ベームに対し、堅固で純ドイツ的な音楽をやる指揮者というイメージを持ちやすい。勿論、それには異論ない。だが、スタジオ録音のときにやや型に嵌まりがちなベームの姿は、ライヴには見られない。ライヴのベームからは、あくまで堅固な土台が築かれつつ、思い切り生き生きと、まるで音楽が今まさにその場で形成されていくような雰囲気が感じられる。
とにかく、音楽に流動性がある。特にブラームスの終楽章で顕著だ。別に、殊更早い訳ではない、中庸を得たテンポではある。だが、常に次に来る音が前の音に喰いついているようなのだ。結果、音楽が前のめり気味になる。そこに、単なる拍子とは別の、何か野性的な脈動の存在を感じるのである。
相手がお決まりのウィーン・フィルではなく、客演先のバイエルン放送響であることも、ベームのライヴ感に拍車をかける。ベームの指揮にこなれている訳ではないが、抜群の機動性を、このオケは持っている。だから、ベームの前のめり気味の指揮に、いい意味で煽られ、結果、燃えるような演奏をしているのだ。
グルダはクレバーな才能の持ち主である。だが、ベームが些か真面目なのか。グルダならば、もっとエキセントリックな演奏も出来たはずである。しかし、型破りに過ぎてしまうのを、ベームがきっちりと押さえているのは面白い。そして、ベームが作る枠組みの中でも、出来るかぎりの自由度の発揮を試みるグルダ。両者の丁々発止のやりとりが面白い。
音質は、69年の放送音源にしてはかなり優秀である。もっとも、オルフェオの悪癖たる低音の弱さをやや感じるが、十分に補正可能なレベルである。音揺れや歪みも無く、安定している。
総じて、素晴らしい実演の記録と言えよう。