真珠婦人以来、菊池寛の通俗物は興味があったので購入してみました。

タイムリーな企画で表紙のデザインも素晴らしい。冒頭に置かれた表題作は僅か９ページ、辻仁成さんの解説は表題作以外には一言も触れていない(笑)。そういうわけで、100年前の世相に思いを馳せて、短いながらも十分に満足です。と、締めくくりたいところですが、この本は200ページ余あって、表題作以外の作品も面白い。菊池寛の名前を知っていても、作品を読んだことがない方には好適な一冊だと思います。

表題の2作は全く違う味わい。『藤十郎の恋』は皮肉の利いた作品だし、『恩讐の彼方に』は心にしみいるじわりとした雰囲気がある。他の収録作品もまるで10人の別人が書いたかのよう。ずっと手元に置いておきたい短編集です。