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3 people agree with this review 2022/03/07
今回もジャケ写が秀逸である。前回のベートーヴェン チェロソナタで、笑顔結社ヨーマーに身を投じたアックス、早くも完全に同化して宗家よりも満面の笑みを讃えるに至った。そこに勧誘されたカヴァコス 、彼らの上部組織、S・クラシカルの意向にも逆らえず、参加はしたものの、「俺は感化されないぞ」というカヴァコスの心の揺れを映し出しており、またも笑いを誘う素晴らしい出来である。さて、本題だが、演奏自体は完全にヨーヨーとアックスのペース。彼らは決して出しゃばらず、自然な流れを重視している。特にヨーヨーは編曲のせいもあるかもしれないが、完全に一歩引いている。言い換えれば、ヨーヨーとアックスのサポートの下にカヴァコスが得意の美音を響かせているようなアルバムである。2番だと、ファウスト・ケラス・メルニコフの名盤があるが、あちらが颯爽として、推進力中心の音楽作りなのに比べ、こちらは余裕の大人という感じ。いつもの通り力は抜けているが、スケールは大きい。ところで、この2番のピアノトリオ版はベートーヴェン本人の編曲と思っていたが、アックスがワシントンポストのインタビューで、この編曲はフェルディナント・リースが編曲し、ベートーヴェン が監修した、と述べている。ここでの演奏もベートーヴェン編曲とされている楽譜を使用しているが、本人編曲ではないことを初めて知った。また5番は有名なコリン・マシューズの編曲。新しい響きを模索していると思う。それにしても、ヨーヨー・マは先程のインタビューで言いたい放題。「マシューズはあまり好きじゃない」とか挙げ句の果ては「カヴァコスは本当は俺たちとやりたくないんだ」とか。アックスも「カヴァコスは他で忙しいからな」とフォローしている。どこまでが本気でどこまでがジョークなのか(笑)。カヴァコスがこの二人と距離を置いたあのジャケ写は当然なのかもしれない。
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3 people agree with this review 2022/02/23
5番の録音が2019年5月だから、録音してすぐにこのコンビは来日して同じ曲を演奏した。当然と言えば当然だが、私も聞いたこのコンビの演奏会の記憶とこのディスクはマッチする。確かに綺麗だったが、これがブルックナーかと言われるとちょっと首を傾げる。もちろんネルソンスはそんなことはわかっている。その上で5番ではこういう演奏を繰り広げている。ブラームスと同じように、ブルックナーも「必要以上に重くなりすぎていないか」という彼なりの問題提起であり、しっかり響かせながら、流線型を目指しているのだろう。こういうネルソンスを聞くと、私は自分に自信が持てなくなる。なんとなく同郷の先輩であるヤンソンスと同じ香りがする。ネルソンスもヤンソンスも同じように「美しさ」を求めている。しかし、私にはあまり響かない。でも彼らは大スターだ。私の感性がおかしいのだろうか、と思ってしまう。でも、なんとなくわかってきたようが気がするのだが、ネルソンス、ドイツ物以外の方が良さが出るのではないだろうか。ベートーヴェンもつまらなかったし、ボストンでもブラームスよりショスタコーヴィッチの方が良いと思う。ところで、なぜかブルックナーの1番はある意味5番より力が入っていて、私には好ましかった。
2 people agree with this review 2022/02/18
ポゴレリチがソニークラシカルと契約してから、新譜が出るようになって嬉しい。また、ショパンに回帰してくれたこともますます嬉しい。このアルバムではポゴレリチ節ともいうべき、明晰なタッチで濃厚な音楽がたっぷり味わえる。インテンポ、と楽譜に指定のある場所であっても一音一音を大切にするポゴレリチには関係ない。微妙なテンポの揺れで歌いまくる。普通はこれをやられたら、中トロだけの寿司みたいに辟易するのだが、ポゴレリチの明晰なタッチで楽譜通りのリズムを刻むので、もたれない。言い換えれば「あっさりしたコテコテ」というような矛盾した概念を実体化する演奏であり、引き続き賛否は分かれるかもしれないが私は諸手を挙げて賛同する。なぜならこの演奏、テンポはさておき、表現自体は楽譜を読み込み正確な再現を図っているからである。まず最初の夜想曲2曲はもはやバラードと呼んでいいくらいの深さを出してくれる。幻想曲に至っては、何と16分!普通の演奏の1.5倍である。主たる理由はLento Sostenutoの中間部で、まさに「Lento」のテンポでコラールを繰り広げる。これが滲みてくる。また行進曲の部分もコラールの続きのように音を響かせてくれる。正確に刻みながら、即興的にアルペジオも響かせたり、まさに幻想的かつ構成的でこの曲の大名演と思う。メインのソナタだが、このポゴレリチの主張とソナタという形式美が若干食い違う気がする。重くなり過ぎるという理由からだろうが、第一楽章提示部のリピートを省略するのはいただけない。また、ちょっとしたルバートやタメが連続するので、ソナタとして見たら好みが分かれると思う。しかしソナタだろうとノクターンだろうとアプローチがブレない。これぞポゴレリチ。次は是非ともバラードが聞きたい。今の彼にピッタリだろうから。
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13 people agree with this review 2022/02/15
発売前のレヴューは慎まなければならないが、このディスクだけはどうしても言いたい。東武レコーディング、本当にありがとう。この演奏はまさに至宝であり、正規盤で世に出ることを心から喜びたい。テンポは悠久だが、集中力がもの凄いので、一切弛緩しない。だからこういう音になる。私はチェリビダッケは「音」にとことん拘った指揮者だと思っているが、その最上の成果がここにある。とにかく、この演奏の素晴らしさを多くの方と語りたい。だからこそ、聞いてください。それにしても東武レコーディングスは本当にすごい仕事をしくれた。重ねて心から感謝します。
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2 people agree with this review 2022/02/02
天地創造はハイドン畢生の名作で、初演当時から人気が高い。ナポレオンもこの曲のパリ初演を聞いたそうだ。その天地創造を代表する一枚が誕生した。好調なサヴァール、今回も冴えまくりである。このところのサヴァールは音楽を立体的に構築し、ピリオドの良さとスケール感を両立させているが、それがこの曲にピッタリである。この曲は対位法が精緻ゆえに、全てを出そうとするとバランスが崩れる。また、テノールの音域が高いところが多く、下手をするとテノールだけが聞こえるような演奏もあるが、さすがサヴァール、絶妙のパート間バランスを保ち、それが品位を上げ、素晴らしい構成感を生み出している。合唱は第九と同じだが歌手陣は全く異なり、サヴァールの意図を汲み、劇的な表現を避け、凛とした表現が素敵である。特にソプラノのイェリー・スーは清楚さすら感じさせる。合唱もよく洗練されていて、歌いこんでいることがよくわかる。この曲が好きな方は多いと思うが、ぜひこの演奏を聴いて欲しい。大型オケでの演奏は意外にベッタリするし、ピリオド派は曲の持つスケール感が出ていないものが多く、不満が残っていたが、それがサヴァールによって見事に解消されている。それにしても、この録音が2021年5月、第九が同年9月末と短期間で大きな仕事を連発しているサヴァール。この勢いで古典派の名曲をもっと録音して欲しい。
5 people agree with this review 2022/01/01
このディスクを聞くと、間違いなくショパンに対する理解と愛情が深まる。フー・ツォンの演奏はそういうショパンである。聞いてすぐ感じたのが「深淵」であること。バラード1番の最初のC音の深いこと。最初から闇に引きずり込まれそうになる。リマスターのせいか録音が思ったより良く、フー・ツォンの意図が明確にわかる。低音は奥底まで深く、高音は雷のように空気を引き裂く。彼独自の倍音もとても美しい。それでもショパンの本質は人の心の奥底にあるものだ、決して美だけではない、と彼の持つ美音で逆説的に語る。十八番の夜想曲とマズルカの暗さと深さも比類ない。私もWJMさん同様、若いときフー・ツォンを実演で聴いたが、本当に今、このショパンを聴いて、もっと丁寧に聴いておけば良かったと心から悔いているし、レヴュワー各位同様、ピアノを、ショパンを愛するなら、このディスクをぜひ聴いて欲しいと願わずにいられない。フー・ツォンは録音に恵まれなかったのが残念であるが、MERIDIANレーベルに90年代録音シューベルトやドビュッシーの前奏曲集があるらしい。ぜひ日の目を見て欲しい。彼に限らずだが、良いピアニストは後世のために録音を残して欲しい、と心から祈りたい。
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2 people agree with this review 2021/12/21
人の心に最も寄り添う楽器は、アコースティックギターなのではないか、と思うことがある。特に飲んだ時に優しいメロディをこの楽器に奏でられると、その涙腺破壊力は抜群だ。また、気持ちが辛い時にこの楽器に慰められる経験をした人も多いだろう。そんな思いが凝縮したのがこのアルバム。もう一曲目の「How Deep isYour Love」の素晴らしいフレージングにやられてしまう。だって、ビージーズですよ。サタデーナイトフィーバーですよ。若い人にはわからないだろうなぁ。その後もムーンリバー、禁じられた遊び、ニューシネマパラダイスときて、バッハや亜麻色の髪の乙女、ビートルズ、そしてロメオとジュリエットでほぼ涙腺は枯れてしまうくらいの名演奏が連続する。そしてこの時期ならではのMerry Christmas Mr .Lawrenceで深い感銘が訪れる。ところが話はこれで終わらない。アンコールのようなアルハンブラ宮殿の思い出で村治の高い技術を味わった後に「花が咲く」がやって来る。またこの曲か、とすら思っていたが、聞くとなぜか過去を思い出して言葉にならなかった。もう既にこの名曲は私たちの心の奥に存在しているし、私たちの気持ちを支えているとすら思えた。そしてメモリーで幕が閉じる。曲のことばかり書いたが、当然のことながら村治の演奏あってこそ、であり改めて素晴らしいギタリストだと心から感謝を捧げたい。またこの曲と曲順を選んだプロデューサーにも敬意を表したい。クリスマスに限らずプレゼントにも最適だ。そうだ、こういうアルバムを評する良い言葉があった「一家に一枚」である。
0 people agree with this review 2021/12/12
私はスティーブン・ハフのことはあまりよく知らない。実演に接したこともない。真面目なローワン・アトキンソンみたいな風貌もあいまって、私は、いつも彼に求道者的イメージを持ってしまう。ヴィルトゥオーソ的な要素は一切なく、リストやラフマニノフ辺りには見向きもしない、いわばクリフォード・カーゾンの再来的イメージだ。このブラームス、やはり想像通りの演奏だった。基本的にテンポは中庸やや早め。派手な音を避け、曲の性格を描き出す。117-1では淡々と歩むものの、フレージングは精緻を極め、一音一音を本当に大切にしている。117-2はバスを必要以上強調しないこともあり、浮遊感があるものの、音をしっかり描き分けるので奥深い。118−1は刺激的な音を一切出さないでまるで次の曲への序奏という感じ。118-2はグールドと同じくらいのテンポであっさりと、でも端正に心込めて弾いているのがよくわかる。また118−5はとても表現豊かで、聞き惚れてしまう。また119−3もとてもチャーミングでこの曲の良さを一番引き出してくれたのではないだろうか。私はブラームスのこの曲集はやはり、ハフのように内に向かってエネルギーと思いを凝縮させる演奏がぴったりだと思う。胸に迫る、とはこういう演奏のことを言うのだろう。アファナシエフのような毒はないが、折に触れて聴きたくなるアルバムに出会えた。名盤が多い曲だが、「ハフもいいんだよね」とサラっと言いたくなる。 ところで調べてみたらハフには若い頃リストの録音がいくつかあるようだ。やはり独り善がりのイメージを持ってはいけない。それでも、この方が笑顔でリストを弾く姿は想像できないなぁ。来日してくれたら複数回足を運び、イメージと実際を確認したい。
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4 people agree with this review 2021/12/08
今やかてぃんの師匠として、再ブレイクを果たしたルイサダ、などと言うと失礼かもしれないが、彼は実に日本に馴染みの深いピアニストである。NHKの収録があったからかもしれないが日本録音が半数を占めるこのアルバム集、本当に初回限定なら絶対に「買い」である。ルイサダといえばフランス人らしい洒落たショパン、的イメージを持っていたなら、DGのワルツ集のイメージを持っているなら、それよりも遥かに進化したルイサダが聴ける。この方、実演でもそうだが「深い中低音」を持っており、それが土台となってリリシズムとスケールを高いレベルで一致させた演奏をする。例えばソナタの3番や、スケルツォの2番を聞けば、「ルイサダって、すごい」ことが私のような素人でもすぐわかる。バラード4番の終結部など、深い読みが音楽に一層生気をもたらす。良い意味で「おおらか」であるが、決してショパンの闇を蔑ろにはしない。言い換えれば、清濁併せのむ、だ。フランソワ的フランス人ピアニストの演奏とは一線を画し、あくまでも正攻法でショパンに向かい合う。改めてこのかたの素晴らしさを認識させてもらった。アルバジャも、タローも、ベアトリーチェもとても良いショパンのアルバムを出したが、ルイサダは私が思うに、もう一つ先の世界を持っているのではないだろうか。それにしても、人の世はわからない。ルイサダはその時5位だったが、このような素晴らしいアルバムにより、名を後世に残した。優勝者はケガをされたと聞いた。回復と復帰を心から祈りたい。
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3 people agree with this review 2021/11/25
このコンビ、今回はブラームスでまたも無双状態である。好録音でいつものマッチョさが響き渡る。ノンヴィブラートで、ホーネックが計算した通りのバランスで鳴らすスタイルは変わらない。 このスタイルがなぜかブラームスにマッチする。出だしこそオールドスタイルでH音を引っ張るが、あとはビシビシ決めまくる。哀愁とか余計な感情を排除して、徹底的に「音響そのもの」で勝負する。だから第二楽章とかも強めの響きにより、ブラームスの意図が分かり発見が多い。かつちょっとしたところにタメを作ったり、優しさを出すので奥は深い。白眉のなのが第三楽章。この楽章、どの指揮者も扱いに困る曲だが、ホーネックのやり方だと遠慮なく「Allegro giocoso」が生きてくる。今までで一番正気溢れる演奏と思う。第四楽章はもともと曲自体が計算されているから、ホーネックのように余計なルバートなどかけずにそれこそビタビタに決めるだけでスケール感が支配する大名曲ということが改めてわかる。これだけ決めまくることがどれほど大変か。半世紀前のセルを思い出し、オケは違うものの再来ではないか、と感じた。 マクミランの曲はシベリウスにアメリカの吹奏楽を足して2で割ったようなわかりやすい曲。良い曲だが、わかりやすさが逆に鼻につく感じがしないわけではない。 それにしても、このコンビ早く来日してくれないものだろうか。これだけすごいアンサンブルを誇るオケは他にはないと思うのだが。
9 people agree with this review 2021/11/15
とにかく、買って欲しい、聞いて欲しいと願わずにいられないセット。これを聞くことで、クラシック音楽への理解が進むと思います。
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1 people agree with this review 2021/11/04
初出の時は「最後の思索」と称しており、収録曲とそのネーミングに無条件降伏して即、購入したアルバム。メキシコ出身のオソリオ教授はシカゴで長く教鞭をとり、ってくらいしか情報があまりないピアニストではあるが、演奏はタイトル通りのじっくりした演奏。特にブラームスはケレン味とか、余計な思惑とか一切なく、曲に語らせるそのものだと思う。先生と言うのはこのように黙って背中を見せる、そんな趣がある。だから私はこのアルバムが好きだ。この演奏はスタンディングオベーションではなくて、静かに深く拍手したくなる。昔の宣伝にあった「何も足さない、何も引かない」ってこう言うことなんだな、と思った。
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0 people agree with this review 2021/10/31
このディスク、確かにバタゴフが誘う旅かもしれません。この旅はバタゴフ独自のものであり、シューベルトは既に形を為さず、再構築されているようです。何せ最初の即興曲を聞いた途端、「あれ、曲が違う」と思ったくらい、楽譜に手を入れていて、それはもう編曲レベルです。音価を伸ばし、倍テンポだから、途中から聞いたらなんの曲か分からないくらい。その結果、ゆったりとした穏やかな音響に身を浸し、癒されます。21番のソナタでも一緒。第一楽章が28分ですよ!加えて、あえて中庸の音量で刺激的要素を排除するから、極上のぬるい温泉に入っているような音響が味わえます。第4楽章の最後はなんと消え入るように終わります。これがシューベルトなのか??とか野暮なことは言いません。バタゴフはシューベルトの優しさを極限までに引き出した、そういう演奏です。夜にウィスキーでも飲みながらこのディスクを聞くと、幸せかもしれません。でも、演奏会でこの演奏聞かされたら、私は断言します。絶対寝ちゃう、と。
4 people agree with this review 2021/09/20
1年前に14枚組を購入した身からすれば「やられた!SACDBox出したのか!」と文句の一つでも言いたくなるが、しかしよく見れば、これらの曲が単独で販売していた時にSACDも出ていたので、当方の読み不足、作戦負けを認めるしかないなぁ。それほどこの集成は魅力的だ。だいたい、ミケランジェリ、フルニエ、そしてアルゲリッチの3曲だけでお釣りがくる。すべての曲について記載はできないが、意外と良いのがシューベルト。チェリビダッケはシューベルトのテンポを落とさない。曲の持つ旋律性がそれにより伸びやかに展開される。響を大切にする彼の音楽作りとマッチする。小品が上手いのは名指揮者共通。カイザーワルツなど格調が極めて高いが、なせか楽しくなる。それにしても、カイザーワルツで気合の声が入るのはこのディスクだけではないだろうか。シューマンの2番も良いが響きを作るために音量を落とすやり方が少し音楽の流れを阻害する気がしないわけでもない。白眉はやはりローマの松か。チェリの爆演。最後の気合。一度で良いからこういうイケイケチェリビダッケを実演で聴いてみたかった。ということで、一家に1セットというBoxである。このレーベルの出すCDのおかげで、間違いなく私の人生は豊かになっているが、単売→Hi Quality CD→SACD→セット化→SACDセット化という戦略であることを心しつつ、良いタイミングで買うしかない。おっと、忘れちゃいけない。おそらくこの後にはアナログレコードも出るぞ!
2 people agree with this review 2021/09/17
ムーティとの皇帝が超名演!いやいや、ベートーヴェンのピアノソナタと協奏曲全集をほぼ同時にリリースするなんて、もはやブッフビンダーはDGの看板ピアニストなのか。まず一聴して思ったのは、ブッフビンダーって「こんなに音が綺麗だったのか」と言うこと。特に中低音のボリューム感があるのにもかかわらず、音がベタつかない。適切な語彙がないが、「浮遊する質量」的音で、こんな音を出せる他のピアノ録音を私は知らない。先に出たツィマーマンと比べれば、クリスタルな高音域はツィマーマン、中低域のボリューム感はブッフビンダーである。この全集は、曲により指揮者が変わるのでその特徴も面白い。1番のネルソンスは意外に締まった音作り。2番のヤンソンスはこの曲にぴったり。優しい笑顔が浮かぶ。ゲルギエフは気合が入っているが、ちょっと空回りかも。音楽をリードしているのはブッフビンダーだと思う。4番は冒頭のブッフビンダーの音が素晴らしい。ブッフビンダーとしてはこの曲が白眉と思う。ティーレマンはメリハリつけた伴奏だが、もう少し優しくてもいいかも。それにしても格が違うのがムーティ。今や本当の巨匠はムーティだと思うが、最近意外にディスクに恵まれていない。DG再登場もブルックナーの2番と言うちょっと微妙な位置の曲だったが、ここでは、まさに「巨匠」の音楽が聴ける。皇帝冒頭の和音から充実感が伝わる。主題部も「刻み」がとても生き生きしている。ウィーンフィルがどっしりしているから、金管がパッセージを強く吹いても違和感がなく良いスパイスになる。このような聞き所が満載。ラトルは新しい表現を目指したが、ムーティは従来の枠組みの中でもまだできることはある、と言うことを示した。皇帝は名盤が多いが、これからはこのブッフビンダーとムーティ盤が屹立するだろう。願わくは、全集という枠の中でこの名盤が埋没しないことを祈る。加えて、これを機にムーティがDGに多くの録音を残してくれるよう心から願う。
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