「モテット全集」「バラード集」と続いたEnsemble Musica NovaのGillaume De Machautプロジェクトの、おそらく締めくくりのCDと思われ、Machautの「ノートル・ダム・ミサ」を中心に、同時代作曲家のモテットを併録、最後をMachautの死を悼む二重バラードで終えるという構成。これまで14世紀の作品としては、異例な程に録音に恵まれてきた「ノートル・ダム・ミサ」ですが、Kandel/Musica Novaの演奏はこれまでのいずれとも異なります。有名なA.Dellerの録音以来、どちらかと言えば早めのテンポできびきびと演奏されることが多かったのですが、Musica Novaは器楽を加えず声楽のみで押していくにもかかわらず、遅めのテンポでしかもラテン語の発音、反復の際の微妙なニュアンスを意図しながら、あくまで美しくじっくりと歌い上げて行きます。その精緻なこと、緊張感の高いこと、細部の変化の変幻自在なことでは、同じ声楽のみによるHilliard Ensembleの名演奏をすら確実に超えています。Kyrie,Sanctusなどのイソリズムによる部分はもちろんですが、Gloria,Credoのコンドクトゥス部分はこれまでの録音では軽快にあっさりと過ぎるのが普通なのに、Musica Novaの演奏は一歩一歩ニュアンスを克明に描いて、同じ曲を聴いてると思えない程です。同時代のアルス・ノヴァ・モテット他も、この錯綜とした難曲群にして考えられないくらいに美しく精緻であり、David Munrow以来の名演の一つではないでしょうか。現在のEnsemble Musica Novaの恐るべき実力が十分に発揮された名演奏で、疑いなく数ある「ノートル・ダム・ミサ」の録音の最上位に位置づけられる名盤と考えられます。