モーツァルト:ピアノ・ソナタ第11番、第10番、第16番
バドゥラ=スコダ(フォルテピアノ)
日本語解説付き
モーツァルトが暮らした家のピアノ
バドゥラ=スコダ、2013年最新録音
若き日にフルトヴェングラーとカラヤンに見出され、またたくまのうちに世界的なピアニストとなっただけでなく、ウィーンの音楽家としてモーツァルト作品の演奏解釈に深い造詣をしめし、自ら作品分析と奏法指南を執筆するにとどまらず、いまだピアノ演奏に古楽器を使う習慣がなかった20世紀後半にあって、同じく折にふれ来日を続けてきた世界的名匠イェルク・デムスとともに、他の誰よりも早くから「モーツァルトが知っていた当時のピアノ」の演奏技術をさまざまに突き詰めてきた、生粋のモーツァルト奏者、パウル・バドゥラ=スコダ。その演奏がいつも限りない作品愛に貫かれていて、細かな機微ひとつひとつが聴き手の心を静かにざわつかせ、モーツァルト作品のえもいわれぬ魅力に引き込んでやまないことは、数多くの名盤を聴き親しんできた方々も、また折にふれての来日公演に出向き続けてきた方々も、よくおわかりのことに違いありません。
2014年5月末から6月にかけ、「これで最後」と公言したうえで来日公演を続けることとなる“我らが”バドゥラ=スコダが、故郷ウィーンの中心に本拠をかまえる老舗「Gramola」レーベルから、その音楽活動の全てを集約するかのようなモーツァルト・アルバムをリリースしてくれたことは、本当にかけがえのない喜びというほかありません。バドゥラ=スコダ自身、この録音には並々ならぬこだわりがあったに違いない、と感じさせてやまないのは、この最新録音が2013年になされた場所が、ほかでもない、ウィーン暮らしのモーツァルトが『フィガロの結婚』やハイドン四重奏曲集、幾多のピアノ協奏曲などを作曲した頃に住んでいた家に置かれている博物館=演奏会場「モーツァルトハウス」であったから。録音に使われたのは、現代のピアノではなく、モーツァルト自身も高く評価して亡くなるまで愛奏していた、ウィーンの名製作家アントン・ヴァルターによる1790年頃製のオリジナル古楽器。その十指は軽やかに鍵盤上を行き来して、数十年来をかけて磨き続けてきた解釈をあざやかに伝え、モーツァルト自身もかくやと思う大気のような美しい響きを私たちの耳に、心に、届けてくれます。「モーツァルトは子供たちにとって何より易しく、大人たちにとっては何より難しい」という言葉を象徴するかのような選曲にも、バドゥラ=スコダの確かな意思があらわれているのではないでしょうか。玄妙な音使いが不思議でたまらないイ長調の第11ソナタ、はきはきと明快で愛らしいハ長調の第10ソナタ、そして誰もがあの平明さの前に心を打たれずにおれない、「易しいソナタ」の綽名で知られる第16ソナタ・・・私たちの時代とモーツァルトの時代の中間に産み落とされたらしき謎の小品で終わる仕掛けに、一筋縄ではいかないオーストリア気質を感じるもよし。全ての音楽ファンに届けられるべき、あらゆる「格」と「粋」を越えて心に響きわたるモーツァルト録音、ここに。(Mercury)
【収録情報】
モーツァルト:
・ソナタ第16番ハ長調 K.545『やさしいソナタ』
・ソナタ第10番ハ長調 K.330
・ソナタ第11番イ長調 K.331『トルコ行進曲付き』
・ハ長調の小品『バターパン』 K. Anh.C.27.09
パウル・バドゥラ=スコダ(フォルテピアノ)
使用楽器:アントン・ヴァルター1790年頃製作オリジナル
録音時期:2013年2月7,9,13日
録音場所:ウィーン、モーツァルトハウス
録音方式:ステレオ(デジタル/セッション)