「もっとセッション録音を!」
2010年1月1日 (金)
転載 平林直哉の盤鬼のつぶやき 第26回「もっとセッション録音を!」
最近発売されたユベール・スダーン指揮、東京交響楽団のブルックナーの交響曲第7番(ファイン・エヌエフ/SACDシングルレイヤー=NF61202、通常CD=NF21202)を聴き、その演奏と録音の素晴らしさに感動した。これがここまで成功したのは、やはりきちんとセッションを組んでの録音だからだと思う(収録は2009年3月27、28日、ミューザ川崎シンフォニーホール)。その昔は製品として売るレコードは無人のホール、あるいは録音専用会場での収録というのが常識だった。ところが、近年はリハーサルと本番の両方を録音し、後日傷のないテイクを編集するという方法が完全に主流である。言うまでもなく、リハーサルと本番とでは会場の響きが全く異なる。それを電気的に加工してつなぎあわせるのだから、音が不自然になるのは容易に想像がつくだろう。それに聴衆の有無が演奏者に影響もあることも考慮すれば、なおさらである。
しかし、現実的には特にオーケストラのような大所帯を、演奏会とは別の日にセッティングして録音するのは経費がぼう大にかかる。ことに最近のような不況だと、ますますこうしたセッション録音は出来にくくなる。ただ、こうした回しっぱなしの録音は晩年のギュンター・ヴァントのように、高齢演奏家の負担を減らせるという利点もある。けれども、このような場合は特例と捉えた方が良いのではないか。
技術者は現在の技術を駆使すれば不自然な音にはならないと考えているようだが、実際は全くそうではないと思う。たとえば、1960年代、70年代のアナログ時代に録音されたオーケストラ録音を聴いていると、譜面をめくる音、弓が譜面台に触れた音、弱音器を床に置いたと思われる音、椅子のきしむ音、靴音などなど、実にさまざまな演奏ノイズが入っている。これは、入っていて当たり前なのだが、驚くことにこうした音は最近のCDからはほとんど聴こえてこないのである。恐らく、技術者が懸命になって除去しているのだろう。そういったノイズはない方が良いのかもしれないが、この操作によって必要な響きの成分までもが犠牲になっていると推測する。
私が最も嫌いなのはとてもライヴとは思えないライヴ録音である。演奏中の会場は不気味なほど静かであり、奏者もむしろ淡々と弾いているけれど、演奏が終わるやいなや盛大なブラヴォー。しかもこのブラヴォーは音楽が鳴っている時よりもはるかに臨場感豊かに響いている。正直、こんな不自然な拍手ならば、カットしてくれた方がよほどかましである。
ファイン・エヌエフはこのスダーンに限らず、長岡京室内管弦楽団などもすべてセッションで収録している。他のレーベルでセッション録音を積極的に行っているのはエクストンだろう。たとえばエド・デ・ワールトのR.シュトラウス、ワーグナー、ヤープ・ヴァン・ズヴェーデンのブルックナー、ストラヴィンスキー、小林研一郎のチャイコフスキーの交響曲第5番(アーネム・フィル)など、絶賛されるべき内容のものは多い。また、ちょっと一般的ではないかもしれないが、エクストンから発売中の“ダイレクト・カットSACD”、これは1枚2万円の高額盤だが、これが言葉を失うほど凄い音が出てくる。私は今までにデ・ワールトの「ツァラ」(OVXL00020)、ズヴェーデンのブルックナーの交響曲第9番(OVXL00014)、同じくズヴェーデンのストラヴィンスキーの「春の祭典」(OVXL00007)を購入したが、2010年はさらに2,3枚手に入れようと思っている。オーケストラ音楽はやはりクラシック音楽の中でも最も注目される分野である。従って、2010年はオーケストラのセッション録音がひとつでも多く行われ、さらにそれらがSACDという優れたフォーマットで出ることを期待したいものである。
(ひらばやし なおや 音楽評論家)
ブロンズ・ゴールド・プラチナステージの場合です。
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