『TOCHKA』 公開記念! 「TAO」 第5回 :ゲスト→松村浩行 5
Monday, November 30th 2009
この狭いところをくぐらなければ見えないものもたぶんあるはずなんですね。
--- 「TOCHKA NIGHT」が予定されていることもあり(10月13日(火)に開催済み)、映画と音(楽)についてのお考えをお聞かせ頂きたいのですが。
松村:今まで作った映画も、音楽をきわめて特殊な使い方をしてるところではあるんですけど、音楽がないんですよ。それはね、別に「映画に音楽があっちゃいけない」っていうわけでは全くないんですけど、「簡単には扱えないな」っていう畏れのようなものはあるんですね。それは、音楽にものすごい力をもらってるっていうことがあって、音楽の独立性っていうことは、僕は揺るぎないと思うんですよね。さっきのノスタルジーの話でいうと、匂いの次には音だと思うんですよね。映像に出来ることなんて本当に少ないし、だからこそ音楽は自立してるものだし、プロモーションビデオのようにはしたくないんですよね。もちろんそういうスタイルの映画はあってもいいし、観るのは好きなんですけど、自分の中では「音楽を使うまでに熟しきれてないな」っていう思いがあって。かと言って、いわゆる旋律がある、楽理に従っている音楽と風の音だったり、鳥の声だったり、子供の声だったり、人の声だったりっていうそれ以外とされてるものの音っていうものと何が違うかっていうことはわからないんですけど、より操作されてるという意味では、いわゆる音楽っていうものは、やっぱり別にあると思うんですよね。だから、自分の映像なり、そういう音響的な構築する力というか、本当に音楽と拮抗するまでは、いわゆる伴奏音楽だったり、サウンドトラックみたいなことはやらないでおこうと思ってるんですよね。
で、もちろん、やらないということが最初にきちゃったらおもしろくないし、つまらない。映画にタブーなんてないわけだから何でもやっていいと思うんですけど、僕の中ではそれは「観るだけにしておきたい」っていうのがあって。実は、今回は最初はね、とある方のノイズ音楽を使おうと思ってたんですよ。映画の後半に音響的に高まってくるシークエンスがあって、この辺りに入れたいなって思ってて、最初シナリオには書いてたんですけど、やっぱりやめたんですね。それはまた別の表現で、違う表現者の人が自分の世界観で作られたもので僕がそこを安易に自分の中に導き入れることは、たとえ向こうのOKが出たとしても、それは一つ、襟を正さなきゃいけない。「今回はそれは出来ない」と思って。それならじゃあ、自分と世界の音が直接的にマイク一つで結び付いたところで自分で作ろうと思って、フィールドレコーディングの素材を重ねたり、加工したりっていう作業で作ったんですよね。
--- 音楽は、「今だ」という時期が来なければ使われない・・・。
松村:寄り添う音楽としてね。前に撮った作品とかでは、劇中音楽とか・・・実際に演奏されてる形として音楽を使ったりとか、あるいは「この音楽はちゃんと作って録ってますよ」っていう、ちょっと異化した形では使ってるんですけど、もう一つ踏み込んで、物語にもっと影響を与えてくるようなスタイルの使い方っていうところまでには、まだちょっと到達していない。そこが出来たらぜひやってみたいですけどね。ただ、例えば、ゴダールの作品だったりとか、本当に先鋭的な表現で「これ以上出来ないだろう」っていうような作品のものすごい例をいっぱい観ているので、緊張はしますけどね(笑)。
--- そういった思いがありながら、今回は音楽を一切使用されませんでしたが、『TOCHKA』の劇中にあった音は録音・整音さんが録られたものをそのまま?
松村:そうですね。録音・整音担当の彼が自分のヘッドフォンを通して聴いた音をたくさん拾っていて、もちろん、その彼がセリフも録ってるんですけど、セリフ以外の音的な素材は全部、彼が管理していて、彼が録り溜めた素材が全部、一つのハードディスクの中に入ってたんですけど、非常にいい音がたくさん録れていたので、「これを使って何か新しいことをしたいな」って思ったんです。その一つの試みとして、そこから全く違う作品を立ち上げられないかなって思って、それで今回、Chihei hatakeyamaさんに『The Secret distance of TOCHKA』というCDを作って頂いたんですけど、そのHatakeyamaさんの作業は、映画のためにフィールドレコーディングされたその音の素材を使ってミックスして頂いて、「『TOCHKA』をあらたに再構築した」というものですね。もちろん、映画を観て頂いた上で作って頂いたんですけど、物語的な文脈とも違う・・・もっと言えば、対立するかもしれないものとして作って頂いてるんですね。だから本当に、画でいうオフショットですよね。キャメラが回って芝居が行なわれているところだけではなくて、もう少し、だらっと撮っていたというか、マイクを据えっ放しにして音を録っていた、そういう時間も含まれてるんですね。だから、そこが本編と全く違うので、ぜひ、その世界観も聴いて頂けたらなあと思いますね。
--- 映画の中では作られた音楽を使わずに、別のベクトルで音楽の世界を構築されようと思ったのには他にも理由がおありですか?
松村:それはきっとね、「他の人の表現になる」っていうことだと思うんですよね。それがあるから、僕の中では映画と音楽っていうのがかろうじて一緒に出せるっていうところで、きっとそれは”距離”の問題だと思うんですけど、録り溜められたフィールドレコーディングの素材とhatakeyamaさんとは全く関係ないですよね?外部のものとしてあって、僕らはそれが撮られたところの時間の流れとかをいろいろ知ってるんでもっと距離が近い・・・自分もその中にいて、自分の声すら入ってるような状況。だから、その距離が尊いと思ったんですよね。で、「それがあるから物が作れる」っていう気持ちでいて。そこを何か映画にまつわるいろんなものの中にその距離を持ち込んでみたかったというか、作品を異化して欲しかったんですよね。だから、シナリオに合わせて、「トラック1はこういうシーンだから・・・」みたいな流れは全くなくて、ハードディスクの中の音を時系列ではなくて、単に音の何かでとりあえずのカテゴリーとして入っている塊を預けた。
hatakeyamaさんが考えてくれたのは、CDのタイトルが偶然にも『The Secret distance of TOCHKA』なので、その距離っていうのはたぶん、hatakeyamaさんと映画に対する距離でもあり、登場人物達の距離でもあり、僕とhatakeyamaさんの距離でもあり、それが何かね、いいんですよね。やっぱり、外にあるものなんですよね、映画って。誰にとっても。表現してる人間には時々近くなったりするし、撮影の時は一番近いし、編集でちょっと遠くなったりとか、距離はどんどん変わるんだけれど、自分の外側にある・・・さっきの話に相当戻ると、”作家性”みたいなものっていうのは距離に出るんであって、距離がないことが”作家性”じゃなくて、距離の取り方だと思うし。だから、「違う人の距離を見てみたかった」というのが、今回音をお願いしようと思った一番のきっかけで、すごくおもしろいものになってると思いますね。
--- お話が少し前後してしまいますが、実際に『TOCHKA』を撮影されたのはいつ頃でしたか?
松村:2007年の3月下旬から4月中旬くらいですね。もう2年以上経ってるんですよね。
--- 撮影期間は?
松村:10日から2週間・・・2週間切ってるかもしれないですね。役者さんが入られてたのが10日にも満たないんじゃないかな。
--- 『TOCHKA』を撮られようと思った企画の段階から、撮影、編集・・・今回の公開までどのくらいの期間を費やされたんですか?
松村:最初に僕が根室に訪れたのが2003年とかだったんで、その後、いろいろな時間の流れがあって・・・っていうところまで含めると、足掛け5年くらいになるんじゃないですか?
--- 5年・・・。
松村:長いです、とっても長いですよね。
--- でも、長いようで短かかった?
松村:長いようで長かったですね(笑)。むしろ、その5年より前のことの方が短く感じるかもしれないですね。10年前の方が短いなって気がするんですけど、その5年間のいろんなことを今反芻しようとすると、本当にいろんなことがあったんで・・・まあ、今も現在進行なんですけどね。
--- 5年かけて完成されて、改めてどんなお気持ちですか?
松村:5年経つとね、人間が全く変わってるんですよね。さっきの話ですけど、ものすごく距離がありますよね、今。だから、そこが難しいのはこういう風にお話したりとか、宣伝活動とかにはお客さんに対して、「こういう映画です」っていうところが求められるじゃないですか?で、「こういう映画です」って言う時に最後に?マークが付いてるというか。「こういう映画ですか?」っていう(笑)。むしろ何か、お聞きしたいところもあるんですけど、それはすごく自然なことだと思うし、もちろんそれが通らない場所もあるんだけど、こういう場ではそういう風に正直にお話すると、もう違う人間ですよね。
--- 作られた時とは?
松村:ええ。もう全然変わってますね、僕自身が。でも、違うけど同じなんですけど、同じっていうところこそにかろうじての”作家性”があると思うんですけど。でもやっぱり、すでに自分の外側にあるものですね。
--- ご自身の作品に対して、客観性を持って観られているという。
松村:はい、観てますね。それは技術的にということではなくて、認識そのものというか、映画が持っている認識、態度ですよね、世界そのものに対して、僕はどちらかと言うとそういう外側にあるし、同意するところもあるし、同意しないところもあるしっていう感じですかね。
--- 東京国際映画祭 日本映画・ある視点で上映されることが決まりましたが(上映済み)、これはどういった経緯で?
松村:今、僕らは宣伝会社を通してないので、個人の数人の人間が中心になって、金銭的なことを言うと持ち出しでやってるんですね。印刷物とかも全て、「誰、いくら」「誰、いくら」みたいなところで(笑)。「トーチカ・ユニオン」っていう名前を付けてるんですけど、その中で中心的にやってる吉川(正文)くんという人間が僕と同い年でいるんですけど、彼が「この作品をどのように見せていくか」っていうことに関して、非常にアイデアを持っていて、僕もそこに学びつつ自分の意見をこちらからも述べたりして、そういう協力関係で作っていて。僕一人だったらたぶん、「東京国際映画祭に出品する」って考えは出てこなかったと思うんですけど、一つの違う色の場所に出していくっていう考えが彼にはあったんだと思うんですよね。この映画を作っていた人間からはこの映画とグリーンカーペットはものすごい距離があって(笑)、「いやあ、とんでもございません」という感じなんですけど、きっと、吉川くんにとっては「そういうことをすることが映画をまた違うものに変えていくということなんじゃないか」って思ったと思うんですね。だから、そこに何かおもしろみを感じてエントリーしてくれたと思うんですよね。 ただ、選ばれた方もチャレンジだと思いますけど(笑)。
--- 東京国際映画祭側から働きかけるというわけではないんですよね?
松村:そうですね。作品募集という形よりもむしろ、運営されている方の今までの人脈というか、その中で作品を集めてるっていう作業だと思うんですよね。オープンコンペというよりはたぶん、そういう側面の方が強いという風に思いますけど。本当に「ある視点」っていうことそのものだと思いますけどね、この映画こそね(笑)。
--- 「ある視点」。その東京国際映画祭の上映の後は、ユーロスペースで上映が始まりますが(ユーロスペースでの上映は終了)、初監督作品『よろこび』もユーロスペースでレイトショー公開されたこともあって、ユーロスペースには縁がありますね。
松村:ちなみに『ソドムの市』もユーロスペースだったりして(笑)。映画美学校自体がね、元々のユーロスペースの事業の一環っていうところもありますけどね。
--- 最後になりますが、これからご覧になる方に一言頂けますか?
松村:この作品は「小さな映画」だと思います。それは撮影の規模とか予算とかいうことだけじゃなくて、扱っていることがものすごく狭いことだと思うんですね。僕の中ではその狭さが・・・留まることがいいことだとも思わないし、作ってる時もそう思ってたし、今はもっとそう思ってるんですけど、でも、この狭いところをくぐらなければ見えないものもたぶんあるはずなんですね。最近思うんですけど、ものすごくひょっとしたらネガティブな印象にうつるかもしれない内容を媒介にして、そこから先に何か本当のものを肯定するというか、ポジティブな力を得るためには、その狭さだったり、ネガティブさだったりっていうものを経ないといけないなっていうのはあるんですよね。それは一番、感じて頂きたいなと。感じて頂けたらうれしいなと思いますね。
『TOCHKA』は小さい狭い窓があるけれども、あの小さい狭い窓に全てがかけられてるような作品なんですね。カメラでファインダーというか、レンズでありファインダーである。あの本当に小さい長方形、窓・・・「ある視点」ですね(笑)。そこに何か全体をかけてるという意味で小さな映画なので。でもそこには世界は広がってるし、ただあそこの窓と暗闇っていうところがこの世界には存在しているっていう思いで作ってたような気がしますね。そこは今でも変わらないし。だから、その空間に身を置いて頂くような感じで観て頂きたいなあと思いますね。そこから何が見えてくるのかということをおっかなびっくり観て頂きたいなというか(笑)。
--- やっぱり、「ある視点」ですね。
松村:日本映画「ある視点」ですね(笑)。全然インターナショナルじゃないです(笑)。
--- 本日は長い時間に渡り、ありがとうございました。
松村:こちらこそ、ありがとうございました。
おわり
公開&インタビューを記念して、松村浩行監督のサイン入り『TOCHKA』パンフレットを5名様にプレゼント!
【応募方法】「コメント欄」には、松村監督への、『TOCHKA』への想いを・・・また、当「TAO」への叱咤激励など・・・ご記入下さい。シタタメテ頂いたその文章から、独断と偏見いっぱいに選ばせて頂きます。続いて、ご希望の賞品を選択後、必要項目をオンラインにてご登録下さい。みなさまよりのご応募、心よりお待ちしております。
※応募締切 2009年12月18日(金)
※1. 応募には会員登録が必要になります。(新規会員登録は⇒コチラ)
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『TOCHKA』 劇場公開情報
CREAM ヨコハマ国際映像祭2009 日本の若手監督作品プログラム
11/28(土)15:00〜(上映後トーク予定) 場所:東京藝術大学横浜キャンパス 馬車道校舎
大阪PLANET+1
12/19(土)〜12月25日(金) レイトショー
シネ・ヌーヴォX
12/26(土)〜12/30(水) 毎日3回上映
1/2(金)〜1/8(金) 毎日1回上映
神戸映画資料館
12/25日〜12/29(火) 毎日1回上映
名古屋シネマテーク
12/19(土)16:00〜、12/20(日)12:00〜、12/21(月)14:20〜
『TOCHKA』 Official サイト
松村浩行 プロフィール
映画監督。1974年 北海道札幌市出身。
現ロシア領・国後島出身の母親を持つ監督にとって、四島からの引揚者の多い根室は縁のある土地であり、少年期には夏休みに親戚を訪ね、撮影地に近い漁港で釣りをしたこともある。しかし実際に根室のトーチカについて知ったのは企画準備のため調べものをしていた段階であり、その後、約20年ぶりに当地を再訪することとなった。
地元の高校を卒業後、早稲田大学第一文学部に入学、演劇専修に進む。大学卒業後に入った映画美学校第二期フィクション科で映画制作を学び始める。初監督作品『よろこび』(1999年 / 16mm / 32分)が映画美学校製作短編集『Four Fresh! 99』のひとつとしてユーロスペースにてレイトショー公開された後、2000年フランス・エクサンプロヴァンス短編映画祭、2001年ドイツ・オーバーハウゼン国際短編映画祭など、海外映画祭コンペティション部門に招待され、オーバーハウゼン国際短編映画祭では国際批評家連盟賞を受賞する。その後ブレヒトの教育劇に基づく実験作『YESMAN NOMAN MORE YESMAN』(2002年 / DV / 70分)を発表、2003年京都国際学生映画祭で準グランプリを受賞する。
また、出演作に高橋洋監督『ソドムの市』『狂気の海』などがあり、『ソドムの市』では精神科医「ドクトル松村」を演じている。
松村浩行監督がリスペクトする作品
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左:『ジャン ルノワールの小劇場』 ルノワールは今から数十年前のインタビューで、これから映画はどんどん閉じていくものになるだろう、という意味の発言をしていました。この言葉には、現在こそ考えるべき内容がある。そのためにも、何度でも何度でも作品を見直そうと思います。真ん中:大西巨人: 『未完結の問い』 後記で聞き手の鎌田哲哉氏が書いているように、永年「論争」や「外気」を肯定し続けてきた作家の仕事に触れることは、あらゆるジャンルの表現者にとって有益に違いない。個人的には「論争」や「外気」こそが、「閉じていく映画」にとって欠かせない条件になると思う。右:松田聖子: 『ユートピア』 大好きな「天国のキッス」が入っているから選びました。彼女の歌が毎日テレビやラジオから流れていた80年代前半、僕は小学生だったのですが、正直、松田聖子のファンではなかった(気がしていた)。でも大人になって聞き直すたび、ここまで自分の身体に深く食い込んでいる音楽は他にない、と痛感しました。ブルースペックよりもアナログで聞きたい。(談)



