CD 輸入盤

オットー・クレンペラー/ワーナー・クラシックス・リマスター・エディション 2〜オペラ、宗教的作品録音全集(29CD)

基本情報

ジャンル
:
カタログNo
:
5419752899
組み枚数
:
29
レーベル
:
:
Europe
フォーマット
:
CD
その他
:
輸入盤

商品説明


オットー・クレンペラー/ワーナー・クラシックス・リマスター・エディション2
オペラ&宗教的作品録音全集


巨匠指揮者オットー・クレンペラー没50年。ワーナー・クラシックスのカタログに収録されている彼の完全な録音全集を、オリジナル・マスターテープより2023年「24bit/192kHz」リマスター音源(一部除く)による2つのボックスとして発売。これはその第2弾『オペラ&宗教的作品録音全集』です。先行して発売された『シンフォニック作品&協奏曲作品録音全集』(95CD)に続き、この『オペラ&宗教的作品録音全集』ボックスを合わせて『オットー クレンペラー/ワーナー・クラシックス・リマスター・エディション』の全体が形成されます。これは、偉大なるクレンペラーのワーナー・クラシックスが現在権利を持つカタログの全てです。
 元々は 旧EMI コロンビア、HMV、エレクトローラ、パーロフォンのために録音されたものです、今回の『オペラ&宗教的作品録音全集』では、『魔笛』と『さまよえるオランダ人』は2017年にアビー・ロード・スタジオにおける十分なリマスターが行われたため、またドキュメンタリー・サウンド、リハーサルなどは除き、オリジナル・マスターテープ、または入手可能な最良のソースから、2023年「Art & Son Studio」において新たに24bit/192kHzでリマスターされたもので、バッハ、ベートーヴェン、ブラームス、ヘンデルの宗教的作品に、ベートーヴェン、モーツァルト、ワーグナーのオペラを収録しています。オットー・クレンペラーは、オペラの演劇性とオラトリオの精神性の両方を深く愛しており、彼が生涯をかけてこのレパートリーについて考え、経験した成果となっています。
 モーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』録音のリハーサル、クレンペラーのオペラ公演で歌ったアーティストの回想録などを収録したCD(ディスク16、29)も収録。(輸入元情報)


【収録情報】
Disc1-3
● J.Sバッハ:マタイ受難曲 BWV.244


 ピーター・ピアーズ(テノール/福音史家)
 ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(バリトン/イエス)
 エリーザベト・シュヴァルツコップ(ソプラノ)
 クリスタ・ルートヴィヒ(アルト)
 ヘレン・ワッツ(アルト/侍女1、目撃者1)
 ニコライ・ゲッダ(テノール)
 ヴァルター・ベリー(バス/ペテロ)
 ジョン・キャロル・ケース(バリトン/ユダ)
 オタカール・クラウス(バリトン/大司祭、ピラト、司祭1)
 ヘザー・ハーパー(ソプラノ/侍女1)
 ジェレイント・エヴァンス(バリトン/司祭2)
 ウィルフレッド・ブラウン(テノール/目撃者2)
 ハンプステッド教会少年合唱団
 フィルハーモニア管弦楽団&合唱団
 オットー・クレンペラー
(指揮)

 録音:21,25,26.XI.1960, 3-4.I,14-15.IV,10-12.V & 28.XI.1961, Kingsway Hall, London
 Newly remastered in 192kHz/24-bit from original tapes by Art & Son Studio, Annecy

演奏時間トータル223分。異様なまでの重さと巨大なスケールで圧倒する『マタイ受難曲』。そこではさまざまなパートが強い存在感を示しており、直情的な表現は無いにも関わらず、キリストの受難の物語を巡る慟哭・憧憬・達観といった複雑で多様な要素のそれぞれが聴き手の胸に深く迫ってきます。
 第1部第1曲や第1部終曲では緊張の持続に驚かされますが、同じ遅いテンポでもエンディング近くのバスの名アリア「Mache dich, mein Herze」では包容力に満ちたやさしさを感じさせるのが印象的。>
 この『マタイ』は、メンゲルベルクやフルトヴェングラーなど往年の情緒的な演奏とはだいぶタイプが異なるとはいえ、近年常識化した軽快なピリオド様式とはさらに大きくスタイルが異なっており、どちらかというとマーラーやブルックナーなど後期ロマン派以降の音楽がお好きな方に受け入れられやすいものと思われます。この解釈方針を受容することさえできれば、感動の深さはまさに圧倒的です。(HMV)
Disc4
● ブラームス:ドイツ・レクィエム Op.45


 エリーザベト・シュヴァルツコップ(ソプラノ)
 ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(バリトン)
 フィルハーモニア管弦楽団&合唱団
 オットー・クレンペラー
(指揮)

 録音:2.I,21,23 & 25.III,26.IV and 4-6 & 8.V.1961, Kingsway Hall, London
 Newly remastered in 192kHz/24-bit from original tapes by Art & Son Studio, Annecy

クレンペラーは声楽大作も得意にしていましたが、そのアプローチは交響曲のときと基本的に同じで、晩年のものなどではときに肺が心配になるような演奏もおこなっていました。しかしこのドイツ・レクィエムではテンポはまっとうであり、各フレーズへの厳格な対応、形の維持によって、フーガの見事なさばきかた、及び拍節感の強い抽出は印象的な演奏に仕上がっており、全体構成のシンメトリーなど様式美も感じられ、ブラームスらしいシリアスな感触に満ちているのがポイントとなっています。(HMV)
Disc5
● J.Sバッハ:ミサ曲 ロ短調 BWV.232〜合唱曲集
(リハーサル付)

 フィルハーモニア管弦楽団&合唱団
 オットー・クレンペラー
(指揮)

 録音:4-9.XII.1961, Kingsway Hall, London
 Newly remastered in 192kHz/24-bit from original tapes by Art & Son Studio, Annecy
 リハーサル部分:Remastered 1999 by Testament

レコーディング・セッションの中断により、長くお蔵入りになっていたロ短調ミサの合唱曲部分。経歴の初期からバッハを得意としていたクレンペラーだけに、演奏は素晴らしいもので、人数形態の差異(ベルリン時代は合唱が250名、当セッションでは68名、67年盤では48名)を除けば解釈は一貫しており、ここでも実に緊張感の強い、圧倒的な演奏が実現されています。(HMV)
Disc6-7
● ベートーヴェン:歌劇『フィデリオ』全曲


 レオノーレ/クリスタ・ルートヴィヒ
 フロレスタン/ジョン・ヴィッカーズ
 ドン・ピツァロ/ヴァルター・ベリー
 ロッコ/ゴットロープ・フリック
 マルツェリーネ/インゲボルク・ハルシュタイン
 ヤキーノ/ゲルハルト・ウンガー
 ドン・フェルナンド/フランツ・クラス
 第1の囚人/クルト・ヴェーオフシッツ
 第2の囚人/レイモンド・ウォランスキー
 フィルハーモニア管弦楽団&合唱団
 オットー・クレンペラー
(指揮)

 録音:6-10,12-15,17,19.II. & 7.III.1962, Kingsway Hall & No.1 Studio,Abbey Road, London
 Newly remastered in 192kHz/24-bit from original tapes by Art & Son Studio, Annecy

この“フィデリオ”という作品が、オペラというにはあまりにも生真面目な性格を有するものであり、どこをとってもシリアスな雰囲気があふれかえっている点では、クレンペラーの演奏はまさに“フィデリオ的”です。
 その“荘厳ミサ”にも一脈通じる、深く立体的な音楽づくりは、この指揮者の独壇場と言って差し支えないものであり、ジングシュピール・イコール・素朴な田舎芝居などという価値観に依拠しない態度はとにかく立派。
 ルートヴィヒの歌唱も暗めの声質が演奏全体の雰囲気によく合致した素晴らしいもので、凛とした色合いは実に魅力的です。(HMV)
Disc8-9
● ヘンデル:オラトリオ『メサイア』 HWV.56


 エリーザベト・シュヴァルツコップ(ソプラノ)
 グレース・ホフマン(アルト)
 ニコライ・ゲッダ(テノール)
 ジェローム・ハインズ(バス)
 フィルハーモニア管弦楽団&合唱団
 オットー・クレンペラー
(指揮)

 録音:24-25.II,9-14 & 16-19.III,20-22(Hines)and 28-29(Gedda)IX, 1-2 & 8-9.X(Chorus)and 2-3.XI(Hoffman)1964,Kingsway Hall, London
 Newly remastered in 192kHz/24-bit from original tapes by Art & Son Studio, Annecy

クレンペラーらしい遅いテンポによる『メサイア』。シンフォニアから実に悲劇的で、続く「Comfort ye」もほの暗い美しさが印象的。以後、テキストの流れに即した形で、雄大なスケールでキリストの誕生・苦悩・復活の物語が描かれて行きます。合唱指揮はバイロイトで名を馳せたヴィルヘルム・ピッツで、細部にとらわれず大きな流れを築き上げるクレンペラーの音楽作りに大きく貢献しています。(HMV)
Disc10-11
● モーツァルト:歌劇『魔笛』 K.620 全曲


 タミーノ/ニコライ・ゲッダ
 パミーナ/グンドゥラ・ヤノヴィッツ
 パパゲーノ/ヴァルター・ベリー
 夜の女王/ルチア・ポップ
 ザラストロ/ゴットロープ・フリック
 弁者、第2の武者、第2の僧侶/フランツ・クラス
 第1の侍女/エリーザベト・シュヴァルツコップ
 第2の侍女/クリスタ・ルートヴィヒ
 第3の侍女/マルガ・ヘフゲン
 パパゲーナ/ルート=マルグレット・ピュッツ
 モノスタトス、第1の僧侶/ゲルハルト・ウンガー
 第1の武者/カール・リープル
 第1の少年/アグネス・ギーベル
 第2の少年/アンナ・レイノルズ
 第3の少年/ジョゼフィン・ヴィージー
 フィルハーモニア管弦楽団&合唱団
 オットー・クレンペラー
(指揮)

 録音:24,26,31.III & 1-4,6-8,10.IV.1964, Kingsway Hall, London
 Remastered in 2016 in 96kHz/24-bit from original tapes by Abbey Road Studios

クレンペラーはここで、舞台の無いレコードではセリフは必要無いと、大胆に全部カットした結果、切れ目無くモーツァルトの音楽が連続することとなり、それぞれの曲が息抜きなしに聴き手に迫ってくるのが実に魅力的です。
 さらにそこで示されるクレンペラーのアプローチも見事なもので、ジングシュピールゆえ、通常コミカルに軽く演奏される“フムフム...”といった曲でさえ、美しい響きと複合的な構造を前面に打ち出して実にユニークな仕上がりをみせています。
 歌手陣も粒揃いで、共にデビュー間もなかったルチア・ポップの美しい夜の女王にヤノヴィッツの透明なパミーナ、こわいほどの威厳に満ちたフリックのザラストロにゲッダによる端正なタミーノ、ベリーの愉快なパパゲーノ等々。侍女にまでシュワルツコップ、ルートヴィヒ、ヘフゲンというほとんど冗談のような豪華なキャスティングはまさに超ド級。
 余談ながら、このようなキャスティングとヘヴィーな演奏により、近年の演出でときおりみられる“夜の女王側=善”、“ザラストロ側=悪”という雰囲気が濃厚に感じられるのもこの演奏の大きな特徴といえ、複雑で多層的な意味合いを持つ“魔笛”の様々な面に接したい聴き手にとっては、これ以上ない名演と言えるのではないでしょうか。音質も水準が高く、前述“フムフム...”はじめ立体的なクレンペラー・サウンドが心行くまで堪能できるのが嬉しいところです。(HMV)
Disc12
● ベートーヴェン:ミサ・ソレムニス Op.123


 エリザベート・ゼーダーシュトレーム(ソプラノ)
 マルガ・ヘフゲン(アルト)
 ヴァルデマール・クメント(テノール)
 マルッティ・タルヴェラ(バス)
 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団&合唱団
 オットー・クレンペラー
(指揮)

 録音:30.lX & 1,4-8,11-13.X.1965, Kingsway Hall, London
 Newly remastered in 192kHz/24-bit from original tapes by Art & Son Studio, Annecy

昔から『荘厳ミサ曲』の代表的演奏と言われ、仏ADFディスク大賞も受賞するなどしてきたクレンペラーのEMI盤。ヴァイオリン対向型の配置によるオーケストラの立体感あふれるサウンドと、合唱各部の存在感の確かさ、そしてソリストたちのシリアスな歌唱により、無用な感情移入を排した対位法表現の明晰な演奏が高いレベルで実現されています。
 特に複雑で規模の大きな「クレード」でのさばき方のうまさは無類で、明晰なリズムをベースに、情報量の非常に多い演奏を展開、各ブロックそれぞれが、純度の高い高揚と沈潜、耽美といったクレード(信条)ならではのめまぐるしい楽想の変転をみせ、それらを確信に満ちた力強さで表現していくさまが圧巻です。(HMV)
Disc13-15
● モーツァルト:歌劇『ドン・ジョヴァンニ』 K.527 全曲


 ドン・ジョヴァンニ/ニコライ・ギャウロフ
 レポレッロ/ヴァルター・ベリー
 ドンナ・エルヴィラ/クリスタ・ルートヴィヒ
 ドンナ・アンナ/クレア・ワトソン
 ドン・オッターヴィオ/ニコライ・ゲッダ
 ツェルリーナ/ミレッラ・フレーニ
 マゼット/パオロ・モンタルソロ
 騎士長/フランツ・クラス
 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団&合唱団
 オットー・クレンペラー
(指揮)

 録音:15,17-19,22-25,27-30.VI. & 3-4.VII.1966, No.1 Studio, Abbey Road, London
 Newly remastered in 192kHz/24-bit from original tapes by Art & Son Studio, Annecy

大きめの編成のオーケストラによる緊迫した響きと、悠然としたテンポ設定により、厳粛な要素と邪悪な要素、そして善良な要素の対立が前面にたち現れたユニークな演奏。
 現在ではコミカルな要素と厳粛な要素のコントラストが重視され、軽快に演奏されることの多いこの作品ですが、お気楽な表現にあまり関心が無かった(できなかった?)クレンペラーにとっては、優雅さや透明感は重視しても、滑稽さを大事にするということは関心の外だったようです。
 それよりもクレンペラーが重視したのは、以下の自身の言葉にも明らかなように「モラル」という言葉の孕む意味あいの多様さについて、モーツァルト自身が作品のフィナーレで投げかけたような深い捉え方をすることにあったものと思われます。
 「この結尾部を削除すべきか演奏すべきか。作曲者自身ですら、1788年ウィーンにおける上演では、ドン・ジョヴァンニが地獄堕ちしたところで締めくくったのである。グスタフ・マーラーも同じことをした。しかし、モーツァルトはこの結尾部で。鋭い、ほとんど皮肉なまでの光を社会のモラルに当てることによって、この問題にはっきりした解決を与えていると、私には思われるのだ。」
 最後が地獄落ちでは単なる勧善懲悪ドラマになりかねませんし、かといって作品全体をあまりに軽く演奏すれば、巷の井戸端ネタまがいにも見えてしまうというもので、クレンペラーがここで狙ったのはあくまでも「ドン・ジョヴァンニは本当に悪いのだろうか」といったような、ある社会の中で形成されたモラルというものに対する問いかけのようなものだったのではないかと思われます。
 自分自身について皮肉に「私はインモラルな人間である」と語り、改宗を2度おこない、また、政治やその理念についても深い関心を抱いていたクレンペラーにとって、帰属社会と帰属階層による価値観の相違の問題を扱ったとも見える『ドン・ジョヴァンニ』というオペラの持つ魅力は非常に意味深いものだったのでしょうか。(HMV)
Disc16:『サウンド・ドキュメンタリー』
● クレンペラーの『ドン・ジョヴァンニ』の舞台裏(BEHIND THE SCENES)


1966年のレコーディング・セッションの際のリハーサル音源をはじめ、録音したばかりの演奏をプレイバックしながら、クレンペラーとフレーニ、プロデューサーのピーター・アンドリーらが会話する様子を含む音源などを収録。クレンペラーによる『ドン・ジョヴァンニ』制作過程の一端に触れることができるきわめて貴重な資料ともなっています。このテープは、アビー・ロード・スタジオのエンジニアであったアラン・ラムゼイが新たに発見したもので、その音源を元に、ジョン・トランスキーが監修したもの。音声:モノラル(輸入元情報)
Disc17-18
● J.Sバッハ:ミサ曲ロ短調 BWV.232


 アグネス・ギーベル(ソプラノ)
 ジャネット・ベイカー(メゾ・ソプラノ)
 ニコライ・ゲッダ(テノール)
 ヘルマン・プライ(バリトン)
 フランツ・クラス(バス)
 BBC合唱団
 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
 オットー・クレンペラー
(指揮)

 録音:18-20,23-26,30-31.X & 6-7,9-10.Xl.1967, Kingsway Hall, London
 Newly remastered in 192kHz/24-bit from original tapes by Art & Son Studio, Annecy

クレンペラーは20世紀初頭からバッハをよくとりあげており、当時の古楽研究の進歩や演奏スタイルの変遷と共に、自身の解釈にも変化を加えるなど柔軟な対応をみせてもいました。ロ短調ミサについても、戦前のベルリン時代は合唱が250名、1961年の合唱曲集録音では68名、この1967年全曲盤では48名と次第に少なくなっていました。
 しかし演奏スタイルそのものはクレンペラーならではのもので一貫しており、ひたすら厳しく深刻で、しかも美しいというまさに巨大なモニュメントのような演奏は独特。一時流行した素朴で軽快なピリオド・アプローチとは正反対ともいえますが、近年はそのピリオド・スタイルも多様化してきており、テンポは遅いものの、情緒志向では全くないクレンペラーのスタイルには、もしかするとそれほど違和感はないといえるかもしれません。 実際、クレンペラー自身がお気に入りだったと言う「キリエ」や、最後の「ドナ・ノービス・パーチェム」での高揚の凄まじさ、感動の深さに接すると、流儀の違いなどどうでも良いとさえ思えてきます。(HMV)
Disc19-20
● ワーグナー:『さまよえるオランダ人』全曲


 オランダ人/テオ・アダム
 ゼンタ/アニヤ・シリア
 ダーラント/マルッティ・タルヴェラ
 エリック/エルンスト・コツープ
 マリー/アンネリーゼ・ブルマイスター
 舵手/ゲルハルト・ウンガー、他
 BBC合唱団
 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
 オットー・クレンペラー
(指揮)

 録音:19-24,27 & 28.II. 8-11,13 & 14.III.1968, Studio No.1, Abbey Road, London
 Remastered in 2017 in 96kHz/24-bit from original tapes by Abbey Road Studios

【巨大で悲劇的な名演】
1968年ステレオ録音。クレンペラーの『オランダ人』は、暗黒の力に満ちた独特のドラマ構築に特徴があり、気楽さや救済といった要素はあまり顧みられません(実際に救済のモティーフはカットされています)。
悲劇的色彩が持続低音のように機能するここでのアプローチは、ワーグナーの音楽が備えるエネルギーの凄みをあらためて聴き手に刻印する説得力が感じられ、当時20代ながら破天荒なスケールの歌を聴かせるアニア・シリアと、クレンペラー・テンポを完全に理解して深みある歌を聴かせるテオ・アダムの絶唱もあってインパクトの強さは絶大です。

【万全の準備】
1967年。クレンペラーでワーグナーのオペラを録音できるチャンスは残り少ないと感じていたEMIのチーフ・プロデューサー、ピーター・アンドリー(ウォルター・レッグの後任)は『さまよえるオランダ人』を提案し、乗り気になったクレンペラーは、バイロイトを訪れ歌手を物色します。そこでドホナーニ指揮する『タンホイザー』でエリーザベトを歌っていたアニヤ・シリアに一目惚れし、アンドリーに次のように書き送りました。
「彼女は音楽的にも演劇的にも飛び抜けている。間違いなく天才だ。彼女が『オランダ人』の録音とコンサートに参加出来るよう、ありとあらゆる手を尽くさねばならない。他の歌手にゼンタを歌わせるなんて、黒を白だと言い張るようなものだ!」

【リハーサルとセッション】
かくしてシリアは歴史的名盤の録音セッションに参加することになりましたが、セッション中のクレンペラーを振り返って「真剣なときは私が女であることさえ忘れてしまったように厳しかった」と語っています。オランダ人とゼンタのデュエットはなんと6回も録り直されたのだそう。しかしその理由は「マエストロは何度も、どこかを踏んずけたりぶつかったりして大きな騒音をたてるんですもの!」
リハーサル中は厳しかったクレンペラーも、それ以外の時間は終始ご機嫌で、シリアやスタッフを笑わせていました。そしてまた、リハーサルを見学に来たジョージ・セルとのエピソードも残っています。クレンペラーは70歳のセルに“ヤング・マン”と呼びかけ(セルはクレンペラーの12歳年下)、シリアを「俺の婚約者だ。」と紹介するなど愛想よく対応しています。しかし、普段は絶対あり得ないのに、リハーサル全編を立ったまま指揮するなど、クレンペラーがいかにこの年下の指揮者を意識していたかも同時に伺い知れます(ちなみにセルはこの8ヶ月後にニュー・フィルハーモニア管に客演し、ベートーヴェンの8番と9番の見事な演奏をおこなっています)。

【クレンペラー独自のワーグナー】
クレンペラーのへヴィーな『オランダ人』には、サヴァリッシュの快速な『オランダ人』とはまったく違った世界があります。当時、バイロイトに蔓延していた度を越してドイツ的な音楽作りを刷新したいと考えていたヴィーラント・ワーグナーは、サヴァリッシュやクラウスのすっきりしたスタイルを熱狂的に支持していました。サヴァリッシュに比べると、クレンペラーのワーグナーは対極といえるものですが、ヴィーラントはクレンペラーのワーグナーも称えており、『トリスタン』を指揮するよう要請したり、EMIの管弦楽作品集には讃辞を呈したりもしていました。それに、ヴィーラントが提唱した新バイロイト様式の演出の元祖とも言える前衛的なワーグナー演出が、クレンペラーによって、ベルリンで行われていたことも忘れてはならないでしょう。

ヴィーラントはクレンペラーについてこう述べています。
「彼が他に全く類のない独特な指揮者である所以は、古典的ギリシャ、ユダヤの伝統、中世のキリスト教精神、ドイツのロマンティシズム、現代のリアリズムといったものの混在にある。」

シリアは語ります。
「ええ、クレンペラーのやり方は、私のそれまでのやり方とは全く違いました。でも、私は今でも感じるのです。クレンペラーの音楽作りがわたしは一番好きだったと。彼の音楽には、何か‘実質’がありました。」(HMV)
Disc21-22
ワーグナー:
1. 『ワルキューレ』第1幕
2. 『ワルキューレ』第3幕〜『ヴォータンの別れ』と『魔の炎の音楽』
3. ヴェーゼンドンク歌曲集
4. 『トリスタンとイゾルデ』〜『イゾルデの愛の死』
5. ジークフリート牧歌


 ジークリンデ/ヘルガ・デルネシュ(ソプラノ:1)
 ジークムント/ウィリアム・コクラン(テノール:1)
 フンディング/ハンス・ゾーティン(バス:1)
 ヴォータン/ノーマン・ベイリー(バリトン:2)
 クリスタ・ルートヴィヒ(メゾ・ソプラノ:3,4)
 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団(1,2)
 フィルハーモニア管弦楽団(3-5)
 オットー・クレンペラー(指揮)

 録音:24,26-27.X.1970, All Saints' Church,Tooting, London(1-3); 10.III.1960(4), 21-23.III.1962(5-10), Kingsway Hall, London
 Newly remastered in 192kHz/24-bit from original tapes by Art & Son Studio, Annecy

『ワルキューレ』第1幕全曲は最晩年の演奏で、生き物のように重々しくコントラバスがうごめく冒頭を聴くと、マーラーの復活がこの曲からかなり直接的な影響を受けたのではないかとさえ思えてきますが、それもここでのクレンペラーの極端なアプローチがあればこそ。
その異様なまでのグロテスクな迫力には驚かされますが、本編に入ってからもオーケストラは常に意味深く雄弁に響き渡り、ワーグナーのオーケストレーションのおもしろさを強調するクレンペラーのアプローチには実に感銘深いものがあります。
「ヴォータンの告別」はクレンペラー・ファンには大人気の名演奏で、ノーマン・ベイリーの歌唱を包み込むオーケストラの素晴らしさはちょっとほかでは聴けないものです。
クリスタ・ルートヴィヒのほの暗い声が作品の雰囲気によく合う「イゾルデの愛の死」と、『ヴェーゼンドンク歌曲集』も美しい仕上がりです。(HMV)
Disc23-25
● モーツァルト:歌劇『フィガロの結婚』 K.492 全曲


 アルマヴィーア伯爵/ガブリエル・バキエ
 伯爵夫人/エリザベート・ゼーターシュトレーム
 フィガロ/ジェレイント・エヴァンス
 スザンナ/レリ・グリスト
 ケルビーノ/テレサ・ベルガンサ
 マルチェリーナ/アンネリース・ブルマイスター
 ドン・バジリオ/ヴェルナー・ホルヴェーク
 ドン・クルツィオ/ヴィリー・ブロックマイアー
 バルトロ/マイケル・ラングドン
 バルバリーナ/マーガレット・プライス
 アントニオ/クリフォード・グラント
 2人の少女/テレサ・カーヒル、キリ・テ・カナワ
 ジョン・オールディス合唱団
 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
 オットー・クレンペラー
(指揮)

 録音:8,10-13,15,16,19-22,25,26,29-31.I.1970, No.1 Studio, Abbey Road, London
 Newly remastered in 192kHz/24-bit from original tapes by Art & Son Studio, Annecy

クレンペラー晩年の「遅さ」が、なにかと話題になる演奏ですが、トータル・タイムは189分なのでそれほど極端に遅いというわけではありません。
 遅く感じる理由のひとつが「フィガロ序曲=エネルギッシュ」というイメージなのかもしれませんが、ここではその序曲ですら細部の音形にいたるまで克明に再現されており、続く本編も同様に情報量の多いアプローチになっているために、一種独特の魅力的な停滞感が生まれているのが特徴的です。美術館で美しい絵画の前からなかなか離れられないような停滞感と言い換えることができるかも知れません。
 なにしろここでは、通常元気に演奏されるケルビーノのアリアまでオーケストラに耳を奪われるほどの美しさで演奏されており、その高雅で澄み切った音楽からは、モーツァルトの天才ぶりがダイレクトに伝わっています。
 通常のイメージからは大きくかけ離れた、全情報開示型のきわめてユニークな『フィガロの結婚』ですが、これに慣れてしまうと、ほかの演奏が舌足らずに思えてしまったりするから不思議。クレンペラー好きなら一度は聞いておきたい素晴らしい演奏です。(HMV)
Disc26-28
● モーツァルト:歌劇『コジ・ファン・トゥッテ』 K.588 全曲


 フィオルディリージ/マーガレット・プライス
 ドラベッラ/イヴォンヌ・ミントン
 フェランド/ルイジ・アルヴァ
 グリエルモ/ジェレイント・エヴァンス
 デスピーナ/ルチア・ポップ
 ドン・アルフォンソ/ハンス・ゾーティン
 ジョン・オールディス合唱団
 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
 オットー・クレンペラー
(指揮)

 録音:25,27-30.I & 3-4,6,8-10,12-13,15-18.II.1971, Kingsway Hall, London
 Newly remastered in 192kHz/24-bit from original tapes by Art & Son Studio, Annecy

クレンペラー最晩年のセッション録音。有名なマーラーの7番を思わせる解剖的なアプローチですが、この作品の場合、モーツァルトの天才ぶりを改めて感じさせてくれるかのような魅力的な演奏に仕上がっているのが注目されるところです。
 『コジ・ファン・トゥッテ』といえば、コントのような部分も含むコミカルな台本ということもあり、軽快な喜劇として扱われることが多いのですが、クレンペラーはダ・ポンテの台本にも、見方によっては深遠な意味があるとし、モーツァルトの書いた音楽については、彼の創作の中でも特別の地位を占めるものと賞賛していました。
 実際、ここでクレンペラーは、重唱が数多く配され、賑やかで少々雑然とした雰囲気を持つ音楽から、驚くほど明晰で情報量の多い音楽を引き出しており、元気で素朴な喜劇という側面は消失してしまったものの、代わりに随所に美しい瞬間が立ち現れることとなっています。
 澄んだ高域が印象的で、後にクライバーやチェリビダッケにも重用されることとなるマーガレット・プライスのフィオルディリージ役に、ショルティの『ばらの騎士』や『大地の歌』で優れた歌唱を聴かせていたイヴォンヌ・ミントンのドラベッラ役、レッジェーロな美声で人気を博したルイジ・アルヴァのフェランド役、コミカルな歌唱には定評のあったジェレイント・エヴァンスのグリエルモ役、後年バイロイトで大活躍することとなるハンス・ゾーティンによる哲学者ドン・アルフォンソ役、そしてルチア・ポップによる可憐なデスピーナ役と、歌手陣もきわめて高水準。(HMV)
Disc29:『サウンド・ドキュメンタリー』
● AN OPERA SOUVENIR

 出演:ジョン・ドブソン(テノール)、ニコライ・ゲッダ(テノール)、
 ヴィクター・ゴッドフリー(バリトン)、アンソニー・タンストール(ロイヤル・オペラ首席ホルン奏者)
 Siva Oke(元EMIアシスタント・プロデューサー)

このドキュメンタリーのインタビューは、ジョン・トランスキーによって1996年から2022年にかけてロンドンで録音されたものです。ジョン・ドブソンとヴィクター・ゴッドフリーの解説の一部は、2013年に公開されたEMIのドキュメンタリー「オットー・クレンペラー/伝記的回想録」に含まれていましたが、そこには収録されなかったオリジナルのインタビューからの抜粋が収録されています。(輸入元情報)


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