シュポーア:交響曲全集(5SACD)
ハワード・グリフィス&北ドイツ放送フィル
SACDハイブリッド。ドイツの作曲家シュポーア[1784-1859]は、同じルートヴィヒという名を持つベートーヴェンよりもひとまわりほど若い人物。ヴァイオリニスト、指揮者、声楽教師でもあったシュポーアは、1813年からアン・デア・ウィーン劇場でコンサートマスターとして活動、その際の演奏が縁で、指揮をしたベートーヴェンとの交流もありました。
このウィーンでの仕事の前には、20代でドイツのゴータの宮廷楽長を7年間に渡って務めてもいましたが、ウィーンでは監督との不和により2年で退団することとなり、その後、ヴァイオリニストとしてイタリア、スイス、オランダなどへ演奏旅行、33歳の時にはフランクフルトの楽長に就任しています。しかし、2年後には同職を辞し、ベルギー、パリ、ロンドンに演奏旅行後、ドレスデンに定住、同地でヴェーバーの知己を得、カッセルの宮廷楽長になるよう申し入れられ、以後、亡くなる75歳までの37年間を同地を拠点に過ごすことになります。
シュポーアの交響曲は未完の第10番も含めると10曲ありますが、そのうちの8曲が書かれたのがこのカッセル時代で、ゴータ時代の第1番、英国滞在中の第2番と比較すると、作風も大きな変化を遂げています。
交響曲第1番変ホ長調(1811)
ベートーヴェンの英雄交響曲と同じ調性を選択し、ベートーヴェン的な要素をおりこみ、対位法も駆使する一方、のちのシューベルトにもつながるスタイルでも書かれており、1811年の初演に際しては、ライプツィヒの新聞で絶賛されてもいました。
交響曲第2番ニ短調(1820)
フランクフルトを辞し、英国に演奏旅行で滞在していたシュポーアが、ロンドン・フィルハーモニー協会から委嘱を受けて作曲したもので初演は大成功、のちのメンデルスゾーンやシューマンを思わせるようなロマン派的な音楽で高い評価を獲得していました。
交響曲第3番ハ短調(1828)
カッセル時代の作品。当時はベートーヴェンの交響曲第7番を上回るパワフルな作品として人気があったという力作。ベートーヴェンの交響曲第2番を思わせる素材や、のちのメンデルスゾーンの『スコットランド』に似た部分なども含まれます。
交響曲第4番ヘ長調『音の浄化』 (1832)
詩人プファイファーの詩『音の浄化』を音楽化したという描写的・交響詩的な作品。ベートーヴェンの『レオノーレ』第1番を思わせる素材が印象的に使用されています。
交響曲第5番ハ短調(1837)
両端楽章ではのちのシューマンやメンデルスゾーンを思わせる楽想が用いられ、第2楽章と第3楽章ではベートーヴェン的な美しさや激しさなど感じさせます。
交響曲第6番ト長調『歴史的交響曲』 (1839)
音楽の歴史を4つの楽章で追った交響曲。各楽章の副題は下記の通り。
第1楽章:「バッハ=ヘンデルの時代 1720」 Largo grave - Allegro moderato
第2楽章:「ハイドン=モーツァルトの時代 1780」 Larghetto
第3楽章:「ベートーヴェンの時代 1810」 Scherzo
第4楽章:「現代 1840」 Finale: Allegro vivace
バロック風の対位法的な第1楽章に始まり、どこかモーツァルトの交響曲第39番アンダンテを思わせる第2楽章、ベートーヴェン風な第3楽章、そしていきなりヴェルディの『ナブッコ』序曲を思わせる派手な音楽で開始され、ヴェルディを予見するようなロマン派オペラの序曲風な楽想がいくつも登場する第4楽章という構成。
交響曲第7番ハ長調『人生の世俗と神聖』(1841)
2群のオーケストラを用い、対立的な概念を描いている作品。
第1楽章:「子供の世界」 Adagio - Allegro
第2楽章:「苦しみの情熱の時間」 Larghetto - Allegro moderato
第3楽章:「神の勝利」 Presto
交響曲第8番 ト長調 (1847)
ロンドン・フィルハーモニー協会に献呈された作品。
交響曲第9番ロ長調『四季』(1849/50)
ロマン派的な楽想とベートーヴェン的な素材により、冬、春、夏、秋を描いたという音楽。初演はライプツィヒのゲヴァントハウス。
第1楽章:「冬」 Allegro maestoso
第2楽章:「春」 Moderato
第3楽章:「夏」 Largo
第4楽章:「秋」 L'istesso tempo
交響曲第10番変ホ長調(1857)
未完に終わった作品。アメリカの指揮者・作曲家のユージン・マイナー[1940- ]によって補筆完成。世界初録音。
ハワード・グリフィス
1950年、イギリス、ヘイスティングスに誕生。ロンドンの王立音楽院で学び、1981年からスイス在住。1996年から2006年までチューリッヒ室内管弦楽団の音楽監督、2007年からドイツのブランデンブルク州立管弦楽団の音楽総監督を務めています。レパートリーが広く、珍しい作品の紹介に熱心で、これまでにレコーディングしたアルバムの数は100を超えます。(HMV)
【収録情報】
Disc1 (777177)
シュポア:
● 交響曲第3番ハ短調 Op.78
● 交響曲第10番変ホ長調 WoO8
● 序曲 ヘ長調 WoO1
Disc2 (777178)
● 交響曲第2番ニ短調 Op.49
● 交響曲第8番ト長調 Op.137
● 序曲 ニ長調『深刻なスタイルで』 Op.126
Disc3 (777179)
● 交響曲第1番変ホ長調 Op.20
● 交響曲第6番ト長調『歴史的交響曲』 Op.116
● 序曲 ハ短調 Op.12
Disc4 (777745)
● 交響曲第4番ヘ長調『音の浄化』 Op.86
● 交響曲第5番ハ短調 Op.102
● 歌劇『船乗り』序曲 WoO7
Disc5 (777746)
● 交響曲第7番ハ長調『人生の世俗と神聖』 Op.121
● 交響曲第9番ロ長調『四季』 Op.143
● ワルツ『マリエンバートの思い出』 Op.89
ハノーファー北ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団
ハワード・グリフィス(指揮)
録音時期:2006-2012年
録音方式:ステレオ(デジタル/セッション)
SACD Hybrid
CD STEREO/ SACD STEREO/ SACD SURROUND