不遇のオルガニスト&作曲家ヴィエルヌが戦争の悲劇を告発した渾身の力作。
ヴィエルヌ:ピアノ五重奏曲
ルイ・ヴィエルヌ(1870-1937)は、フランクとヴィドールに師事し、6曲に及ぶオルガン交響曲で知られていますが、管弦楽曲から室内楽、ピアノ曲、歌曲に至る幅広いジャンルで作品を残しています。ヴィエルヌは生まれつき盲目(後に手術により弱視に回復)で病気がち、成長してから後も、家庭の不和、兄弟との相次ぐ死別、楽壇では冷遇されノートルダム大聖堂でのオルガン演奏中に急死する・・・という不遇な人生でした。しかしその作品は、声高に不運を恨み不条理を告発するようなものではなく、濃い陰影のうちに深い内省へと誘う傾向が目立ちます。
24歳の誕生日の後に作曲された弦楽四重奏曲は、ヴィエルヌ自身、作曲技法の確認として習作のように書いたと言っています。古典的なソナタ形式の第一楽章の後、弱音器付きの短い間奏曲、終わりの方に出てくるナポリ六度が印象的な穏やかな緩徐楽章、無窮動風の終楽章といった構成。ニ短調ですが、作曲者自身の声が感じられるような瞬間はなく、古典的で明朗な作風に聞こえます。そのためか、初演は大好評を博したようです。
その24年後に作曲されたピアノ五重奏曲では事情は全く異なります。ヴィエルヌには二人の息子がいましたが、1人には1913年に先立たれ、もう1人の息子も第一次世界大戦に従軍して17歳の若さで戦死しました。翌年2月にヴィエルヌは友人に宛てた手紙でこう書いています。「私の子供の運命と彼を思う私の気持ちに満たされたピアノ五重奏曲を作曲しています。私の悲しみは余りにも深く、私は激しく怒りに満ちたエネルギーを注いでこの作品を完成させます。それは訴える力と畏敬の念に満ちたものとなり、父親たちの心の中に入り込み、地中深くどこまでも伸びてゆく根のように、亡き子に対する愛情に触れることでしょう。」
実際には、ヴィエルヌらしく、あからさまな怒りというよりは悲嘆に満ちた追想を思わせる作品ですが、このCDに聴く最後の2分余りこそが、おそらくはヴィエルヌの書いた最も個人的で激しい音楽ではないでしょうか。
聴く者の襟を正させ、言葉を慎ませるような音楽。ベルギーで活躍するピアニストと弦楽四重奏団による重厚な演奏、MDGらしい重厚なサウンドです。(ユニバーサルIMS)
・ヴィエルヌ:室内楽曲集
ピアノ五重奏曲 ハ短調 作品42(1918年作曲)
弦楽四重奏曲 二短調 作品12(1894年作曲)
シュピーゲル弦楽四重奏団
レヴェンテ・ケンデ(ピアノ)
録音:2007年12月 マリエンミュンスター修道院