トップ > 映像DVD・BD > ニュース > 邦画 > 『TOCHKA』 公開記念! 「TAO」 第5回 :ゲスト→松村浩行 4

『TOCHKA』 公開記念! 「TAO」 第5回 :ゲスト→松村浩行 4

2009年11月30日 (月)

僕はノスタルジーってことにすごく過剰な人間で(笑)。



--- 『TOCHKA』の中で使われている藤田さんの詩のようなナレーションが印象的でした。


松村:あれを撮ったのは、東京に帰って来てから録音の出来る施設で録ったんですけど、藤田さんはきっといろいろ読まれてきて、自分なりの間合いみたいなものを設定されたと思うんですね。僕もあの詩というかナレーション録りっていうのはキャスティング以前のことなので、僕の中でも自分の中で反芻していく時の間のような抑揚のようなものがあって。だから、僕が厳密に「このように」っていうことよりも、あそこに関してはお互いが持ち寄ったもので生まれたような感じがすごくしていて。

「ここは下げて」「そこは上げて」「そこは切って」っていう指示はもちろんあったんですけど、声のきめ自体は変えられないんですよね。抑揚も変えられるし、間合いも変えられるし、高さもある程度までは変えられるけど、セリフもそうなんですけど、人の声のきめというかテクスチャーみたいなものっていうのだけは変えられないし、僕はそこを変えるっていうことに対して、多少、モラル的なやましさすら感じるんですよね。アフレコの映画でおもしろい映画はもちろんあるし、イタリア映画なんてね、本当に大胆なアフレコをするし、それはそれとしていいんだけど、自分が作る姿勢としてはやっぱり、その人の持ってる声をどういう風に録らせて頂くか、録音させて頂くかっていうことだと思うし。それは演技指導とかいう以前で、その人を撮るっていうことの根っこにはやっぱり、変えられないものがあるっていうところからあとの作業をどれだけお互いが歩み寄れるかっていうことなので。ナレーションのところは特に声だけの存在になるわけだし、それが一番純粋な形で出るところですよね。


--- あの詩の内容については、松村さんの実体験や個人的な想いが含まれているんですか?


松村:あそこにはいろいろ・・・賛否両論あるんですけど(笑)、非常にモノローグ的になっていて、「文学的すぎるんじゃないか」とかいう風におっしゃる方もいるし、逆に気に入って下さる方もいるんですけど、なぜあそこにあれを書いたのか、実は全く自分でもわかってないんですよね、ちょっと気持ち悪いんですけど。「あそこに何かないといけない」とは思ってたんですよね。それはきっと、男性側からの長い語りのシーンがあったと思うんですけど、あれに相当する物として、今度は女性側から何かの言葉がまとまって出てくるはずだろうと。ただ、それがどういう内容になるのか全くわからなかったんですよね。なかなかそこを手が付けられなかったんですけど、ある時、書き始めたら、ずらずらずらずらって“お筆先”のような感じでああいう風に書いちゃったんですよ。だからもう、「それを直す必要ない」と思って、「そのままやりたいんだ、これが必要なんだ」っていうこともわかったんですよね。だから、意識的な構成っていうことよりもちょっとあそこは例外的にというかね、他の部分はもうちょっと距離を置いて作ってるつもりなんですけど、何か出ちゃったって感じなんですよね。

で、それが実体験なのかっていうと、小さい頃とかのことがたぶん何かあると思うんですけど・・・ノスタルジーってことだと思うんですよね。僕はすごくノスタルジーってことに過剰な人間で(笑)、特に自分の物心ついた思春期以前、10歳くらいまでの感覚というものに立ち返るところがあるんですよね。物を作ってる一つの動因というか、モチベーションに必ず入っていて、それに迫りたいというか、あの時の匂い、物の見え方、色、五感、六感というか、そういうものの感覚を形にするっていうのが一つあるんですよね。


--- あの詩は降りてきたもので、あそこに入るべくしてあって、狙って書かれたものではないと。


松村:そうです、そうです。だから、あの登場人物の女性をどこかで映画の中で具現化するっていうことなんですけど、そこに何かきっと、自分自身が再現したい感覚が重なったというか。そうとしか言えない何か・・・帰り道の心細い感じというか、でも何か、そこにものすごい昂ぶりがあって、年齢を超越しちゃうような瞬間。子供でありながら大人であるような感じとか。死とかに対する認識の研ぎ澄まされ方って、子供って持ってると思うんですよね。僕もそうだったし。もしかしたら、今よりもあるかもしれない。それが何かね、肉親とか身近な人の死とかっていう以前に、自分自身が生命がないところから出て来たところに近いところにいるからだと思うんですよね、何かちょっとオカルトっぽい話ですけど(笑)。僕はそうとしか思えなくて。でも、もちろんね、そこだけではないんだけど、今こういう風に大人になって物を作ったりする時っていうのは、もっと違う要素が入ってくるし、入れなきゃいけないですけど、根っこにあるのは「子供に返る」っていうことが全部、自分の下にあるマグマみたいなものだと思うんですよね。だから、それは大切にしたいですね。僕の他の作品にもそれはね、たぶんあると思うんですよね、そういう瞬間が。表れ方は違うかもしれないけれど。「ああ、これ、この感じ」っていうか。「この感じなんだよ」っていう。で、僕はそれを形にしておきたいっていう思い・・・それは音楽聴いててもあるし、美術とかでもあるし、本読んでてもあるんですけど。もう何かね、明るいとか暗いとかたのしいとかたのしくないとかそういうことじゃないんですよね。

ノスタルジーっていうと、わりと否定的にも捉えられることもあるかもしれないんだけど、自分の内側に回帰していく完結性みたいなところとして捉えられるとそれは違うって思うんですけど、もっと何か、ラディカルな力っていうか、それはありますね。


--- 過去の作品を拝見すると、ノスタルジーがポイントになっているかもしれないですね。菅田俊さんのキャスティングの決定もお聞かせ頂けますか?


松村:男性の方がすごく難しかったんですよ。むしろ、女性よりも難しくて、その中でね、菅田さんを提示してくれたのは僕のスタッフの意見だったんです。その彼は制作をやってる男性なんですけど、黒沢清さんの『ニンゲン合格』の中で西島秀俊さんのお父さん役だったんですね、菅田さんが。僕らが普段観る菅田さんのイメージ・・・たぶん黒沢さんは、あの映画ですごく殺して使ってらっしゃると思うんです。殺してというのはちょっと語弊があるんですけど、菅田さんを裸のまま頼りなさげに撮られているというか。そういう存在として特に、『ニンゲン合格』では出られているんですけど、そちらのイメージの菅田さんをどこかで『TOCHKA』とリンクさせてくれたと思うんですけど、それを教えてもらって、「ああ、菅田さん、いいかもしれない」って思ったんですよね。藤田さんと同じように、菅田さんがああいう風景の中にいる時の違和感というか。僕、違和感って大切だと思うんですよね。身体が風景と拮抗しているような、そういう状態を作れるんじゃないかと思って。事務所を介してしまうとお話が出来なくなってしまうので、事務所を介さないのが僕らのスタイルなんですけど(笑)、人を介してお会いすることになって。その時、菅田さんは池上本門寺で“テント芝居”の演出をされてたんですね。そこのテント裏に行って、直接シナリオをお渡しして。「ぜひ、読んで下さい」と、雨の降る日に。


--- ちなみに、その“テント芝居”はどのようなものだったんですか?


松村:菅田さんって元々、唐十郎さんの「状況劇場」で演られてたんですよね。「紅テント」後期から「唐組」創設まで、そのちょうど境目くらいのところですね。菅田さんは今、「東京倶楽部」っていうお芝居の団体の主宰をされてるんですよ。それで、年に1本とか芝居を持たれていて。だから、そこでは菅田さんは出てらっしゃらないで演出に徹しているんですけど、“テント芝居”らしい猥雑さというかエネルギッシュな空間で祝祭性があるというか、そういうスタイルのお芝居でしたね。


--- 雨の降る日にテント裏でシナリオを渡された後、何日か後に菅田さんからご連絡が?


松村:ええ。菅田さんを紹介して下さったのが『ソドムの市』に出てらっしゃる中原翔子さんっていう女優さんだったんですけど、中原さんを介して、菅田さんから「読みました」と。「ぜひ、やりましょう」と言って下さって。で、そこから事後的に事務所の方に「菅田さんが出て下さるそうなんですけど・・・」ってお話をさせて頂いて、そこからいろいろ大人の話になっていくということで(笑)。


--- 初めから事務所にお話をしてしまうと、ご本人に回らないことも多いですか?


松村:それもありますね。そこはおそらく、回して下さるとは思うんですけど、ギャランティーの問題が一番大きくて。小さい予算の映画の場合だとその部分が大きいわけですよね。もちろん、そこを逃げるわけではないんですけど、それはこちらとしても策略があって。「ご本人の気持ちはこちらに」という。そこを話の場で打ち出せることがこちらとしては非常に強い武器になるので、そこは本当はね、「勘弁してくれ」と言われるかもしれないんですけど、そういうやり方を今回は取らせて頂きましたね。


--- 雨の中、傘を差しながら、シナリオを渡す光景をイメージしてしまいました(笑)。


松村:濡れそぼる池上本門寺ですね(笑)。菅田さんのお顔もちょっとはっきり見えないくらい、本当に真っ暗なところでしたね。「ああ、大きいなあ」って思いながら。作業用のジャンパーみたいなのを着てらっしゃって、両手でね、熱く握手して下さって。今でも会う度そうやって握手して下さるんですけど、「よろしくお願いします」と。藤田さんの方は御茶ノ水のすごく大衆的なチェーン居酒屋でシナリオをお渡ししたんですけど(笑)。







関連リンク


『あんにょん由美香』 公開記念! 「TAO」 番外編 : ゲスト→松江哲明
「TAO」 第3回 :ゲスト→木村文洋
「TAO」 第2回 :ゲスト→都築響一
「TAO」 第1回 :ゲスト→EGO-WRAPPIN'
「TAO」 企画前夜:ゲスト→吉田豪