周知の通りホロヴィッッの本格的演奏活動の舞台アメリカでのデビューはチャイコフスキー・ピアノ協奏曲第1番で以降収録上そんなに多くない協奏曲の中でも特にマァ需要・供給関係からこの曲のウエイトというかとにかく彼としてはライブを含めて数多く記録が残されております。その中で本盤は1941年ホロヴィッツ38歳の頃、バックが義父トスカニーニ(当時74歳)が振る新設NBCSOによる演奏(タイム@17’32A5’48B6’07)でありこの共演によるこの曲の収録は他に同年のライブ分(同@17’38A5’23B6’39)、1943年(ライブ、@18’58A5’42B6’29)分等があって全て聴き比べたわけではありませんが完全主義者トスカニーニ指揮下でのこれらの中では本盤演奏が完成度が高い様に思えます。さて、その演奏は古いモノラル録音でノイズもある程度仕方ないとして逆にその音質から出て来る両者の「気迫」が充分うかがえこの演奏の歴史的存在価値も我ながら認識した次第です。タイムを見ても分る様に大変速いテンポで第1楽章から展開して行きます。ただ一直線に進むバックはやはりトスカニーニらしく、さりとて何処と無く婿に一歩譲っている風は面白いですね。若干さっさと片付ける傾向の演奏の趣きの中で超絶技巧によるPカデンツァの燦然さは聴き処でしょう。その超絶技巧には中間楽章でゾクッとしました。とにかくスピーディな最終楽章も後段轟く迫力によるクロージングにため息も・・・。なお、ホロヴィッツのチャイコフスキー・ピアノ協奏曲第1番には上記のトスカニーニとの諸演奏の他に1934年バックがマルコ/デンマークRSO(ライブ、タイム未確認)、1940年ハバルビローリ/NYPO(タイム@19’21A5’48B6’27)、1948年ワルター/NYPO(ライブ、タイム@19’22A6’32B6’16)、1949年スタインバーグ/ハリウッド・ボールSO(タイム@20’04A6’32B6’23)、1953年セル/NYPO(ライブ、トータルタイム31’29)等があり第1楽章のタイムを見てもトスカニーニペースがやっぱり本盤で明白なのかも・・・。次にブラームス・ピアノ協奏曲第2番の方ですがこちらは1940年の収録(タイム@16’17A8’06B11’05C8’26)で音質も仕方ないレベルと割り切って演奏そのものに焦点を合わせましょう。この曲は協奏曲とは言え四楽章形式で交響曲並みの大作で先ず第1楽章出だしのホルンスタートが印象の取っ掛かりをつける様です。本演奏はやや明るめトーンでトスカニーニらしくスリムでそっけない感じです・・・そしてタイムでも分る様に片付けムードでゴツゴツ感を帯びて展開して行きます。この曲は迫力だけで進む場面が少なく正直もうちょっと感傷的というか・・・特に作曲家のイタリア風土印象も盛り込んだ曲だけに+αのソフトな面も見せて欲しいとは思いました。曲の性格上ピアノの方はそんなに技巧を誇示する事なくその代わりというかホロヴィッツのカンタピーレタッチの美しさの真骨頂が聞かれます。従って第3楽章は例のチェロ序奏が示唆に富むしっとりした感じの楽章でもあってピアノは比較的情緒纏綿とはしていましょう。最終楽章はちょっと作品として軽い処がバランス上躊躇を覚えるのですが演奏でも何か丁々発止というわけにも行かず異質感が付きまといました・・・思い切ってイタリア的な「遊び」が更にあったら・・・。とにかくチャイコフスキーでの感激がそのままというわけには行きませんでした。なお、ホロヴィッツ、トスカニーニ共演によるこの曲には1946年の収録(タイム@16’16A8’12B10’40C8’36)もある様ですね。なお、私の聴いた盤のジャケットに載っていた写真で少しはにかんだ娘婿である若きホロヴィッツを義父トスカニーニが腕組みしている微笑ましい姿はいいですね・・・父親というのは誰も同じなのかな・・・この二人演奏上での意見の違いは別として。(タイムについては盤により多少異なる場合があります。)