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Review List of てつ 

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     2024/10/25

    逆説的に、晩年のピアノ曲集から聴いた。私からしたら、レヴィットは「何をしたいのだろう?」としか思えなかった。ソニークラシカルから、ティーレマンとウィーンフィルとのブラームスピアノ協奏曲全集と晩年のあの珠玉のピアノ曲集をリリース出来るなんて、世のピアニストからしたら、望んでもできないレベルの話であり、それこそ全身全霊レベルのことなのに。あと、ティーレマンにも一言言いたい。あなたはこの2曲については、世のすべての指揮者よりよく知っているはずなのに。もっと突き詰めて欲しい。これではシフに遅れを取りますよ。私はこのディスクを聴いて、昔の宇野某先生みたいに「メジャーレーベルの推し」をバッサリ切る気持ちになった。でも、レヴィットを実演で聴いていないので、断定は避けたい。

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     2024/10/11

    今回の録音でピションは何を目指すのか、非常に興味があった。彼自身のマタイやモンテヴェルディのような清冽さなのか、はたまたサヴァールのようなシニカルさか、いずれにしても、良い意味で「軽やか」と思っていた、が、その予想は綺麗に外れた。ピションは彼の美質である清らかさをベースにしながら、まさに「レクイエム」という死者を悼み鎮魂する「重さ」を出してきたのだ。これは参った。清らかで真摯な祈りほど人の気持ちを打つものはない。冒頭から気持ちを込めたフレージングの連続。もちろん、合唱の精度、音量コントロールとも抜群である。最初のイン・ファンの独唱など、聴くだけで胸に迫る。キリエもテンポは早目だが、その切迫感が、何とも悼みの気持ちを伝えてくる。ディエス・イレも同じ。そして、間違いなく、このピションのこの曲への最大の共感は「ラクリモサ」にある。このラクリモサの凄さは是非聴いてみて頂きたいと切に願う。音に生気を与え、テンポを縦横無尽に駆使し、静謐な中に敬虔さ、荘厳さを音化したピションに心からの賛辞を送りたい。

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     2024/10/11

    ケラスも今年で57歳である。57歳にして二度目のバッハ全曲録音。ケラスには再録音の必然性があったのだろう。それは何かと推測するに・・元々ケラスは均質な音作りで、かつ良い意味で軽やかに演奏する奏者で、旧盤(2007)もその路線だった。今年実演を聴いたが、その傾向は変わらず、でも流す感じは一切しない真摯さが信条と思った。その中での今回の新盤、やはり彼の美質をそのまま受け継ぎ、ますます良い意味での端正さと軽やかさが増した。力むところなどない。まさに自然体のバッハである。特に6番の冒頭を聞けば、ケラスの目指すところがわかると思う。端正と自由さの両立が今回の新録音の特徴だろう。ただし、フランスの奏者のような洒脱なところはないし、そんなものは元来ケラス自身が目指していない。

    多分ケラスは、旧録音の頃に比して、自分の進化がわかったのだろう。旧盤も新盤もともにharmonia mundiからのリリースである。ケラス自身が再録音を頼んだのか、プロデューサーの意向なのかは分からないが、ここには間違いなく、ケラスが望み、研鑽し、成し遂げたものがある。また旧盤に比して、録音が相当良くなっており、これがまたケラスの意図をしっかり伝えてくれる。

    ある意味HIPスタイルを取り入れているのは間違いないが、この伸びやかさ、自由さは他の演奏とは一線を画している。それ故に、心が洗われる気がする。ケラスの音は天上に伸びていくような、そんな気すらする。

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     2024/09/14

    先日の我が祖国に続き、またビシュコフとチェコフィルが名盤を生み出した。この録音直後にこのコンビは日本公演を行い、この3曲が演奏された。私は8番と9番を聴いたがそれは素晴らしかった。ワールドクラスのオケは金管が上手いが、チェコフィルも凄かった。8番4楽章冒頭のトランペットなど、オクターブで一切の乱れなく、ファンファーレの最後に向かって音を柔らかくするという高等技術を披露したが、それはこのディスクでも聴ける。とにかく、聴いていて安心できる。またビシュコフの指揮も素晴らしい。基本的にはインテンポなのだが、聴かせどころだけちょっとルバートかけるのが効果的だし、各声部のボリュームコントロールが絶妙なので、音楽が明確であり、かつ推進力を失わない。単に「聴かせる」だけの演奏ではない。スコアを徹底的に分析して、チェコフィルの共感を引き出している。ビシュコフは名指揮者だと思い知った。3曲とも名演だが、特に7番は手放しで名演だと言えるディスクが従来なかったので、この演奏がスタンダードと言って差し支えないほどの出来。終楽章353小節は慣習通りホルンに提示部同様のパッセージをオクターブ上で吹かせている。またこの楽章の終わらせ方も見事である。
    第8番はじっくり聴かせる姿勢が堪らない。また聴かせどころ、ツボはしっかり押さえているので、聴いていて自然と笑みが溢れてくる。9番は端正。でも、8番同様タメが効いており、快演。2楽章冒頭の金管コラールなどは他の演奏に比しても絶美である。また終楽章の力感も素晴らしい。
    また序曲『自然と生命と愛』が併録されているのもとても嬉しい。これら3曲は8番と9番の間に書かれており、まさに橋渡しである。ただ、3曲通じて聴くと、謝肉祭だけ人気が高い理由も良くわかる^^

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     2024/08/16

    このディスクはマケラの現在地をよく映し出している。やはりマケラの美点はゆったり目のテンポで、過不足なく鳴らすこと。5番を聞けば、鳴らしどころを知っているというか、ある意味余裕さえ感じられる。一方で、この所のマケラに対する不満は何か、ということもこのディスクで私なりに分かった。マケラは、リズム処理が弱い。要はキレがない。例えば4番の冒頭など、マケラは鳴らしているけど、どこか緩い。ここで危機感というか切迫感が感じられないとちょっと辛い。そうだ、春の祭典でもこのキレがないのが不満だったのだ。私見だが、リズム処理が弱いと、譜読みが甘くなる。今は例の事件でしばらく謹慎中のロトなどはこの点が良いのだ。また4番が好きな方は皆1楽章のプレスト・フーガに拘りがあるだろうが、ここでもマケラは追い込みが足りなく聴こえる。何かが物足りない。ショスタコーヴィッチの焦燥感、作曲家としてもっと突き抜けたいという自己表現意欲、人間としての辛さ、苛立ち、それに抗う姿がこの楽章だと思うし、マケラも当然そんなことはわかっているはず。6番の終楽章でも、あのおちゃらけた音楽の奥にあるものを描かず、鳴らすだけ。それでもマケラは現実路線で、こういう表現をするのだろう。だから彼はオケをよく鳴らすことに長けている。でも、これで良いのなぁ・・。この路線は悪くはないけど、それこそマケラに「このままで良いのか」という焦燥感はないのだろうか?ベルリンフィルへの客演もあまり評判良くなかったみたいだし・・ますます心配になってきた。まぁ、私は、知り合いが有名になると、やたら心配したがる近所のおじさんみたいなものだけど。この心配が杞憂に終わることを祈りたい。

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     2024/07/19

    ジャニーヌ・ヤンセンは、とりわけ美音のヴァイオリニストではないが、鳴りっぷりがよく、なんというか「ハズレのない」奏者だと思う。チャイコフスキーの協奏曲実演も聴いたが、熱演が観客に伝わる、そう言うタイプで、第一楽章が終わったら観客から自然と拍手が起こった。このディスクでもそう言う彼女の良さは遺憾なく発揮されている。シベリウスではダブルストップも端正だし、無茶はしない分、安心して聴ける。その分民族性とか北欧の香りは薄いが、ヤンセンにそれを求めるのは違うと思う。またプロコフィエフはより一層曲自体がヤンセンの美質に近いので、これまた堪能できる。

    でも、このディスク問題がないわけじゃない。最近マケラに対する風当たりは強くなってきた。私もシベリウスは良かったが、パリ管との2枚とこのディスクは、なんと言うか鳴らすだけで、目指すところがわからない、と言う感想を持った。と言うことでヤンセンの鳴りっぷりは良いが、マケラもそれに乗っかって明るくやや脳天気な伴奏であり、BGMっぽいディスクとなった。当然それは良いこととは言えない、と私は思う。マケラは早くも正念場を迎えた気がする。

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     2024/07/14

    これは名盤だ。曲ごとの描き分けが見事である。基本的にはベートーヴェンの全集同様、HIPを取り入れ、セガンなりの譜読みを合体させた演奏。まず第1番だが、冒頭聴くだけで、なんと言うか、空虚な音が鳴り響く。ティンパニの強打が空々しい。そう、これこそがブラームスの音楽そのものである。この曲は第一楽章が最後に書かれた事は皆知っているが、すでに頂点は第四楽章で書かれているため、ブラームスが困ってイヤイヤ書いた楽章という感触が手に取るようにわかる。セガンは忖度などしない。赤裸々に曲自体を描き出す。第四楽章も同じで、取ってつけたようなウケ狙い的曲想とあまり良くないオーストレーションを炙り出す。それでも、例の主題をしっかり鳴らすので、それが良いのだが、他についてはあっさり目、コーダも推進力はあるが必要以上に粘るような事はせず、曲の最後を早く切るのも、ボロが出ないようにするため。こういうシニカルさもあるのがセガンの読みの深さと思う。この曲の従来アプローチへのアンチテーゼとしてはアダム・フィッシャーが良かったが、セガンはもっとドライに踏み込んでおり、この点で成功している。この演奏を聴くと、第1番の第二楽章、第三楽章が意外によく書かれていることがわかってくる。第2番は曲自体がこう言う室内オケと相性が良いため見通しの良い演奏。セガンのちょっとした小技が光る。第一楽章などニュアンスが多彩。また第四楽章において、セガンは過去の誰よりも、この楽章に生気をもたらし、愉悦感すらある。ティンパニの音ひとつにまで相当の注意を払っており、セガンがしっかり曲を把握していることを我々に知らしめる。全体を通しての白眉ではないか。第3番を聴くと第1番よりずっと立派な曲ということがわかる。ブラームスの腕が良くなったのだ、ということをセガンはしっかり訴える。急に音の重心が低くなるのである。2番とは全く異なる音になる。なのでセガンもあえてじっくり歌う。第3番第一楽章を聴くとセガンが良い指揮者だということが私にはよくわかった。従来のクリアさに加え、しっかりしたフレージングと読みが曲に深みを増す。ブラームスお得意のシンコペーションが本当に意味を持っている。第二楽章も味があるし、あの第三楽章は寂寥感を際出させる「間」の取り方と弱音が見事。最終楽章は立体感が出てくる。第4番になると従来までのアプローチに、この曲に必要な「格調」も加えてくる。「HIPと従来型の格調表現」の融合も違和感がなく、素晴らしい。

    結果論かも知れないが、「1番+2番」と「3番+4番」という括りでアプローチを変えるのは、ブロムシュテットと同じやり方だ。もちろん録音時期の差異もあるだろうが、同じ方法論というのが私には腑に落ちた。問題なのはただひとつ。ベートーヴェンの全集でも同じだったが、COEだからこのアプローチが成功したのではないか?君は例えば、ウィーンフィルを指揮する時でも、このやり方を押し通せるのか?それだけである。

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     2024/06/12

    カラヤンの名盤数あれど、誰もが絶賛するという観点からすると、このディスクと「オペラ間奏曲集」じゃないか、と思ったりする。それほどこのディスクの持つ力は大きい。リヒャルト・シュトラウスのエッセンスみたいな2曲。特に両曲が繋がっているのが大きい。またヤノヴィッツの真摯さが身に沁みる。私はシュヴァルツコップとセルより、当盤の方が好きなのもあって、年に2回くらいこのディスクを聴く。やはり名盤だ。

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     2024/05/25

    プレトニョフももう67歳。昨年ベルリン・フィルハーモニーでのライブ録音。プレトニョフには2000年カーネギーホールライブという名盤があり、今回も有名ホールでライブということで期待して聴いた。もちろん期待以上であった。発売元情報には「型破りで刺激的、挑戦的な彼のピアノ演奏のイメージに強烈な印象を抱いている方も多い」と書いてあるが、私のイメージは全く違う。プレトニョフは、一言で言うと「計算され尽くした抑制の音楽」である。徹底的に響きに拘り、ほとんどのピアニストが強く弾くところをあえて弱く弾く。これだけのテクニックがあるのだから、ガンガン弾きたいだろうけど、あえてそれをしない。こう言う彼のピアニズムはこのディスクでも満喫できる。冒頭のブラームスは曲が抑制を求めているから、悪い訳がない。まさに正統、静謐の演奏である。いきなり深い世界に連れて行かれるようだ。次のショーとプレトニョフのソナタは、なんで今時こういう調性音楽なのか、と言いたくなるほど誰が聴いてもわかりやすい。少しフランスっぽいがひねりも皮肉もない。ストレート過ぎるのがなんとも逆説的に良い曲なのでは、と思わせる。このディスクの白眉はやはり後半のショパン。ポロネーズ1番って改めて名曲だと実感させる。冒頭こそ普通に響かせるが、繰り返しになると途端に脱力する。その後も余計な力を入れず、曲の骨格を明晰に描き出す。緊張感を持って音量調整しているプレトニョフの意図が明確にわかる演奏。幻想曲も凄い、冒頭から冷静・冷徹であり、楽天的要素が一切ない。あの行進曲も、開放的要素はなく、眼は常に客観的で自己抑制の極みである。この曲の最後を皆さんにも聴いてほしい。これがプレトニョフなのだ、と言うことが十二分に理解できるから。舟歌も同様。波は穏やかであり、必要以上に大袈裟になることを拒絶している。幻想ポロネーズも傑作だからこそ、そんなに大きな音を出さなくて良いと言っている。彼はロシアのピアニストであり、ロシアンピアニズムの洗礼と薫陶を受けているはずなのだが、そういう演奏とは明確に一線を画している。このディスクを聴けば、プレトニョフの凄さは理解できる。指揮活動も良いけど、これを聴いたら、やはりピアノを弾いて欲しい。プレトニョフでしか聴けない音楽がここにはあるからだ。

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     2024/05/18

    この演奏を聴くと、やはり「ロトは才人だ」と思う。早めのテンポだが、スケール感はあるし、インテンポであっさり感ばかりな訳でもない。ロトは全体を把握してから細部を詰める。間違いなくそういう手法を採っている。だから細部が悪目立ちしない。良い意味でのスパイスになる。それでも、第二楽章主部のリズム処理には驚嘆した。ネタバレを避けるために詳細は書かないが、こういう手があったのか!と目が丸くなった。これを思いつくだけでやはり、ロトは才人だ。第三楽章も歌いながらもテンポが決して遅くないって、どういうことだろう。ロトにの辞書には「矛盾」という文字がないような、そんな気がする。9番だから版の問題はないが、この演奏を聴くとブルックナーにもまだまだ新しい解釈の可能性は無限にあることをロトに教えてもらった気がする。ロトはもしかしたらクレンペラー以来の「ブルックナーとマーラーの両刀使い」なのかもしれない。

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     2024/03/23

    今回もジャケ写が興味深い。過去のシリーズでヨーヨーとアックスはカヴァコスに笑顔を強要し、カヴァコスがそれに辟易している様子があからさまだったが、今回ついにカヴァコスの意見が採用され、3人のアップによるスリーショットはなし、遠方からの演奏写真とあいなった。それもモノクロである。この変遷は何を意味するのか、と余計な詮索はここまで。肝心の演奏だが、交響曲4番が星3つ、太公は名演である。まず4番だが、今回の編曲はイスラエルのピアニストであるシャイ・ウォスネル。私の感想でしかないが、あまり良い編曲ではない。特にチェリストにとってはつまらないだろう。旋律がピアノと被るところがあまりに多く、音が相殺されて、ヨーヨーの良いところが出ない。カヴァコスも同じ傾向だが、こちらは高音楽器だからまだ音は聞こえるようだ。ということでこの演奏、ヨーヨーがやる気のなさを露呈しているとさえ思える。一方大公だが、こちらはいつも通り力を抜くことでかえってお大きな音楽を作る路線が曲とマッチして名演。テンポが遅めなこともあり、これほど余裕のある大公を私は聴いた事がない。もっとガツガツしたせめぎ合いのような演奏ができるのに、しない。次回も期待したいが、もう少しヨーヨーに配慮した編曲にしてあげて欲しい。ジャケ写も楽しみである。

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     2024/03/18

    深い譜読みとキレキレがトレードマークのベアトリーチェ。今回はショパンの2番とベートーヴェンのハンマークラヴィーアというとんでもないアルバム。私の知る限り、この2曲をカップリングしたアルバムはない。その意味で、世界初の快挙なのである。
    さて、まずはショパン、冒頭から、ラナは極力スコア通り演奏しようとする。本当に細部に亘って、再現しようとする。逆にここまで徹底されると、他の演奏が甘く聴こえてくるくらいのレベルである。ところが、提示部の繰り返しをラナは冒頭2小節を含めて演奏する。これは明らかに彼女の解釈(もしかしたら最新の研究結果かもしれないが)である。意図はわからないが、彼女には冒頭のD♭音が必要だったのだろう。第2楽章もクリアなのだが、中間部のレントがショパンの心のこもったワルツのようで、その歌わせ方が見事。葬送行進曲も主部と中間部の描き方が素晴らしい。終楽章はまさに虚無。あえて軽い音で寂寥感を描く。この曲の名盤と思う。
    ハンマークラヴィーアはもっと考え抜かれており、特に「力を抜く」ことを徹底している。この曲、最初から最後まで力演聞かされたらそれこそ辟易。全体を俯瞰して、どこで優しい音を出すか、計算され尽くしている。第3楽章も、冒頭から深い音を作る。音色のコントロールがここまでできるのか。これはラナが明らかにステップアップした証拠と思う。終楽章も前奏が美しく、主部も身につけた音色コントロールにより、あの複雑なフーガに彩りをつける。この楽章下手打つと単なる練習曲のように聴こえるのだが、ラナの演奏はそんな甘いものじゃない。彼女にとってこれが初めてのベートーヴェンのソナタ録音のはず。それがいきなりこの曲で、ここまでやるのか。驚嘆するしかない。一つだけ懸念があるとすれば、本当に実演でこのディスク通りの演奏をするのだろうか?もしそうならば、ベアトリーチェ・ラナは巨匠である。

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     2024/01/23

    私はヤルヴィを何度も実演で聴いたが、彼の良い時はどちらかと言うとスタイリッシュで、楽団を気持ち良く鳴らすような、そう言う時だと思っている。基本的にインテンポを墨守し、濃厚な表情づけをあえて拒否する。良く言えば曲に語らせる演奏である。しかし、ブルックナーはそれだけではダメじゃないかな。もちろん曲は素晴らしいが、演奏する側もビシッと芯がないとつまらなくなる。今回ヤルヴィの再録音、その意味で期待したが・・・。結果はいつもと同じ感想。曲への共感が薄い。また、何故か知らないが、やたらポルタメントを多用する。ノヴァーク版の楽譜を見たが、どこにもそんな形跡はない。これはブルックナーに合わないと思う。もちろん演奏技術は高いし、それなりの作り込みはあるのだが。ヤルヴィは大指揮者なのに、本当に私とは相性が悪いんだよなぁ・・

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     2024/01/07

    この演奏は、まさにサヴァールの祈りそのものであり、強く心を打たれる。現代社会が持つ理不尽さ、矛盾、対立、そう言うもの全てに対して、我々はどうするべきか、それこそベートーヴェンがこの曲のスコアに書き込んだ言葉通りではないのか。サヴァールはそれをこの演奏を通して我々に強く訴えかける。「祈りと平安への希求」であるから、必要以上に演奏が大袈裟である必要はない。Kyrieを聴けばわかる。冒頭の音があれだけ柔らかいのは極上の世界だからではない。祈りから始まるからなのだ。Gloriaもいつもの通り曲の構造を明確にしつつ、しかし、祈りを忘れない。解放ではなく、抑えることで曲の持つ精神世界を大きく見せる。またCredoはまさに「信じる」ことが祈りであり、後半の大フーガにその気持ちが込められる。SanctusとBenedictus,特に後者が美しいのは当然として、この演奏のクライマックスはDona Nobis Pacemにある。この部分が始まる時の祈りの深さは比類ない。サヴァールはこの大曲の全てを祈りに捧げて来たが、それが何故なのかと言うことをDona Nobis Pacemの歌詞に込める。それが心に響くのである。

    サヴァールのこのところの録音ではバリトンのマヌエル・ヴァルサーは連投しているが、あとは毎回歌手が変わっている。曲の持つ特性によってサヴァールが歌手を選んでいるのは間違いがなく、この曲でも祈りに相応しい歌手が、サヴァールの意図を汲んで真摯な歌唱を聴かせてくれる。合唱も同様である。特にソプラノはこの曲が求める最高音を出来るだけ音が金属的にならないよう配慮しており、頭が下がる。

    この演奏はサヴァールの一連の演奏の中でも、金字塔であるのと同時に、この大名曲の演奏史でも格別な位置を占めると思う。私はまたサヴァールに深く感謝することになった。

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     2023/12/12

    一聴してこれはすごいと思い、レビュー一番乗りと思ったら、村井先生に先を越されてしまっていた。個人的に今年一番のディスク。兎にも角にも、「ここまでやるのか」感が半端ない。ミナーシはおそらく「3つ同じ音型があれば、それぞれにニュアンスを変える」とか、「転調したときは強調」とか「対旋律、またはエコーは強調」とか、自分なりのルールを決めて、それに従い徹底的にスコアを読み込み、全て実施している、としか思えない。これを聞くと、本当に他の皆さんが緩いと思えてしまう。現代最先端はここまでしないとダメなのだ、ということを私はミナーシから教えてもらった。リンツの第一楽章聞けばわかる。冒頭小節は同じ音型3つだからニュアンスを変えている。第一主題23小節目の装飾音符に意味を持たせる。皆さんもお好きなところだと思うが、小結尾95小節からの3小節も音型が同じだから自然な形でクレッシェンドをかける。また、ルバートでテンポ落とす工夫多数。これに加えて、ちょっとしたグリッサンドも顔を出す。普通これだけニュアンスにこだわるならテンポはある程度犠牲になるのだが、ミナーシはこれだけ徹底しながら自由にテンポを操る。また、プラハはこれに加えて、この曲の持つ、複雑さを解き明かし、強調するべき管楽器をガッツリ鳴らす。スケール感も満載である。いいとこずくめのこの演奏、とにかくこの演奏は皆様に聴いてもらいたい。ミナーシがどれだけ凄いか、その耳で体験してもらいたい、と心がら願う次第であります。

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