスクの内容を判ってもらえる気がする。「Bagatelle−ささいなもの、取るに足らないもの。取るに足らない時間の連なりである人生の中に、音楽はふと、現れる。」

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     2022/08/17

    人生、音楽、そして文化の黄昏に思いをはせる一枚。若さの中にも黄昏の萌芽はあるのか、若さゆえの感傷に黄昏の要素が含まれるのか、いずれにしても若きブラームスのソナタが雄大に鳴り始めた瞬間から黄昏への歩みが始まる。リストの小品には自身の人生への、そして意識していたのかは判らないが調性音楽への黄昏の予兆(そもそも人の感情とは、調などでは表しきれない複雑なものなのだろう。リストはそこに到達したのかもしれない)を感じ取り、これを引き継いだベルクのソナタも調性のみならず彼らの文化圏における黄昏を感じずにはいられない…。


    何やら感傷的なレビューになってしまう。「黄昏ちゃってるね〜」と思われるかもしれない。が、これを聴かれればどなたも同じように感慨にふけると思う。そして考える。北村朋幹の曲目構成と演奏はこういった感慨を呼び起こす。前作「夜の肖像」とスタンスは同じ。音楽と文学・思索の要素をミックスしたような構成、それに溺れることなく理性的(かといってドライという意味ではない)に進められる演奏。楽譜から立ち上る「音の向こう側にあるもの」を探す旅を彼は今、している。他の奏者ではなかなか味わえない読(聴)後感を感じたい方におすすめしたい。

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     2022/08/15

    様々な思索を生む“夜”の多面的な肖像を、音楽によって構築した一枚。発売当初から気になっていたのだが、数年経ちようやく入手した。そして聴いた。


    まず、曲の構成から他のピアニストと一味違ってくる。全五曲がシンメトリーに配置(ハンガリーの作曲家が両端を固め、その内側にベートーヴェンの幻想曲風ソナタを配置し、中心にシューマンの夜曲。「夜」というテーマによって4人の作曲家が結ばれ、その曲が奏されて独特の場を創り出していく…。
    夜の闇の中、風にたなびく雲月の光が辺りを照らし出すような、闇と仄かな光の風景を連想させる。そんな連想に合わせるように、曲によってさまざまなファンタジーや沈思が浮かんでは消えていく…。


    こうやって書くと演奏はダークでナルシスティックなものかと思われるかもしれないが、さにあらず。醒めた目で楽譜が読まれ、明晰なタッチで音楽化されていると思う。私のような素人が上に書いた中途半端な夜のイメージだけでなく、理性的な絵筆で描かれた「肖像」である。そして、だからこそ夜という独特な時空間に喚起された幻想や思索を生み出すのかもしれない。


    純粋に音楽を聴きたい方、音楽と思索の世界を行き来したい方、ファンタジーの旅をしたい方いずれにもおすすめしたい。どなたにも新しい「夜の向こう側」が発見できると思う。

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     2022/08/09

    渋くて滋味深い、玄人好みの曲目と演奏。ハイドン3曲にシューベルトの即興曲とは恐れ入る。正直に言うと、決して「客が入る公演プログラム」「真っ先に買いたくなるディスク」と言いづらい曲目だと思う。なのに、これで聴かせてしまう公演にするとはソコロフならでは。例のごとくライヴ収録のため「音、音響」を聴きたい方には万全の状態とは言えないかもしれないが、「音楽」を聴きたい方にはさして気にはならないと思う。

     ハイドンは軽妙とも違うし、古典的な美しさとも違う気がする。流麗で軽やかな音楽という先入観はあっという間に消えてしまい、鈍い光沢を放つ彫刻作品を観るような独特な立体感と説得力を感じてしまう。ソコロフのフィルターを通して弾かれると前述の「渋くて滋味深い」という感想に落ち着いてしまう。

     シューベルトの即興曲D935もまた他の演奏者とは全く違う色合いの演奏。きれいとか美しいピアノ曲という次元ではなく、じっくりと語られた文学作品に変容する。即興曲でよくある「歌うような」演奏ではなく、深く呼吸してゆっくりと物語るという、これまた「渋くて滋味深い」演奏。 恒例でもあるアンコールの多さ、バラエティ、品質(ソコロフお馴染みのアンコールピースでさえまた違って聴こえるのはさすが)も言わずもがな。  これをCDとBDで愉しめるのだから文句はない。来日してくれる可能性がほぼ無いと予想される人物だけに公演映像は嬉しい贈り物だ。聴いてよし、観てよしのディスク。おすすめです。

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     2022/08/05

    再録音ながら「初録音」といってもよいのでは?  新鮮かつ明晰なミサ曲ロ短調と感じた。

    1992年録音と指揮者・オケ・合唱団は同じ組み合わせながら全体の格調が数段上がったかのような気持ちで聴けた。前回より音の重なりはスリムになり、自然と音と言葉の重なりが見通しよく、鮮烈な印象を受けた。前録音にもレビューしており、そこには「ほの暗く少しひんやりとした」という感想が書いてあった。それと比べるなら今回の録音は「微温的で光が差し込むような」感想だ。17曲目の「Crucifixus」などはもう少し人数を加えて静謐な声の重なりを聴きたかったがこれは好みの問題。

    ロ短調ミサ曲も数点あるし、ヤーコプスの盤もあるのだから今回は入手を見送ろうかな、とも思っていたがやはり聴きたくなり入手してみた。曲への信頼と確信、明るく喜びにも満ちたミサ曲を感じ、入手して聴いて良かったと心から思う。おすすめです。

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