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受注合計381本! 伝説の秘曲、クセナキス 《シナファイ》 登場! 

2003年1月24日 (金)

伝説の秘曲 《シナファイ》 登場!
クセナキス管弦楽作品全集 vol.V / タマヨ
 この世に秘曲伝説というものがあるとするなら、クセナキスのピアノ協奏曲《シナファイ》こそ、まぎれもなく現代音楽史上の伝説といえるものでしょう。
 クセナキスがこの曲のピアノ・パートを10段楽譜(!)に書き記したのはあまりにも有名。
 おまけにクセナキスの書法そのものも複雑極まりなく、相当ピアノ譜に精通した人でも、譜面を見ただけでは、出てくる音を想像するのはとても無理と言われているほど。
 まるでクセナキスが凡百のピアニストの試し弾きをとことん拒否したかのように見えるこの作品、1969年に完成したのち、フランスのサラベール社から出版され、1971年4月6日には、ロワイヤン音楽祭で、プリュデルマシェ(最近、ベートーヴェンのソナタ全集が話題になりました)のピアノ、タバシュニクの指揮によって世界初演がおこなわれています。
 日本では世界初演から遅れること2年 ── 1973年3月に東京文化会館で日本初演がおこなわれています。演奏者はクセナキスの愛弟子、高橋悠治と、岩城宏之が指揮する東京交響楽団。あまりにも並はずれた技巧と、猛スピードの激しい打鍵アクションを要求されるこの曲を弾いた高橋悠治は、爪の付け根が割れ、流血したと伝えられています。文字通り鍵盤上に「血しぶきが飛び散る」壮絶な演奏として伝説の1ページに加えられたのです。  そうした話題性に富む作品にも関わらず、レコーディングにはあまり恵まれておらず、これまでに1種類しか市場に出回っていないというのは少し意外な気もします。
 その1種類の録音とは、1975年にDECCAによっておこなわれており、ピアニストには、パパドプーロスのファシスト政権崩壊後に盛大におこなわれたクセナキス・フェスティヴァル(1975)で大活躍したオーストラリアのピアニスト、ジェフリー・ダグラス・マッジ(Geoffrey Douglas Madge)が起用され、指揮はエルガー・ハワースが担当したというものです。
 マッジはブゾーニ全集やソラブジ、ヴォルペの録音でも名高い現代物を得意としたアーティストですが、残念ながらその録音は現在もまだCD化されていません。
 マッジはその後も、タバシュニクやアルフテル、ポルセリーンなどといった指揮者たちとコンサートでもこの作品をとりあげており、その意味では、マッジのこの作品への貢献には絶大なものがあったと言えるでしょう。
 大井浩明もまた現代音楽の世界において、次々と伝説を生み出している新世代の旗手です。彼は1968年、京都に生まれ、まったくの独学でピアノを学んだという異色の経歴の持ち主で、京都大学卒業後すぐに頭角を表し、1993年には、第3回朝日現代音楽賞を受賞したのも人並みはずれていますが、その3年後の1996年には、いきなり新日本フィルハーモニー、京都市交響楽団の両定期演奏会に連続出演。しかも定期デビューの世話をしたのはあの井上道義。井上は大井に《シナファイ》を弾くことを勧め、それが実現してしまうのです。このとき大井はまだ28歳でした。
 その演奏が話題になり、演奏会の録音テープは、まだ存命していたクセナキスのもとに届けられたのです。
 Timpaniレーベルのクセナキス・オーケストラル・プロジェクトはこのとき企画段階にありました。《シナファイ》のソロイストに誰を起用するか、その時点ではまだ白紙の状態だったのですが、老クセナキスは遠い日本から送られてきたテープを耳にするやいなや、「是非この男に《シナファイ》のソロをレコーディングでも弾いてもらいたい。」と告げたといいます。つまりクセナキス本人の「遺言」で大井が起用されたということになります。
 その後、大井は1996年からスイスのベルンに居を移し、スイス国立音楽院でブルーノ・カニーノのクラスに参加します。ほとんど独学だった大井ですが、カニーノに「何も教えることはない、君の考えた通りに弾けばいい」と言われたといいます。
 その後、2001年に出光音楽賞を受賞。この時の受賞演奏会で、クセナキスのもうひとつのピアノ協奏曲《エリフソン》を初演し、大井のコンテンポラリー・フィールドでの評価はますます上がることになりました。
 さらに今年は、ルクセンブルクでこのCDのレコーディングを終えた後の7月に帰国、アサヒビール・ロビー・コンサートと、同志社大学での2回にわたり、クセナキスのソロ作品や、金管楽器とのアンサンブル作品を体系的に弾くコンサートを開催。タン=ドゥンなどの同時代作品を織り交ぜつつ、クセナキス作品を時代順に追うプログラミングが芳醇で濃厚な大井の演奏ともども話題となって高い評価を獲得します。
 頭脳も、体格も、打鍵の力強さも、キャラクターも、すべてにおいて日本人離れしている大井浩明の実質的なデビュー・レコーディングとなる本アルバム。他のピアニストでいったい誰がこれほどの衝撃的なデビューを飾ることができたでしょうか。世界屈指、空前絶後、悪魔の如き難曲が、誕生から三十有余年を経て、クセナキスが指名した「日本人ソロイスト」の手によって音盤上に収められたのです。


ヤニス・クセナキス(1922−2001):
@シナファイ ―― ピアノと86人の奏者のための
Aホロス ── 89人の奏者のための
Bエリダノス ── 68人の奏者のための
Cキアニア(暗い瑠璃色の国) ── 90人の奏者のための
大井浩明(ピアノ@)
アルトゥーロ・タマヨ 指揮 ルクセンブルク・フィルハーモニー


クセナキスのプロフィール
1922年5月29日ルーマニアのブライラ生まれ。両親はギリシャ人。幼い頃からビザンティン音楽に興味を持ち、10歳のときに家族と共にギリシャに戻り、スペツァイでプライヴェート・スクールに通います。この頃のクセナキスはベートーヴェンやブラームスを熱心に学んでいたということです。

その後、数学と建築を学ぶためアテネ工科大学に進みますが、第2次世界大戦により中断を余儀なくされます。当時のクセナキスは共産主義の抵抗運動で英雄的な活躍ぶりをみせますが、1944年、銃撃戦により顔に重傷を負い左目を失明。その後も抵抗運動を続けた彼に対し、政府は欠席裁判で死刑まで宣告したため、クセナキスは偽造パスポートを使ってどうにかパリに亡命することとなります。

パリでは高名な建築家のル・コルビュジエ に学び、後に彼の助手(1948〜1960)としてナントやマルセイユでの住宅供給計画、バグダッドの競技場、1958年ブリュッセルでのワールド・フェアーのフィリップ・パヴィリオンの建設などに従事していきます。

その一方、作曲への興味も失わずオネゲルミヨーメシアンシェルヘンと出会って個人的に作曲を学んでいます。

 ジョン・ケージなど多くの作曲家が偶然性・不確定性、あるいは即興性を追求しはじめた1950年代の後半に、クセナキスの確立したミュジック・ストカスティック理論は、ジャック・ベルヌーイの法則によりながら、偶然の試行の反復から未知の、しかし全体としては完全に制御された複雑な音響の運動体を構成する数学的な方法でした。

テーマや音列、リズム・パターンのような音楽的な前提をまったくもたず、ポワソン分布などの確率過程をつかって音の高さ・長さ・密度(単位時間内の音数)・音色配分、さらに全曲の構成(マクロ・コンポジション)にいたるすべての局面を決定するこの手法は、21楽器のための《アコリプシス》(1958)にはじまり、やがてコンピュータ・プログラムによって《ST10》(62)など一連の器楽作品をつくりだすことになります

 一方、「完全な連続体には時間や空間の切れ目がない、それは存在であり、非存在でもある」という論理的な前提から、前後関係の鎖である空白のない時間と、密集した点の集合体の瞬間ごとの静止画像である空間(「時間外」関係)が生まれるといい、この静止画像の概念から、音高組織を群論や論理演算によって操作する「篩(ふるい)の理論」がつくられることとなります。これは、いままでの音階・旋法・和声学も含む、より一般的な音高組織論であるばかりか、リズム・パターンの生成と変化にも応用されています。

 このようにまったくランダムな状態(カオス)から厳密な論理と数学的手法によって秩序を構成しようとする態度は、コンピュータによる音響合成でも、いままでのように正弦波から出発し「有限回の操作を加えて無限の変化をつくりだそうとする」やりかたとは反対に、様々な確率関数によるランダムな音波にすこしずつ規則性をもたせていく方法(「ダイナミック・ストカスティック・シンセシス」)が模索され、この音響生成(ミクロ・コンポジション)から全曲構成までを重層的な確率過程によって組み立てるコンピュータ・プログラムがつくられているのです。

 このプログラムは、ジョルジュ・ポンピドゥー・センター前の双曲放物線のカーブをもつ赤いテントのなかでおこなわれた音と光のスペクタクル《ディアトープ》(78)のなかで、400の鏡に反射する4基のレーザー光線と1600個のフラッシュライトが描き出す複素数関数や確率関数による図形とともに演奏された7チャンネル・テープの音楽《エールの物語(La legende d'Er)》などに使用されましたが、複雑な計算過程は現在のコンピュータでリアルタイム処理できる限度をはるかに超えていて、結果を予見することは不可能に近いとも言われます。

 これとは別に、クセナキスがパリのフランス郵政省の建物内に設立したCEMAMu(数理的自動音楽研究センター)でつくられたUPIC(CEMAMu多種情報訓練ユニット)システムは、デジタル・ボードに描かれた線や図形を音に変換する装置で、これを使用した彼自身や他の作曲家の作品はすでに多数発表されています。作曲以外にも、こどもたちのための音楽教育ワークショップに利用されたり、音響学実験や音楽学的分析につかうこともできるようです。

 これらの方法やシステムをもたらした思想や音楽理論は、古代ギリシア哲学(特にピタゴラス、パルメニデス、プラトン、エピクロス)、古代ギリシアから中世ビザンチン音楽にいたる音程理論、確率論・群論などの現代数学にその源をたどることができますが、それによってつくられた音色群の激しい運動は、若いクセナキスの関わったギリシアの抵抗運動や、その後の内戦の記憶をとどめたものといえるでしょう...続く

※表示のポイント倍率は、
ブロンズ・ゴールド・プラチナステージの場合です。

輸入盤

Orch.works Vol.3-synaphai: Tamayo / Luxembourg.po, 大井浩明(P)

CD 輸入盤

Orch.works Vol.3-synaphai: Tamayo / Luxembourg.po, 大井浩明(P)

クセナキス(1922-2001)

ユーザー評価 : 3.5点 (3件のレビュー) ★★★★☆

価格(税込) : ¥3,190
会員価格(税込) : ¥2,775

発売日:2002年09月13日

  • 販売終了

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国内盤

Orch.works Vol.3-synaphai: Tamayo / Luxembourg.po, 大井浩明(P)

CD

Orch.works Vol.3-synaphai: Tamayo / Luxembourg.po, 大井浩明(P)

クセナキス(1922-2001)

ユーザー評価 : 3.5点 (3件のレビュー) ★★★★☆

価格(税込) : ¥2,860

発売日:2002年10月21日

  • 販売終了

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